34-3 監査官から領地の秘密を絶対に守り通すクエスト
ご指摘を受けて抜け落ちていた
34章3を追加しました。その都合で本日更新分の最新話を引っ込めました。
申し訳ありません!
「ようこそアルブネア男爵領においで下さいました。私の名はアレクサント、マジシャン型の冒険者です。本日は男爵の名を受けて貴方をお守りするべくお待ちしておりました」
監査官、まさにエリート官僚です。
だから一体どんな陰険メガネが現れるのかなーと、おかしな期待をしていたら……。
「うむ……」
それが仏頂面の超堅物おじさんでした。
年齢は40ほどで、口数がびっくりするほど少ない変わった人だったのです。
「……ええっと、アルブネア男爵の命によりこれより貴方を護衛いたします。……かまわないですよね?」
「うむ」
領境で待ち伏せして、そう宣言したのはちょっと前のことです。
うむ、の一言でまた片付けられちゃいましたけど……。
「ちなみに監査官殿、お名前は……?」
「うむ……。ああ……ランドだ」
その監査官ランドにつき従って、ドロポンが平らにならしたすべすべドロポン街道を進んでゆく現在進行形なのです。
はぁ……なんかいきなり調子狂うなー……。
・
「あれは……?」
相手があまりに無口なんでボケーーとした時間が過ぎていきました。
そしたら彼の口から不意打ちの問いかけが飛んできます。監査官ランドの目線を追いました。
「あれは開拓村の1つです」
「そうか」
……え、そこで終わり?
ランドさんはムスッした表情が素らしく、なんともまるで感情が読めません。
まあしかし問題ありません。
開拓民たちの待遇は逃がしたくないこともあって良条件をそろえてあります。見られて困るところなんてなんも無しです。
「あそこの村を見に行く。……必要無いが、護衛の方を頼もう」
「ええ喜んで」
監査のプロというだけのことはあるかもしれません。
開拓村は各地に点在しているのですが、彼は街道ぞいではなくわざわざ奥にある目立たないやつを指さしました。
「そうか。……助かる」
隠されている事象を暴き出すのが彼の商売です。
でも別にそこの村もぜんぜん後ろ暗くないし、だから好きなだけ見せてあげましょうとも。
・
「おおこりゃぁ薬師様! この前はありがとうございやした! おかげでもうこの通りピンピンでさ! いやぁぁぁ死ぬかと思いましたわー!」
村に入るといきなり歓迎を受けました。
どこかで見覚えのあるおじさんだと思ったら……。
「いえいえ、こっちも良い実験台になって助か――じゃなかった、薬師として当然のことをしたまでです」
この前、熱病にかかった開拓民で試験型ポーションの実験をしたんでした。
結果は大成功、さすが俺です。
「冒険者では、なかったのか?」
「……薬屋みたいな副業もしてるんですよ」
別に嘘はついていません。
疑われたくないので開きなおりました。
「実はこの前よ、死ぬかもしれねぇ病気にかかっちまって……けんど、そこをこのアレク薬師様に救っていただいたんでさ!」
「……そうか。優秀なのだな」
仏頂面のまま褒められてもどう反応すればいいのやらわかりません。
しかし彼の興味はすぐに俺から村へと移り、油断なく辺りを見回っていきました。
悪を罰する正義の監査官――であるはずなのですけど、何で俺がビクビクしなきゃならんのでしょうか。
しかしこれはアルフレッドの杞憂と言いましょう。
隠さなければならないものは既に隠し切ってあるのです。
「近くの村も見たい。……すまないが、案内してくれ」
つまりこれはこのつまらないおっさんにただついて回るだけの、暇で暇で暇なお仕事と言えましょう。
「ならこの奥にもう1つ。そこまで行ったら通りに戻って探すのをお勧めしますよ」
「……アレクサント殿。全て、貴殿に任せる」
え? いきなり信頼されたということでしょうか……。
それとも俺を試している……?
「お任せ下さい。では、監査官殿の為に道をお作りしましょう。……ウィンドカッター、と」
ちょうどここが村外れです。
確かにこの奥に小さな湖と村が1つあるのですが、なにせ未開拓なもので道が藪で埋もれていました。
ソイツを鋭利な風の刃でシュババババ。
ちょっとカッコ付けたのはいなめませんが、綺麗に切り開いてやりました。
・
少し甘く見ていました。
この監査官のお着きって仕事、超ハードです……。
ていうか監査官の仕事そのものが……足で稼ぐスタイルというか、合計8つの村を回り切ってもまだまだ満足されないようでした……。
「うっへぇ……よく体力もちますね……。俺、監査官殿のお仕事、誤解してましたよ……」
「人なつっこいな、それが貴殿の素か」
またドロポンストリートに戻り、領館まで真っ直ぐ進めば30分ほどのところにやって来ていました。
うっかり礼儀から漏れてしまった部分を、変わらぬ仏頂面が気むずかしく見つめるんだから困る。やっぱ感情読めません。
「いえいえ純粋な尊敬から出た言葉です。当家には別段後ろ暗い部分などありませんが、ランド殿の調査がお国の為に、ていうか開拓民の為になってるのは間違いの無い事実です。……俺は今、その監査官殿の隠密行動に同伴してる、この事実が単純に面白いのです」
ついつい余計なことを口走ってしまっています。
いえ打算です、こうやって心を開いたように見せかけるのですよ。打算です。
「そうか」
「ええ」
ランド監査官は相変わらずの寡黙っぷりでしたが。
暇なような、面白いような、とにかく真夏日に抱かれたまま8つの村を回ったので暑くてたまらないのは1つの事実です。
さっき冷たい井戸水飲んだのにもう喉が乾いてますし、次の休憩ポイントが恋しい……。
「趣味は、何だ?」
「……え、趣味ですか?」
「私の趣味は、釣りだ。…………仕事が片付いたらここで釣りがしたい。……竿はあるか?」
「ああ、それなら領館で1本良いやつを見かけた気がします。必要ならお貸ししますよ」
この難しい仏頂面で釣りか……似合い過ぎだろ。
釣ってる間もこの顔でずーっとムス~ッとしてるんだろうなー。
「……ありがたい。して……アレク殿の趣味は何だ?」
「俺の趣味ですか? そうですね、最近に限れば水浴びがマイブーム。あと錬金術と読書も少々」
水浴びは公都では絶対に許されない遊びの1つです。
飲料水を汚すなバカとか、川そのものがあんまり綺麗じゃないとか、人目とか、様々な事情があってここでしか楽しめない遊びなのです。
だから誰を誘ってもみんなノリノリで付き合ってくれる。ああ素晴らしきかなアルブネア領。ついでに若さ。
「そうか」
監査官殿が心動かされても仕方ありません。
っていうか、また『そうか』の一言だけで話が途切れてしまっていました。
錬金術が趣味って言ってやったのに、そこにツッコミとか無いんです? あー……無いっぽい……。
不器用を地で行き過ぎでしょこの人……。
「アレクサント殿、あれは何だ?」
「ああはいはい、今度はどの村ですか監査官殿」
しかし彼のこの顔と性格は、監査官って商売にこの上なく向いてるのかもしれません。
ランド監査官の指先を追って、なんか空をぼんやり見上げると……そこに……。
「キェェェェーッ♪」
ははははは、我らが白き子竜レウラの姿がありやがるじゃねぇですか……。
おい……おいこら駄竜!
お前っ、俺が直々にでかい肉塊と一緒に閉じこめてやったはずなのに……なぜそこにいるしッッ!!
ああわかってるさ、ずる賢く脱走したに決まってる!!
大方肉を平らげた後、悲しげな声で人を騙してまんまと抜け出したに違いないぞ!
「キェーーッ、クルルルルルーッ……!」
ああっ、違うんです監査官殿!
あれは……あれは違うんです! レウラこらぁぁぁーっ!!




