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22-1 それぞれの餞別、その3

 キエ様と聖域のエルフからも多大なご支援をいただけました。

 このあいだお嬢の実家経由で荷物が届きまして、あちらでしか手に入らない微レア植物やら魔物素材やらをガッツリいただいちゃったのです。


 それらを拡張した地下倉庫一角にドスンと納めると、最後にもったいぶったように一着のローブを渡されました。

 迷宮に向かうときはこれを着込むといいそうです。

 けどまあいつものはすっかりボロボロなので、ちょうどいいし普段着にしちゃいました。何かすっごく上等な着心地です。


「ほう、そのエルヴンローブ……どこかで見たような気がしていたが、やっと思い出したよ。大昔にキエのババァが着込んでいたものだな」

「え、うそ、これってそんなレアもん?」


 それでその日はグリムニールさんの住まいにおじゃましていました。

 この人もしかしてスーパー金持ちなんじゃないでしょうか。宿を借りるとかそういうレベルじゃなくて、既にこの公都にこぢんまりサイズのお屋敷を持っていたのです。


 しばらく管理していなかったそうですが、とてもそうは見えません。

 錬金釜だってありますし、ついさっきまでそのちっちゃな体で釜を回していたのですから。ちなみに頑固老人よろしく作業中は何言っても無視されました。


「てか女の子、もといババァ様のお下がりとか……。うん、エルフは大好きだけどキエ様は苦手だぁ……」


 結構気に入ってたのに、もう着てるだけで鳥肌立ってきました。生地が擦れるだけで舐め回されてるような……そんな錯覚、神経過敏っ。


「アレはまだ貴様を諦めてはおらんな。……もしかするとフラっと公都に現れるかもしれんぞ。あれでもエルフの代表、まれに非公式に公国を訪れることもあるはずだ」

「はははっ、へーそう、そんな話知りたくなかった……」


 付き合いの深いグリムニールさんが言うのならその通りなんでしょう……。

 フード付きローブの下は銀髪幼女の微笑、その口元が意地悪につり上がっていますが今はむしろそれが救いです。

 俺を虐めるつもりでわざと大げさに言ってるんです、そうに違いない、そうじゃないと怖くて夜寝れませんから!


「それよりそのキエのエルヴンローブだが、なにか説明は受けたか? うむ、その顔には聞き流したと書いてあるなバカ者、仕方ない我が教えてやろう」

「さすがグリムニールさん、正解。いや最近忙しくて歩きながら寝ることもしばしば――」


 忙しいんですよね~俺。

 精神おかしくなるの覚悟で、あのネムラズの蜜を再生産したくなっちゃうくらい。


「……ファイアボルト」

「どわっちゃっ?! ……ってあれっ、熱くない?」


 いきなりグリムニールさんが指先から炎の矢を放ちました。

 殺す気かっ! ってくらいでかいものだったのですが、キエ様のローブにぶつかると魔法みたいにかき消えちゃいました。なんかもう魔法っていうよりマジックショーの世界です。


「あービックリしたー……なにこれすごいね?」

「クククッ……良い声で鳴くのぅ。あのババァに気に入られるのも納得じゃな」


「いえいえ俺はグリムニールさんの方が好みです。……あ、自分で言っておいてアレですけどこれってロリコン宣言みたいですね」


 やられっぱなしも気に障るので牽制しときます。

 しかし相手はご長寿ロリババァ、この程度で心動かされるはずもありません。


「キエはただの最長老ではない。現存する中で最も古いコモンエルフだ。その存在そのものがエルフの宝、命綱、彼女が長であるからこそエルフはエルフのポテンシャルを最大限に発揮できるのだ。肉体的にも資質的にも、彼女の代わりはおらん。……性格は気に食わんがな」


 偉い人のオーラは持っていましたが、まさかそこまでの人間国宝だとは知りませんでした。

 もし死んだらこのローブの希少価値もうなぎ登りです。いえ間違いなく先にこっちが寿命で死にますけど。


「それを絶対に完璧に守り抜くために作られたのが、その特別製のエルヴンローブだ。お古じゃがな」

「そりゃすごい。もう普段着使いしちゃってるけど」


「物理にも有効だが、特に魔法に対しての性能を発揮する。そこはさっきの通りじゃ」


 ええ、これはいいものです。

 下級のボルト魔法とはいえ、それを無効化しちゃうんだからRPG的に考えれば最終防具といっても過言じゃありません。

 魔法耐性、それすなわちゲームにおいて勝利なのです。

 ……現実世界でどうとかは知りませんけど。


「もしかして、これって……超破格の大奮発だったり?」

「今さら気づいたか。ヤツはよっぽどお前を気に入り、死なせたくないと考えたのじゃろうな。良かったなアレクサントよ」


 思えばあの大量のレア素材といい、そんな気はしていました……。

 協力を願ったのは事実ですけどまさかここまで援助してくれるなんて、気前が良過ぎましたから。


「いえ上等です。勝算を高めるにこしたことはありませんから、喜んでいただいちゃいます」

「フフフ……そう割り切った方が健康に良いな。ツケのことは忘れるに限る」


 これがあればいけます。

 地下65層によりイージーモードでたどり着けます。

 苦戦とか痛いのはイヤですし、この際キエ様に巨大な貸しを作るの覚悟で甘えちゃいましょう。

 ……あとグリムニールさん、相変わらず話長いです。まだ何か喋ってますし。


「……というわけだ。気に入らんがヤツは確かに特別だ。コモンエルフの先祖が作り出した、王者となるべくして生まれた王者、それがあのキエなのだよ」


 えっと……途中の話とか全然聞いてなかったけど、うん、うなづいておこう。

 でもそれだけじゃボロが出たりするかな~?


「さらに言うならヤツは……って! 貴様ッ、いきなりなっ、何をするのじゃっ!! う、うあっ……勝手に……人の頭を撫でるでないっ!! 貴様に常識はあるのかっバカ者っ、なんでこんな……ひふぅ……突然っ過ぎるぞっ!!」


 ラブコメっぽいな~グリムニールさん。

 見た目相応に純情なところもあるんだから、そこが素敵です。


「いえすみません、なんか珍しくフードを下ろされたようなので……つい気になって。ああ、サラサラのスベスベですね、癖になって止まらない」

「や、やめぃ……こらぁぁ……っ」


 と言うわりにおとなしいです。

 例えるなら行儀の良い猫、ただしツンデレ気味。こちらの手をはねのけようともしません。

 だから俺も調子に乗って、好き放題その感触を楽しむのでした。耳に触ったらさすがに怒るかな~? 耳……耳……いいや我慢だ……。


「ああ心が洗われるようだ……思えばハゲに追い回されたり、双剣に追い回されたり、売り上げに追い回される日々が続いていた……癒される。あ、もっと撫でていい?」

「っ……貴様という……男はっ……。ぅぅ……もう好きにせい……」


 いやそう言われると止めたくなる。

 けど止めたら止めたで文句言い出して、また長い年寄り話が始まるのかも。

 それだけ信用されてるってことなんでしょうか。


「死ぬではないぞ……アレクサンドロス」

「いやいい加減ソレ、アレクサントで統一しましょうよ。いっそアレックスでお願いします」


「無理じゃな。我にとって貴様は裏切り者のアレクサンドロスだ。ん、どれ、かわいい孫にババァからもプレゼントをくれてやろう」


 しかしババァは頑固と相場が決まってます。

 普段の調子を取り戻してグリムニールさんは今さら俺の手を突っぱねました。

 それと隠すようにフードも深くかぶっちゃいました、無念……。


「なに探してるんです? 手貸しましょうか?」


 それから銀髪の幼女様はある棚に向かいました。

 だけど困った、背が足りない。踏み台も無しにどうやってここを管理してるんでしょうこの人。


「その必要はない」

「あ。……どもお邪魔してます」


 ってところで保護者様の登場です。

 もとい例の邪険なエルフさんが現れました。

 さすがに都で麦わら帽子はかぶらないようでしたが、ソバカスと邪険な目つきがまごうことなく彼女です。自己紹介すらしてくれないんで名前は知りません。


「ふんっ! 妙なことは考えるなよ。グリムニール様、こちらでよろしいでしょうか」

「うむ。しかしお前はもう少し愛想良くしてやれ。無理な話か?」


 何か小瓶を彼女から受け取ると、銀髪幼女は背伸びを止めておしゃまに気取りました。

 ……俺より確実に歳くってるはずなのに、時々本物の幼女に見えてくるから不思議。


「無理です。記憶が無いというのもどこまで本当かわかったものではありません。この男は詐欺師だ」


 ほら邪険、ほら無理、絶対仲良くなんて無理です。

 名前でなんて呼んだりしたら蹴りかビンタ飛んできそう。


「確かにな。だがエルフの希望になる可能性もある。あのアインスという娘は貴様も見たな? あれがもし人間に広がれば我々は終わりじゃ。用済みのエルフは巨人族のように滅ぼされるぞ」

「だがしかし……。だからといってソレを、この男にくれてやるのですか?」


 なんか……揉めてますね?

 やっぱただの使用人っていうより、昔からの主従を越えた友人って感じなんでしょうか? なんか妄想広がって楽しいです。


「ああ、元々はヤツが我によこしたものじゃ。こやつにやっても問題あるまい」

「いえ、作成者は気に入りませんが手元に残すべきでは……。こんな男、死んでもかまわないでしょう。ある意味でコイツそのものが世界の脅威です」


 うーん……まだ揉めてます。

 居心地悪いなぁ……。そういえばさっきまでグリムニールさん何作ってたんでしょう。

 きびすを返して錬金釜に向かいます。


 中をのぞくとガラス瓶が複数、中には正体不明の黄色い液体が詰まっていました。

 瓶に移すとかそんな作業はしていませんでした。もしかしてガラスも一緒に溶かして、瓶と薬を同時に生成したとか……? ナニソレ超奇術。


「ええいっやかましい! それはお前の意見じゃっ、はよ離せ!」

「かしこまりました。……チッ」


 最後の舌打ちは絶対こっちに飛ばしてます。

 てか来る、怖いソバカスさんがこっちにズンズン来てるっ。


「おい、妙なことは考えるなよ。それともし記憶が戻ったら会いに来い、二度と蘇らぬよう念入りに殺してやる!」

「ぇぇ……むしろそんなの興味ないっていうかそのー……」


 わー怖い、昔の俺なにしでかしたの……。

 まあそんなどうでもいいです。

 彼女らには彼女らの都合があるってことで、極力立ち入らないに限ります。


「すまんなアレクサント、彼女にも事情がある。してこれはエリクシル、小さいが驚異的な回復力をもった薬じゃ。迷宮で死にかけるか、魔力が枯渇したら飲むといい」

「あ、それ知ってる、エリクサーだ。へぇ~~さすがグリムニールさん!」


 エリクサーといえばアイテム欄の定番肥やしアイテムですが、いざ現実に出会ってみると頼もしさが違います。

 口振りからしてこりゃ完全回復とかしちゃうんでしょう。じゃないとエリクサー違いますから。


「……。人の話を聞かん男だな、これは我が作ったのではないよ。それにエリクサーではなくエリクシルじゃ」

「そんなこと言ってましたっけ? あーじゃあ、名前は置いといて、誰が作ったっていうんです?」


 それは何気ない問いかけのはずでした。

 ところが地雷。彼女たちは空気をズンと重くして黙り込み、まるで疑うように人の顔をのぞき込みます。

 やがて舌打ちとため息が響くと、グリムニールさんがやっと小さな唇を開いてくれました。


「作成者は黒の錬金術師。貴様のようにエリクシルをエリクサーと言い張る、頭がおかしいとしか言いようのない男だよ」


 そんな最高に残念な回復剤を受け取ると、ソバカスのお姉さんがただちに俺を屋敷から追い出しました。

 知りませんけどそんな頭の愉快な男が作った薬ともなると、本当に最後の最後の手段にするべきでしょう。なんか薬としてうさんくさいですもん。

 願わくば使うことなく返却できたらいいな~と。


 そうしてのほほ~んと帰路ついたところで、グリムニールさんにレウラ進化のコツを教わりに来たっていう、大本題を思い出しました。

 ……ましたんですけど、絶対あのソバカスさんが通しちゃくれそうもないのでその日は諦めることにしました。


 そういうことだからレウラ、ドロポンの次はお前の番だから覚悟しろ。


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