22-1 それぞれの餞別、その2
「アレックス、小手か盾が欲しいって言ってたよね。じゃこれあげる」
迷宮深層目指す俺に、ダリルがくれた餞別は立派な手甲でした。
「キミって非力だし、ギリギリまで重量削ってみたけど、どうかな?」
「おーいい感じ、っていうか不安になるくらい軽いな。ありがとうダリル、こんな無骨なプレゼントくれるのダリルだけだよ」
これで手の甲から肘までが盾になります。
敵の攻撃を受けてしまったとき、とっさに受け流すならやっぱこれでしょう。
細かく要求した覚えはないのにすっごく俺の戦い方に合ってる気がします。
「えっ、な~んか照れちゃうなぁ~♪」
「あれ無骨ってほめ言葉だっけ?」
「うん。あ、ただそれ使い捨てだからね。硬くて軽い分、耐久性は低いから、ヒビとか入ったら覚悟した方がいいよ」
いえ十分過ぎます。
65層までの長期戦ですから、重いと邪魔。
「そうか、気をつける。ありがとうダリル、大好きだ。こういう具体的な贈り物を貰うと、もっと大好きになるよ」
「現金だなぁアレックスは。でも残念でした、ダリルちゃんの打算もあるんだな~?」
「いいね、なんか知らんけど打算って言葉聞くと安心するよね」
それには同意できないと失笑されました。
鍛冶場からそのまま来たのか、今日もタンクトップに汗とか浮かせちゃって、そんで自慢げに腰へと両手を当てます。
「だーって難攻不落の8号迷宮だよ? もしアレックスが攻略して戻ってきたらさ、それつまり杖と手甲作ったダリルちゃんの名声も大幅アップってわけだよっ! つまりアレックスは私の夢! 無理とか絶対しちゃダメだけどっ、がんばってきてよね! てかそれ壊れたら戻って来なよ、もっとスゴイの作ってあげるから!」
いやむしろ壊れてからが本番って覚悟でしたけど。
ありがたいことです。
確かに打算です。でもわかりやすいし、爽やかだし、それだけの投資を俺にしてくれてるってことです。
信じてくれてるその気持ちがまた嬉しいものでした。
「OK、だが二つ目は作らせないよ。ご希望通りダリルの夢を叶えてあげる。戻ったらいくらでも宣伝に使うといいさ」
「こらそういうこと言わないのっ! 死んだらみんな泣くよ? 階層半分くらいでも売り込みに十分だからさ、無理しないで帰って来なよね」
ダリルからの餞別は手甲。
それは軽量で使いやすく、彼女の野望と前向きさ、健康的な気力が詰まっていました。
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「今になって先輩の教師役になるとは思わなかったスけど、これで一応使えるようにはなったっスね」
ならアシュリーからの餞別はというとエンハンサーの自己強化魔法でした。
いえこの場合餞別じゃなくて、俺のおねだりに応じて連日で時間を割いてくれたってのが正しいですけど。
「これ難しいな。発動も大変だし、MPを継続消費するところもまた扱いづらい」
「いやまさか三日で覚えるとは思わなかったっス、先輩ってやっぱ怖いくらい器用っスね……」
ここはアカシャの家の教練棟、彼女も俺も別々にその日のお仕事終えた後なのでもう夜中です。
アシュリーはアシュリーで冒険者としての実績稼ぎまくってるので、学生さんたちもこの人見知り知らずのゲストを喜んでくれてました。
それがまあ、帰らない生徒と残業を増やす結果になってたんですけど……。
冒険科生徒は将来のお客です、ここは投資です投資。
「うーん……微妙。何か思ってたのと違う」
「うわっ教わっといてなんスかその言い方っ! これでも使い手の少ない羨望の自己強化魔法っスよ?! もっと取得出来たことを大喜びするべきっス!」
アシュリーの最近の活躍っぷりがまたすごいです。
アインスさんのために錬金で使えるレアアイテム仕入れようと、せっせとハードモードな迷宮探索に参加してくれています。
俺が8号迷宮攻略を決めたので、張り合いが出たのもきっとあるんでしょう。
「そうなんだけど、使いにくいなぁこれ……微妙」
「微妙とか言わないでほしいっス!」
で、エンハンサーの自己強化術ですが俺にはやっぱ向いてなかったかもです。
それこそ格上を相手にする時の最後の手段、アシュリーみたいに常時発動はよっぽど慣れないと燃費が悪いし。なのに発動が大変、維持も大変。
だからなんか……微妙?
「慣れればもっと低燃費っスから、何ヶ月か先延ばしにしてはどうっスか? アインスさんの時間もまだ十分あるじゃないっスか」
「いいやダラダラやるのは好きじゃない、今月中に攻略するよ。十分にたどり着く勝算はあるんだ」
「はぁ、クソ頑固っスねぇ……。じゃ死にそうになったらこれ発動させて、何が何でも生きて帰ってくるっス。……というか、いつもの先輩らしくないっスよ、ホントに何でそんなに急ぐんスか?」
いや急にらしくないと言われても困ります。
こうやって思い付きで目的を強引に達成する、それが俺のスタイルです。らしくないはずがありません。
……急ぐ理由は、うん、早くアインスさんを解放したい、その方がスッキリ、ただそれだけです。
「相手は会話可能な古い巨人族だよ。つまり会ったら単純に楽しそうじゃないか」
「あーそっスか。……とにかく絶対に死なないで帰って来るっス、冒険者は傷が原因で戦えなくなることも珍しくないんスからね」
アシュリーからの餞別は自己強化魔法。
きっとこれを使う事態になれば、俺は敵に追いかけ回されてるか、超強敵との決戦を余儀なくされているでしょう。
「ありがとうアシュリー、絶対に帰ってくるよ。それでアインスさんを救って、のほほーんと平和なアトリエ生活に戻るんだ」
「うん、そうなるよう祈ってるっス。繰り返すっスけど絶対に死んじゃダメっス。……わかったっスね?」
「いやいや大げさ大げさ」
わざわざ苦戦したり血ヘド吐く趣味はありません。
勝算はあるんです。
それなのにアシュリーはお前は俺のオカンかってくらい、気を付けろ気を付けろとうるさい餞別をくれるのでした。




