20-2 素晴らしきかな、学び舎で分かち合うその心
で、その日の受け持ち授業が片付き、毎度毎度どいつもこいつも帰らない生徒たちに追加指導を施し終えると、当然ながら真っ暗に日が落ちてました。
そういえば昔、こんなタイミングで教頭のハゲ頭が霊魂みたいに修練棟に現れたっけ。
いやぁあんときはたまげた、びっくりした。ホントびっくりした。……もう二度と見れない光景だけど。
「アアアッッアレクサントォォォォォーッッ!!」
「ってうわぁぁぁーっ?!!」
そしたらどこからともなくソイツがマジで現れんの……。
窓際から寮の賑やかな明かりを眺めていたら、後ろから教頭がドーンと現れてギャォォーって絶叫しました。
ぁぁ……ひとえに心臓に悪いです……。
「うわ……ビックリしたー……。なんだ教頭先生じゃないですか」
「探したぞ!」
「ああそう、なんかやな予感」
「いや今回は良い話を持ってきたつもりだ、ウッフフ、さあ聞きたいだろう、よし聞け、いざそこになおれっ、キョウツケェェェッッ!」
相変わらずそのブロンドの髪がふっさふさのさらっさらっ。
手違いによる豊胸剤でおっぱいもバインッバインッ。
おまけにやり過ごすために教え込んだ女装趣味が……うん、目が教頭っぱいに奪われては自分の若さへの嫌悪感に吐きそうです。
「なんなんすか……」
「うむ!! このたび私はミスコンを開催しようと思うのだ!!」
「へー。……え、ミスコン?」
学園一の美人を決めるコンテストってことですよね?
あ……あー。あーそうか、ヤダ、もうヤダ、早くも流れ読めたわ俺。
「止めましょう……」
「そうかそうかっ、私に代わり学園長を説得してくれるかっ! あの方は貴様なんぞをえこひいきしているからな! よし頼んだぞアレクサントォォーッ!!」
このハゲ人の話聞いてねぇ……。
「ん、どうした、なぜそんな葬式ムードみたいな顔をしているのだ」
「はぁぁぁ……。あのー……あの、まさかと思いますけど……その。ミスコンテストに……参加するご意向なのです、よね……?」
おだてておだてておだてまくったので、教頭は自分が絶世の美人だと思い込んでいます。
そもそも、教頭の性質からして自分の利益にならないことはしたがらないでしょう。
むしろ元は保守的な人だったので風紀がなんだと、難癖付けるサイドでしたし……。
「ほぅ、わかるかね? 教師の身ながら、生徒の期待を背負って、参加しないわけにはいかないのだよっ」
「いやいや、いやいやいや、いやいやいやいやいやいや、教頭先生? 先生、男じゃん……?」
「だが美しィィー!!私ならば問題あるまい! ンフフフ、知らんかね、知らんだろうね? 生徒たちの色目が、毎日毎日この熟れた肉体に突き刺さって、本当に辛い、苦しいくらいなのだよアレクサントッ! はぁぁ……ときどき教師の道を踏み外さないか、無性に不安に震える……ウフッ(ウィンクッ♪)」
あ、この流れヤバい。
麗しき魔性の教頭先生から慌てて目線をそらしました。
いえそれ違いますよ……断言してもいいです……。
それはついついそのけしからんデカパイを見ちゃうだけでっ!
容姿は普通に無理あり過ぎな中年おっさんだし!
ただまあプロポーションが悪くないだけに、顔さえのぞけば豊かなブロンドも相まって、もう、もう、もう男子生徒の誰もが、モウヤダァァ学校行きたくなぁぃ……って思ってます、きっと、いや絶対に!
「それとも……んん? アレクサントォゥ~? よもや私が美しくない、と。内心はそう思っていたりするのかね?」
「いえそんなことは……めっそうも……ええ……」
しまった、それはそれでまずい。
美しさにお似合いのおっぱいってことで、育毛剤に混じった豊胸剤の効果をごまかしたのに、これじゃ再びつけ狙われることになる危機の序曲!
「貴様は私のファンクラブナンバー001にして会長であるのを、ま、さ、か、忘れていないよ、ナァ?」
「ええもちろん覚えていますとも教頭ほど美しいお方はこの世に現存しておりませんから! ただその……クラブ会長としての行動は必要最小限にバッチリ抑えさせていただいておりますが」
あくまで必要最小限なので、必要に応じての0活動です。
しかしどうしましょうか。
おだてまくって丸め込んだ手前、今さら協力しないとは言えません。
でもミスコンなんて開いたら……。
「オホホホホホ……よくわからんが絶世の美姫と言いたいのだな、フフ……♪」
結果なんて最初から見えてるじゃないですか……。
ネタ票は集まるだろうけどぜってぇ優勝とか無理!
「謙遜するな。会員がぞくぞくと増えて私も複雑ではあるが、人気者なりの義務を果たそうと思っている。きっと皆が、私の水着ィッッ! 姿をぉ……期待しているのだからっ!」
「ウッ……ウプッ……オェ……」
あ、ミスコンですもんね!
そりゃそうなりますよね! 盲点でした! いえ気づきたくありませんでした!
ホント、おっぱいだけは立派で良い形してますからこの人。だからなおさらたち悪い!
「ん、どうした? 悪いものでも食べたかアレクサント?」
「ハハハ……アハハハハ……ハァ……大丈夫です……元気です……」
冷静になりましょう。
どっちにしろ色んな部分でピンチです。
否定票が投じられるなら、生徒だけの枠に止まらず教師から用務員まで、全在籍者-1の票が集まることでしょう。迷わず俺だって入れますよ!
「うぅぅぅん……うーん……」
「今度はどうした、トイレか?」
「いえ、その、ちょっと……考えごとを……。教頭先生を確実に、ミスコンテストで勝利していただく手段を考えております。……ファンとして」
嘘はついていません。
元の嘘を吐き通すために、ここは絶対に教頭がコンテストで勝つよう誘導しなくてはなりません。
だって今さら彼がこの催しを諦めるようには見えませんでしたから。
もし教頭が単独でコンテストを開けば結果は明白、その後の俺がどうなってしまうかも自明のディスティニーです。
よし、よしじゃあ、こうしよう。逆に考えよう。
なら世界を教頭レベルまで下げればいいのです。
スキップでも余裕で越えられる低いハードル、これを並べる他に道はありません。
「教頭先生、考えましたがミスコンとなると学園長が応じるとは思えません」
「むっ、むぅっ、むぅ確かに! だが貴様ならっ!」
「だからコンテストの趣旨をですね、少しだけ、少~しだけ、ほんっっと少しだけ変えると説得に大きな可能性が生まれます」
ええ少しだけ、少しだけです。
ちょっとだけ頭に文字を追加するだけで、催しは冗談となるのです。
「ワハハッ、味方にするとこれほどまでに頼もしい者もおるまい、この悪党め! して、どうするのだアレクサントォッ!」
「男子・ミスコンテストです。これで行きましょう」
「なんとっっ?!!」
多少不満そうな顔をしたものの、だてに教頭してるわけでもなくすぐに理解してくれました。
「これなら冗談で済みますし許可も取りやすい。一方の普通のミスコンでは女生徒同士の人間関係を悪化させる弊害も高く、まず間違いなく学業の阻害になるでしょう。それを立派で美しい教頭先生が見過ごすとは思えない。……どうでしょうか教頭、男子・ミスコンテストでここは一つ!」
「ムムムムッ! ムゥゥゥ仕方あるまい、わかったそうしよう!」
あ、これもしかして、あ、人前で水着が着たいだけなんじゃ……? まさか、うわぁぁ……。
思わずすご~~~くイヤな疑惑が浮上しましたが、速やかに記憶から抹消しました。
もう企画が始動した以上は仕方ありません。
良心とか世間体なんてものは捨てましょう。
こうなったら他の連中も巻き込んで花火みたいにドーンと行きますよ。
つまり、貴様らも巻き添えだ生徒どもッ!!! ってことです。
「……おおそうだった。例のアインスくんだったかな? 話は学園長に聞かせてもらったよ。私にも何か力になれることがあれば、いつでも言ってくれてかまわない。いやむしろ協力させてくれ。深刻な話だ、不憫でならないよ……」
ところでそんなこと言われたら卑怯です。
まかりなりにも貴族らしいその博愛精神に、俺はちょっとだけ、ちょっとだけコロッといきかけました。
でもダメです、相手は教頭です、学生時代俺をさんざん振り回した元凶なんです。
「ありがとうございます先生。根はねじくれ曲がってますけど教頭って立派ですよね」
「ん? 途中はよく聞こえなかったがうむ、いつでも言うがいい」
都合の良いその聴力に感謝しつつ、俺はざっと教頭のお姿を上から下まで確認しました。
……はい、コレ以下を集めなければなりませんので。
「どうしたアレクサント、私の美しさと母性的な乳房に見とれたか?」
「いえ、断じて、そんなことはありません。いやところで少しお痩せになられましたか?」
「おおそうかそうか、気づいてくれたか! だいぶ前からダイエットをしていてな、フッ……美しいだろう私は」
なんか小さな違和感を教頭から感じました。
でもああそう、ただのダイエットかー。
その迷惑な乳が少しでも引っ込めば良かったのにー。
ま、そういったわけで。
近々男子ミスコンテストを開催するはめになるようです。
ブロンドお化けおっぱいおっさん以下を集めて、学園史上最狂最悪が約束された茶番劇といたしましょう。
大丈夫です。
災難もみんなで味わえば些細な悲劇に変わるのですから。




