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20-1 ああ麗しの公都、青春のアカシャの家

前章のあらすじ


 アインス誘拐事件の後日談。

 牢獄にて母をかたった誘拐犯よりわずかばかりの情報が得られる。

 それはソドヴェ、ロゴスといった謎の名詞。

 それから無貌の仮面を付けた暗躍者がいたという。しかしそれ以外にまともな情報は無かった。


 一方、アトリエは増築工事のため休業することになった。

 それに合わせてアレクサントらは北のフレスベル自治国へと観光旅行に出かける。

 魔物住まう北の道をキャラバン隊と共に抜けて、一行は温泉郷ミルヒーヒルに到着。温泉でのイヤーンなお約束イベントを消化しつつ、日頃の疲れを癒すのだった。


 滞在二日目、アレクサントとアクアトゥスは錬金術師グリムニールの屋敷を訪れる。

 アクアトゥスの祖母グリムニールにアインスを救う方法を問うと、彼女はいくつかの方法を示してくれる。

 コモンエルフの彼女が言うには、滅びた巨人族の細胞を移植すれば、アインスの死の宣告を無効化出来るという。

 グリムニールはポロン公国への引っ越しを宣言し、彼らの旅に同行するのだった。


 その後、わけあってエルフの聖域を目指すことになる。

 だが聖域に入るにはリィンベルとの婚姻が必要だった。

 そこでアレクサントはその場の女の子全てとの結婚、つまり5つ又の重婚を結ぶ。

 後日はれて念願の聖域に入り込むと、彼は妖艶なる最長老キエと知り合う。夜には貞操の危機を乗り越えて、エルフたちの協力を取り付けた。


 聖域には特別な泉がある。

 その泉を浴びると、古なる者の呪いに対して少なからぬ耐性をもてるという。


 しかしいざたどり着いてみると泉は枯れてしまっていた。

 それでも諦めずアレクサントが枯れたそこをスペクタクルスで鑑定すると、なんと芋づる式に滅びた巨人族の生息域がはじき出される。


 目標はア・ポロン迷宮群8号、地下65層。

 ソロ専用の入場制限がかけられており、例外としてモンスターの同行だけが許される。

 死にに行くようなものだと仲間たちは言うが、だがしかしアレクサントという男は人の話を聞かない頑固者だった。


 強くなり、ホムンクルスを育てて、巨人族の力でアインスを救う。今までよりずっとシンプルで良い。

 無謀だと言われようとも、彼はもうそう決めてしまったので止まろうとはしなかった。



―――――――――――――――――――――――――

 公都帰国 アカシャの家・第一回水着コンテスト!

―――――――――――――――――――――――――


 ピカール・ハイデルース、通称教頭と呼ばれる方は主人を目の敵《かたき》にしております。

 主人も主人でございますから、それも仕方がない部分があるのでしょう。

 例えばあの重婚といい、その幾多の身勝手な所行を振り返れば、むしろ恨まれない方がおかしな話でございます。


 さてこのたびの物語はそんな彼らの小話でございます。

 主人は目的のために……あのかわいそうなアインスのために、鍛錬と錬金術によるせわしない日々を過ごしておりました。

 ですがそんな中でさえ事件と無縁でいられるほど、アレクサントという黒き錬金術師は穏やかな星の下に生まれてはおりませんでした。


 それでは皆様、水着コンテストのはじまり、はじまりでございます。



 ・



20-1 ああ麗しの公都、青春のアカシャの家


 残りの休暇中、暇を見つけては迷宮攻略のプランを考えました。

 俺とホムンクルスたちだけで地下65層目まで向かい、そこで巨人族と交渉をしなければなりません。

 しくじれば交戦して、その血肉を奪って撤退しなければならないのです。


 だからこそ己とホムンクルスを育成して、装備と道具を調え、必勝の戦いに挑むのです。

 ともなれば入れ込み過ぎでバテてもしょうがない。だから帰国後は普段通りの生活に戻ってしまうことにしました。

 今欲しいものをあえて上げるなら研究費と、レア素材と、単純明快な強さです。

 って最後以外いつもの俺じゃん。



 ・



「やはり貴方に足りないのは敏捷性ですな。近接戦での対応力がなければ……ヒヒヒッ、曰く付きの8号迷宮でその命を失うのは、明白で、ございましょう」


 さてそんなわけでして、最近はアカシャの家で臨時教師ついでに学園長イアン氏に教えを乞っています。

 ほらお忘れの方もいるでしょうけど、あの不気味な爺さんです。もし魔王の力を手に入れたらどうしますか? って入学面接してきたあの人。

 流浪の民だった俺を在籍させてくれた恩人で、底も得体も知れない怪物じみたお人です。これがいざ肩を借りるとなるとその怪しさが逆に頼もしいものでした。


「ですよねー、そこはわかっちゃいるんですけど、簡単じゃないですよ」

「ヒ、ヒ、ヒ……上達しておりますぞ。この飲み込みの早さ、在学中の貴方を思い出します。まさに、怪物でございますな」


「……おだてないで下さいよ」


 卒業して形ばかりは一人前になりました。

 しかし自分はまだ18、若造も若造でベテランから教わることだってまだまだいくらでもあります。

 こちらの事情を話すと、好奇心の怪物こと学園長は喜んで協力を示してくれました。


 何でも古なる者と巨人族は彼の研究テーマの一つでもあるとか、ないとか。

 アカデミックな話なんでよくわからんですけど、彼は魔王という存在に非常に強い関心を持っているようでした。


「いっそ、エンハンサーに自己強化魔法を教わるとか……これどうです学園長?」


 昼休みの魔法教練室で、愛杖スタッフオブガイストを握り指南通りのやり方で魔力を凝縮していました。

 ほらチャージ中に身動きが取れないんじゃ、いくらホムンクルスがいようとソロとか無理ですから。

 そうすると人間楽な方法に考えちゃうんでしょうね。

 わりと名案だと思うんですけど、学園長のしわ深い顔が難色を見せます。


「あれは才能に強く依存いたしますぞ。しかし……そうですな、もし初歩の術でも取得出来れば……緊急時に役立つかもしれません。……貴方にその資質があればの話でございますが、ヒヒヒッ。しかし仮にそれを得ても基礎の肉体鍛錬だけはゆめゆめお忘れなきように……」

「はい、それはもちろん。……ところで、先ほどご教授いただけた秘訣というのは、こんな感じのものでしょうか?」


 魔力を増幅しながら窓際を歩いて見せます。

 ゆっくりとした短い歩幅が、慣れと共に大きく大胆になり、走るのは少し難しいですがスイッスイッと早足で部屋を一周することが出来ました。


「ホホホ……素晴らしい……。アレクサントくん、本当に貴方は奇妙な資質をお持ちだ。ヒッヒヒヒッ……全く教師冥利に尽きる生徒でございますな」

「しかしこれ便利ですね。もう少し慣れたら増幅しながらガードくらいは出来るかも」


 籠手か小盾でも持てば防御面の問題が改善します。

 別にレウラたちを信頼してないわけじゃないけど、完全な意志疎通とか連携は無理な連中ですから。そこはしょうがない。


「これは頼もしい。ならば次の授業ではスピード・スペルの技をお教えいたしましょう。これは瞬間的な詠唱を可能にする技でございまして、まあその分だけ威力は落ちるのですが。ヒヒヒ……いえ、続きは次のお楽しみといたしましょう。お疲れ様、今日はここでお開きでございます」

「あ、ホントだ。……もうこんな時間だったんですね」


 窓から本館側をのぞけば、気の早い冒険科生徒がここ修練棟目指して歩いています。

 残念ながらその生徒の目当ては俺で、まもなくすればお仕事に入らなければならなかったり。


「では学園長の時間のよろしいときにまた……。本当は今すぐにでもご指南いただきたいんですけどね」

「ホホホ、焦りは禁物でございます。貴方は公国史上でも五本指に入る迷宮におもむこうとしていらっしゃる。いやはや、アレクサントくんには本当に驚かされる、ヒヒヒ……ではごきげんよう」


 奇怪なその老人が背を向けると、入れ替わる形でローブ姿の女子生徒が教練室に現れました。


「アレクサント先生! あのっ、まだ授業開始前ですけどどうしても教わりたいことがあるんです、お時間よろしいでしょうか!」

「……うん、いいよ」


「やった! ありがとうございます先生!」


 本当はさっきのやつの復習がしたかったんですけど、学園長を頼った手前断れません。


 ああなるほど、あの爺ちゃんから見れば俺もこんな感じに映っていたのかもしれません。

 年齢は14歳くらいでしょうか。黒い瞳が魔導帽の下でキラキラと輝いています。

 その一年生生徒のやる気と向上心は、卒業したきりずっと俺が忘れていたものを思い出させてくれるようでした。


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