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19-12 希望の溶けた泉 2/2

「しょうがない、なら巨人族を探そう。その細胞さえ手には入れば全部解決、古なる者を倒す必要もない。都合の良い保険なんて無かった、ただそれだけのことだよ」


 落胆することはない。

 何でもありはしないのだと、俺はいきなりチェックメイトな目標を提示しました。

 それは暗い落胆ムードを打ち壊して、でもあれーおかしいな? なんかみんな半笑いですよ?


「ってなにこれドロンコじゃん俺っ?! ちょっとっ、ちみらっ、なに人のローブで手拭いてるしっっ!」

「ご立派です兄様。思ったよりもドロドロの焦げ茶色ですが……」

「ふふんっ、でもありがたい泉の砂よ、きっと御利益があるに違いないわ」


 ……悪気がないだけにたちが悪いですねコイツら。

 もう里に帰ったら第一の協力要請ってことで、キエ様に新しいローブをおねだりしちゃいましょうか。

 おお悪くない、災い転じて福となすです。


 まあそれはそれ、これはこれ、彼女らの顔は期待通りの晴れやかなものになっていました。

 超ハードな迷宮深層に潜り込んでレアボス倒すって時点で試練過ぎますが、でも大丈夫。

 もっともっと強くなればいい。

 それに問題の片方はコレ(・・)に解決してもらいますから。


「あ、それってアレっスよね、飛竜追撃戦のときの、えーと……スペルタクルズ?」

「おしい、スペクタクルズ(・・・・・・)


「あーそれそれっス」


 魔力はもう充填済みです。

 その魔法の片眼鏡をかけて泉の中央に目線を向けました。


「妙なものを隠し持っていたな。それで、貴様はそれをどう使うというのだ?」

「っていうか、なんなのさソレ。確かアーティファクトだってところまでは覚えてるんだけど……うん、不思議な素材」


 ダリルのことだから溶かして武器の素材にしてみたいとか、そんなこと考え始めたんでしょうか。

 いえいえそんな使い方しちゃいけません。

 しかし説明するのがめんどくさい気がしてきた、勝手にもうやっちゃおうかな、結果は同じだし。


「鑑定魔法を発動させる眼鏡です……。ただしその精度は驚くべきもので……燃費は最悪ですが反則級の利便性を持っています……」

「ほぅ、それは興味深い。後で我に見せてみよ」


 あえて補足するならば、スペクタクルズは無条件に情報をくれる道具ではないってことです。

 情報を手に入れるには解析する対象を見つけなければなりません。

 少し前の話ですが幼女サティの母親、その石化した腕からタイラント・バジリスクの居場所を検索したのと、ほぼ同じ要領です。

 あの時が腕で、今回がこの枯れ泉に置き変わっただけなのです。


「解説ありがとう。ではスペクタクルズよ、この泉を経由して関連する巨人族を解析、そこからさらにたどって今の生息地を解析せよ!」


 あ、忘れてた、これ地味なんだったー……。

 キュィーンとレンズに燐光と謎文字の羅列が流れ始めますが、端から見ればやっぱただの厨二病兄ちゃんです。

 ああくそう、やっちまった、しかもこのメンツだとチャチャを入れて来そうなの多過ぎじゃーん……。

 って出ました、思いの外あっさり解析が終わったようです。いや素晴らしい、古代の遺産偉大過ぎ。


「どうですか兄様?」

「んー……。正式名称、サイクロトロプス。異世よりごく稀に漂着する巨大な体躯を持った知的生命体。魔法の適性は無いが、それを上回るだけの絶大な身体能力と生命力を持つ、危険度SS、共通言語を用いる」


 あの~スペクタクルズさん? SSとか言われても他と比較しようがないんですけど。

 それになんか今回情報薄くね?

 言葉が通じるって辺りは有益なんだけど、さすがに異世界から流れてくるやつらとなると調べようがないのかな?


「へ~~なんかすごいっスね。冒険者魂を刺激される情報っス」

「メチャクチャ危険ってことだけはわかったわ……。それで、そいつはどこにいるのよ?」

「それさえわかれば数にものを言わせる手もあるよね~。久々に狩りがいがありそうじゃん♪」


 まるで彼女の言葉に呼応するように、またスペクタクルズが動き出しました。

 何というか最近わかってきました。

 これはただの端末であって、小さなこの眼鏡の中にデータベースが入ってるわけじゃないってことに。

 つまりこの魔法の眼鏡は、今どこかと通信をおこなっているのではないでしょうか。


「ア・ポロン迷宮群、第8号迷宮最深部、封印階層65層に一体が漂着、休眠中。迷宮入場制限1名、例外としてモンスターは除く。……あ、つまりソロで死んで来いと」


 スペクタクルズはそのままガス欠を起こして、再びただの悪趣味アクセサリーに戻るのでした。

 残念でした、皆でフルボッコとは真逆の展開です。


「そういうことっスね。無理っスよ無理無理、8号迷宮はもう百年以上も入場制限が変わってないそうっスよ」

「兄様、ダメです、他の方法を探しましょう」

「アトゥに賛成、こんなの死にに行くようなもんだよ」


 そうでしょうねー。


「でも行く。むしろシンプルでいいね、65層まで潜って交渉を成立させれば全部解決。晴れてアインスさんは俺たちの前から永久にいなくならない」


 予想はしてましたがみんな渋い顔してます。

 いえヤケは起こしてませんよ。

 モンスターは除くとありましたから、レウラを連れていけるはずです。

 戦力になりそうならドロポンも育てましょう。


「もう、いいです、止めて……そこまで、して、もらいたく、ない……止めて、ご主人様っ……」


 やっと糸口が見つかったのにアインスさんはむしろ悲しそうでした。

 あれ、よく考えたら何で俺、ここまで彼女にしてあげてるんだろう。

 こんな子に死の呪いをかけて、人生を書き換えようとする古神が気に入らないから?

 まあいいです、どうせ俺がソイツを出し抜いてやるんですから。


「あんたねっ、いきなり未亡人量産するつもり?! これじゃ、これじゃ何のために結婚したのかわからないじゃないっ!」

「アレックス……あんたやっぱバカ。うぬぼれ過ぎ。なに、ダリルちゃんに鉄の足かせ作ってもらいたいの?」

「あ、それいいね~♪」

「はい……私もサンプルとして一つ……いただきたいです……。兄様が自ら……愛する妹に監禁を望んだようなものですから……」


 いえごねるつもりはありません。

 監禁はちょっと困るー、シャレになんなーい、止めて。


「止めよアレクサンドロス(・・・・・・・・)。せっかく手に入れた自由な人生を棒に振るつもりか?」


 誰それ? あ、俺か。


「グリムニールさんまでまたまた~。大丈夫、死ぬ気なんてないです。確実に勝てるまで準備を積み重ねて、黒の錬金術師らしく圧倒してやるだけです。……もちろんみんな協力してくれますよね?」


 現実に目を向ければ他に方法がありませんでした。

 潜伏を選ぶ古神を探り出し、アインスさんに呪いをかけた個体だけを倒す。

 でもそいつを倒すには軍事行動が必要で、戦えば甚大な被害をこうむるそうですから。


 だから彼女らは最後には折れました。

 絶対に無理をしない。

 抜け駆けしたらマナ先生の前に裸で突き出す。

 自分たちも準備のバックアップをするから、勝算が確実なものになったときに8号迷宮に挑戦する。

 ただし少しでも問題が発生したら引き返すこと。


 なんてめんどくさくて強制力の怖ろしい約束――もとい契約を結ぶことになりましたが。

 誓約書とか久々に書いたよ俺。


 泉は枯れていた。

 だが解決の道筋は見えた。

 こうして聖域での滞在が終わり、俺たちは温泉宿ミルヒーヒルに戻って残りの長期休暇を思い思いに過ごすのでした。


 ・


 あ、ちなみに聖域のエルフにもグミをご馳走しましたら、これが大興奮の大盛況でした。


「アレクサント様。先日の世間知らずな無礼をお許し下さい。まさか貴方がこんな素晴らしい料理人だったとは……知りませんでした……」

「や、料理人じゃなくて、錬金術師」


 邪険だったあの弓戦士たちまで現れて、別人みたいに瞳輝かせて手まで握ってきました。

 まあその、30代らしいですけどこの人たち。


「またフレスガルドへいらして下さい。その時はまたこの美味なる菓子を沢山作っていただけると……あっすみませんっ、私たちとしたことが勝手にお手を……っ」


 何とも食い意地丸出しで現金な話です。

 隠れ里ほどではありませんが、やっぱこいつらも甘い物が好きなんですね。

 いやはやグミの魔力おそるべしです。


 さ、帰りましょう。

 アトリエもきっと俺たちを今か今かと待ちわびています。

 長い休暇が終わり告げて、いつもの日常に戻る時が来たのです。

 帰れば仕事が待っているとわかっていても、不思議と胸は帰郷心でいっぱいに膨らむのでした。


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