15-07 えるるん滞在記Ⅲ 試練を越えたアレクサントに村人たちが(字幕
「おおっ、一皮むけたようだな。うん、まさか本当に生きて帰ってくるとはな……」
湿気もあって汗グチャグチャです。
で、地上に戻ってくるなりねぎらいの一言目がそれでした。
「ちょっとゼルヴちゃん、それ聞き捨てならないよ?」
「フフ……冗談だよ。まあ……いくつか大事なことを忘れてただけだ」
「それダメってことじゃん……」
ところで何か違和感がありました。
ふと空を見上げてみると、そこにはあまり見ることのない真夜中の星座が広がっています。
体感とはかけ離れた時間経過を、すっかり寝入ったお嬢とレウラの姿が証明してくれました。
あどけないエルフの少女が、竜を抱いてスゥスゥと安らかに寝息を立てているのです。
微笑ましい、寝てればどっちもかわいいものです。
「して、本当のお前はどんな男だったのだ?」
「え。ああ、ああうん……そーね」
その質問は困るんですけどゼルヴちゃん。
三人一組で興味津々と俺をのぞき込んできます。
自分どころか誰とも会いませんでした。
とか言ったらこの試練やり直しになるのかなー。
だとしたら……うわ、めんどい……ゼルヴちゃんもこれで里長だしババァだし、融通利かないところもありそう……。
「隠さないでくれ。お前のゼルヴちゃんが聞いているのだよ。ほら包み隠さず答えれば、些細だが個人的な褒美くらいはくれてやるよ」
サービスしてくれるそうです。
でもこっちはそれどころじゃない、やり直しは絶対NO! よしここはごまかそう。
「……欲にまみれたしょうがない男だったよ」
「ほう……」
「でもお互い事なかれ主義だからね、さっと挨拶だけしてどっちも素通りを選んだよ」
「…………ふむ」
ゼルヴちゃんは俺の作り話に黙り込みました。
あ、バレてるかな……。
うさんくさそうに白い顔が三つ近付いて、人の腹の底を読もうとしてきています。
「……うん、嘘だな」
「嘘だ」
「嘘だね」
で、三人がかりで嘘を暴き立てます。
ああこの三人で一心同体から来る強引な話術、すっげぇずるい、卑怯。
「いえいえいえいえ、嘘なんかじゃないですよ~? ちゃんと奥に着いたら虹の光が俺の中に入りましたし、ほらここにメダリオンも」
「うん、儀式は成功している。だが嘘を吐いていることくらいわかる。坊や、あまり年寄りを舐めないことだよ」
だてに長生きしちゃいないってわけね。
お子様が母親に嘘を吐くようなものだったと。
「心配せずともやり直せとは言わない、ただ我の好奇心のために、真実を語ってくれ」
「……本当? ゼルヴちゃん嘘吐かない?」
「うんうん、コモンエルフ嘘吐かない。……むしろ急所突いた回数の方が遙かに多いよ」
わー、なんかサラッと何言ってんのソレ。
歴史は戦いの歴史、長く生きてればそりゃまあ……どんなバイオレンスな過去があってもおかしくないけど。
「それで……。中で何があったのだアレクサントよ」
いや、あったって言うか無かったというか。
期待を込めて聞かれても困ります。
事実はパッとしない話ですから。
「あーうん……誰もいなかったよ」
「うん、そうか。……いや、何だと?」
もちろん問い返されてしまいました。
真実不在の結末にゼルヴちゃんは三人そろって疑問を浮かべ、続いて同じ顔を合わせだします。
「誰もいなかった、つまり本当の俺なんていないってことかもね。あるいは単に行き違いになったとか、試練そのものが不発だったとか」
「そんなはずはない。しばらく使っていなかったが、ついさっきの点検ではちゃんと……。むぅぅ……」
納得がいかないそうです。
じゃあ起こり得ないイレギュラーなトラブルが起きたんでしょう。
それにほら、ゼルヴちゃんって抜けてるし。
「まあどっちにしろ、誰もいなかったものはしょうがないし、事実として受け止めようよ」
手違いでも突破出来たんですから儲けものです。
「って、うわちょっ、ちょっとゼルヴちゃんっっ?!」
「珍しい……」
「珍しい」
「珍しい……」
好奇心旺盛な瞳が六つ分、そりゃもー新しいオモチャを与えられた子供みたいに興味津々と見つめてきます。
「クンクン……」
「クンクンクンクン……」
「か、嗅いじゃやぁん?! てか、汗臭いよぉ……っ?!」
さながらそれは三匹の子犬。
クンカクンカと激しく鼻を鳴らしてくっついてくるんです!
「あだだだっ、なぜ噛むしっっ?!! あっ、あはぁんっっ♪」
そんで甘噛みされました。
腕とか耳とかわき腹とかを。
コモンエルフ? コモンエルフってみんなこうなの?
とにかく、ちょっと、止まってよゼルヴちゃん……。
「坊やは変だな。変だ、そうとしか言いようがないくらい、うん、よくわからない変な生き物だよ、お前は」
「やー……その言葉、そのまんまお急ぎ便でゼルヴちゃんに返すわー……」
存在そのものが生ける昔話のゼルヴちゃんに言われたくないです。
「フフ……ますます気に入ったよ。目的を果たしたらどうだ、我と一緒に暮らさんか? 徹底的に坊やを調べ上げてみたくなった」
「ええまあ、この里は結構好きなので、お誘いは心のかたすみに置いておく、ということで……」
「うん、忘れるなよ。もし全てから逃げ出したくなったら、我が坊やを受け入れてやる」
ゼルヴちゃんはそれで納得してくれました。
ならもう帰ろうとお嬢とレウラを起こして、俺たちは里長の社で深夜の眠りについたのでした。
床で。
・
それから夜が明けて翌日。
広場のど真ん中に釜が置かれました。
そこに里中の腹ぺこエルフ様がわらわらと集い、まだかまだかと朝から全裸待機。
もとい朝食抜き待機をされていたのでございました。
ゼルヴちゃんもそのつもりで朝食を作っていませんでしたので、もうグミ作るって約束は約束だしがんばるしかないのです。
総勢400人はいるでしょうか。
その全ての菓子狂いの腹を満たすために、ひたすら釜をドッカンドッカン爆発させる錬金祭りが始まりました。
いくら作っても作っても、グミの山が工場のラインのごとくエルフの腹という出荷先に消えていきます……。
「これがグミ! 美味しい美味しい! 甘くてやわらかくて、ああっ噛むのが惜しい!」
「こんな美味しいものを作れる人間なら……里長が言うとおり、特別に住ませてあげてもいいわっ!」
「これが本当の錬金術……すごい、錬金術ってすごい、お菓子を作る力なのね!」
……個人の感想です。
実際の美味しさとはたぶん異なります、はい。
広場のエルフたちは手のひら返したように、錬金術師アレクサントを大歓迎してくれました。
晴れてリードと首輪無しの生活と、無制限の訪問権も許してくれるほどの心の開きようです。
「うん、我の分ももうないぞ、早くお前のゼルヴちゃんにグミを差し出すが良い」
「どんだけ食うのお前らっっ?!!」
MP消費の少ないものを選んでるとはいえ、いくら最近ごぶさたで錬金釜をかき回してなかったとはいえ……この人たち無尽蔵過ぎる……。
グミのためならと、どこからともなく材料がワッショイワッショイ持ち寄られ、なにこれ調理者俺だけ芋煮大会。
「キェェェーッ♪」
「って、なにお前もちゃっかり食ってるしー!!」
「良かったじゃない、暴利と欲まみれの錬金術がちゃんと人のためになってるのよ。きっとこういうのが正しい使い方なのよアレク。ん、美味し~♪」
MP切れたら暴動が起きそうなほどの大騒ぎでした。
甘味は麻薬。とは言ったものです。
「クルルルルルル……♪」
「坊や、ぼやいている余裕はないぞ。この状態になった里の者は我にも止められる自信はない。さあがんばってエルフに恩を売るが良い、でなくば監禁されてもしょうがないと思え」
なにその甘味に飢えた荒くれども。
覚えてろよレウラ! その食い意地食いっぷり、いつかツケで払わせるからなーっ!
「もっともっと! お菓子足りない、お菓子もっと!」
辺りそこら中からかけ声と食器を叩く音が響きわたり、俺は今、隠れ里のカリスマとなったのでした。
はぁ……ま、うん……。
そんな過酷なグミ大爆発大会が昼過ぎまで続きました。
じゃ、このへんで今回の締めに入りますね……。
今日俺たちは大事なことを学びました。
よくわかりませんが、本当の自分なんて追求するようなものじゃないんです。
立場や状況が変わればいくらでも移り変わりますし、確かな自分を結論付けることで、ただ単に自分自身を安心させようとしているだけとも言えます。
ならそんなどうでもいいことより、アインスさんを救うための研究をこれからも続けてきましょう。
別にドライバーで釘くらい打ってもいいじゃないですか。
それが俺のやり方ってことで、絶対錬金術でどうにかしてみせます。
さしあたって次のステップは、古なる者の資料集めと、アインスさんの素性調査です。
「坊や、また来い、絶対に来い。里はいつだってお前を待っている。いや、来ねばどうなるかわかっているな、ただでは済まさんぞ。それからもっと腕を磨いてより大量のグミを作る力を身に付けると良い。うん、こんな美味い物を作れる力をムダにするものではないよ」
それとここのエルフども、菓子への執着が異常、以上。




