15-04 2/2 古きエルフの語る昔話
「それでゼルヴちゃん、どうすれば治せるの?」
「なにさりげなく、ちゃん付けしてんのよアンタ……ほんっと女ったらしっ!」
「え、そういう意図じゃないし、場を和ませようと思っただけだって」
「だからそういうところが女ったらしなのっ!」
なんて理不尽な言いがかり。
でもゼルヴちゃんはシリアスモードが解けません。
その方が話も早いし良いんですけど。
「呪いをかけた個体を倒す。呪いをかけた個体と同等の魔力を得て正しい術式で解除する。呪いをかけた個体を探し出して交渉する。呪われた者そのものの時を止めてしまう。……といったところか、どれも非常に難しいことだアレクサントよ」
都合の良い特効薬は無しと。
時を止めるとか、そんな殺られる前に俺が殺る理論願い下げです。
まさか本当に時間を止めるとか……あーゼルヴちゃんなら出来そうな雰囲気ありますね。
「じゃあ質問を少し変えます。錬金術を使って治すとしたら、ゼルヴちゃんはどうしたら良いと思う?」
「貴様、錬金術師だったか。なるほどやっと納得いったよ、うん、見たところ黒のようだな」
白とか黒とかそういう考え昔からあるんでしょうか。
あの謎のロリエルフ錬金術士、グリムニールさんもそんなこと言ってましたけど。
「錬金術は我をもってしても起源がよくわからないよ。だが魔法とは全くの別物だとは言える。だからな、錬金術師の坊やよ。錬金術で治す方法と聞かれても、それはネジ回しで釘を打つ方法を問うにも等しいことよ」
専門外、そりゃごもっとも。
でもそれってろくすっぽ試したことがないってことです。
そう考えるとセオリーでの解決難度と比べて希望が持てます。
「良かったわねアレク、かわいい里長に坊やとか言ってもらえて」
「それって嫌み?」
「そうよ」
相手はスーパーババァだし、それ嫌みにならない気がする。
「お前たち聞け。その昔、エルフの遠い祖先は魔力を持たなかった。しかし古なる者の眷族として使役されてゆくうちに、種そのものが変質したそうだ。その後エルフはわけあって苦難の果てに自由となり、我々は彼ら魔神と袂を分かつことになったのだ。先ほどの少数部族をのぞいてな」
「あたし全然知らなかったわ。うちの故郷は商売と魔法の勉強ばっかりだったから」
ところでゼルヴちゃんのババァ属性がここにきて発揮されました。
やー、そんな話聞いてないですー。
魔法の起源となれば興味津々ですけど、今んところやっぱ関係ないですし。
「しかし錬金術師か。我はなおさらお前に興味がわいたよ。なればグミとやらの代価にふさわしき、特別の助力をしてやろうではないか」
失敗作の美味しいお菓子に、それほどまでの価値があったなんて知りませんでした。
落ち着いたのか、やっとこさゼルヴちゃんは距離を取ってくれます。密着状態からマイナス10cmほど。
「貴様は自分が何者なのか、考えたことはあるか」
「ないっス」
「ああそうだろうな、そういう顔をしている」
「ぷっ……」
なんかツボだったらしくお嬢が吹き出しました。
見れば口を押さえて笑いを我慢しちゃってます。
「ひどいなぁゼルヴちゃん、ほらお嬢に笑われちゃったじゃん」
「ならせめて様を付けなさいよバカアレク、ゼ・ル・ヴ・様っ!」
「うんかまわん、そう呼びたければ呼べばいい。プライベートではお前のゼルヴちゃんになってやる」
メチャメチャ好かれてるみたいです俺。
逆にお嬢からすれば不満なものらしく、唇を突き出して怒りを押し込んでました。
「……うん、結論から言えばこうだ。アレク坊や、お前は変だよ」
「あ、それなら納得。変だわ」
「いやいやいきなりなんですかそれ」
かと思えばゼルヴちゃんに賛同して、人を失礼にも指さします。
憧れのエルフ様にダブルで言われるとなかなか火力ありますよこれ。
「でも……言われてみれば本当にアレクって変よね」
「なんすかその二度見ならぬ二度変は」
「だってそうじゃない。どん底の崖っぷちからアカシャの家に入学。これだけでも凄いのに全学科で優秀な成績を残して、今では世界で一握りの凄腕錬金術師。今だって公国の大公様じきじきの特命を果たした帰りよ? どんな人生よそれ。アレクって……何者?」
冷静に振り返ってみれば、俺って怖いくらいのパーフェクト超人です。
第三者からすれば不気味な印象を覚えても仕方ないでしょう。
ただ単に運良く生前の記憶を持っていたがために、要領良くやってこれただけなんですが。
「俺は俺、そんなのどうでもいいじゃん答えとかないし」
「なんで自分のことなのにそんな思い切り良いのよ……。アトゥと一緒に暮らしてた頃の自分とか、興味ないのっ?!」
「いや、それ知ったら取り返しつかない気がするっていうか、彼女の話そのままを信じるとこれ、妹にエッチなイタズラをしていた変態お兄ちゃんに成り下がってしまうというか、じゃむしろノーセンキューじゃん、みたいな?」
ええ、妹ことアクアトゥスは言っていました。
俺が眠っていた彼女を裸にして……なんとやら、と。
「最低ね」
「心をえぐってこないでよお嬢……」
ええ最低です。
そんな記憶いらないです。今を楽しく生きましょう。
「うん、事情は何となくわかった。坊やもお盛んな頃があったということだな。ならばお前に助力しつつ、その過去をスッキリさせる方法がある」
「あのーゼルヴちゃん? 人から話を聞かないとか言われたりしない?」
こっちは要らないって言ったんです。
でもやっぱりお年寄りなんですかね、返答も噛み砕かず自分の言いたいことやりたいことを続けられます。
「お前にはエルフの神聖な試練を与えよう。これよりお前は進むことになるのだ。この秘境に隠されし聖地に、自分自身が現れるという試練の洞窟がある。くぐり抜けた者には力が与えられるが、己にうち勝てぬ者にはけして突破出来ぬ試練の道よ」
エルフの隠れ里とくればそういった観光スポットも事欠かぬと。
ゼルヴちゃんは重々しく語ってくれます。
「特別に許そう。行くがいいアレクサントよ、真実の洞窟へと」
「……めんどくさいからいいっス」
わかりました、じゃ遠慮します。
出来るだけ爽やかに明るく断りました。
「何言ってんのよバカアレクッ、アインス助けるきっかけになるかもしれないでしょっ、行きなさいよ!」
「心配せずとも解呪の技はリィンベルに仕込んでおくよ。これを信頼の置ける、より実力のある聖職者に伝えるといい」
ところがそうはさせちゃくれません。
もちろん力が貰えるなら、こっちとしてもやぶさかでもないんですけど……。
だけどちょっとこれ強引というか、ご都合主義入ってるっていうか、話の流れも飛んでますし……。
いまいちやる気につながらないですっ!!
「よし、決まりだな」
「あたし応援してるから……がんばりなさいよねっ!」
……ただ拒否権なんてものはありませんでした。
熱血キャラならここで、うぉーやるぜぇー! とか覚悟を決めるんでしょうかね、何も考えずに。
ていうか……。
「あ、おかえり?」
なんかゼルヴちゃんその2とその3がそろって帰ってきました。
「ただいま、いやなかなかよい菓子だったよ。うん、もちろん話は我より聞いているので気にせんでもよいぞ」
「釜の手配も順調だよ、早く試練を乗り越えてグミとやらを我らに食わせてくれ。うん、楽しみで楽しみでたまらない……」
で、なんでかそのお二人も、ゼルヴちゃんその1と一緒にピッタリくっついてきたのでしたとさー。
ああ、三つ子のアルビノエルフ……。
しかも生ける人間国宝コモンエルフに、こんな接待をしていただけるだなんて……!
ここは天国に違いありません。
良いですねゼルヴちゃん、ナチュラルに人の話全然聞かないですけど、キャラはバッチリ立ってます!
「里長っ! そんなっ、そんな男にくっついてたら腹黒が伝染りますよっ! っっ、うぅぅぅ~~離れなさいよぉアレクゥゥーッ!!」
しょうがないです。
エルフの隠れ里最高の観光スポットをご案内してもらいましょう。
いざ、試練の洞窟へ。
どうせ相手は俺なんです、全然怖くなんてありません。




