14-05 2/2 魔の山ツアナを越えて
予想通りそこには魔物の軍勢による待ち伏せがありました。
禍々しい巨大ガラスに、鷲の翼と獅子の身体を持つグリフォン。大猪もといワイルドボア。
後はスケルトンという名の哀れな成れの果てなんかもちらほら確認出来ます。
「よくよく考えたら前衛がいないな、なら前は俺に任せろ」
そいつらの襲来に対して、ダンプ先生は勇敢にも単騎での前進をためらいませんでした。
なら俺たちはその支援です。
しかし忘れてはいけません、あくまでこの部隊がするのは斥候なのです。
だから不用意に近隣の敵を呼び寄せては意味がありません。
派手な魔法は避けて、使うのはウィンドカッターとアイスボルトに絞って魔物たちを各個撃破する戦術を選びました。
「キュィッ、キュルルルルッ~!」
その戦場をレウラが縦横無尽に飛翔します。
小さい身体から火球を吐き、飛行系の猛攻を巧みにかわして返り討ちにしちゃいます。
ええ、山岳地ということで相手は飛行系ばかりなのです。
その突撃力は全くもって厄介なもので、後衛の俺たちがたびたび狙われることにました。
「お嬢、後ろから離れないで。そこにいればほぼ確実に守れるから」
「うんっ信じてるっ、フォローは任せて! エルフの本気を見せてあげる!」
そいつらがこちらに到達する前にウィンドカッターで撃ち落とし、討ち漏らしをスタッフオブガイストで殴り飛ばします。
それでも魔物たちは勢いに任せた電撃戦を選び、無数の灰をこの岩山に積み重ねていきます。
前線ではダンプ先生が拳でワイルドボアを……つまりでっっけぇイノシシを力技で殴り倒し、迫り来るスケルトンをその杖で粉砕します。
ええ、そこには魔法の力なんてどこにもなく、あるのは魔法使いのコスプレしたスーパーなおじさんの姿だけでした。
そんな感じで、際どいながらも戦況は終始こちらの有利が続いていきました。
ただまあ戦いというのはそう単純にはいきません。
三名と一匹の威力偵察部隊に、この群れのリーダーらしきものが立ちはだかりました。
その姿たるや見事なものです。
巨大な黒巨鳥とでも言うのでしょうか。
飛べるのが不思議なくらいデカい大ガラスが飛来し、あれ、なんか……うわ、その翼からウィンドストームらしき爆撃が降り注いでくるじゃないですか?!
「ちょっ、なにそれずるい、鳥のくせに魔法とかっ!!」
ただ照準がずれてました。
岩と土の大地を風が切り裂き土煙を上げて、結果的ではありますがかく乱までしてきます。
その翼が角度を微調整して、ついに死の暴風を俺たちにかぶせて来るのでした。
「ワハハッ、こりゃ大物が来たもんだっ、だが効かんっ、ウィンドウォール!!」
ちょっとまずいかなと冷や汗が流れました。
ところがここでやっと、ダンプ先生は魔法使いらしい技を見せてくれたのです。
光を歪ませるほどの分厚い空気の壁が生まれ、風の爆撃をはじきそらすのでした。
「うぉっしっ今がチャンスだっ、さあやれ二人ともっっ!!」
「先生すごいっ、ならいくわよアレクっ!」
「うんっ、いざレアドロップのために!」
風壁が攻撃を防いでくれてる間に、お嬢と一緒に魔力を急速増幅しました。
この状況で考え付くことは同じらしく、その増幅が終わると、同じ言葉、同じ魔法が発動します。
「落ちよ巨鳥ッ!」
お嬢の方がだいぶ熱血してましたが。
でもエルフ様が言うと良いです、痺れます。
「サンダー!!」
電撃魔法なだけに、ビリっと。
ともあれ天より二つの豪雷が巨黒鳥を貫き、敵は大地を揺らして岩山に墜落しました。
その肉体はすぐに灰へと変わり果て、そこに黒光りする宝石が現れるのでした。
戦局の方はというと敵リーダーが敗北するなり、魔物の特攻も急停止することになりました。
その機動力は退却に傾けられ、この戦線から一匹残らずあっという間に姿を消してしまうのでした。
残ったのは俺たちと、灰と、山ほど散乱したレウラの餌だけです。
「よくやったな二人とも! うははっ、こいつぁ腕を上げたもんだ、いやたいしたもんだ! 最初は魔法も使えなかったあの小僧がなぁ!」
あれだけ仁王のごとく暴れ回ったのにダンプ先生ってば余裕いっぱいです。
俺たち後衛の前に戻ってきて、上機嫌かつ豪快に笑ってくれます。
アカシャの家だと暑苦しいですけど、戦場ならむしろ好ましい気質かもしれません。
つか冒険科の教師連中って一体……どんだけ怪物揃いなんでしょう。
「こいつがツアナ山の主だ。といっても一定周期で復活しちまうらしくてな、地元民にはまさに不死鳥として恐れられている。だがこれで敵の襲撃も収まるはずだ、いや見事だったぞ」
「ふぅ……そうなのね、それを聞いて一安心よ。もうアレクに連れ回されたせいで、すっかり私も場慣れしちゃった気がするわ」
ええ、お嬢は元のセンスが良いので最初から戦力として期待してます。
さすがはエルフ、エルフ最高です。
「そりゃ良かったです。ならこのへんに転がった魔物素材、これ全部レウラに食べさせちゃっていいですよね。拾っても旅の邪魔になるだけですし」
「んん、こんなもん食うのか? おうならいいぞ、たーんと食わせてやれ」
「ふふっ、なんとかは飼い主に似るわけね」
ははぁなるほど。もうお嬢ってば、そんなしゃれた皮肉覚えちゃって……。
これじゃ俺が悪い影響与えてるみたいじゃないですか。レウラにもお嬢にも。
魔物素材バカ食いなところはまあ確かに、レウラは飼い主に似たかもね。
……ん?
「……ってこらぁーっ?! レウラッ、レウラッッ、おまっっこらぁぁーっ!! 他はいいけどソレは俺の……ッッ!! あああああああああああああーーーっっ?!!」
よそ見してたら何てこった、よりにもよってあの巨黒鳥のレアドロもレウラの腹に消えてました。
ええもちろん、その他の魔物素材も全部、全部根こそぎ!
このっ、この駄竜! バカー! バカーッ!!
「クルルルルルル……♪」
そらご機嫌でしょうとも……。
「キュキュッ、キュィィ~ッ♪」
つか痛いっ痛いっ、ちょっ、痛いっ、頭擦り付け過ぎっ、そんなんしたって許さないしっ!
「強欲なところもほんとソックリね……」
「おうレウラ、食い残しがあったぞ、ほれこれも食え食えっ」
「――!! キュィィ~ッ♪」
ダンプ先生が宝石型の魔物素材を空に投げると、レウラは俺の肩を足蹴にして猛反射で飛び立ち、輝くソイツを丸飲みにしてしまうのだった。
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先生の言葉通り、リーダーを失った魔物は襲撃そのものを止めたようでした。
なのでその先は順調そのもの。
日が落ちる頃にはなんとか山の向こう側にたどり着き、輸送隊はツアナ山という最大難所を越えることになったのでした。




