練習生候補1
練習生オーディションから1ヶ月。
私は再び東京を訪れた。
都内の一角に建てられた道場と事務所が併設されたビル。
練習生候補の私はそこで今後の説明を受けるという事になっていた。
事務所に行くと、そこには社長の降田さんが居た。
「ああ、綾瀬さん。お待ちしてましたよ。すでにお二人は中に入られています」
2人?
「お、来たな。候補生」
「あなたは、」
「あたしは佐藤花火!あんたは確か、綾瀬夏希だろ?よろしくなー!」
佐藤さんは真っ赤な髪を揺らしながら明るい笑顔を浮かべると、
私の手を少し強引に握って握手をした。
佐藤さんは練習生オーディションで筋力トレーニングをはじめとしたトレーニングメニューを軽々とこなして見せていた。
肩幅やTシャツの袖から見える腕の筋肉がものすごい。
「ほら、お前も挨拶くらいしろよ。あたしらは同期の仲間なんだからさ」
そう言って佐藤さんの後ろから出て来たのは、
「私、早瀬奈緒、よろしく。」
ショートボブが似合う前髪から覗く目が鋭い。
もう1人の練習生、早瀬奈緒さんだった。
早瀬さんは練習生オーディションのマラソンで常に先頭を走っていたものすごいスタミナの持ち主だ。
「あ、その、綾瀬夏希です、よろしくお願いします、佐藤さん、早瀬さん」
「花火でいいぜ!あたしも夏希って呼ぶからさ!」
「私も奈緒でいい。それに敬語もやめようよ」
「2人と違って私は練習生候補だけど、いいの?」
「もちろん!うちら3人まだデビューしてないんだ、3人で頑張っていかないとな!」
練習生の2人と違って私はまだ候補だけど、
こんなふうに言ってくれるとすごく心強い。
2人にとって私も恥ずかしくない存在にならないと。
「挨拶は済んだようですねぇ。」
同期の2人と挨拶を交わし終えると、降田社長が入ってくる。
「さて皆さんには今日から団体の寮に入ってもらう事になります。そこで日々の練習をこなし、当面の目標は、いずれ来るプロテストを受け、プロレスラーとしてデビューを目指してもらう事になります」
プロレスラーとしてのデビュー。
その言葉にゴクリと私たちは息を呑んだ。
「まずは皆さんの住む寮へ入っていただきます。その後、早速トレーニングに入ってもらいますが、よろしいですか?」
「「「はいっ!」」」
「よろしい、寮はここから10分ほど歩いた場所にあります。案内しましょう」
そう言って社長が事務所から出ていったので、
私たちは慌てて荷物を手に跡を追いかけた。
事務所から離れて10分後。
都内の喧騒から離れた場所にある建物。
ドリームハウスと名付けられた少し古い民宿のような建物が、今日から私たちの住む場所になる。
「見た目は古いですが、中はリフォームしてますのでご安心ください。早瀬さんは101号室、佐藤さんは201号室、綾瀬さん。貴方は107号室です。」
107号室。そこが私が3ヶ月練習生候補を目指して住む部屋なんだ。
私は期待を胸に、107のプレートがはまったドアを開け放った。




