表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第2章 瑠香姫と書き換えられた王都

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/34

第20話:姫として過ぎる朝

 朝、目を覚ました瞬間、私はまた“姫”にされていた。


 昨夜はたしか、無理やり着せられそうになった寝間着を拒んで、結局いつものTシャツと短パンで寝たはずだ。なのに今、私の身体を包んでいるのは、薄い青の寝間着だった。肌に触れる布はやわらかいのに、そこにあるだけで気分が悪い。


 勝手に着替えさせられた。


 その事実だけで、胸の奥がぞわっとした。


 窓の外からは、朝の冷たい空気と薄い光が差し込んでいる。けれど部屋の中だけは不自然なくらい静かで、あたたかくて、まるでここだけ時間が止まっているみたいだった。


 その静けさを壊すように、扉が開く。


 女官たちが入ってきた。


 昨日と同じだ。


 声を荒げても、拒んでも、驚いた顔をするのは一瞬だけ。そのあとには、何事もなかったみたいに役目へ戻っていく。人じゃなくて、決められた動作だけを繰り返す何かみたいに。


 女官たちは手際よく私を起こし、髪を整え、服を替えさせ、朝の身支度を進めていく。


 私はされるがままだった。


 抵抗しようと思えばできたのかもしれない。けれど、怒鳴ったところで何かが変わる気がしなかった。それに、頭の中はまだ地下へ連れていかれた愛斗たちのことでいっぱいで、目の前のことにうまく力を使えなかった。


 青いドレスを着せられ、胸元へ飾りをつけられ、肩へ薄い外套をかけられる。


 鏡に映る私は、昨日よりもっと“瑠香姫”だった。


 冗談みたいだ。


 私の顔をしているのに、私じゃない誰かがそこにいる。


 女官「瑠香姫、朝食のお時間でございます」


 呼ばれて、私は黙ったまま歩き出した。


 案内された食堂は、昨日の部屋よりもっと露骨に“城”だった。高い天井。長いテーブル。窓にかかった重たい布。磨き抜かれた床に、朝の光が薄く伸びている。


 そして、椅子が高すぎる。


 座ると、足先が床へ届かなかった。


 こんな姿勢で落ち着いて食事できるわけがない、と一瞬だけ思う。だけど、そんなくだらない感想が浮かぶこと自体、変だった。


 目の前に並ぶ皿は、見たことのない料理ばかりだった。パンに似たもの、果物に似たもの、透き通ったスープ。香りはいいのに、何を口へ入れても味があまり分からない。


 食事が始まってすぐ、控えていた誰かが前へ出てきて、何かの報告を始めた。


 内容はほとんど頭に入らない。


 地名らしき言葉。誰かの名。数字。税。警備。祭祀。単語だけがばらばらに耳へ入り、意味にならないまま流れていく。


 けれど、誰も私を責めなかった。


 返事をしなくても、不自然がられない。


 それどころか、向こうはちゃんと会話が成立しているみたいに話を続ける。


 侍従「昨夜のご無事、皆、安堵しております」


 侍従「本日はご無理なさいませんよう」


 そのたびに胸の奥が冷えた。


 この人たちは、本気で私を“瑠香姫”だと思っている。


 服を着せられているだけじゃない。役を与えられているだけでもない。世界の方が、最初からそうだったみたいな顔で私を扱ってくる。


 食事が終わると、休む間もなく別の部屋へ通された。


 今度は“朝のお茶会”らしかった。


 名前だけなら優雅だ。実際、部屋は綺麗だったし、並ぶ菓子も茶器もため息が出るほど整っている。けれど、そこに座っていた令嬢たちの視線は、まるで壁みたいだった。


 柔らかく微笑んでいるのに、誰も近づいてこない。


 近づいてこないのに、じっと見ている。


 まるで壊れものでも扱うみたいに、丁寧に距離を取られていた。


 その中の一人が、そっと私の前へ寄ってきた。


 かすみ「お姫様。昨日のお出かけは、いかがでしたか?」


 その声に、思わず顔を上げる。


 見覚えがあった。


 クラスの委員長、かすみちゃんにそっくりだ。顔立ちも、髪型も、目元の雰囲気まで似ている。


 でも、違う。


 目の前の彼女は、私の知っているかすみちゃんじゃない。


 私は答えられなかった。


 うまく言葉が出ない。何を言っても、この場では別の意味になりそうな気がした。


 かすみは困ったように微笑む。


 かすみ「無理はなさらないでくださいませ。私たちがお側におりますから」


 その言葉が優しさなのか、監視の宣言なのか、判断できなかった。


 私は曖昧に頷くだけで終わる。


 お茶会が終わる頃には、もうそれだけでひどく疲れていた。


 次に連れて行かれたのは、城内の巡回だった。


 何のためにそんなことをするのか、最初は分からなかった。けれど、私が歩くたびに衛兵や使用人たちが頭を垂れ、廊下の空気がわずかに張るのを見て、なんとなく理解した。


“姫がそこを歩くこと”自体に意味があるのだ。


 存在の確認。権威の確認。あるいは、歴史の確認。


 石畳の廊下を進むたび、周囲の視線が私へ集まる。


 そこで、嫌でも思い知らされた。


 この世界の誰もが、本気で私を姫だと思っている。


 いや、思っているんじゃない。


 この世界では、それが事実なのだ。


 そのことが、一番きつかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ