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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第2章 瑠香姫と書き換えられた王都

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第18話:瑠香姫と脈打つ壁

 反射みたいに顔を上げる。


 入口に立っていたのは、瑠香だった。


 衛兵たちは一斉に膝をついた。だが、その中心に立つ本人の顔は、まだ状況を飲み込めていないまま固まっている。


 さっき外で見た時とは違って、彼女は青みがかった薄いドレスをまとっていた。幾重にも重なった裾は月光を吸い込むみたいにやわらかく、肩から羽織った外套には銀糸の刺繍が流れるように走っている。


 豪華で、綺麗で――生々しかった。


 飾られているんじゃない。着せられているはずなのに、あまりにも馴染んで見える。


 まるで、この世界では本当にそれが彼女の日常だったみたいに。


 瑠香は戸惑いを隠せないまま、俺たちの方へ数歩進んだ。衛兵と俺たちの間を何度も視線が往復している。


 瑠香「……これ、何してるの」


 先頭の男が、頭を垂れたまま答える。


 衛兵「簡易な尋問を」


 瑠香「やめて」


 即答だった。


 瑠香「やめさせて。今すぐ」


 その声は震えていた。けれど、ただ怯えているだけじゃない。混乱の中でも、俺たちを止めようとしている強さがあった。


 ……なのに。


 その姿が、どうしようもなく似合っていた。


 ドレス姿の瑠香は、本当に姫みたいだった。いや、みたいじゃない。この世界では、実際に姫として存在しているのだと、そう見せつけられている気がした。


 ひどく似合っていて、ひどく嫌だった。


 愛斗「……似合ってるけど」


 自分でも何を言ってるのか分からないまま、口が動いた。


 愛斗「お前、そういう格好じゃない方がいい」


 瑠香が目を丸くする。


 困ったような、泣きそうな、でも少しだけいつもの瑠香に近い顔で、俺を見た。


 衛兵「いかに瑠香姫のご命令でも、従えません」


 一言で、空気がまた冷える。


 衛兵たちの忠誠は瑠香へ向いている。だが、それは彼女個人への感情じゃない。この世界の法と役割へ従っているだけだ。


 別の男が前へ出て、恭しく頭を垂れた。


 衛兵「瑠香姫、どうかお戻りください。お部屋のご用意は整っております」


 その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が背筋を走った。


 瑠香が、ゆっくり振り返る。


 その先に続く廊下は、見慣れた住宅でも学校でもない。石と光と紋章でできた、俺の知らない城の内側だった。


 愛斗「……まさか、お前、ここに住んでるのか」


 瑠香は頷けなかった。首も振れなかった。ただ、その場に立ち尽くすしかないみたいに、唇を引き結んでいる。


 答えられないこと自体が、答えだった。


 結局、俺たちはそのまま地下牢へ入れられた。


 思っていたよりは“牢屋”らしくなかった。


 昔の映画みたいな、じめついて腐臭のする穴蔵じゃない。薄暗くはあるが清潔で、石畳の上には乾いた藁が敷かれている。壁際には粗末な寝台まであった。


 快適、なんて言葉を使う気にはならないが、少なくとも拷問部屋みたいな場所じゃない。


 ……逆に、それが気味悪かった。


 まるで“文明的に管理された牢獄”だ。


 俺は壁へ背を預け、息を吐いた。


 小窓の向こうに見えるのは、城壁の一部だけだ。あの巨大な壁に囲まれていると思うだけで、胸の奥がじわじわ狭くなる。


 ここが本当に、現代日本の街の中心部なのか。


 そんな馬鹿みたいな問いが、今は笑えない。


 視線を落とし、壁の表面を見る。


 城壁の石は、角がぴたりと合うように精密に積み上げられている。だが、その継ぎ目の奥には、まるでコンクリートの骨組みみたいな太い鉄材が走っていた。まったく違う建築様式が、喧嘩したまま一つの形を保っている。


 まるで世界の継ぎ目が、そのまま壁になったみたいだった。


 ネリュアが静かに隣へ座る。


 ネリュア「この城、本来の姿は、お主たちの世界の建造物だったのではないか」


 愛斗「……たぶん、そうだ」


 瑠香の実家があったはずの場所には、この城が建っていた。


 なら、最初から城があったわけじゃない。本来そこにあった何かへ、王城の履歴が上書きされたのだ。


 そう考えると、胸の中で散らばっていた違和感が、嫌な形で一つに繋がっていく。


 この城は、異世界の城そのものじゃない。


 現代日本の建物の上に、別の世界の歴史が無理やり重ねられている。


 問題は、なぜそんなことが起きているのか、という一点だった。


 反対側の壁際では、アズが小さく縮こまっていた。まだ小剣を抱えたまま、ほとんど動かない。けれど、ただ怯えているだけじゃない。この場所そのものの異様さを、肌で感じ取っているようにも見えた。


 俺は無意識に手を伸ばし、壁へ触れた。


 その瞬間、指先にかすかな引っかかりがあった。


 愛斗「……これ」


 ただの石じゃない。


 もう一度、指を這わせる。


 表面には、無数の細い溝が刻まれていた。わずかな凹凸が規則的に連なり、回路みたいな模様を形作っている。石の顔をしているくせに、中身は別の仕組みで動いているみたいだった。


 愛斗「こんなの、異世界の城にはなかった……」


 呟いた瞬間、壁の奥で、何かが微かに脈打った気がした。

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