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19/48

19 テイクオフ


 ショッピングを終えて、ユミエと別れる。

 スキップしながら去っていく後ろ姿を見送ってから、私はくるりと踵を返した。

 人目につかないルートで市場に戻り、女性向けの生活雑貨を取り揃えた露店の前で足を止める。


『これとこれと、これ。それとこれも……』


 手鏡に化粧道具、ヘアオイルに毛抜き用ピンセット。

 私は手当たり次第にかき集めた。

 どれもドシュネーでは手に入らないものだ。


『ぐふふふふ……。これください、ぐふふ』


「1万3700セントルだよ。あんた、ちょっと気持ち悪いねぇ」


 店主の視線が痛い。

 でも、仕方ないじゃないか。

 どれも喉から手が出るほど欲しかったものなのだから。

 私はこんないかめしい格好だが、中身は花も恥じらう女の子だ。

 二度目の思春期、真っ只中。

 身だしなみには気を遣いたいお年頃なのさ。


「毎度あり。次は鎧脱いで来なよ」


『あはは。そうするよ』


 私はつり銭も数えずにさっさと路地裏にすっこんだ。

 そして、買った品々を鎧の中に隠すように押し込む。

 でかい鎧の男が少女チックなものを持っていると悪目立ちしてしまう。

 ユミエと鉢合わせして「ほかに女がいるの!?」とか騒がれては面倒だ。

 見つかっちゃまずいものは、こうして隠すに限る。


『あっ、ブラ買い忘れた……』


 まあ、それこそ買っているところを見られたくない。

 夜にでも出直すか。


 帰りしな、木材屋に寄って木片を買った。

 バルサ材みたいに軽いやつだ。

 それを持って、『よろず鍛冶屋ザコボワリ』に舞い戻る。


『ドンダーフ、悪いけど工房の隅を借りていいかな? ちょっと作りたいものがあってね』


「おう、鎧の旦那。ここはオレの工房だぜい? 作りてえもんがあるならオレに注文しな」


 相変わらずのひげヅラでごもっともなことを言われる。


『それもそうだね』


 でも、この世界にはないものを作るつもりだから、一緒に作ろう。


『木を削ってこういうものを作ってほしいんだけど』


 私は小学生よりは少しマシというレベルの設計図(笑)を描いて差し出した。


「どの部品も流線型だな。鳥の翼みてえじゃねえかい。またぞろ、よくわかんねえもんを作らせる気だな、旦那」


『そっちのほうがドンダーフもワクワクするでしょ』


「わかってんじゃねえかい!」


 ドンダーフは腕まくりするや意気揚々と取り掛かった。

 そこから、私にできることは何ひとつなかった。

 せいぜい鮮やかな手際にため息をつくくらいのものだ。


 ドンダーフが刃を滑らせると、木材はまるで豆腐であるかのように音もなく切れた。

 そういう魔道具なのかとも思ったが、使っているのはごく普通のカービングナイフだ。


『さすがドワーフ』


「おう、すげえだろい」


 まさしく、すげえの一言に尽きる。

 というわけで、私の想定より30倍ほど早く目当てのものが完成した。


「……で、この十字架みてえなもんはなんだい?」


 ドンダーフが完成品を見て太い眉をひそめる。

 パッと見は、十字架というより木製のトンボだ。

 しかし、胴体部分から伸びた羽にはプロペラが2つ取り付けられている。

 そして、顔の部分にはへのへのもへじが刻まれている。


『これはね、空飛ぶ十字架なんだ』


 もっとも、私のいた世界では別の名で呼ばれている。

 ――飛行機、と。


「アホ抜かせ。オレは今まで腐るほどいろんなもんを作ってきたがな、空飛ぶもんなんぞ出来上がったためしがねえぞい」


『百聞は一見に如かずだね』


 私は飛行機を工房の前の平らなところに置いた。

 進路上の積雪を軽くならしてから、作業台を背にして座禅を組む。


 スキル発動――。

 短いロード時間の後、視点が切り替わった。


『ソレジャ行ッテクルヨ!』


「おうア!? なんじゃこりゃ!? しゃべりよったぞい……。よもや悪魔付きの類か!」


『私ノスキルダッテ。トンカチ振リ回サナイデクレル!?』


 昇降舵と方向舵が動くことを確かめたら、エンジン始動だ。

 エンジンといっても見た目だけなのだが、それでもプロペラは勢いよく回ってくれるのだから私のスキルはいい加減だ。

 機体が雪の上を滑り出す。


『テイクオフ!!』


 雪上を跳ねる感覚が消えて、私は宙に浮かび上がった。

 すぐに屋根の高さを越え、煙突の間を縫って空へ。

 後ろのほうでドンダーフの奇声が聞こえた気がしたが、そんなのどうでもよくなった。


 雪化粧したコウルベールの町が眼下に広がっている。

 晴れ渡った青い空と降り積もった雪のコントラストが目に綾だった。

 鐘楼の横を通り、城壁に沿って町を1周してみる。


『双発機ニシテ正解ダッタナー!』


 速度も出せるし、上昇下降も自由自在だ。


『インメルマン・ターン!!』


 私は青い空にUの字を描いて、工房の方角に機首を向けた。

 トンガリ屋根が作るギザギザのスカイラインを見ながら路地に下りる。

 逆噴射なんてできないので工房に突っ込む形の着陸となったが、まあ、よしとしよう。


「おおおおおおおううううアア!!」


 ドンダーフが私を抱き上げて頬ずりしてくる。

 濃すぎるひげのせいで、モップを顔に押し付けられている気分だ。

 私はさっさと鎧に戻った。


『飛んだでしょ?』


「飛んだ飛んだ! 飛んだぞい! ガッハッハ! 面白いもんを考え出したもんだな! ウハハ!」


 ドンダーフは子供みたいに飛び跳ねている。

 しかし、ふと真顔になった。


「おう、それで旦那。こいつで何するつもりだい? 飛竜に喧嘩でも売ろうってんなら、先端に槍をくっつけてやるが」


『槍はいいよ。遠いところに住む知人に荷物を届けたいだけだから』


 知人とは無論、私の本体のことだ。

 市場で買ったものを飛行機にくくりつけて飛ばすのだ。

 徒歩なら丸1週間かかる距離でも空路なら1日とかかるまい。

 重いものやかさばるものを運べないのが玉に瑕である。


「オレに任せてくれりゃ、人を乗せて飛べるもんを――」


『いやいや、さすがに予算オーバーになっちゃうから』


「金はいらんぞい。わしは面白いもんを作れりゃそれでいいからな」


『それでも、遠慮させてもらうよ。ドンダーフもこのことは忘れてくれ』


 飛行機は戦争の道具になる運命を背負っている。

 やがて、何十万もの命を奪う死の鳥なのだ。

 この世界がもう少し平和になるまで、飛行機は生まれるべきではない。

 ドンダーフも何かを察したらしく、それ以上何も言わなかった。


『それで、いくら払えばいいの?』


「言うたはずだぞい。わしは面白いもんが作れりゃ金はいらん。タダだ、タダ」


『そんなだから貧乏になるんだよ』


「余計なお世話だい」


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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