12 ゴブリンの巣穴3
見飽きた天井が見える。
お腹から下が暖かかった。
自宅に戻ってきたらしい。
ヒトガタを破壊されて、スキルが強制解除されたようだ。
「やっぱ自宅のおこたが一番だなぁ」
さっきまでの激戦が夢だったかのようにのんびりした時間が横たわっている。
ふと隣を見ると、綺麗な寝顔が見えた。
シロが添い寝しているのだ。
私の服の裾をつまんで、安堵の表情で寝息を立てている。
その無防備な顔に落書きしてやろうか、などと考える私は悪魔に違いない。
「……あれ?」
筆を探したがどこにも見当たらなかった。
普段は卓上に置いているのだが。
「あ」
筆、発見。
なぜかシロが握り締めていた。
「やられた」
私は苦笑しながら顔を拭った。
やはりというべきか、手が黒ずんでいる。
やれやれだ。
自分の顔がどんな滑稽な有様になっているのか気になるが、残念なことに鏡などという上等なものは我が家にはない。
後で、ヒトガタを作って確認してみるか。
今はユミエたちの様子のほうが気がかりだ。
私はシロの額に一発デコピンしてから、こたつに潜って目を閉じた。
遠く離れたところにある鎧の存在を探し当て、憑依する。
途端に寒気を覚えた。
真っ白な世界の中に、腹を抱えて笑う3人組の姿が見える。
なんだか嫌な予感だ。
『おーい、戻ったぞ。なにを笑ってんだい?』
「そりゃプフフ、あんたをよ」
ユミエがぶひゅひゅ、と腹立たしい笑い方をしている。
私はこっちにもデコピンを叩き込んでやろうと立ち上がった。
……いや、立ち上がろうとした。
しかし、なぜか体が動かなかった。
何か重いものにまとわりつかれているような感覚がする。
『あー、はいはい……』
雪の上に伸びた自分の影を見て状況を飲み込んだ。
あちこち角張っているはずの私の影はなぜかダルマ型をしていた。
それはつまり、私が今、ダルマ型になっているということだ。
雪をかき集めた痕跡がそこらじゅうに見られることを加味すれば、答えは導き出せる。
『私ってば、雪だるまになってる?』
「ぶひゅふ! タクだるまだわ! きゃはは!」
私は雪から両腕を突き出して、握り固めた雪玉をユミエに投げつけた。
「ぎゃフッ!?」
クリーンヒットだ。
いい気味だ。
『宝物部屋の在り処がわかったよ。意外と浅いところだったから掘り返せるはずだ』
「おお! よくぞ成し遂げてくれました、タクナさん! さっそく行きましょう! どこ掘れワンワンすればいいですか!?」
『あの大きな木の下だ。根を避けて斜めに掘り進むといいと思う』
「おっしゃァ! やったるぜ!」
ランズとグラーシュが腕まくりしながら颯爽と駆けていった。
雪をせっせと掻き出し、凍土に剣を突き立てる。
専用の道具もないというのにモチベーションだけであっという間に2メートルほど掘り下げてしまった。
そして、ランズの槍が最後の一突きとなった。
ボロリと土壁が崩れて、男二人が歓声を上げる。
ユミエと一緒に遅れて穴を下りてみると、そこには、ヒトガタで見たのと同じ光景が広がっていた。
広場の中央に山が見える。
そのほとんどがガラクタだった。
骨で作られた槍。
光る石を飾り付けた木の盾。
カラフルに彩られた獣の頭蓋骨。
そこにまじって、赤や青に輝く鉱石類や金銀銅貨が散らばっている。
「オッハッハ! カネだカネだァ!」
グラーシュは試合に負けた甲子園球児のように硬貨や鉱石類をかき集めている。
一方、ランズはガラクタに目を奪われていた。
「ふおおおおお! すごいです! すごいすごい! ゴブリンたちの祭具がこんなに! お宝ですよ! ほっほー!」
学術的価値というやつか。
なら、そのガラクタはすべて彼にあげるとして、金目のものは私たち3人で山分けするとしよう。
宝物部屋の隅でボスゴブリンの亡骸も見つかった。
苦悶の表情を浮かべたまま息絶えている。
その肩口には吹き矢が刺さったままになっていた。
「ボス個体を倒すなんて、あんた、大手柄じゃないの!」
「何をおっしゃっているのですか、ユミエさん! 最悪ですよ! よりによって毒矢で殺すだなんて!」
骨の冠をかぶったランズが食ってかかった。
「僕、まだボス個体は食べたことがなかったのに」
『マジか、こいつ……』
ボス個体「は」ということは、通常のゴブリンは食べたことがあるということだ。
果たして、どんな味だったのだろう。
気になるが、怖いので訊かないことにする。
思い思いのお宝を手に地上に戻る。
毛皮と合わせて抱えきれないほどの収穫物になったので、急ごしらえのソリを組んで帰路につくことになった。
『ええっと、私の推薦の件なんだけど……どうなった?』
私はドキマギしながら尋ねた。
すると、3人は顔を見合わせてクスクスと笑った。
「そんなの訊くまでもねえだろうがよォ」
「そうですね。満場一致というやつです」
「心して聞きなさい、タクナ」
ユミエが居丈高に胸を反らした。
そして、言う。
「あんたを冒険者ギルドに推薦してあげるわ! あたしたち3人の連名でね!」
『ほんと!?』
私は空っぽのはずの胸が熱くなるのを感じた。
はるばる歩いてきた甲斐があったというものだ。
『私、頑張るよ』
胸の高鳴りを感じながら、私は町を目指すのだった。
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