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RAINTOWN マイア編  作者: きゅきゅ
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11日目(1) ウェンディ

 一晩治療室で点滴を受けながら寝て、起きたら元気になっていた!あーよかった!


 夜勤の看守は鬼畜主任じゃなかったからよかった…!知らない看守だけど、怖い人ではなさそうだ…今日はツイてるぅー!


 しかし朝食は食べさせてもらえなかった。あんなの食べたらまた悪化するとか言われた。はあ?私たち、いつも何食べさせられてんの!?


 牢に戻ってまた皆に心配されたり、憤慨させたりした。皆が風邪引いたら、私は絶対に看守に検査と治療を要求するからね!



◇◇◇◇◇



 ふと向かいの牢を見ると、知らない子がいた。薄緑色のロングヘアーがくるんくるんのぼっさぼさだ。絶対見たことない。


「あれ?あの子だれ?」


「ああ、夜中に入ってきたんだよ。新入り。とうとうマイアも先輩だな!」


「へえ。新入りかぁ」


 ぼーっとうずくまってる。私も入ってきた時、あんな感じに見えたのかなぁ。


 ん!?もうすぐ鍛錬の時間だぞ!?

 この子は、見学させてもらえるんだろうか?もし私みたいに、何の説明もなしに、いきなり放り込まれたら!?


 ちょっと声をかけてみようか。


「ねえ新入りさん!名前何て言うの?」


 …反応がない。大丈夫か?


 同じ牢の、先輩囚人に話してみよう。


「ねぇ、アリアナ!その子と話した?」


 アリアナは、けっこうここに長くいる、しっかり者っぽい人だ。

 アリアナが首を振る。ポニーテールが揺れる。


「ううん。話しかけても反応しないんだよ」


「その子に、鍛錬のこと説明してあげてくれない?私が来た時、見学も説明もなしに、いきなり放り込まれたんだよね」


「ええ、マジ?マイア、災難だったね」


「その子は、そんなことにならないといいけど。もしもの時のために、一応説明してあげてよ」


「わかった」


 アリアナは、その緑っ子に声をかけ始めた。それでも、まだどうも反応がなさそうだ。


「うーん、聞こえてんのかわかんないけど、とりあえず一通り説明してみるわ」



◇◇◇◇◇



 鍛錬の時間が来た。


 今日の戦い方は、どうしようかな。火の格子を改良しようか、ムチを改良しようか。


 戦闘が始まった。


(トゲタロー!どこー?)


『いい加減、師匠と呼べ!師匠と呼ばないなら、そっちへ行かん!!』


 どこか遠くから聞こえた。生意気なやつめ…。


(トゲタロー師匠ー!修行しよう!)


 ブーーーンッ!


 来たよ…。


『いいだろう!バカ弟子め!風邪は治ったんだろうな?』


(治ったけど…重症化してひどい目にあったよ!トゲタローが私の自己治癒力を奪ったせいだからね!)


『ああん?ケケッ、軟弱者ぉ!悔しかったら奪い返してみなぁっ!』


 はぁ…まったく。


(言われなくても、やってやる!)


 私は右手を横に滑らせながら、五本の指から糸を出し、耐火の魔法をかけ、火の魔力でコーティング、火をつけて凝縮した。けっこう速くできるようになったよ。


(くらえっ!炎の五線譜!)


『ごせんふって、何だ?』


(音楽の楽譜だよ)


『ふーん?』


 トゲタローは音楽なんか聞いたことないか。五線譜みたいな炎をトゲタローに向かって放つ。


『おっと!』


 トゲタローは避けた。

 でも私はもう、左手で次の五線譜を作ってある!食らえ!


『うわっ!あぢぢっ!』


 トゲタローが嫌そうに体をぶんぶん振るう。

よしよし、いい感じだ!


(どんどんいくよ!)


 右手、左手、右手、左手…


『うおっ速いな!うぎゃっ!おわっと!』


 トゲタローは避けたりもだえたり。


『ふん!まあまあだな。そろそろ本気出すか!』


(うげっ!)


 スピード上げて突っ込んできた!回避しながら、五線譜を放つ。私は少し傷を負い、トゲタローも少し火傷した。


 お互いに回避して攻撃して、ギリギリのところ。私もいっぱいいっぱいだけど、トゲタローも、攻撃に専念できてないみたいだ。これはなかなかいい戦いになってるかな?


 しばらく戦って疲れてきた頃、突然、悲鳴と共に、誰かが私の足元に投げ飛ばされてきた!

 あの新人の緑っ子だ!


「逃げ回るのは許さん。戦え!」


 看守!あいつがこの子を、投げ飛ばしたんだ!


 えっ、見学なしなの!?悪い予想が当たってしまった!ひどいじゃん!!

 

 私は気を取られて、その隙にトゲタローに噛みつかれた。私も投げ飛ばされる。幸い、骨折はしなかった。


 起き上がって、緑っ子を見る。魔獣に飛びかかられそうになっている。ガタガタ震えながら、手を前に出してるけど、魔法は…?何か魔法を使っているんだろうけど、何も見えない。

 結局噛みつかれて、投げ飛ばされてしまった。私の近くに転がってきた。


「大丈夫!?」


 慌てて助け起こす。肩を噛まれてる。骨折してるかはわからない。なんとか立たせる。


『おいバカ弟子!他人の心配してる場合か!?』


(ちょ、ちょっと待って!)


『待たん!!』


 トゲタローが飛びかかってくる。さっきの魔獣も緑っ子の方へ向かってくる。あーもう!


 二匹まとめてぶっ飛ばす!!…なーんてことできるはずもなく。トゲタローの攻撃は回避!そんでもう一匹に五線譜を食らわす!よし、もがいてる!


「君!魔法は何が使えるの!?」


 緑っ子がガクガク震えながら、虚ろな目を私に向ける。


「か、風…」


 風?風魔法と言えば、竜巻か、空を飛ぶ魔法かな。


「あいつに攻撃してみて!」


 トゲタローを指差す。


(トゲタロー、ちょっとだけお願い!この新入りの攻撃受けてみて!)


『新入り?しょーがねぇなぁ…』


 緑っ子が両手を前に出して、風魔法を使う。


 ふわあっ。


『…………そよ風だな……』


 この子…私よりヤバイ!?


「ね、ねえ、他に何か使える魔法ない!?」


「私、音楽家だったの…。音楽魔法…だけ」


 音楽魔法!?そんなのあるの!?


 緑っ子が、手の平に息を吹きかける。


 ♪〜


 おやっ?素敵な笛の音色が…


『ほぉぉ?これが音楽か!!』


 トゲタロー、生まれて初めて音楽を聞く。よかったね。はからずも、五線譜の炎をお見舞いした日に、音楽を聞けるとはね。


「って、すごいけど、戦いに使えないねぇ!?」


「うん…」


 緑っ子、半泣き。


 こうして会話してる間、私は何度かさっきの魔獣に五線譜の炎を食らわせていた。なんとか食い止められたけど、そろそろヤバイ。


(トゲタロー、今日は修行中止にしてくれない!?)


『はん?まあ、いいけど?音楽のお礼。そんかし、また聞かせろよな!』


 トゲタローは音楽がお気に召したらしい。


(わ、わかった。ありがと!)


 私は緑っ子と共に魔獣と戦うことにした。


「あ、君、名前は!?」


「ウェンディ」


「ウェンディ!私はマイア、よろしくね!」


 魔獣がウェンディに飛びかかってきた。私はウェンディを突き飛ばして転がる。ついでに五線譜を放つ。


「ウェンディ!風魔法でも何でもいいから、使い続けて!魔力を使い果たさないと、ここから出られないの!」


「ええええ!?わ、わかった」


 ウェンディは手を伸ばして風魔法を放った。

すぐに魔獣が来る。


(お前の相手は私だ!!)


 魔獣がギョロッと私を睨みつけた。おっ、通じたか?


「食らえっ」


 五線譜の炎を食らわす。さっきから何度もコイツに食らわせてたから慣れて来たのか、あまりひるまなくなってきた。攻撃してくる。回避して、次の五線譜!


 チラッとウェンディを見ると、ちゃんと風魔法を放ち続けてる。このまま行けば、なんとかなるかもしれない!


 魔獣は私を標的にして、攻撃を続ける。私も時々傷を負うけど、なんとかいけるか…かなり疲れてきてるから、いつまでもつか…!


 あ、ヤバイぞ、そろそろ魔力切れの頃じゃないか!?もし私が先に切れたら、ウェンディは取り残されちゃう!…攻撃を控える!?


 回避に専念する。そうしたら、魔獣の注意がそれて、ウェンディにも攻撃し出した!クソッ!


(お前の相手は私だっ!)


 また魔獣が私を見る。でも攻撃しないと、すぐウェンディにも行っちゃう!私が攻撃し続けるしかないか。


 クラッ。


 や、ヤバイ!魔力切れが近付いてきた!!どうしよう!?魔力消費をなるべく抑えて…


 その時、ウェンディの後ろに、別の魔獣が近づいているのが見えた。ああっ!!


「後ろ!!」


 咄嗟に、思い切りウェンディに飛びついた。魔獣が、私の肩に噛み付いた。ブンッと振り回されて、投げ飛ばされる。


 うぐっ!どっか折れた!でも急いで立ち上がる。ウェンディは!?ヤバイ、二匹の魔獣に囲まれてる!なんてこった!!


 走ろうとして、突然、誰かに腕を掴まれた。


「何っ!?」


 看守だ!


「お前、今あいつを助けたな?」


 うっ!見られてた!


「い、いえ、たまたまです!」


「平気で嘘を吐くとはな」


 看守は、隷属魔術を発動した。


『懲罰』


 う、うそでしょ!?


「うぎゃああああああっ!!」


 久しぶりの懲罰!!体中いったぁぁーーーーいっ!!

 痙攣して、目が開けられない!ウェンディ、ウェンディは!?


 やっと懲罰が終わって、顔を上げたら、ウェンディが魔獣に投げ飛ばされていた。


 ああああっ!クソッ!!この冷血看守!!


 私は即座に立ち上がって走り出した。


 投げ飛ばされたウェンディに、もう一匹の魔獣が飛びかかる。ああっ、このやろっ、だめだ!


(食らえっ!五線譜!)


 その瞬間、私は看守に首根っこを捕まれ、投げ飛ばされた。


「助け合いは禁止だと何度言ったらわかる!このクズ!『懲罰』!!」


 なっ!?これもダメなのぉぉぉ!?

 ぐあああああ!!強度上がってる!!叫び声も出せない!

 懲罰が終わらない!早く終われぇぇっ!


「きゃああーーーっ!!」


 ウェンディの叫び声!?


 ようやく懲罰が終わった!でも痙攣が続いていて目が開かない。何も見えない!ウェンディは…!?


 クソッ!魔獣を挑発するか…!


(こっちだぁぁー!!かかって来い!!)


 グラァッ!


 ああっ!魔獣と会話するのも、魔法だったんだ!!魔力切れ…!!

 

 やっと、目が開いた。身体はピクリとも動かない。


 ウェンディが魔獣に噛み付かれて、投げ飛ばされてる…!もう一匹にまで狙われてる!!私の声は届かなかったのか…!こんな不運ってある!?


 だめだーーーっ!だめだだめだだめだ!


 感情が暴走する。でも、魔力はもうない!魔力暴走なんか起きない!あああああ!私の役立たず!ろくでなし!もう!


 その時、ウェンディの手から、風魔法が放たれた。


 ゴオオオオオッ!!!


 竜巻…!?


 魔獣が、巻き込まれてる…!


「すごい…」


 ウェンディは、パタリと倒れた。魔力切れだ。


 ああ…よかったぁぁ……


 ウェンディは…恐怖で…あんなに…強い魔法…できたのかな…


 私の視界も、暗転した。



 

第20話お読みいただきありがとうございます。ウェンディはたしか、広場で演奏していたらここは演奏禁止だと言われて逮捕されたんだったと思います。知能指数は今のマイアとどっこいどっこいで、ボーッとしがちで忘れっぽいので何度も広場で演奏したのがいけなかったんですね。これからも度々出てくるのでイラスト描こうと思います。

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