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RAINTOWN マイア編  作者: きゅきゅ
18/37

9日目 鬼畜主任

 朝食はちゃんと出た。よかったー…コールの残業代は私の飯代からは差っ引かれなかったみたいだ。


 鍛錬まで、牢でムチの練習をした。火はまとわせていない、ただの紐のムチだけど。

 ムチの動きに慣れないと危ないって、テレサが忠告してくれたんだ。炎のムチを振り回して自分や誰かに当たったら大変だもんね。


 ビシィィィッ!


「ヒュ〜ッ!かーっこいーっ!さまになってんぞー!」


「実戦を見てみたいなぁーっ!」


「えへへー。そうでしょう、そうでしょう」


 なかなかいい気分!


「12回も自分に当ててる」


 グサリ。ええ、その通りです。これで火がついてたら大惨事ですね。


「ムチ初心者には長すぎたかな?もう少し短いのから始めよう…本番は火をつけるんだから」



◇◇◇◇◇



 鍛練の時間が来た。


「囚人番号Mi11948!」


 うおっ!鬼コーチに呼ばれた!!


「はいっ!」


 何か知らんけど、殴られる準備はできてます!


「耐火の魔法の習得の成果を見せてみろ!」


 もう!?あぶなーっ!昨日必死に練習してよかった!!


 私は自分の腕を耐火の魔法で覆って見せた。


 鬼コーチが検分する。


 ドキドキ。焦ってやったから不安。本当はゆっくりやりたかったけど、ゆっくりやったら絶対殴られる。


「ふむ。不合格!」


 結局殴られた!


「だがまあ3日でこれなら、見込みはあるな。精進するように」


 え、なんか、若干褒めてない?殴る必要ありました?


 



 さあ、鍛錬の時間だ。


 最近はあまり憂うつじゃなくなった。色々な戦い方を試すのが楽しみだし、何よりトゲタローと話しながら戦えるからかな。

 トゲタローはほとんど手加減なんかしないから、結局骨折だらけ傷だらけになるんだけどさ。

 恐怖や怒りが減っちゃってるから、成長が遅れてるかなぁ。それはそれで困る。わざとトゲタローをキレさせる?ううーん、迷うなぁ。


 ブザーが鳴る。


「全員、戦闘準備!」


 さあ、うろうろしながらムチを作ろう。


 紐ができて、充分に耐火の魔法をかけたころ、トゲタローを見つけた。


「(トゲタロー!今日という今日は、貸しを返してもらうぞ!!)」


『来たかバカ弟子よ、いつでもかかって来な!』


「(ふっ。その余裕がいつまでもつかな?)」


 私はムチに手を滑らせて、魔力でコーティングした。


「(とくと見よ!炎のムチ!)」


 ボォォッ!


『ほほう!こいつぁおもしれぇ!』


「食らえっ!!」


 ブンブン振り回す。ちゃんと周りに人がいないのは確かめたからね。


 トゲタローは素早いけれど、体が大きいからムチを避けるのは難しい。後退していく。


『くっ!ちょこざいな…近づけん!』


「ふはははは!炎のムチの恐ろしさを思い知るがいい!」


 ビシィィッ!


 炎のムチがトゲタローの頭を打った。


『ん?…大したことねぇじゃん!』


 なぬうぅぅっ!?


『ビビって損した!見かけ倒しめ!反撃だ!』


 飛びかかってきた!

 くそぅ!仕方がない。


「凝縮!!」


 ムチの炎が激しくなり、色が明るくなる。

 ムチ全体を凝縮させるのは難しくて、ちょっと不安定だけど、背に腹は変えられない!何としても勝つんだ!ステータスを取り戻すんだ!!


「うらっ!うらっ!うらぁぁっ!」


 ビシッ!ビシッ!ビシィィッ!


『いっ!ぐわっ!ぎゃっ!』


 おおっ!凝縮すればイケる!!


「返せ!返せ!私のステータスを返せぇぇーっ!!」


『イヤだ!イヤだ!絶対に返さーん!!』


 ガシッッ!!


 んなっ!?トゲタローが炎のムチを前足で掴んだ!!


『あぢぃぃぃっ!!!』


「なななな何やってんだ!!バカかお前ー!?」

 

 トゲタローはムチを離さない!


『むんっ!!』


 私からムチを奪った!!


 ジュゥゥゥッ!!焼ける音がして、トゲタローの前足から煙が出ている。


「トゲタローっ!!大火傷してるぞ!?わかってんの!?」


『肉を切らせて骨を断つ!!』


 トゲタローは、燃えるムチをブンブン振り回し始めた!


「うわわわわっ!こらっ!やめろぉっ!!」


『やめてほしけりゃ火を消せ!!』


 ぬううううっ!!ヤバイ、マジで危ない。

 仕方なく火を消した。


 ブチブチブチッ!!トゲタローはムチを噛みちぎった。


 あーあ…私のムチ…。


 トゲタローの前足はひどい火傷で、ただれてる。


『〈キュア〉!!』


 キラキラッと光って、前足の火傷も、あちこちのムチの焦げ跡も、一瞬でキレイに治った。

 相変わらずズルい奴…。まあ治ってよかったけどさ。


『あーっ熱かった!!!』


 くっそー……。


『カッカッカ!師匠をなめるな!なかなかいい攻撃だったがな!』


「うう…私のステータス…」


『泣きごと言ってるヒマがあったら、かかって来い!バカ弟子!修行再開だ!!』


 そしていつも通りの修行が始まった…。



『おら、隙だらけだぞ!』


『攻撃が遅い!』


『集中しろ!!』



 …なんかトゲタローの師匠っぷりが上がっていた…。




◇◇◇◇◇




「何だこりゃ?」


 …んあ?…何だ…何も見えない…


 誰かが背中を触る。


「い゛だっ」


「火傷?」


 ああ…ここは治療室か…うつ伏せにされてるんだな…。


「ああ〜…ムチの跡です…炎のムチ…」


 戦いに夢中になりすぎて、何度も背中に当たっちゃった。


「はあ?…自分で自分をムチ打ったワケ?」


 …ん?この声…誰だ!?コールじゃない!

 私はゆっくり顔を上げて振り向いた。


 ん誰ぇっ!?

 一言で言えば、ドギツイ〜!!

 まずメイクがケバい。そして髪は黒にショッキングピンクのメッシュでパーマかけてる。極めつけは、胸元開けて、ミニスカ。看守のくせに!

 そしてなんと、タバコを吸っていた。何この人!?治療室でタバコ吸う!?


「い、いえ…魔獣を攻撃してたんですけど…下手だから自分に当たっちゃって…」


「…バカなの?」


「…………はい、そうですね…」


 ザバアアッ!何!?水!?!?


「ひゃああっ!冷たーーいっ!」


「火傷には水がイチバンじゃなーい?」


 ひええっ!?だからって水ぶっかける!?治療室で!?機械とか大丈夫!?


 つかこの水、めっちゃ冷たっ!!氷水みたい!!


「あわわわわ…冷たい…!冷たすぎる…!風邪引くーっ!」


「バカは風邪引かないわよぉー?」


 引くわーーーっ!引いたことあるわぁっ!


 ヤバイ…体がガタガタ震えて…


「死ぬ…死ぬ…凍え死ぬ…!」


「うっさいわ。いっぺん死ねば?バカが治る」


 ひっでぇぇぇ!!何この人何この人!!本当に治癒師!?ねぇ治癒魔術使えるの!?疑わしい!怖くなってきたよ!!私このまま死ぬのかな!?


「おい。こいつの治療しな」


「主任…何をしたんですか」


 …!?…この声は!!


「水浸しじゃないですか…」


 コールだぁぁぁ!!

 今ではコールが救世主に見える…!!

 だばぁぁーと涙が流れた。


「掃除しときな」


 鬼畜看守は去っていった。何なのあれ!?何なのあれぇぇ!?


 コールがため息をつく。何かの魔法を使って、床が一瞬できれいになった。

 いや、床よりも私を先に何とかしてくださいぃぃ…。


 ようやくコールが私の背中を見た。


「…何だこれは?」


 また同じ問答が始まるのですかね…。恥ずかしいので言いたくないのですがね…。

 幸か不幸か、答えようとしたら、私の喉は寒さに震えすぎて、うまく喋れなかった。

 ガタガタガタガタ…。


 コールはまたため息をついて、私にまとわりついた冷たい水を取ってくれた。そして治癒魔術をかけてくれた。

 ああああ…治癒の光…あったかいぃ…。

 めっちゃ泣いた。


「ささささっきの人、ダレ?」


 コールは、それはそれはもう嫌そう〜な顔をした。


「…………主任」

 

 しゅにんって、偉い人か?あいつが?たしかにふんぞり返って偉そうだった。それにコールに偉そうに命令してたんだった。


 ん!?昨日、コールが言ってた、夜勤だったはずの人って、あいつか!?


 …昨日あいつが来なくてよかったぁぁー…。



 その後私がコールにこってりしぼられたのは、言うまでもない。

 しかしあの鬼畜主任の所業の後では、コールの罵りも小鳥のさえずりのごとく感じられた…。


 コールは人型の魔獣だなんて思ってて、ごめんよ…。



◇◇◇◇◇



 クシュン!牢に戻るなり、毛布にくるまって丸まった。まだ寒くて震える。


「マイアちゃん、どうしたの、寒いの?」


「うん…ひどい目に、あっちゃって、さぁ…」


 私はさっきの主任の悪魔的な仕打ちを話した。


 ターシャが愕然とする。


「何その人…そんな人が主任なの…!?」


 シーラがうんざり顔で頷いた。


「あーいたなぁ、そんな奴。ハレンチなイカレポンチ!あいつが治療室の主任なんておかしいよなぁ」


「鬼畜悪魔…地獄に堕ちろ」


 テレサの黒い瞳が復讐の炎に燃えている。看守に復讐するって言ってたけど、鬼畜主任も対象かー。何があったんだろう。


「傷には消毒液をぶっかけ、骨折した腕を蹴る」


 うわぁぁぁ…聞いただけで痛そう…


「あいつ、たまーにふらりと現れて、囚人を適当にいたぶって笑って、帰るんだよ。マジで最低、悪魔!治癒術使ってんの見たことねーし!使えんのか怪しいもんだぜ!」


 やっぱり!何なんだ、あいつ!囚人をいたぶるために存在するのか!?


「しっかしマイア、早々にアイツの洗礼受けるなんて、あんたほんと、ツイてないねぇ」


「…やっぱり私、ツイてないよね…。ほんといつもそう思うよ…。運0なのかな?」


 テレサが首を振る。


「運勢は川の流れのように変わりゆくもの」


 そうなのー?ツイてた時なんかあったかな?


「でもよ、いつも運のいい奴って、いるよなぁー。マイアみたいにとことん運の悪い奴もいるし…何なんだろうなぁー?」


「ほんとだよー…運命の女神様に見放されてる…いや、神様なんていないんだ…はぁ…」


 寒くてガタガタ震える…みじめだなぁ…


「落ち込まないで、マイアちゃん…生きていれば、絶対絶対いいことあるから…。本当だよ、私が約束するよ!」


「ターシャぁぁ…ターシャが私の運命の女神様だよぉぉ…」


 ずびぃ。


「鼻水出てんぞぉ。風邪引いたんじゃねぇ?」


 風邪引いたのかな…あんな仕打ちされたら、絶対風邪引くって思ったけど、本当に?参ったな…。


 ターシャが隣に座ってくっついてくれた。


「こうしたらちょっとはあったまるでしょ?」


 そう言って微笑みかけてくれる。なんて優しい天使なんだろ!


「世話の焼けるガキんちょだなぁ。どっこいしょ」


 シーラも来てくれた!私はガキんちょじゃないけど。シーラとは3つしか離れてないじゃん。


 するとテレサも無言でこっちへ来てそばに座ってくれた。


 みんなやさしい…あ〜あっあたかい…私は、幸せなあたたかさに包まれて、眠りに落ちた。



◇◇◇◇◇



 暑くて暑くて目が覚めた。別にみんなのせいじゃなくて、みんなはもう眠って近くに転がってる。私は異様に熱い…熱があるんだ!


 うわー…風邪引いたんだ…最悪…ほんとにとことんツイてない…。


 ムショじゃ、風邪引いても治療してくれないし薬もくれないんだって。治癒師があんなにいるのに、ケチ!


「コホッコホッ」


 咳が出る。


 どうしよう、このままじゃ皆に伝染(うつ)しちゃうんじゃ…困ったな。


 巡回の看守が通りがかった。


「あの…風邪引いたみたい…。ここにいてもいいの?皆に伝染すのが心配で…」


 看守はしばらく黙って見下ろした後、出ろ、と言って私を連れ出した。


 しばらく歩いて、狭い部屋に入れられた。人一人が寝られる程度の狭さだ。ガチャン、と頑丈な扉が閉められた。


「こ、これは…独房というやつでは…!罰を受けた囚人が入るという…!」


 暗くて狭くて怖い。寂しい。でも、皆に伝染さないようにするには、仕方ないな。


 ああー…だるい…辛い…寝よう。 


第18話お読みいただきありがとうございます。主任の名前はロザリンドだったかな。イラスト描きたいけど需要ないかな…?数少ないセクシー系な容姿ですけどね…。レインタウンの他のストーリーでもちょい出てくる、ちょいお気に入りのキャラです…いや、他のキャラに比べたらお気に入り度5%くらいかな(^.^;)

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