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第五十一話

 “子供の頃、育ての親の魔女に竜が住まう巨大な城があるという話を聞いた。子守歌替わりに聞かされたその話に憧れた俺は、いつか行ってみたい、そう思った。それがこんな形で叶うとは”



 まさか竜の城が心血武装だとは思わなかった。

 薄暗い廊下。天井は見上げても見えない程に高く、廊下も両側の壁が辛うじて見える程の広さ。


 そして目の前を歩く少女からは、異様な雰囲気を感じる。

 オズマやゼマとは違う。どちらかと言えば、魔女に近いかもしれない。しかし彼女は魔女ではない。それは明白だ。シロクマ王国の魔女は別に居るし、俺は直にその魔女と会話もした。


 どこからともなく、獣でも人でもない唸り声が聞こえてくる。

 これが竜の咆哮と奴だろうか。百足はマギスが破壊した筈だが、まだ何かと戦っているのか?


「ねえ、貴方何歳?」


 廊下をぺたぺたと二人して素足で歩く中、目の前の少女が前を向いたまま話しかけてくる。

 俺は一瞬間を起き、実際とは違う年齢を口にする。


「……十九だ」


「若いのね。私はもう何歳か忘れちゃったけど……もう死ねないし」


 死ねない?

 死なないのではなく、死ねない。

 この世界で死ねない物と言えばエレメンツ、そして魔女。

 目の前の少女は魔女ではない。ならばエレメンツ? いや、人間にエレメンツを移植するのはアルストロメリアの専売特許だ。悍ましい人体実験の上で成り立つ悪魔の技術。ミシマ連邦に対抗する為に、アルストロメリアの軍が独自に進めた兵器開発の一環。


「……お前は一体……何なんだ?」


 思わず口をついて、言葉を選ばず言ってしまう。

 だが少女は肩を揺らして笑い、俺の質問に、くるりと体を反転させて振り向きながら


「魔女様に見捨てられたの。私達、いけない事をしたから」


「……いけない事?」


「そう」


 そのまま少女は再び前を向き直すと、ぺたぺたと再び歩き始める。



 そしてどうでもいいが、いや、どうでもは良く無いが、誰か付けてきているな。

 この城の人間なら姿を隠す必要など無いだろうし、明かに部外者か。場慣れはしているが軍関係者ではない、そんな尾行だ。かすかに聞こえる足音と、服の布が擦れる音からして拳銃を持っている。


 このまま小説家の所にくのは得策ではないな。


 俺はそのまま立ち止まり、後ろを振り返った。前を歩いていた少女も、どうしたの? と俺の視線の先を追う。


「……誰? 友達?」


「……いや。誰だ、出て来い」


 暗闇へと言い放つと、黒いマントで体を覆った男が出てきた。城の窓から溢れる月の光の下まで来ると、こちらを鋭い眼光で睨みつけてくる。


 マントで顔は見えない。だが味方ではなさそうだ。


「誰だお前。ここで何してる」


 返答など期待せず、ただ問いかけてみる。

 すると男は顔の部分だけマントを降ろし、月の下へと顔を晒した。

 

 あの顔……どこかで……。


 そうだ、確か軍に居た時、手配書で……


「お前……まさかロギンか? 世界中から指名手配されてるテロリストが、ここに何の用だ」


 男はまさか自分の顔を俺が知っているとは思わなかったのか、一瞬目を見開き驚きの微表情を。

 

「若いのに感心だな。新聞は好きか?」


「人並みには。というかお前と世間話をしている暇はない。ここからさっさと逃げだすなら見逃してやる。失せろ」


「……成程。ただの娘ではなさそうだ」


 その男、ロギンは懐に手を入れると、そこにあるであろう拳銃のセーフティーを外した。

 俺は咄嗟に伏せた瞬間、ロギンは容赦なく発砲。薄暗い、妙な静けさの城へと響く銃声。弾は俺の後ろにいた少女へと命中した。


「お、おい!」


 胸を打たれ、そのまま倒れる少女。夥しい出血。

 こいつ……何故回避しない? ただの人間とは思えなかったが……


「その動き、訓練を受けているな。そんなまっさらな手で、実は殺し屋の類か?」


 俺は今、少女の姿。そして撃たれたのも一応だが少女。

 そんな俺達に向けて容赦なく撃ってきた。流石はテロリストと言うべきか。躊躇いが無いのは、ここから逃げ出す算段も付いているという事か。それともただ無鉄砲なだけか? ここは心血武装の中、いわばこいつにとっては敵地の真っただ中。いや、俺にとってもそうだが。


「お前……」


「この心血武装持ちと話がしたい、案内し……ッ?!」


 ロギンは突然怯えたように後ずさる。

 俺も俺で背後から不気味な気配を感じ、思わず振り向きながら“それ”と距離を取った。

 

 それとは、撃たれ夥しい出血をしたはずの少女。

 何事も無かったかのように立ち上がり、血まみれの自分の手を舐めだした。


「あーあー、お気に入りのパジャマだったのに……」


「お、お前……」


「はぁ……また血が出ちゃった……取り戻さないと……」


 瞬間、背筋が凍った。

 感覚が鋭くなるのも考え物だ。以前の俺なら、ここまで固まる事は無かった筈だ。

 

 今、少女からはオズマ以上の殺気が放たれている。俺は動けない。殺気は俺に向けられている物ではない筈なのに。


「小説家さんから……せっかくもらった血なのに……」


 小説家? まさかこいつ……あいつの血を……


「小説家さんは……人間だから……あんまり飲んじゃダメなのに……」


 一歩、少女は歩み出す。その瞬間、ロギンは数発、少女に向けて発砲。

 だがその瞬間、天井から岩の塊のような竜が現れ、弾丸を受け切った。


「なっ……」


 ロギンの焦る声が聞こえた。

 あぁ、あいつ終わった。心血武装の中で発砲なんぞするから……。


「どいて」


 だが自分を庇った竜を、片手で払いのける少女。岩のような、如何にも重そうな竜は石ころを投げるかのように飛ばされ、俺は思わずその竜に同情しつつ目で追う。そして気付いた時には、目の前に少女の姿は無い。


「っく……」


 呻き声のような物が聞こえた。

 そちらへ目を向けると、少女がロギンの首を掴み床へと叩き伏せていた。とんでもない光景だ。子供としか思えない少女が、大の男を腕一本で制している。


「貴方の血は不味そう……いいや……いらない」


 その時、ロギン口元が動いた。

 あいつ、奥歯に何か仕込んでいる!?


「離れろ!」

 

 思わず叫んだ瞬間……特に何も起きなかった。


 って、おい。思わず自爆の起爆スイッチでも押したのかと思ったが……違うのか?

 自殺用の薬物を仕込んでいたわけでも無さそうだ。一体なんの……


『マリス様……! 城の外にまた機械兵が!』


 耳に届く異質な声。機械兵? 一体なんの……と思った瞬間、俺達が居た廊下へと、突如撃ち込まれる砲撃。壁が吹き飛ばされ、巨大な外壁が俺を押しつぶそうと迫ってくる。すると先程少女を守った岩のような竜が俺を庇うように翼を広げ立ちはだかった。そのまま外壁など何のことは無いと平然と立ち尽くす竜。翼に当たった瓦礫は全て砂と化し、竜の体へと吸収されていく。


 そしてロギンを叩き伏せていた少女は、外壁が頭に当たったのか、床へと大の字で転がっていた。


「お、おい、あっちを守らなくて良かったのか?」


 思わず竜へとそう尋ねる俺。竜は溜息を吐きつつ


『殺しても死なない故……というか、さっきの見てただろ』


 あぁ、お前、石ころみたいに投げ飛ばされてたもんな……苦労してるんだな……。


 そしてロギンの姿は当然のように無くなっていた。代わりにと、壊された瓦礫からはこちらを覗きこむ巨大な起動兵器の姿。無脚型の、メラニスタで劇場船を襲ってきた奴と同型だ。


「ミシマ連邦の……? ムライさん……手広くやりすぎだろ」


 まさかシロクマ王国までビジネスが及んでいたとは。の起動兵器はアクゾーン社の商品。


『あの機械兵は……お前の手の物か?』


 俺を守った筈の竜が、俺を睨みつけてくる。

 機械兵とは起動兵器の事か。俺は違う違うと手をぶんぶん振りながら


「見てろ、証拠を見せてやる、すぐに……」


 と、その次の瞬間、一発の激音と共に撃沈される起動兵器。マギスの心血武装だ。夢幻艦隊の砲撃が、起動兵器を撃ち抜いたのだ。


「いわんこっちゃない……」


 こちらには起動兵器など意にも介さない奴が外で待機している。何百体来ようが怖くはない……筈だ。

 それから数発、夢幻艦隊の物であろう砲撃が続いた。どうやら起動兵器は今の奴だけでは無かったようだ。


『新手が次々と……! だが悉く破壊されていく……あの船は味方なのか?!』


 あの船……マギスの夢幻艦隊の事を言っているのだろう。

 これを利用しない手はない。


「そうだ。俺の仲間だ。俺はお前等の主を助けに来たんだ」


 勿論嘘八百だが。

 というかロギンは何処に行った? くそ、砲撃の音がうるさすぎて奴の気配が探れない。


 すると俺の着ている(着させられた)ワンピースの首根っこを咥えてくる竜。そのまま俺を背へと乗せてくる。


「あ? おい、なんのつもり……」


『主がお前を連れて来いと言っている』


 そのまま岩の塊とは思えない程、軽やかに羽ばたき飛び始める竜。俺は振り落とされないようにと、必死に掴まるが、竜の背にのった事など無い。というかゴツゴツしてて痛え!


「お、おい! アイツはいいのか?! お前等の主じゃないのか?! あの床で大の字になってる奴!」


『構わん! 殺しても死なんと言っただろう!』


 そのまま壊された外壁から飛び出し、一気に城の最上層まで飛び上がる竜。

 

 信じがたい体験だ。

 まさか子供の頃に憧れた生物の背に乗る日が来るとは。

 

 魔女から子守歌替わりに聞かされた昔話。


 かの英雄は、竜の背に乗りやってきた。一本の槍で、敵地を蹂躙する騎士。

 ルデアと呼ばれたその英雄は、魔女の騎士。


「……ははっ……」


 思わず笑みが零れた。

 

 まるで俺が、その英雄になった気がして……そう、憧れたのは竜じゃない。その英雄にだ。


 だから俺も魔女の騎士になろうと、軍に入った。

 魔女を、あなたを守りたい、そう思ってしまったから。






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