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第四十一話

 光とは元来、魔法で生み出す事が難しいと言われている。

 勿論それは御伽噺での話。光など、火を使えば簡単に辺りを照らせるし、わざわざ魔法を使って照らす必要などない、そんな風に主人公が魔法使いを詰る場面がある。


 そこで魔法使いはこう反論する。

 ならば火が無い時、どうするのか、真っ暗な闇の中、何もない時、お前は今と同じ事が言えるのか?


 主人公は想像する。

 暗闇で何も見えない、そして自分は何も持っていない状態を。

 

 直後に魔法使いに謝る主人公。魔法使いはほくそ笑みながら、こう続ける。


 安心しろ、真の闇など存在しない。むしろ、光は闇の中にこそある。闇なくして光は成り立たないのだから。





 ※





 ラスティナの心血武装が発動し、眩い光が放たれる。オズマとアリアは光によって視界を塞がれるが、不思議と小説家とミドはそうでもなかった。むしろもっと光を目の中に入れたい、そんな風に誘惑されつつある。


 その時、ミドと小説家、そして馬車はゆっくりと浮上し始めた。

 一体なんだと思いつつ、小説家は空を仰ぎ見る。するとそこには、先程まで無かった筈の……いや、空にあるはずのない物が浮いていた。それは島、巨大な島が空に浮かんでいる。そして自分達を空に運んでいるのは、一匹の……


「ど、どどどどらんごん?!」


 小説家は幻想の生物を目の当たりし驚嘆の声を。ミドも同じように叫ぶ。当然だ、この世界にもドラゴンなど存在しない。しかし今、それは確かに目の前にいる。


「あらあら、随分な慌てようね。小説家なんだからこのくらい平気でしょ?」


 ミドの肩に座り、同じように空へと運ばれるラスティナ。

 

「んなわけあるか! なんなんだ、これ!」

「これが私とマリスの心血武装、竜の城(ドラゴンキャッスル)よ。名前の通り、竜の城を召喚するものね」


 キャッスルというからには、城が建造されているのだろうか、と想像する小説家。今は島の底部しか見えないが、続々とドラゴンらしき影が今から溢れてくるのが分かる。


「おいおい、滅茶苦茶ドラゴン来てるけど……大丈夫か?」

「まあ、大丈夫よ。ドラゴンの大半は制御できないから、好き勝手に暴れるけど……」

「何が大丈夫なのか分からんのだが?!」

「だから、私のお友達が……とても頼もしいから大丈夫よ」


 すると島から人間らしき影が。ドラゴンだけでは無かったのかと小説家は思うが、そこから飛び降りてきた人間は半人半竜といった姿をしており、青白い鎧に身を包んでいた。


『お呼びか、我が主よ』


 うわ喋ったっ、と小説家とミドは同時に思う。思ったより声は可愛い。


「きてくれてありがとう、とりあえず……あいつら適当に痛めつけて。殺しちゃってもいいけど、何が目的か吐かせてからね」


『御意』


 小説家は思う。魔女から聞いていた心血武装の簡単な説明とは印象が随分違うと。心血武装とは兵器だった筈だ。こんなはっきりと意思疎通が取れる者を兵器と呼んでいいのだろうか。


 次第に光が止む。オズマ達はまともに視界を取り戻した時、目の前にある物に言葉が出ない。その様子を小説家は空から眺めている。


「じゃあここは任せて……私達はお城の中で優雅にお茶でも飲みましょ。もう私の家に行く必要も無いわね。心血武装があるならここが一番安全だもの」

「そ、そうなるのか。まあ、それならそれで全然……」

「あと……なんで小説家さんが心血武装もってたのかを尋問……もとい、拷問しなくちゃね」

「より酷い言葉に切り替えたっ!?」




 ※




 大地へと降り立つ竜の騎士。彼の名はルデア。心血武装として魔女に仕える騎士。

 それを迎え撃つオズマとアリア。オズマは無言で太刀を抜き、ルデアへと切り込む。だがルデアはオズマの打ち込みを持っていた長剣で易々と受け止めた。


 オズマはシズクにフルボッコにされ、ラスティナにまるで汚い物を摘まむかのように打ち込みを止められ、そしてトドメに心血武装たる騎士にも止められた。

 普通の人間ならば自信喪失気味になるだろう。だがこの男は普通ではない。今まで自分の打ち込みをまともに正面から受ける者など皆無だった。たとえ金属の塊たる起動兵器でも、彼の打ち込みは止められない。

 だがどうだ、ここにきてこれほどまでの強者と連続で出会えるとは。


 無意識にオズマは笑みを浮かべる。その笑みに、ルデアは危機感を覚えた。この男はここで殺さねばならない。生かしておいていい相手ではない。ラスティナは適当に痛めつけろ、殺すなら目的を吐かせてから、とは言ったが、そんな余裕を持って戦える相手ではないと悟る。


 ルデアはオズマの太刀を弾き、大きく後へ引く。その瞬間、無数のドラゴンがオズマへと咆哮を浴びせた。その咆哮だけで木々はなぎ倒され、地面にクレーターが出現する程。だがオズマは守られた。鎧の心血武装を纏ったアリアに。


『おやっさん! ドラゴンは私にまかせい!』

「よっしゃ! 一発かますぞ!」


 アリアは心血武装をさらに展開。すると周りの木々を材料とし、次々と鎧の一部へと化していく。そのままみるみる内に巨大化していく鎧。森に降り注ぐ月光が遮られる程に巨大化したその姿は、どんな兵器よりも巨大。マギスの艦隊すら薙ぎ払っていくだろう。


『ほりゃぁぁぁぁ!』


 まるで蚊を落とすかのようにドラゴンを薙ぎ払っていくアリア。オズマはルデアへと突進し、再び打ち込む。しかし今度はルデアの長剣を透かし、上段から中段に瞬時に切り替える。

 オズマの太刀は身の丈よりも長い。およそ二メートルはありそうな太刀。かつては馬ごと切り捨てる為に使われたと言われるそれは、あまりの重量ゆえに扱える者が限られている。

 たとえ扱えたとしても、オズマのように振るうのは不可能に近い。圧倒的な腕力はもとより、絶妙なタイミングで力加減を切り替える事が必要とされていた。太刀の重量を利用し、落下に方向を加える事で振るのだ。決して腕力だけでは無い。


 そんな勢いのついた太刀の打ち込みを弾き返すルデアも只者では無いのは確か。刀の力点をずらす事で、最小限の動きでオズマの太刀を弾き返している。だがオズマも弾かれたとはいえ、次の打ち込みを瞬時に放ってくる。まともな者なら既に切り倒されているだろう。


「んぉ?!」


 その時、オズマが小石に足を取られた。圧倒的に致命的なドジっ子ぶりを見せるオズマ。そのスキをルデアが逃す筈が無い。


「……真面目だな、お前」


 だがそれはオズマの罠だった。足を取られたと見せかけただけで、オズマの重心は狂っては無い。逆にオズマを仕留めようと体重移動するルデアの方にスキが出来る。その瞬間をオズマは逃がさない。


 勢いよくルデアの頭部に振るわれる太刀。その打ち込みをルデアは掠る程度で躱した。あの状態から躱すか、とオズマは小さく溜息を。


 そしてルデアのかぶっていた兜がオズマの打ち込みが掠った程度で割れた。露になるルデアの頭部。金髪のショートヘアーが零れるように晒される。そしてその透き通るような白い肌、白い瞳も。


「ん?! 女の子だったのか!」


「殺すぞ」


 ルデアの殺気がオズマを刺激する。先程よりも殺気が見えるように鋭い。だが制しやすい。オズマは冷静に脇構えで迎え撃つ。しかし一瞬、視界が影で塞がれたと思えば、目の前に落ちてくるドラゴン。アリアが弾き飛ばしたものが落ちてきたのだ。


「っく……アリア! 気を付けろ!」


『そんな余裕ないねん! こっちは! でもごめんやで!』


 そんなアリアは無数のドラゴンに群がられていた。少しずつ鎧を剥がされている。このままでは文字通り丸裸にされてるのも時間の問題だろう。


『しゃあない……魔女様に教わった……最後の手段や!』

「はやっ! 最後の手段使うの早ッ!」


 オズマのツッコミも空しく、アリアは最後の手段を発動させる。それは鎧の強化には違いないが、材料にするものが先程とは違った。木々では無い。アリアは周りの闇、そして月の光を吸収している。


 その鎧の変化に気付いたルデアは、オズマを無視しドラゴンに飛び乗った。そのままアリアの元へと。


「おい! 俺は置いてきぼりか!」


 ルデアは闇と月光を吸収する鎧に見覚えがあった。それは二千年前、猛威を振るったあの巨人。全ての心血武装を悉く薙ぎ払い、神の魔女によって奈落に落されるまで暴れ続けた。


「クエレブレ!」


 ルデアがその名を呼ぶ。闇を切り裂き白き竜が姿を現した。巨大な竜。だがアリアには遠く及ばない。しかしその鋭い殺気は、どのドラゴンよりも凶悪で強烈だった。


『いくでえぇ! 超必殺! 大熊猫拳!』


 必殺技と共に繰り出される、ただの右ストレート。だがその拳は時空を超越していた。周りの空間を巻き込みながら、グチャグチャにしながら放たれる。巻き込まれたドラゴンは皆、異次元に吸い込まれるかのように消えていく。


 ルデアはクエレブレに命じる。言葉でなく剣を掲げて。


「悪魔め。大人しく奈落へ帰れ!」


 瞬間、クエレブレが咆哮する。それと同時に輝きだすルデアの長剣。

 

「吹き飛べ……!」


 強烈な光がルデアの長剣から放たれた。その瞬間、アリアの拳は塵と化し、凄まじい衝撃が夜の森を襲う。そこにいたオズマも立っていられない。


「どんな心血武装だ……」


 オズマは素直な感想を漏らす。これまでの心血武装とは全く違う。艦隊や鬼を呼び出し使役する物ではなく、ドラゴンの住処を呼び出したと思えば、ルデアのような凄まじい騎士が大地へと降り立った。


 オズマは危機感を覚える。空に浮かぶ巨大な島。まさかあの中には、ルデアのような騎士がまだ幾人も居るのではないか、と。もしそうなら絶対絶命……なのだが、オズマは頬を緩ませる。


「こりゃ……俺も鍛え直す必要があるな。この歳で、この俺が弱者か。胸が躍るな」


 ルデアの長剣による攻撃。アリアの鎧はそれで木っ端みじんにされた。空からパンダがオズマの目の前に落ちてくる。


「ふわぁぁぁぁ! ま、まけたー!」

「愚かなり、パンダ。よし、逃げるか」


 そのままオズマとアリアは一目散に背を向け走り出す。上空からその様子を見ていたルデアは、逃がすまいと再び剣へとクエレブレの力を宿らせるが……その時、頭の中に声が響いた。その声は紛れもなく、シロクマ王国の魔女の物。


『もういい、ルデア。そのくらいにしておけ』


「魔女様……しかし……」


『まだシズクの心血武装は使いこなしていない。それだけ分かれば十分だ』


 ルデアは大人しく魔女の言葉に従う。

 長剣を収め、ドラゴン達へと城へ帰るように促す。


『それよりも再会を喜ぼうじゃないか。良く出てきてくれたね』


「私を封印しておいて良く言う……」


 かつて、ラスティナとマリスよりも先代の心血武装の使い手。

 それがルデアだった。だが今は心血武装としてドラゴンキャッスルに留まっている。


 半人半竜の体。それは心血武装を手放した故の呪い。

 魔女の心臓を手にした物は、決して放してはいけない。


 魔女の騎士は、決して魔女を裏切ってはならないのだから。

 もし裏切るような事があれば、その魂は、その体は強制的に……怪物へと変貌する。

 

 それはまるで、神化という現象、そのものだ。





 

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