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第三十八話

 “この世界は歪だ。デジョンシステム、神化、エレメンツ、そして魔女。歪なシステムの上に成り立つ世界。このどれか一つが欠けても、この世界は足元から崩壊するだろう。そしてその日は近い。何故か今、そう思ってしまった”



 爽やかな朝だった。

 ここ、シロクマ王国は世界一美しいと言われる国。広大な森林地帯に囲まれたこの国は、基本森からの恵みで成り立っている。


 しかしこの国は、若干……いや、かなり妙な現象が根付いている。それはこの国の名前にもある通り、この国の男性は皆、成人すると共にシロクマの姿へと神化するのだ。例外は無い。王族も、一般人も分け隔てなく。


「ライカさん、おはよう」


 その時、私に声をかけてくる一匹のシロクマ……いや、一人のシロクマ。

 モフモフの白い毛皮に身を包んだ獣。しかし正真正銘、人間だ。


「おはよう、ミド。回覧板かい?」

「うん。劇団が来るんだって。楽しみだねぇ」


 劇団? もしかして……ヴァレス達か?

 この国で公演するなんて珍しいな。そう思いつつ回覧板を受け取り、詳細を目にする。

 公演する劇はファンタジー系の恋愛物か。騎士と貴族の娘が、周りの反対を押し切って恋をするお話。


 紛れもなく、これは私が書いた話だ。ヴァレスに頼まれ執筆した、若干悲しい物語。


「ミド、この回覧板、私が最後か?」

「そうだよ。ところでライカさん、僕、お腹空いちゃった」

「あぁ、いいよ、おいで。私も朝はまだなんだ」


 ミドは成人しているとはいえ、まだ十七歳だ。

 私が元々居た世界で言えば……まだ少年と言って差支えのない年齢。しかもミドには両親が居ない。彼だけではない。この村の大人達は皆、レジスタンスへと赴いてしまった。


 この村は巨大な森林地帯をそのまま利用した住居。

 大木の洞穴の中に住まう私達は、まるで寄生虫のようで……共存と言えば聞こえはいいが、かつて私が居た世界では考えられない程に……歪で美しい世界だ……。





 ※




  

 “お父様もお母様もどうしてしまったの? 何故、みんなレジスタンスに心を奪われてしまうの? 彼らは魔女様の敵、つまり私達の敵なのに。何故、この国の王家がレジスタンスに加担する事に……。もう耐えられない。私はどうすればいいの?”



 シロクマ王国、その国王の娘である私は、昔から姫様姫様と回りから呼ばれて、何不自由なく過ごしてきた。これからもそうなる、何も心配する事は無い。私はずっと姫様で居られる、そう思っていた。


 でも、お父様もお母様も変わってしまった。何故かレジスタンスの幹部を王宮へと招くようになり、一晩中何か話し込んでいた。それは一度や二度では無く、幾度も。


 私は一度、その会話を盗み聞きした事がある。会話の内容はこの世界の行く末。具体性に欠ける、抽象的な言葉ばかりを並べるレジスタンスの幹部は、ひたすら魔女様を罵倒していた。


 父は当然怒りだす、そう思っていた。なにせこの国は、この世界は魔女様あっての物。


 しかし……父は怒る処か、レジスタンスの言う事に頷いているようだった。

 そんな馬鹿な、父が、魔女様の事を悪く言う奴に頷く筈が無い。これは何かの間違いだ。


 それから私は耳を塞ぎ、何も聞かなかったようにした。毎日を何気なく過ごし、あの時の会話は聞かなかったように。


 でも日に日に心に靄が溜まっていく。

 父は一体何をするつもりなのか。王宮に招くレジスタンスの幹部の数も増えていく。そして当たり前のように、王宮内をレジスタンスの人間が闊歩するようにもなった。私は怖くて部屋から出れず、震えながら頭を抱えていた。何故こうなった? お父様は何を考えている? お母様も、何故父を止めない? この国の騎士は、何故あんな連中を王宮に招き入れて疑問視しないのか。


 もういやだ、ここから逃げたい。

 王宮から逃げたい。当たり前の贅沢なんていらない。こんな窮屈で空気の悪い場所から……逃げ出したい。


 そのチャンスが到来した。

 三日後、この国に劇団がやってくる。その劇団に紛れ込んで、ここを出よう。

 この国を出てしまうのは寂しい気もするけれど、今は……ここに居るのは嫌だ。




 ※




 劇場船、その一番大きな船室に、仮の舞台が作られていた。客席も設けられており、そこにはチョコンと一人の少女が座っている。リサだ。もはや作者に存在自体忘れられていたと思われた少女。膝の上にはネズミのみー子が。


「ちょっと待っててね、今お芝居始めるから」


 そうリサへと囁く女性、リエナ。普段着でも綺麗だと、リサは思わず見惚れてしまう。ポニーテールのような髪型で、如何にも適当にセットした、という感じが出ているが、綺麗な髪は綺麗なままだ。どれだけ雑に纏めても、綺麗に見せてしまう神秘的なまでの髪に、リサは憧れに似た感情を漂わせる。


「楽しみだね、みー子」


 ネズミへと話しかけるリサ。しかしネズミのみー子は蹲り、現在睡眠中。リサはそっと優しくその背中を撫でる。


 すると部屋を照らしていた蝋燭が消され、代わりにと舞台の灯りが付けられた。

 芝居が始まる、リサは期待感で胸を膨らませる。


「あー……コーディリア、えー……私の妻に? ならないーか?」


 しかしその期待感は一瞬で砕かれた。登場してきたのは一人の男。とても劇団員とは思えないセリフと動き。リサは劇というものに対してド素人だが、今舞台にいるのもド素人だと一目で分かった。


「ちっがーう! セリフの前に、あーとか、えーとか付けない! っていうか棒! もうこれでもかっていうくらい棒!」


 その男性を叱りつけるリエナ。男性は真摯にその女性に向き合っているが、どこか諦めたかのように真顔。


「仕方ないだろう。私は劇なんてやったことも……」

「いいから! もっと感情を込めて! あんたは今、私に一目惚れした男! それで口説いてるシーンなの!」

「一目惚れした女性にいきなり妻になれとか……何て男だ」

「うっさい! この演目は一時間なの! その間にコーディリアに告って死に目まで見なきゃいけないんだから……余裕かましてるヒマはないのよ!」


 自分は一体何を見せられているのだ、とリサは半分呆れ顔。

 それに気づいたリエナは、その男、マギスへとリサの表情を見せつける。


「ほら、見なさい。あんたが不甲斐ないから、客席が呆れてるわ」

「失礼した……。彼女も劇団員か?」

「そうよ。ほら、あの子が満足するまで練習終わらないから」


 それは永遠に終わらないのでは? とリサは首を傾げる。

 するとその時、客席へと一匹のワンコが。マルチーズ・ウェストンだ。


「やれやれ、我が息子ながら情けない。幾多の戦場を駆け巡っても、芝居の一つも出来ないとは」


 リサはそのワンコを抱っこし、ミー子を懐へと入れ代わりにと膝へと乗せる。


「ウェストンさんの息子さん……だっけ。なんでいきなりお芝居……?」

「まあ、成り行きという奴だ。それより体に異常は無いか? 何かあればいつでも言うのだぞ」

「大丈夫。っていうか今は私よりも……」


 リサは舞台へと目を向ける。相変わらずマギスは棒読みで、まだ人形でも置いておいた方がマシなレベル。リエナの説教はヒートアップし続け、マギスはだんだんと表情が暗くなっていくのが分かった。


「ウェストンさん、これからシロクマ王国……っていう所に行くんだよね。どういう国?」


 リサは暇つぶし? にとウェストンへと話を振る。

 ウェストンも今の舞台は見るに耐えないと、リサと対話を。


「シロクマ王国か。レジスタンスという組織については、大体想像は付くだろう? その組織と唯一対話を試み、中立の国として成り立っている国だ」

「レジスタンス……まあ、なんとなくは分かるけど……。その国にも魔女? は居るんだよね。なんで仲良くしようって思ったんだろう」

「仲良くしたかったわけでは無いかもしれんがな。御しやすいように膝元に置いているだけかもしれん。事実、シロクマ王国が中立を謳い始めてからはレジスタンスの活動も大人しくなった。まあ、一部だけの話かもしれないが」



 劇場船がシロクマ王国到着まであと三日。


 世界が大きく動く大事件までの、カウントダウンが始まった。


 

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