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第三十二話

 黒蛇は突如現れた男、ムライと共に地下から脱出する。地上へと出た三人は、とりあえずと物陰に潜んだ。すると幾人かの軍人が地下へと。それを見送りつつ、ムライの合図で廊下を駆け抜ける三人。


「ムライさん、だったか。装備は何を持ってる」

「9mm二丁に爆薬を少々、マガジンはあと二つです」

「よくそれで軍施設に潜入したな。もう一つはサイレンサー付きか?」

「いえ、どうぞ」


 ムライは黒蛇へとスペアのハンドガンを。黒蛇は弾を確認しつつ、スライドを引く。

 黒蛇の手はまっさらだった。拳銃より鉛筆を持って絵を描いている方がよほど自然だと思われる、そんな少女の姿に変貌している。だがそのギャップが、ムライにとてつもない違和感と共に、この少女が黒蛇なのだという信憑性も増してくる。まさかこんなタイミングで神化という現象が発生するとは。


「ミコト、離れるなよ」

「分かってるにゃ……というかクロ、私より背ちっさいにゃ、可愛いにゃ!」

「静かにしろ! ムライさん、車は何処だ」


 二人の微笑ましい寸劇に、ムライは微笑みつつ……いや、常に笑っているが、その笑顔は呆れているようにも見える。


「この先の倉庫の影に隠してあります。急ぎましょう、この混乱は利用できます」

「そうだな。じゃあ……」


 三人は時折物陰に身を隠しつつ、警報の鳴り響く軍施設を駆け抜ける。

 そして目的の車が隠してある、という場所を視認したムライは先行し、物陰に隠れながら手信号で黒蛇に合図を。

 だがその時、黒蛇の軍人としての勘、とでも言うべきか、それとも殺気というべきか、その暗闇に潜む影に気が付く。


「待てムライさん! 身を隠せ!」


 瞬間、物陰からアサルトライフルが掃射される。ムライは黒蛇の一言で咄嗟に身を隠した。そしてその表情からは笑顔が取れ、鋭い目が影へと注がれる。


 ニア東国の軍人ではない、そう確信するムライ。完全にこちらの存在を補足し、掃射してきた。ニア東国の軍人ならば同士討ちを避ける為、確認出来るまでは発砲などしまい。それに逃げたとされる人間は黒蛇なのだ。魔女の指令で捕まえた人間を、そう簡単に殺せるわけがない。だが今の掃射は間違いなく殺しに来ていた。


「黒蛇さん、第三者のようですね」

「そのようだな。援護する、車をここに付けてくれ」

「了解です」


 黒蛇は物陰へと発砲。相手は見えないが問題ない。威嚇できればそれでいい。その瞬間、駆け出すムライ。そのまま車が隠してある場所へと転がり込む。


「細工してありませんように……」


 そう心の中で懇願するムライ。先程自分達を完全に捕捉して撃ってきたのだ。ならば脱出用の足があるのだと思うのが普通だろう。ムライは最新の注意を払いながら、しかし迅速に点検する。車に爆弾の類が仕掛けられている形跡はない。


 ムライはそのまま運転席へと乗り込み、エンジンを。その瞬間が一番怖かった。エンジンをかけた瞬間、爆発するのではないか、しかしそこまで調べている時間は無い。ムライはいつもこんな危険な賭けに自分を晒していた。そのスリルを楽しむかのように。


 そして無事にエンジンはかかり、ムライはその車、戦闘バギーを急発進。デジョンシステムを搭載していない、旧式の型だがそれだけに頑丈だ。なによりハッキングされる心配がない。


「黒蛇さん!」


 ムライはアサルトライフルの掃射から黒蛇を守るように、戦闘バギーを付ける。そのドア部分は防弾。だがほんの一部分だけだ。あまり装甲を搭載しては、加速が悪い為。


 黒蛇はムライの付けてきたバギーへとミコトを乗り込ませつつ、自分も後部座席へと。そのままミコトの頭を抑えつつ、影に潜む第三者へと銃弾を撃ち込む。


「出せ!」

「はい!」


 ムライは再び急発進。そのバギーを補足したニア東国の軍人達は、タイヤ部分を狙い射撃してくる。だがムライは蛇行しつつ駆け抜け、一気に国境警備隊の敷地内から抜けて見せた。

 その手慣れた、場慣れした対応に黒蛇はムライを称賛する。


「なかなかやるな。アクゾーン社の御曹司が。元々軍に居たのか?」

「あぁ、やはり私の素性は知っていましたか。えぇ、元々は軍に所属していました。何せ……鬼子ですからね。いわゆる妾腹ですよ。本家の長男が俘虜の事故で亡くなりましてね。私が今のポストに就く事に……」

「俘虜の事故……ね。あんたを信頼できる日は無いと思うが、とりあえずは礼を言っとく」

「いえいえ、お察しの通り、私にも私の目的があります。全てをお話する事は出来ませんが」


 ムライはそのまま、見晴らしのいい道へと。周りは荒野が広がっているが、道はちゃんと舗装してある。道路標識には、先程の国境警備隊へと誘う案内板が。


「ところで、何処に向かうんだ?」

「とりあえずは海へ。そこから知り合いの船でこの国から脱出します。高速船ですので、アルストロメリアへは三日もあれば到着するでしょう」

「大丈夫か? ニア東国周辺の海は海賊が……」

「大丈夫ですよ、その知り合いがレジスタンスの端くれですから。海賊なんて目じゃありません。何せアクゾーン社はレジスタンスにも武器供給してますからね」

「おいおい、サラっととんでもない事言うな。魔女のお抱え企業が敵を支援してるのか?」

「ビジネスチャンスは逃さないのが企業方針でして。それより……追手が来ませんね」


 黒蛇は後方を確認する。確かに追手の気配はない。あれだけ警報を鳴り響かせていたというのに。いくら平和ボケした軍施設とはいえ、あの状況では起動兵器の一つや二つの追手がかかってもおかしくないと思っていた黒蛇は、違和感を覚える。


「あの第三者か。まさか……」

「心当たりが?」

「いや……まあ、追手がかからないのは不気味だが無いに越したことは無い、このまま……」


「……来たにゃ!」


 その時、ミコトが反応する。ミコトの優れた聴覚が、追手の存在を確認した。


「バイクにゃ! 追いかけて来るにゃ!」

「バイク? ヘッドライトも見えないぞ」

「何か……嫌な予感がするのですが……」


 ムライがそう零した瞬間だった。黒蛇は脳裏に見覚えのある殺気を感じる。咄嗟にミコトの頭を押さえ、自身もシートの影に。その時、バギーを襲う凶弾。先程のアサルトライフルとは異なる銃声を響かせながら、バギーの装甲が削り取られていく。


「な、なんにゃ、なんにゃ?!」

「ひぇぇぇぇ!」

「落ち着けお前等! ムライさん! この車に装備は?!」

「無反動砲と機関銃……それとグレネードが! そのシートの下です!」


 黒蛇は後部シートを剥がし、手慣れた手つきで機関銃へと弾を装填する。

 そしてコッキングをした瞬間、再び掃射が。


「野郎……! 暗視スコープ?! バイク乗りながら? ……んなアホな」

「ま、まさか……神化した人間では?!」


 それこそあり得ない、と黒蛇は思う。なにせニア東国は魔女からして神化した人間を嫌っているのだ。そんな人間が軍人になどなれる筈が無い。いや、待て、軍人? と、その時黒蛇の脳裏に嫌な予感が。


「まさか……いや、やつらがこの国に居る筈が……」

「ど、どうしました?!」

「いいから飛ばせ! っていうかなんでグレネードなんて積んでるんだ! 着弾したら月まで吹っ飛ぶぞ!」

 

 黒蛇は四つのグレネードの安全ピンを外し、一気に投擲する。ほどなくして後方が吹き飛んだ。しかしバイクはその爆炎の中を何事も無かったかのように走り抜けてくる。

 そして黒蛇はバイクを視認する。ロングフォークの、サスペンションを延長したアメリカンバイク。この小説でアメリカンという単語を使用するのはどうかと思うが、そこは察してほしい。


「追手は一人……ミコト! 頭を上げるなよ!」


 黒蛇は女性の体になっても、筋力は落ちていない。いや、むしろ前の体よりも自由が利く。この現象が神化かどうかは分からないが、今は好都合だと機関銃を構え掃射する。


 道に設置された街頭、それに時折照らされるバイク。ドライバーはマントを羽織り、片手でアサルトライフルを構え撃ち返してくる。その時点で黒蛇は確信する。相手は確実に神化した人間、そして明らかに軍関係者。神化した人間で軍関係という時点で、嫌な思い出が脳裏を駆け巡る。


「どうなってんだ……なんで奴等が……!」

「黒蛇さん! 掴まってください!」


 ムライは舗装された道から外れ、小高い坂を急加速。そのまま飛び上がり、その先の急カーブをショートカットしてみせた。あのタイプのバイクでは同じ芸当は出来まい、そうムライも黒蛇も思った。だが


「……! 何ぃ!」


 そのバイクにはブースターが装備されていた。距離を離したと思ったが、一気に距離を詰めてくる。まるでロケットのように発射されたバイク。月の光に照らされるそのドライバーを黒蛇は確かに確認した。


「……ゼマ?!」


 居る筈がない、この国に居る筈が無いと思い、居て欲しくないとも心の底から願った相手。それが今、自分達を追ってくる。敵に回せば最悪だと思った相手が、今、そこに居る。


 バイクのドライバーは、かつて黒蛇に深手を負わせた張本人、瀆聖部隊員の中で最も若く、最も留意すべき相手。爬虫類のように神化した若き兵士、ゼマだった。


 巧なドライブテクニックを見せつつ、正確無比な射撃。それには一切の容赦など見せず、任務遂行を何よりも重視する。それがゼマに対する黒蛇の印象。事実、それはその通りだった。ゼマは今、一切の容赦など皆無。黒蛇達を敵として補足し、追ってくる。


「お、お知り合いですか?!」

「むしろあんたの方が詳しいだろ! 瀆聖部隊だ! まさか……あんたが連れてきたのか?!」

「そんなわけないですよ! っていうか全力でこっち狙われてるじゃないですか!」


 それもそうだと思いつつ、黒蛇はすでに後方十メートル程に迫っているゼマへと、身を隠しながら怒鳴りつけるように対話を試みる。もしかしたら誰かと勘違いしているかもしれない、そう、砂粒程度の希望を込めて。


「ゼマ! 俺だ! 黒蛇だ! 一体何のつもりだ!」


 走る車とバイク。いくら声を荒げた所で、聞こえる筈が無い。だが相手は神化した人間。その聴覚は常人離れしている。ならば十分に聞こえる筈だ。


 だがゼマは無情にも再びバギーへと凶弾を。それはまるでお前を殺しにきた、という意思表示であるかのように。


「くそっ! 上等だこの野郎! 吹き飛べ!」


 黒蛇は無反動砲を担ぎ、走行する車からゼマ目掛けて発射。それはゼマのバイクを吹き飛ばし、ゼマ本人は咄嗟に飛び上がり避けていた。


「ムライさん! 飛ばせ! 一気に駆け抜けろ!」

「りょ、了解ですぅ!」


 そのまま走り去るバギー。ゼマは無反動砲を避け飛び上がった空中から、静かに大地へと着地。そして携帯していた無線を使用する。


「……黒蛇と名乗る女を確認。ドライバーは確認できず。他に一名女の存在も確認」

『はいよー、こちらアリアー、港に劇団船は確認できずー』

『こちらバルワー、国境警備隊は潰した。なんか変な奴等も居たが……アルストロメリアの特殊部隊と思われる』


 そして、その男の声が無線に響き渡る。


『ゼマ、その女を引き続き追え。手段は問わん、黒蛇を見つけ出せ。他の連中はニア東国の軍施設を潰して回るぞ。心血武装を誘き出して……奪え』




 

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