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大阪を歩く犬  作者: ぽちでわん
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初めの散歩

おかあさんに連れられてきて、「自分の家」に住むようになってしばらくして、おかあさんはわたしを近くの公園に連れて行った。

新しい首輪と新しいリード。

首輪にはわたしの新しい住所と新しい名前。

けれどそんなものは必要じゃなかった。

おかあさんはわたしを地面におろそうとしたけれど、わたしはおかあさんの腕にしがみついて拒否した。

下におろされる、なんて、どうよ。

しらないところ、しらない世界、車や人がどんどん通るのと地続きの、しらない道。

木、猫、人間の子、車、自転車、音、声、風、いろいろ置かれた物体、そんな得体のしれないものが我が物顔でいる世界。


どっちにしても、小さいうちに何度か受けなきゃいけない予防注射をまだ全部すませていなかったから、おかあさんはマニュアル本にあった通り、ちょっとだけ外の世界に慣らすために外に連れ出しただけだった。

マニュアル本には「予防注射を済ませていない間は、あまり外に行かないように」とあって、おかあさんは震えているわたしをだいたまま公園に行き、そのままおうちにUターン。

「少しずつ慣れていこうね」


それから何日かすると下におろされて、わたしは歩きはしなかったけれど、匂いをクンクンかいだ。

いろんな匂いがして、もっといろいろかいでみたい感じもした。

けれどまだ慣れていってないんだもん。おかあさんを見上げて、歩くのを拒否した。


そのうちリードをひかれて、一歩、足を踏み出した。

公園の土は思ったほどいやじゃなかった。

匂いを嗅いでいると、緊張感が薄れていった。ああ、べつに、進んでいっても音が飛んでくるとか、木が襲ってくるとかはないんだな。


そのうち小さな公園の中を自分で歩くようになった。

もう外を歩くって思っただけで震えたりしなくなった。

ちょっと楽しみになってきたくらい。

玄関を出たところで下ろされても、自分から公園に向かって歩くようになった。


公園で知らない犬に会った。

わんわん吠えられた。こわかった。わたしよりずいぶんお姉さんだったし。

猫はじいっとこっちを見ていた。こわかった。わたしよりずいぶん大きかったし。

そんなときは飛んでおうちに帰りながらも、世の中の地図が少しずつ分かるようになっていった。

動かないものと動くものがあることが分かってきて、動かないものの匂いが分かるようになった。普段は動かないものでも風が強いと動くタイプのものもあって、今でもぎょっとさせられるんだけれど。

人にはやさしいタイプとあらあらしいタイプがいる。犬もそう。

わんわん言うタイプは苦手。人の大きい声も苦手。

わたしの好きなものと嫌いなものが世界にはある。

そういうことが分かっていった。


気がつけば、わたしの「幼い時に受けるべき予防注射」は受けないまま終わった。

2回はサロンで受けているし、もういいか、とおかあさん。

おかあさんも、犬と暮らすってことに慣れてきていた。

マニュアル通りに犬を飼うのはやめた。

健康には留意しつつ一緒に暮らす、それでいいかあ、って。


「犬を主人にしてしまってはいけない」とか、おかあさんはマニュアル本で読んだそんなことを気にしていたけれど、わたしはおかあさんを大好きな、おかあさんを喜ばせたい、おかさんをいつも見ていたい、ふつうの犬だ。

そんな犬を相手に気負わなくっていいっておかあさんも分かっていったんだな。

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