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髪結師は竜の番になりました(やっぱり間違いだったようです)  作者: 三国司


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13 小さな事件

 お茶会の日、私は午後になってからパトリシア様の髪を整え始めた。朝にもちゃんと結ったけれど、それを解いて整え直す。


「お茶会って、どれくらいの方が来られるんでしょう?」

「そんな大規模なものじゃないわ。王妃様と、王妃様の侍女が三人、それに私。それだけよ」


 頷いて、髪を梳かしていく。


「髪を全部下ろすとボリュームが出過ぎてしまうので、上半分を一つに縛って下半分を下ろしたハーフアップにしますね」


 バクスワルド風なのであまり凝ったアレンジはせず、シンプルなハーフアップを作ると、パトリシア様は鏡の前で不満そうな顔をした。


「半分縛ったって駄目よ。これじゃ寝起きの髪みたい。今日は室内じゃなくて外でお茶をするみたいだし、少し風が吹けばボサボサになるわ」

「大丈夫です。これから髪を巻いていきますから」

 

 そう言って、私は金属でできた髪用のアイロンを取り出した。私が持っているアイロンには三つ種類があって、一つは髪を真っ直ぐに伸ばすもの、一つは上品なウェーブを作るもの、そしてもう一つは巻き髪を作るものだ。

 今日はこの巻き髪を作れるアイロンを使うべく、すでに暖炉では薪を三本ほど燃やしてもらっている。ごうごうと燃やしているわけではないけれど、今は夏なので暑い。


 この火でアイロンを熱して使うのだが、熱し過ぎると髪がチリチリになったりしてしまうので、火に当てている時間も重要だ。

 熱し過ぎた場合は、一旦濡れタオルに押し付けて温度を下げて使ったりもする。


 巻き髪アイロンは二本あるので、私が一本目を使ってパトリシア様の髪を巻いている間に、キリアンに二本目を熱していてもらう。

 アイロンの熱はわりと早く冷めてしまうので、一度熱しただけでは髪全体に強いカールをつけるまで持たないのだ。


 アイロンの温度は百度以上あり、パトリシア様の耳や首筋、地肌に当たれば火傷をさせてしまうため、アイロンを使う時はかなり気を遣う。

 それに使用人のレベッカさんたちが扇で風を送ってくれているからかパトリシア様はそれほど暑がっていないけど、私は暑い。


 軽く汗をかきながら、ハーフアップにして縛った上半分の髪も、下ろしたままの下半分の髪も、縦ロールに近い感じになるようしっかりと巻いていく。

 そして最後に軽く整髪料をつけ、おまじない代わりに私の魔力を込めてさらに艶を出す。


 すると髪を固めなくても綺麗にまとまり、華やかな雰囲気も出た。

 パトリシア様の元々のくせもふんわりとしたカールで可愛いけれど、広がらないようにがっつり巻く必要があった。

 くせ毛の髪のいいところは、一度巻けばちゃんとくせづいてくれ、ちょっとやそっとじゃ元には戻らないところだ。


 ストレートアイロンで真っ直ぐにした方がバクスワルド風にはなるのかもしれないが、パトリシア様の髪を伸ばそうとしても竜人女性のような綺麗な真っ直ぐの髪にはならないし、中途半端になってしまう。

 それに真っ直ぐな髪よりこちらの方がパトリシア様に似合っていると思うし。


「素敵! 豪華で華があって、私が言うのは変だけど、まるでお姫様みたいよ」

 

 パトリシア様は嬉しそうに顔の角度を変えて、鏡の中の可愛らしい自分を何度も確認した。喜んでもらえて嬉しい。


「本当にお姫様ですね」

「こういう巻き髪もいいですね。やってみたい」


 レベッカさんとモナさんが順番に言い、サリさんもちょっと羨ましそうにパトリシア様の髪を見ている。

 

「あとは髪飾りをつけて終わりです」


 私はそう言ってテーブルに目を向けるが、そこに髪飾りが入っている箱がなかったので、キリアンに尋ねる。


「キリアン、髪飾りの入っている箱はどこにあるの?」


 三つある箱はキリアンが持っているのだ。見習いとして雑用をしますよと、髪飾りについた細かな汚れや指紋を綺麗に拭くと言ってくれたので、昨日から彼に預けていた。お茶会の前にパトリシア様の髪を整えるから、その時には持ってきてと言っておいたのに。


「キリアン?」


 私が見ると、キリアンは視線を泳がせて下を向いた。そういえば今日は朝から挙動不審で様子がおかしかった。

 

「どうしたの? 何かあった? 困り事なら――」

「メイナさん、すみません!」


 私の言葉の途中で、キリアンはいきなり頭を下げる。私もパトリシア様たちもびっくりして目を丸くする。

 キリアンは眉をしゅんと下げて説明を始めた。


「実は、今朝起きたら机の上に置いておいたはずの髪飾りの入った箱が三つともなくなっていて……」

「なくなっていたと言ったって、箱が勝手に消える訳ないでしょう」


 厳しい口調でそう言ったのはレベッカさんだ。


「あなたの部屋でなくなったのなら、行方を知っているのはあなただけよ」

「自分でどこかへやったならさすがに忘れませんよ」

「じゃあ誰が箱を移動させたと言うの?」

「……昨晩、お風呂へ行った時に、部屋に鍵をかけ忘れたみたいなんです。だからその時に誰かに盗られたに違いありません。お風呂から帰ったらすぐに寝てしまったので、箱がなくなっているのに気づいたのは今朝でしたが」


 キリアンはレベッカさんに詰問されて小さくなっている。

 私は彼の肩に手を添えて言う。


「今朝気づいたなら、その時にすぐ言ってくれればよかったのに……。でも一体誰が髪飾りを盗んだのかしら」

「もう! キリアンったら。あの中には私の私物もあるのに」


 パトリシア様はぷくっと頬を膨らませた。そう、三つある箱の中の二つには私が買い集めた髪飾りが、そして残りの一つにはパトリシア様の私物の髪飾りが入っている。

 私の買い集めた髪飾りもどれも気に入って買ったものばかりだし、世界に二つと同じものがない珍しいものもあるので盗まれたのはショックだが、パトリシア様の私物は高級品が多いのでそれを全て盗られたとあっては私の立つ瀬がない。


「申し訳ありません、パトリシア様」

「……できれば犯人を見つけて髪飾りを取り戻してね。城の中にそういう事をする人がいるなら問題だし、女官長やダリオ殿下たちにも相談して」

「はい、必ず見つけます」


 私は頭を下げた。パトリシア様は私や使用人がミスをした時、「もう!」と一度は怒るものの、そのまま感情的に責めたりはしない。時には今のように冷静に助言をくれたりして、私はパトリシア様のそういうところも尊敬している。

 パトリシア様は困ったように続ける。


「でもこの後のお茶会はどうしようかしら? せっかく王妃様に招待されてるのに、髪飾り無しじゃ駄目よ。犯人はただ高そうな髪飾りだったから盗んだのかと思ったけど、私に恥をかかせるために盗んだという可能性もあるのかしら?」

「……犯人の目的は分かりませんが、今日のお茶会の事は心配なさらないでください。ちゃんとした髪飾りがなくても、他に代用できるものはいくらでもあるんです」


 そう言って、私はレベッカさんたちが管理している宝飾品の入った箱を開けてもらった。


「例えば、こういった細いチェーンに宝石が等間隔についたような長めの首飾り、あとは真珠の首飾りもいいですね。そういったものをこんなふうに頭に巻きつけるように飾ると……」

「あら、いいわね」

「天使か妖精のようです」


 パトリシア様に続いてモナさんが言う。けれど私は一旦髪につけた首飾りを取った。


「それにブローチももちろん使えます。けれど今日の髪型には生花を使おうと思います」

「でも夏の終わりの今の季節、咲いている花は限られていますよ」


 そう言ったのはレベッカさんだ。彼女は私が花人だとは知らないから。

 私は笑って花を生み出し、葉と花粉を取って茎を切り、パトリシア様の髪にさしていく。淡いピンクや黄色、水色や白といった色とりどりの花を。

 

「あなた、魔法使いだったの?」

「いいえ、ただの花人です。花を生み出すのは、花人なら誰でもできると思います」

「花人……。そうだったの」


 レベッカさんたちが驚いている一方、私が花人だと知っていたパトリシア様は目をつぶって花の香りに酔いしれていた。


「本物のお花を髪飾りにすると、香りも楽しめるわね」


 これでお茶会は大丈夫そうだけど、盗られた髪飾りはどうやって取り返そうか。


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