第1話 首長
江戸時代の中頃。ひさしぶりに木田源信は父の義行が住む神田の家を訪ねると、見知らぬ女、蜜がいた。源信の母は三年前に死に父は独り身になっていた。それ故に新たに妻を迎えてもおかしくはない。しかし、死んだ母に愛され、母とのいい思い出しかない源信には、母でない女が家にいるだけで面白くなかった。
その夜は寒く。子の時に眼ざめ、尿意を催した源信は厠に立った。縁側の廊下を通り庭の方を見ると、月明かりに飛んでいる頭が見えた。飛んでいる頭は明らかに蜜のものだった。やがて、その頭は開いている障子戸から蜜の部屋に飛び込んでいった。
次の日、源信は父が目覚めたのを知るとすぐに父の部屋を訪ねた。
「父上はたぶらかされておられる。あの女は人ではございませんぞ」
「何か、証拠があるのかな」
「いや、そんなものはない」
「そもそも首が飛んで悪いのか?」
父は驚きもしない。
次の日、源信は木田家が檀家となっている寺の和尚、弘伯を訪ねた。
「ほほう、夜の庭を首が飛んでいたのでござるか」
「さようでござる」
「ろくろ首、または首長とも呼ばれる者たちがいると聞いたことがある」
「朝になったら、元に戻ってしまう。いかがいたせば、いいのだろうか?」
「そうでござるな。ろくろ首であれば、体から間違いなく首がはなれている。そのときに首が体に戻れないようにしておけば、朝になると首が取れたままになって、正体を現す。つまり死んでしまうそうじゃ」
「具体的にはどうすればよいのだろう?」
「前に聞いた話じゃが、首のない体に木箱を被せた者がおったようだが、掛布団をかけておいても同じことが起ころう」
源信は大きく頷いていた。
数日後、子の刻に源信は起きていって庭を見ると、首が空を舞っていた。蜜の部屋にいくと戸が開いている。月明かりを頼りに敷かれている掛け布団をめくった。そこに横たわっている体には頭はなかった。源信は僧侶に言われたように、体の上、本来ならば首のある部分まであげて掛布団をかけた。
夜空がしらじらと開けだした時に、源信は眠りに入っていった。蜜のことが気になりだしたせいか、夢の中で笑っている蜜が何度も出てきていた。
その朝、源信は父の大声で眼がさめた。源信は寝衣のままで父の声のするところに行った。父がいたのは、蜜の部屋であった。すぐに源信は蜜の掛布団の方を見た。蜜の頭は掛布団の前に毬のように転がっていた。
「馬鹿なことしたものだ」
そういって、父は源信を見つめた。
「父上、何が馬鹿なことですか。ごらんくだされ、蜜の正体を。魔にたぶらされている父上こそ、馬鹿者です」
父、義行の片眉があがった。
「蜜はお前の母じゃぞ」
「えっ」
「夜になると、お前の頭も部屋の中で舞っている。知らなんだかな」
そう言った父は頭を蜜の体に添えてつけると抱き上げて、部屋から出ていった。




