【11】恋にハプニングを。 〜シャンパンタワー計画始動〜
その夜――
ルチアーノがゆったりとしたバスタイムを終え、シルクのパジャマに着替え、愛飲している富士山のミネラルウォーターを飲んでいると、コンコンと軽やかなノックの音がした。
「は〜い♪」と上機嫌で扉を開けると――
妖精王が笑顔で立っていた。
「チョリース☆
少しおハナシ出来るぅ〜!?」
ルチアーノが花冠のお礼にと部屋に入れてやると、妖精王がガシッとルチアーノの両肩を掴んだ。
ルチアーノの喉がゴクリと鳴る。
「……な、何だ?」
妖精王が「分かっちゃった☆」と言ってウィンクを飛ばし、さっとルチアーノから離れてソファに座る。
「もー……何だよ!
仰々しい奴だな!!」
ルチアーノがそう言ってプンプンしながら、妖精王の前のソファに座ると、妖精王がニパッと笑った。
「ルシアンとアンジュちゃん見ててさあ〜……気づいたの!
あの二人に足りないモノ☆」
ルチアーノが前のめりになる。
「……え!?
何だ!?」
妖精王が金色の髪をさらりと揺らして、一言告げる。
「ハプニーング☆☆☆」
「……ハプニング……!!」
ルチアーノが息を呑む。
「そうそう!
ルシアンは……なんて言うの?尽くす系?守る系?
アンジュちゃんに恋心を気づいてもらえなくても、尽くせればイイ☆守れればイイ☆みたいな感じじゃん?
でもさあ〜アンジュちゃんはルシアンの気持ちに全然気づいてナイわけよ」
「た、確かに……!」
妖精王の言葉に、ルチアーノが大きく頷く。
「で・さ☆
ここで、ハプニング!
やっばー恋にはハプニングが必要じゃん?
起爆剤的な☆」
「……確かに!」
ルチアーノがブンブンと縦に首を振る。
妖精王がそんなルチアーノに、パチンとウィンクする。
「でさあ〜シャンパンタワーやらない?
俺、憧れててさ☆」
地獄の王、ルチアーノ。
推定年齢300歳、情緒3歳の頭に、シャンパンタワーがそびえ立ち、光り輝く光景が浮かぶ。
ルチアーノが掠れた声で言った。
「シャンパンタワー……!
それが崩れる時に……!」
妖精王がパチンと指を鳴らし、ルチアーノを指差す。
「そっ☆
ルシアンが〜アンジュちゃんとシャンパン浴びるワケ!
めっちゃハプニーング♪
映え☆」
ルチアーノは思わず叫んでいた。
「……ハプニングをチャンスに変える……!!
しかも……映える!!」
その瞬間――
ルチアーノのスマホから、ロクシーの鋭いナイフのような声が響いた。
「待て!
二人で詰めるな!
この勢いだけのボンクラども!
まずは、計画を練るのよ!」
ルチアーノは即座に立ち上がり、敬礼しながら「了解でありますッ!」と叫び、妖精王は――
「怒られちった☆テヘペロ☆」
と、笑っていた。
そして、着々と裏で進んでいく『シャンパンタワー計画』
もちろん、アーチーボルトとリオも例外ではない。
否応なく計画の一部に組み込まれ、動き出す。
ロクシーはまず、イレイナに連絡を入れた。
「シャンパンタワーが崩れる時の、アンジュちゃんとそれを助けるイケメンの映像……欲しくない?」と。
イレイナはスマホの向こう側――イギリスでホホホと笑って答える。
「イケメン……ルシアンでしょ?
もちろん欲しいわ……!
私の、アンジュをミューズにした広告代理店設立の野望は消えてないからね!
……で、何がして欲しいの?」
ロクシーもニヤリと笑って答える。
まさに盤面を見据えた軍師の顔。
「イレイナにとったら……小指で済む、簡単なまじないだよ」と。
そして、アーチーボルトとリオの役目は、『ロクシーに突発の仕事が入った』ことと、『ルチアーノにも地獄から緊急の通信が入った』ことをルシアンとアンジュに信じ込ませ、妖精王に余計なことを言わせないという重責を伴う、“任務”だった。
二人の頭の中には、ロクシーの
「この件にはイレイナの利益が絡んでるからね?
失敗は許されないよ?」
と言った言葉が、繰り返し鳴り響いていた。
そんな中でも――
アンジュは疑うことを知らず、ルシアンと一緒に妖精王にシロツメクサの花冠の作り方を習ったり、ルチアーノの愛車の地球に8台しかない深緑のフェラーリで、ルシアンに運転して貰い、ルチアーノの別荘の周りを妖精王を乗せてドライブしたりしていた。
妖精王は大喜びで、「ヤベェ!ヤベェしか言葉が出ないッス☆☆☆」と笑顔で繰り返していた。
ルシアンは助手席にアンジュが座ってくれて、楽しそうにしている――
ただ、それだけで幸せで。
妖精王の天井知らずの陽気さも聞き流せた。
そして、三日後の夕食の席で、アーチーボルトが切り出した。
「せっかく……妖精王にっ!出会えたんじゃしっ!
歓迎パーティでも開かんか!?」
額に薄っすら脂汗を浮かべ、カクカク喋るアーチーボルトを全く気にせず、アンジュが高らかに告げる。
「それは素晴らしいな!
アーチーボルト!」
「じゃ、じゃろう!?
そ、そこで……!」
アーチーボルトのゴホンというわざとらしい咳払いの後に、リオが突然ガタンと音を立てて立ち上がり、言った。
「や、やっぱり……!
お洒落したい、よね!!
妖精王は……ぜ、全身、輝いてるしっ……!」
リオの額からツーッと冷や汗が一筋伝う。
「お洒落?
リオはいつもお洒落ではないか!」
アンジュがにこりと微笑む。
すると――
ロクシーがにっこり笑って言った。
「でもさあ〜私たちも、ドレスを着て本格的にパーティするの!
男子も正装して!
そこに妖精王がいるんだよ?
凄く素敵じゃない!?」
妖精王が「ウェーイ☆」とウィンクを飛ばす。
アンジュは青い瞳をキラキラと輝かせ、ロクシーを見た。
「流石、ロクシー!
それは確かに素敵な考えだ!」
「じゃあ、明日、ドレス買いに行かない?
セレニス・ベイのショップに!」
「うむ!」とアンジュが頷くと――
今度はルチアーノがガタンと椅子から立った。
そして、「女子の皆さんの運転は俺様がする!ルシアンは……」と言うと、ルシアンに向かってモールス信号のようにパチパチとウィンクし出した。
ルシアンは一瞬で悟る。
――なるほど!
妖精王を一人にはしておけない。
私が見張るのが最善。
理にかなっているな。
ルシアンはさっと音もなく立ち上がり、アンジュに向かって跪いた。
「アンジュさま、どうぞごゆっくりお買い物をお楽しみ下さいませ。
私は妖精王とアーチーボルトの別荘にて、留守番をしております」
アンジュが「なぜ?」と小首を傾げる。
さらりと金色の髪が揺れる。
ルシアンは胸に手を当てて答える。
「この機会に、妖精王から学びを得たいと思いまして」
その途端、アンジュの真っ白な頬が薔薇色に染まった。
「ルシアンよ!
そなたは大天使の誉れ!
どのような時も学びを忘れぬとは……!
よろしい!
私は買い物に行ってこよう!」
「ありがたきお言葉、恐悦至極に存じます」
すると、妖精王がロクシーに小声で聞いた。
「キョーエツシゴクって意味、なに〜?」
ロクシーがジロリと妖精王を見て、低く答える。
「あんたは生涯使うことは無いから、知らなくて良い」
妖精王がニパッと笑う。
「でさ☆
ルシアン、跪くのと泳ぐの、どっちが好きカナ?」
ロクシーはもう妖精王を見ても、声を聞いてもいない。
ロクシーは一人一人を見回す。
アーチーボルト、リオ、ルチアーノ。
そして皆が頷くと、ルシアンとアンジュに視線を戻す。
――美しく、清らかな二人に。
ロクシーの口元がゆっくりと上がる。
――妖精王、やっぱり、あんた、使える。
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