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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
『奇跡』使い達

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第9話 信世の『奇跡』

 背後は見ない。追手が居るかなんて確認する間もなく息が切れてしまうまで全力で走り切ってマンション前の噴水がある公園の中央で立ち止まって、そこでようやく周囲を確認する。

 周囲には人一人見当たらない。道路を車が走っているだけだ。

 呼吸を整えてベンチに座る。

「畜生っ……紡祇の家まで来たってのに」

 一度逃げたが結局は紡祇を取り返さなきゃいけない。翔流も……一応友達だし助けれるなら助けよう。

 ただ一体どうすれば良いんだ。相手にはでっかい狼と扉を一発で破壊するぬいぐるみが沢山あるんだ。逃げる最中は大して威力が無い突進するぬいぐるみばっかりだったから何か条件がないとあの威力は出ないんだろうけども、相手の威力以前に圧倒的にこちらの手数が足らない。

 時間はもう既に17時を過ぎている。裕太に連絡してみるが未だに既読も付かない。

 いつも肝心な時は使えない奴が。前々から大事な時にその場に居ない。居たとしても大して行動する度胸も無い愚図が。

 ……それは俺も同じか。

 親友が危険な状況に会っているというのに我が身可愛さで即座に逃げの選択をしてしまった。そこに居た当事者の俺が大して行動出来ていないんだ。その場に居たのに何も出来なかった愚図が来てもいない奴に何を言っているんだか。

「チッ、クソが」

 己の無力さと情けない逃げの姿勢に腹が立ってしまい裏拳でベンチの背もたれを殴る。

 相手は異能力使いだぞ。一人や二人増やした程度でどうにかなるもんじゃない。そもそも人を増やした程度でどうにかなる物なのか?

 こちら側にもああいう魔法みたいな能力が使える奴が居れば何か変わるかも知れないが……。

「魔法か……」

 そんなもの、創作物でないこんな世界に住んでいる一般人の俺の生涯で一度も見たことがない。

 近い物でマジックはあるが、あれは心理学や特殊な仕掛けを利用した物に過ぎない。タネも仕掛けも作れない状況でどうにかなるもんじゃない。

 こういう時に、物語の主人公だったら何らかの力に目覚めてとかあるんだけどな。

 俺には特殊な血筋だとか、特殊な出来事だとか。そういった伏線は用意されていない。せいぜい母親譲りで少し色々出来るくらいだ。翔流みたいなオリンピック狙えそうな身体能力がある訳でもあるまい。

 何か……何かないものか。

 直近で、何か特殊な出来事が無かったか。

 右目に掛かる紅い髪を弄りながら何か無いかと思考を巡らせる。だが、まともに使えそうな案は一つも……。

「この髪……」

 手を止めて手の中にある紅い髪を見る。

 この紅い髪は確か……綺羅星から逃げる時に生えてきた物だ。正確には、俺が「そこをどけ」と叫んだすぐ後に生えてきた物だったか。

 あの時は先に進む事に意識が行っていてあまり気にしていなかったが、普通に考えたら急に紅い髪が生えてくるなんてあり得ない事だが……普通なんて、現実味なんて、さっきのぬいぐるみ達やデカい狼で無くなっている。

 それに、紡祇を乗っ取っていた彼女が言っていた「僕が欲しいのはね、信世君が持っているその魔法。僕の世界では『奇跡』って呼んでるやつだよ」という言葉。

 あれが本当なら、俺にはなんらかの『奇跡』と呼ばれている能力があるのだろう。だとしたら、何かヒントがあるはず。この紅い髪以外に何かが。

 あの時起きた不思議な事を思い出せ。普通じゃないことを思い出せ。あの時、俺が叫んだあと何が起きたか思い出せ。

 確か____

「確かあの時、言い合ってたクソ野郎がおかしくなってたな」

 目の前に居た奴だけじゃない。周りを囲んでいた男達全員おかしくなっていた。

 俺が叫んだ後に謎の男の声が重なって響いてきて、妙に物分かりが良くなって全員壁側に並んで道を開けていた。寸前まで綺羅星の言いなりになっていたのに、壁側に並んだ後は一切言う事を聞かずに棒立ちしていた。

 綺羅星と言えばアイツの周りもおかしかった。アイツ自身もおかしいが、何よりもアイツに言いなりになっていた男達だ。

 特に警察官は自身の業務を放棄して従っていた。これはもしかして、紡祇を乗っ取っている奴が言っていた『奇跡』とやらではないだろうか。

 綺羅星の言いなりになっていていた様子のおかしい警察官。そして俺の言う事に応じてまるで操り人形のように動いた男達。最後に、紡祇を乗っ取った奴が有利になるように動くぬいぐるみ達。

 今日見た事から推測すると、『奇跡』っていうのは対象を思い通りに動かす能力なんじゃないだろうか。

 綺羅星の場合は、警察官と何処から来たか分からない男達を従者のように操る。

 俺の場合は、大声で命令すると感情は無くなるが操り人形みたいに動かせられる。

 紡祇を乗っ取った奴の場合は……恐らくぬいぐるみを傀儡にするとかだろうか。きりるんがデカい狼になっていたり人になっていたり、小鳥のぬいぐるみがアホみたいな破壊力を持っていたから、強化させる能力もあるのだろう。

 それなら、それが本当なら、勝機はあるかもしれない。

 誰かで能力を試してみよう。予行練習は大事だ。

 あの時の再現だ。距離は1メートルくらいだったか。普通に会話するくらいの距離感だ。これなら怪しまれずに実験できる。

 どこかに良い実験体はいないものか……。例えば、いくら好感度が下がっても問題なくて、なんなら下がってくれた方が嬉しい。尚且つ最悪失敗しておかしな事になっても問題ない奴がベストだ。

 辺りを見渡しながらそんな人物が居ないか探すが…………一向に見つからない。

 早々そんな人物なんて居る訳がないか。

 そんな人物なんて、紡祇に危害を加えてきそうな奴で、何しても後腐れの無い人物に限られてしまう。強いて挙げるとするなら、あそこで大量の男を引き連れた綺羅星くらいで__。

「居た」

「信世ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 俺が気付くのと同時に向こうも気付いたようだ。まさか俺の跡を追ってきたのだろうか。

 俺の姿を見るなり鬼の形相で男達と一緒に全力疾走で走ってくる。折角の醜悪な顔がより酷い顔になっている。醜悪を振り切って般若の顔に寄っていて、むしろそういう恐ろしい顔なのだと納得出来る醜態だ。

 あそこまで殺意を露わにした表情を俺に向けているのか心当たりは全く無いが、どうやら俺に相当恨みがあるみたいだ。

「丁度良い。テメェらで実験させてもらう」

 恐らく、俺の『奇跡』は大声で感情を込めて命令しないと発動しない。あの時のように大きな声が出るように十分に息を吸って腹から出すように、相手にそうさせたいという意思を込めて、声だけで相手を殺すつもりで。

「『止まれ』ぇぇぇぇぇぇ!!!」

 声を吐き出す。

 叫び声が辺り一面に響き渡り反響する。

 それと同時に足音が止まる。大量の男達も、綺羅星の形相も完全に停止する。

 実験の結果は見ての通り成功だ。大成功と言っても過言ではない。

 道路を走る車も、噴水の水も、時計の針も、風も、全て止まっている。見える物全てが微動だにしない。

 そうか。そうきたか。

 空を仰いで飛んでいる鳥を目視する。空に描かれた精巧な鳥の絵を見ている錯覚を覚えてしまうくらいには身動き一つしない。

 この能力、人以外にも使えるのか。

「これは……かなり強力だな」

 自分以外が停止した世界で一人呟く。

 人間相手なら強力な能力だとは思っていたが、まさか人間以外にも通用するとは思わなかった。ましてや時間停止能力まで持っているとは……。

 昔から言霊とか言って言葉には力があると聞いているがさすがに強力過ぎるのではないだろうか。無機物にも有効ならば、人間を使って色々する以外にも無機物を強制的に動かす事なんて事も出来るのではないだろうか。

 例えば、紐を持ってきて『捕らえろ』と言うと相手を勝手に捕まえてくれたり、『壊れろ』と言って相手の持ち物を破壊する事も出来そうだ。『従え』なんて言ったら操り人形に出来るのだろう。もっと単純に強く使うなら『死ね』と言って自殺してもらう事も出来るかもしれない。

 これが『奇跡』か。

 どこまで出来るのか気にはなるが、声さえ出せるなら何でも出来る能力。近年流行しているらしいカテゴリで言うのであれば『チート能力』か。目に見えない『言葉』がトリガーで絵面が微妙な所が玉に瑕だが単純に強力だ。

 他に残念な所といえば、能力の発動の際に知らない男の声が重なって聞こえてしまってどのタイミングで能力を使用したかが悟られてしまうのもデメリットの一つか。

 それでもお釣りが来る強さ。それに加えて時間停止能力もあると。

 そうやって一人熟考していると、ポケットに入れているスマホが通知を知らせるバイブを鳴らす。

「こんな時に誰が……」

 スマホのスリープを解除させて、どうでも良いメールの通知を一通り削除して重要そうな通知だけを残す。

 重要そうなメッセージは特に来ていない。残ったのは配信者がライブ配信が開始した通知だけだった。

 紡祇から教えてもらったゲーム配信者だ。チャンネル名はイナマレch。格ゲーをメインで配信しているが、視聴者と一部関係者の必死な要望でよくホラゲー実況もしていたりする。顔出しはしない代わりに一枚絵を画面に乗せてそれを自身のアバター代わりに使っているゲーム実況者だ。

 絵に関しては紡祇と実況者の彼女が担当しているらしく、時折ファンアートに紛れてSNSに投稿されているのを見掛ける。というか、俺のSNSではこの実況者関連と紡祇以外フォローしていないから、それ関連の情報以外基本的に見る事はない。

「そういやいつもこの時間だったな」

 時間は18時前。いつもこの位の時間に彼は配信をしている。

 今は用事があるので見るのは後にしよう。どうせアーカイブが残ってるだろ。

 そうしてスマホの画面を消してポケットに仕舞う。

 …………

「今、時間止まってるんだよな」

 再びスマホを取り出してライブ配信を確認する。

 動画はリアルタイムで進んでいる。今は開始したてだから雑談から入っているみたいだ。

 この配信者のいつも通りの流れ。そのいつも通りがおかしい。

 今はいつも通りじゃないはずだ。いつもとは違って時間が止まっているはずだ。

 画面から目を話して周囲を確認する。

 道路の車も、噴水の水も。綺羅星を先頭に群がっている人間達だって。全て止まっている。止まっているはずだ。俺以外例外無く止まっているはずなのに。

 ライブ中の彼や、コメント欄の皆は平然と動いている。

「そうか……俺の認識が違ったのか」

 この時間のこの道は車通りが少ない。その為、道路に停止させられた車は二台しかない。しばらく道路を眺めていると、当たり前の話だが、道路の向こうから新しい車が走って来る。迷惑そうに前の車を避けて一切停止する事なく通り過ぎる。

 俺の能力は、俺の能力の効果範囲はそこまで広くない。

 能力を発動した時点で俺の周囲に存在していた物のみに『止まれ』と指示した。その効果は俺の周囲のみに作用した。時間が止まったんじゃない。俺の周囲だけを停止させただけだ。

 俺を中心に言葉が届く範囲のみ。直接言葉をぶつけた相手だけにしか通じない言葉の武器だ。

「俺の能力は喋った通りにする能力。範囲は言葉が聞こえる範囲のみ。なら電話は?」

 電話帳に載っている知り合いに電話を掛ける。相手は先程の配信者の友人の美弦みつる。普段ピアノの練習をしているらしいが、イナマレchの配信にはよくコメントしに来ているから今の時間は暇なはず。

 数回のコールを挟んで、彼女の苛立っている声が電話越しに聞こえてくる。

『どうしたの、今忙しいんだけど』

「『黙って電話を切れ』」

 彼女の問いには答えない。用事だけさっさと済ませる。

 能力が通じているならすぐに電話を切るはず。通じていないのであれば彼女の性格だと文句を言って電話を切るはずだ。

 どう答えてくれるのか。答えないのか。

 電波に乗って能力が通じてくれるのか。それが出来るのであれば遠隔で能力が使えるようになる。

 そのまま電話を切ってくれる事を願って彼女の返答を待つ。

 体感では少し長く感じる数秒の間を置いて電話の向こうから反応があった。

『はぁ? いたずらしたいなら他当たってくれる?』

 キレ気味の彼女が舌打ちをして電話を切る。

 いつもの事ながら俺に当たりが強い。その態度には慣れたがこうも嫌悪感を露骨に出されてしまっては少し腹立ってしまう。

 だが、その態度も単純で分かりやすくて実験には丁度良い。結果は見ての通り、電波を通じて話した相手には効果が無い。これが拡声器だったらまた話が別なのだろうが、すぐにそういう物を用意は出来ないので今は知らなくても良い。

「こんな能力は確かに欲しがるよな」

 紡祇に乗り移った異世界人は俺の魔法を__彼女の世界では『奇跡』と呼ばれているコレを欲しがっていた。

 アイデアさえあれば大体の事が出来るであろうこの『奇跡』という魔法。こうやって人や物の時間を止める事が出来るのだから、多少の制約はあるがやろうと思えばあらゆる犯罪も証拠隠滅も可能だ。

「時間停止ねぇ……」

 引っ越し前の中学校で、インドア派の男子グループが時間停止のアダルトビデオかなんかの話をしていた時の話題を思い出す。

 時間停止物で犬だけ動くだとか、停止中の感覚が後から一気に押し寄せる物だとか、停止中に受けた感覚は停止解除しても何も反応が無いだとか。

 そのグループとの関わりはほとんど無かったが、会話の内容は俺が一切触れないであろう分野の話が多く出ていたから気になって話の内容だけは聞いていた。教室の中でそんな話するなよと思っていたが、あの時話を盗み聴きしておいて良かったと今更になって思う。

 こうやって無駄そうな知識が役に立つ機会があるからな。こういう機会に恵まれたくはなかったが。

「この場合どうなんだろうな。犬だけ動くか、感覚が蓄積されるか、特に何も起きないか」

 実験がてら、男の群れの先頭で走るポーズをして止まっている綺羅星にデコピンをしてみるが……反応は無い。作品によってはダメージを与えたり触れた瞬間に停止が解除されたりするが、この能力にはそういう事はないらしい。

「そういえば、綺羅星も変な能力を使ってるかも知れないんだよな。コイツの能力は一体なんだ? 俺のと全く同じには見えないんだよな」

 綺羅星の顔をジロジロ見て独り言を続ける。

 裕太宅跡地の時は一度も俺達に向かって命令はしていなかった。もしも俺と同じ能力を持っているのであれば、直接『止まれ』と命令して足止めした後に好き放題すれば良かったはずだ。

 それなのに一度もそういう事はしなかった。命令しているのは毎回周りに居る男達に向けてだけだ。

 あの時も異常なまでに男達を侍らしていた。

 そして今も、というか前回以上に大量の男達を侍らせている。

 小学生と思わしき男の子から還暦過ぎた年寄りまで、多種多様な“男”を連れている。

 その集団の中に女は一人も居ない。

「もしや……男限定で操る能力か」

 だが、もし仮にそうだとしたら辻褄が合わない。それこそ“男“である俺と翔流を直接操れば良いだけだ。紡祇も一応男だったが、あの時は綺羅星が紡祇を女と認識していたからそもそもしなかったのだろうけれども。

 何か条件があるはずだ。

「本人から直接聞き出すとしよう」

 幸い、俺にはこの能力がある。相手に先制を取られなければ聞き出すくらい出来るはずだ。周りの男達の停止も解除しないようにさっきよりも小さな声で能力を使おう。

 念の為に綺羅星の目の前に立って、顔が触れそうなくらい至近距離で能力を使おうとした。その時__

 彼女の目が僅かにだが、動いていた。

「コイツ…………瞬きしてる」

次の話からリメイク版の『襲撃異世界人~見知らぬ美少女が親友を騙ってきます~』と話しの流れが少しずつ変わってきます。

あくまで『襲撃異世界人~見知らぬ美少女が親友を騙ってきます~』がメインなので、リメイク後を読んでも設定が違う部分が増えていくので、そのまま好きな方の作品を読まれてください。

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