第10話 偽物の親友と偽物のクラスメイト4
紡祇が心配で、邪魔されてイライラして、殴り掛かってやろうかとも考えながら、しかし殴る前に一度せめて会話が出来ないか頭の隅で考えつつ、怒りが制御しきれずに吐き出すように鬱憤をぶつけるように怒鳴り散らす。
「いい加減そこをどけ。黙ってそこをどけ。いい歳した大人が高校生との主様ごっこなんてしてないでさっさとそこを退け恥晒しが! 職務はどうした無能警察官! 女の言いなりになって漫画みてぇな主従関係の主様ごっこしてんじゃねぇぞ! この女のどこが良い!? 自尊心と自己肯定感が明後日の方向に伸びて自身の言動を鑑みれない慢心の塊で、髪染めミスったか知らねぇが髪が荒れ放題の女に従ってないで仕事しろ無能が!」
紡祇が左腕にギュッと掴まる。
翔流が人壁の後ろで何か叫んでいるみたいだが上手く聞き取れない。それ程までにこの無能共に集中してしまっている。
ボケっと阿呆にお似合いの表情をした綺羅星が静止する。まさか言い返されるとは思っていなかったのだろうか。
侮辱されたと頭の中で整理出来たみたいだ。とても愉快な真っ赤な表情へと変わっていく。
「ソイツぶっころせ!!!」
綺羅星が命令を出した途端に男達が物凄く遅い動きで詰め寄る。
目の前の男が拳を振り上げる。
ゆったりとした大振りな攻撃。全体の動作があまりにも遅すぎる。ガキだと舐めているのか。
相手の拳が当たる前に顔面の中心へと真っ直ぐ綺麗に右ストレートが入る。
まさか反撃されるとは思っていなかったのか殴られた男は顔を抑えて後ずさりして尻もちをついて座り込む。
そこまで強くした覚えはないが好都合だ。目の前が空いた。このまま走って紡祇の家まで逃げよう。
「ソイツ等を逃がすな!」
綺羅星が怒鳴ると、空いた人壁を急いで塞いで俺達邪魔をする。
「そこをどけ」
「ダメだ主様のご命令だ」
また邪魔するのか。
まだ邪魔をするのか。
俺の邪魔をするのか。
紡祇が今危険な目に会っているかも知れないのに。
紡祇が今1人でいるかも知れないのに。
紡祇が泣いているかも知れないのに。
紡祇が今どうなっているのかも分からないのに。
「そこを退け」
邪魔をする奴は消えてしまえば良い。
「そこを退けとさっきから言っている」
声が聞こえていないのか表情一つ変わらない人形みたく立ちはだかる無能。
「『そこを退け』とさっきから言っているだろ!!!」
視界の端に一束の紅い髪が映る。
俺の言葉に合わせて別の男の声が聞こえた気がした。
途端に、男達が虚ろな目をして道を空け始める。
「アンタたちなに言う事聞いてんのよ!」
肩車されたまま道の端に運ばれる綺羅星。
上から顔を殴って正気に戻そうとするが、下の男は一切反応を示さずに他の男達と一緒に壁に沿って整列する。
「アンタたちも立ってないでアイツを追いかけなさいよ! ほら早く! 早く行きなさいよ!」
綺羅星に命令を受けている間はまだ人間味はあったのだが一体どうしたのだろうか。
最初から表情が乏しい奴等ではあったが整列してからはただの精巧な人形にしか見えない。
俺の声に合わせて聞こえた知らない男の声と言い、この男達の不自然で奇妙な行動と言い、理解出来ない奇行と奇怪な現象の連続で気味が悪い。
突如生えた自分の紅い髪を弄ってこの現象の理解を進めようとした所で翔流が道の向こうから走って来る。
「今の内に逃げるぞ!」
「あ、ああ。紡祇を抱っこしてくれ。このまま紡祇の家に行くぞ」
「任せな」
翔流の呼び声で考え込もうとしていた頭を一度リセットさせて逃走する方向へ思考を変える。
翔流はおどおどしている自称紡祇を無理やりお姫様抱っこして颯爽と走り出す。
流石は身体能力お化けだ。自称紡祇程度の体重なら抱えた状態でも走る事にそこまで支障がないらしい。
「じゃあな。『着いてくるんじゃねぇぞ』」
逃げる前にもう一度彼等に命令してみる。
先程とは違って声を荒げていないが、それでもあの知らない男の声は命令の言葉を口に出すタイミングと同時に俺の声と重なって聞こえてきた。
男達は一度大きく頷いてその場から動かなくなる。
肩車している男も大きく頷いたので当然乗っていた綺羅星はそのまま振り落とされて痛そうに転がっていた。顔から落ちたので相当なダメージになっているだろう。
起き上がって見えた顔は痛々しそうな傷や痣が出来てしまっている。
大して重要じゃない事なのは理解している。それで良い。これを吟味するのは後で良い。
今は逃げ一択だ。
背中から綺羅星の汚らしい鳴き声が聞こえるのを無視をして、遅れて翔流を追い掛けるように全力疾走する。
~~~~~~
綺羅星達から逃げるように突っ走って約10分。紡祇が住むマンションの前まで到着した。
翔流1人でなら裕太の家から紡祇の家までノンストップで走っておよそ5分で到着出来るのだが、申し訳ない事に翔流よりも足の遅い俺のペースに合わせて走っていたのでこのくらい掛かってしまった。
10分間も走りっぱなしで流石に息が荒くなってしまった。
余裕そうな表情の翔流が大変癪に障るが身体能力に関しては翔流の方が圧倒的に上なので、しょうもない嫉妬なのだと自分に言い聞かせて、息を整えながら紡祇の家まで一緒に歩いて行く。
道中会話らしい会話は無かった。というか会話する余裕が俺には無かった。
ゆっくりと息を整えながら歩いて数分後。ずっと回復に専念させてもらったおかげでビッショり汗はかいているが体力はほとんど万全になった。
マンションの玄関を抜けて紡祇の家の前に着く。
「ここが紡祇の家だったよな?」
「ああ。その通りだ」
翔流が確認するように聞いて来る。
お前、場所をよく知らないで来てたのか……前にも来たことがあるのに? 紡祇の家に行ったと言っていたがこの男は本当に紡祇の家に行っていたのだろうか。別人の家に行ったから犬耳のイケメンが出てきたんじゃねぇの?
疑問が沸々と湧き出てきたが先に済ませないといけない用事が目の前にあるので声には出さないでおく。
「そろそろ降ろしてほしいんだけど」
そんな無駄なやり取りはしていると、自称紡祇が不機嫌そうな顔して翔流にそう言った。
俺がお姫様抱っこした時よりもかなり不服そうだ。走っていたから抱っこされ心地が悪かったのだろう。
にしてもお姫様抱っこがかなり様になっている。紡祇の見た目も相まって本当にお姫様のようだ。
服装はスニーカーにショートパンツとかなりボーイッシュで庶民的ではあるが、お忍びでどっかの令嬢が外に出てきたと解釈すればギリギリ納得出来る見た目である。
「あぁすまんすまん。今度は信世がお姫様抱っこしてくれるって言ってるから許してくれよ。な?」
「そんなこと」
「ありがとう信世! 楽しみにしてるね!」
喋っている途中で被せて話されてしまった。
最近、俺の話聞いてくれない奴が多いなぁ……。




