第75話 兄妹愛 おさらいキャラクター紹介1
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マンション前の公園のベンチで二人に慰められてようやく立ち直る。
「もー、信世君らしくないんだから」
「済まなかった。迷惑掛けたな」
俺らしくないか。確かに怒る事はあっても落ち込む事はあまりない。紡祇の記憶を全て持っているシオンにとって珍しい俺を見せた事になるのか。
会って一日も経っていないから「らしさ」を言われるのは不思議な感覚だが、彼女からしたら紡祇の記憶を通して知っているからこそ言える「らしさ」だ。
「そーだそーだ! 迷惑掛かったんだからお菓子は全部信世の奢りという事で」
「外で服が弾けたら警察のお世話になると思うんだが、どう思う?」
「なんもないっス」
どさくさに紛れて奢らせようとする翔流をたしなめる。
あれからどのくらい時間が経ったのだろうか。スマホで時間を確認すると外出してから30分も経ってしまっていた。
通りでこんな暗い訳だ。辺りにある家やマンションの灯りは無くなり世間の大半は活動を止めて明日に備えている。
「よぉよぉ信世よ」
「お前の分は奢らんぞ」
ベンチから立ち上がって、さぁ帰ろうとした所で翔流が肩を組んで小声で話し掛けて来る。
どうせまた奢ってくれと言うつもりだろうか。家に帰る心づもりで聞いてやろう。
呆れた顔でさっさと用件だけ聞く。
「さっき落ち込んでた時にボソボソ言ってた、メイドって何なんだ……? みもりんとか、チェキとかさ」
「ゔえぇぇぇ!!?」
「どどど、どうしたの信世君!? 聞いた事無い声出してたよ!」
考えてた事が声に出てたというのか!?落ち込んでいる時にメイド喫茶での給料とか、チェキ何回で元取れるとか、SNSでどうやったら客が集まるとか考えてはいたが、全て、全て? 全て! 全てが口に出ていたのか!?
驚きとその勢いに任せて翔流の顔を見る。
奴は考えや感情が顔に出やすい。からかいの言葉なら顔にそれっぽい表情が貼り付いてる筈だ。
「お、おう……? 目力すげぇな」
人を嗤ってるような表情は一切していない。コイツが上手く表情管理を出来る筈がないから、からかいで言った訳じゃない。
「さっきの言葉。あれはただの確認か?」
これで確認だと言ってくれれば__それはそれでコイツらしくは無いが__それで済んでくれるなら俺の精神的な安全が確保される。
「確認……? まぁ、そう言われればそうだけどよ」
「そうか確認なんだな。そうなんだな。それだけなんだよな?」
「いやさ、お前にもそういう趣味があるんだなと思ってな」
若干引き気味な表情で翔流にそう言われる。
あぁ……終わった。
一番知られたくない奴に知られてしまった。
「そんな趣味嗜好は持ち合わせていない。流れでうなってしまっただけで決して! 決して俺はそういう趣味がある訳では無い!」
「分かった分かった。そういう性癖もあるもんな。俺だってメイド好きだぜ」
「お前の言ってるソレは違う好きだろうが! 俺だって嫌いな訳じゃない。だが、こうなったのは決して俺の意思とかじゃない!」
「メイド……? あーそういう事ね」
こうやって否定したり隠そうとしては居るが、別に女装という物が恥ずかしい物とは欠片も考えていない。あの職場も悪い所では無いのも理解している。
だけど、女装なんて一切興味無さそうにしている俺がメイド服着てメイド喫茶で働いてるなんてさ……それは何か違うだろ。
辞めようとも思ったさ。所詮は緊急事態に数合わせで入っただけのヘルプだったしな。
だけど最初に働いて以降、妙に大量のファンが付いた結果出してしまった想像以上の売上と、俺の身に余る大きすぎる期待が圧し掛かって、辞めようにも辞めきれないなくなってしまったんだ。
別に確固たる意志で辞めようと考えていた訳ではない。
最低限貰える給料はかなり良い方だし、チェキ等の成果があるだけバックも多く貰える。店長や先輩達はかなり癖はあるが良い人ばかり。
何よりも紡祇が頑張っている所を一番近くで見れる。
ついでに紡祇とカップリングを組まされて百合だか薔薇だか分からん営業をさせられるのは少し理解に苦しむが……とにかくあの職場自体は悪い所じゃない。
ただ、いつ知り合いにバレるかのリスクを考えたら少し躊躇してしまう。
ただ単に俺が恥ずかしい思いをしてしまいそうで、少し怖い。
何が起きるか分からないのが怖い。
「そんな否定しなくて良いってのによ~。そうかそうかメイドさんか~。そういや博多の方に良いメイド喫茶があるんだが今度行ってみないか?」
「テメェ分かった上で言ってんのか!? 行く訳ないだろうが」
「信世君ストップストップ! 二人共凄い勘違いしてるよ!」
シオンが間に割って入る。
「お前に何が分かるんだよ」
「そりゃ分かるよ。だって僕は紡祇君の記憶を全部持ってるからね」
シオンにそう言われて今更ながら思い出す。
紡祇の記憶を全て持ってるなら当然、メイド喫茶で働いた事も知っている。
「そういえば……そうだな」
「なんで紡祇の話になってんだ?」
何も分かっていなさそうな顔で翔流がそう言う。
どうしてメイド喫茶に関連が深い紡祇の話が出ているのに何も分かっていなさそうな顔している?
「ほら、翔流君の反応で分かるでしょ? 君は焦ったら変な方向に暴走するんだから、ちょっと落ち着いて考えてみなよ」
「あ、ああ……分かった」
シオンにそう言われて深呼吸をする。
息を整えて、頭を一度真っ白にして、そうして今の状況を一度整理しなおす。
シオンの言った紡祇の話とメイド喫茶の話に関連性を見出せていない翔流の反応を見れすぐに分かった。そんな難しい事じゃない。深く考えて頭の中で一々言語化しなくても分かる。
「翔流。俺のバイト先知ってるか?」
「バイト先? バイト始めたん?」
やっぱりか。
「いや、バイトはしていない」
「えぇ……さっきの質問なんなんだよ」
「シオン、ありがとう」
「いえいえ~。紡祇君からも昔言われたと思うけど、変に思い詰めるのは君の悪い所だよ」
「そうだな。気を付けるよ」
「俺置いてけぼり?」
紡祇と全く同じ事言われてしまったな……。
反省はするが焦っている時は冷静に頭を回す余裕が無い。焦る経験自体も少ないから練習も出来ない。
どうやって直そうか。難しい癖だ。
「それじゃ、そろそろ帰ろっか」
「そうだな。真夜中に外で騒いだら近所迷惑になるしな」
「あの……俺はスルーされる感じ?」
「帰ってアイスでも食うか」
「そだね~」
こんなに色々起こるとは考えていなかったが、シオンから欲しい情報をいくつか貰えたし、もう夜も更けて来たし、帰らないと警察から補導されてしいまうだろうし、そろそろ家に帰らないとな。
流石に今日は疲れてしまった。早く帰ってみんなで少し遊んで寝ようか。
荷物は全て翔流に持たせて、三人で駄弁りながらマンションのエントランスに向かう。
そうして、建物の中に入ろうとしたその時。
何処からか聞き慣れない声が聞こえた。
その声は狼が遠吠えに似ていて。
その声は明らかに人が発した音だと認識出来る。
その遠吠えは右でも左でもない。上から聞こえていて。
その声が気になってふと顔を上に向ける。
この時間に見る夜空は新鮮で、この季節によく見れる夏の大三角形が暗闇を美しく照らしている。
その筈なのに。
俺の真上の空だけは何も照らされていない。
何物にも照らされていない空が落ちて来る様な感覚に襲われて、初めて気付く。
人が落ちて来る。
「お前達『避けろ』!!!」
おさらいキャラ紹介一人目。主人公の深森 信世君
名前:深森 信世
性別:男
年齢:16歳
誕生日:4月8日
身長:170㎝
体重:60㎏
能力:『言霊の奇跡』
・物や人を言った通りに動かすことが出来る
・複数の命令を同時に使うことも出来る。細かい命令を言うとその通り動かせせる
シオンの兄が使っていた『奇跡』である。何故か今は信世に宿ってしまっている
・『奇跡』を使う度に髪色がシオンの兄と同じ紅色の髪に染まる(※これは他のキャラクターも同じであり、『奇跡』を使うとそれぞれ対応した髪色に染まっていく)
詳細
・能進高校一年三組
・艶縫 紡祇の親友
・紡祇も一年三組である。ちなみに天馬 翔流と綺羅星 瑠璃凜も一年三組。田中 裕太は別クラス
・作中でハンバーグを作っており料理がかなり得意。何処かのメイド喫茶のレシピを紡祇経由で教えて貰ってるので、そのお店の味と近い味になってしまう
・紡祇への執着が強い。本人はあまり自覚していない
・身体能力の高さは母親譲り。髪質や顔等、見た目もほぼ母親似。目の鋭さだけは父親似。女装させると目付きが鋭い高身長イケメン女子風になる




