第52話 ぬいぬいそうる2
やっべ能力の効果ミスってた
侵略者が居るであろう集中砲火しているあの場所。なんでずっと魔力が注がれているんだろう。
やな予感がする。
戦闘用ポーチから魔力を存分に注いだ最早魔力そのものみたいな人形を取り出す。
それに特殊能力を使って新しい魂と新しい能力を付与する。
能力の効果は【感覚の共有】と【魔力に対する圧倒的な耐性】の獲得。
この能力の付与は無制限に出来る訳ではなくて、能力の強さによって僕へとそれなりの疲労が蓄積するようになっている。
大した事のない効果なら少し休憩すれば即座に回復するけど、今回みたいな強力な効果の場合、しっかり寝ないと回復しないようになっている。
しかも能力付与での疲労は体が疲れてるのではなくて、精神とか魂が疲れるようになっているみたいで。使い過ぎると精神崩壊しそうになったり、魂が削れて記憶の損失だとか魔力の適正がなくなってしまいそうになる。
回復魔法で体や精神を回復しても、魂自体が削れていく。
だから、乱用は出来ない。
そんな大技を使用して人形に新しい魂を与える。
この子にやってもらう事は簡単。
あの魔力の塊に突っ込んで中の様子を見てもらうだけだ。
「頼んだよ」
「ミッ!」
ふよふよと空に浮かぶ魔力の嵐に向かっていく視察用人形さん。
あの子の目を借りて中の様子を見てみるけれど、どす黒い光に包まれてよく見えない。
まだあの速度で動いているなら、中心までは到着していないのだろう。
ここまで濃ゆい魔力の中だと透視や目を良くする魔法を使った所で弾かれてしまうから、こういう手段でしか見れないのは随分と不便だなぁ。
念話で魔力の塊を飛ばしている人形達と周囲の状況確認をしながら視察用人形さんの視界をじっくり観察する。お兄ちゃんが帰って来る気配も無く、ただただ魔力の濁流しか見えない不自由な視界を共有して見ている。
そんな視界に変化が訪れたのは5分もしない内だったか。
魔力の濁流が明らかに薄まっている場所が見えた。
「見つけた」
魔力が薄まっているお陰で、視界はドス黒い極彩色の光から、薄く輝く光景へと変わっていった。
侵略者達の姿が見える。
だけど、見た目が明らかに一人変わっている。
変わっているというか……一人減って一人複製されている。
元々、魔力の多い男、変なマントの前衛職の男、魔力の多い女、特殊能力持ちのお兄ちゃんの偽物の四人だったんだけど__今は魔力の多い男が二人に増えている。
残りの前衛職の男と魔力の多い女は何もせずに魔法で宙に浮いているだけだけど、複製された二人の男は両端に立って前方に手を掲げているだけだ。
何をしているか分からないけれど、異常な事をしているのは分かる。
あの二人の男を中心に明らかに魔力が減っている。
通常、魔力は空気中に漂っているだけだ。魔法使いや一部の魔物はそれを吸収したり、体内で処理した食物等を魔力に変換して魔法の素材にしている。
だから、魔力を魔法使いを中心に消えて行くのは何も不自然ではない。
ただしそれは、空気中に漂っているだけの魔力に限った話だ。
ここまで圧縮して大量に飛ばされる魔力を吸収だけで処理するのは難しい。並みの魔法使いでは体が処理しきれずに残った魔力に吹き飛ばされるか、吸収のしすぎで中毒を起こして意識が無くなるはずだ。
あの量を数分間も吸収するのは僕ですら厳しい。
お兄ちゃんならまぁ……多分やれる。
そんな魔力の濁流を抑えているあの二人。間違いなく普通じゃない。
高濃度の魔力を吸収し過ぎると体が極彩色に発光し始めるから吸収している可能性は無い。
ということは__
「もしかして、特殊能力持ち二人居るの?」
となれば、この時点である程度の能力の予測をしておかなければ。
片方は間違いなく元お兄ちゃんの偽物だろう。魔法で見た目を変える事は可能だけど、そういった魔法は最初に見た時点で侵略者達が使用しているのは無いのは分かっている。
となれば、偽物の方は見た目を変える特殊能力か。
僕のと同程度に異常な能力なのだとしたら、見た目だけではなくて能力もある程度模倣するとか、そういう物だろうか。
そして、もう一人の本物の方の魔力が多い男。アイツの特殊能力はどんな物だろうか。
見た所、魔力をどうにかする能力か。
体が極彩色に輝いていないから魔力を吸収する物ではない。だけど、明らかに魔力を消しているのは分かる。となれば魔力を消す特殊能力……?
でも、それだけじゃない気がする。
最初に仕掛けた魔法陣を一瞬で解析と破壊をしたあの時。今と同じように魔法陣に手を当てていた。
魔法陣の解析と破壊なら、あの距離の場合見るだけで出来るはず。わざわざ屈んで手を当てる理由が無い。
つまり、あの男は手に触れた物を破壊、もしくは解析する能力を持っている。
そして、その男と全く同じ事をしている元お兄ちゃんの偽物。アイツは模倣した人間の能力を模倣出来るみたいなのだろう。
二人揃って同じ様に魔力を消しているのだから。
でも、完全に模倣している訳ではなさそうだ。
明らかに偽物らしき方が押され気味だ。完全な模倣ではなくてある程度の制限があるらしい。
ただ、このまま持久戦させて押し切れるかと言えばそうではないみたいだ。
魔力を消している本物の魔力の処理能力が上がっている。
「東の子。出力上げて」
『ミッ!』
本物側に攻撃している人形に威力を上げる指示を出す。
他の場所の子に与えている分の魔力を東の子に集中させて威力を底上げさせる。
これで、大丈夫になったはず。
念を入れて監視は怠らずにしていると、急にマントの男が明るい顔で変な事を言い出す。
『みんな奇跡強化の準備が出来たぞ!』
奇跡……?
奇跡って神様の所業とか、あり得ない偶然とかそういう奴だよね。
それを強化? 何かの隠語か。それか……あのマント男も特殊能力を持っているとか。
そのまま監視を続けていると、マントの男から侵略者全員に緑の紐が飛んでいく。
蛇みたいにうねうねと動く紐が全員の背中に繋がる。
その瞬間、視察用人形との視界共有が終わってしまう。
『ミミッ!』
その後すぐに飛んでくる複数の人形達からの念話。
すぐに伝わるように「ミ」だけで話してくれている。
20体居たはずなのに、聞こえる声は6つだけ。
内容は「逃げて」「危ない」「失敗」「14人死んだ」「味方の消滅」「時間稼いで来る」
人形達の声を受け取って急いで外に出て周囲の状況を見る。
「…………なんで」
真っ先に侵略者達が居た場所を確認する。
そこには人間が四人存在する以外に何も無かった。
雲も森も地面も空気中を漂う魔力すらも。
何も無かった。




