第50話 異世界人シオンちゃん3
「仕方ないなぁ……隣には座らないでよ」
「だってさ翔流。離れてるなら良いってよ」
その説得の甲斐あってか、不本意ながら渋々仕方なくと言葉の限りを尽くした妥協に妥協を重ねた結果、シオンからゲームに混ざっても良い許可を得たのであった。
これは大層嬉しいだろう。なにせ美少女と見た目美少女の二人と遊べるんだ。女性に飢えている翔流にとってこれ以上無いご褒美になるに違いない。
良かったな翔流。過去一番の女性との絡みだ。喜び勇んで混ざりに行くと良い__
「うっほほぉぉぉい」
過剰な程に喜び勇んで奇声を上げる翔流。大きく跳躍をし紡祇達に向かう其の姿は某怪盗三世の如く、鮮やかなフォームによる無駄に綺麗な突撃だった。
同時に脳内で思い浮かぶ「近所迷惑」という単語。
今日の昼間だけでも戦闘で大きく騒いでいるのに、夜中まで奇声とドタバタ音の重ね技で騒音問題。上下左右全方位への音による無差別攻撃。
それを考えた時点で、俺の体は自然と行動していた。
手元にあったタオルの端を強く握り締め、肩と手首のスナップを効かせたタオルによる鞭打ち。料理後で水分を多めに含んだソレは太く鈍い風切り音を唸らせ遠距離からの強力な打撃を行う。
無防備なアホへ真横から私刑だ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ……ッッ!!! 頬がッ! 頬を一点集中した殺意が今ここにッッッ!!!」
空中で膝から崩れ落ちるアホ。
その落ちる音が下の階に響いてないか心配している間に、俺の隣からきりるんが翔流の元へと駆け寄っる。
「かけなんとかさん大丈夫?」
「大丈夫だ……問題ない」
赤く腫れあがった頬を抑えて痛そうに蹲る翔流。きりるんから心配されてる風だがまともに名前を覚えられていない辺り、きりるんから好印象を持たれている訳ではなさそうだ。
包丁やタオルを元の場所に戻して俺も翔流の元に歩み寄る。
「信世よぉ……濡れたタオルで叩くなよ。結構痛いんだぞ」
「もう夜遅いから奇声は出すなよ」
「……承知した」
ここまでやれば流石に二回目はしないだろう。
簡単な注意している間に、翔流がうずくまってお菓子が潰れそうなのを見た紡祇が翔流の手から奪い取って紡祇の隣に座る。
「はい、シオンちゃん。一緒に食べよ」
「あ、うん。ありがと」
翔流を心配素振りは一切見せずに笑顔でわさび味のポテチを食べる紡祇。
全員から雑な扱いをされて痛そうに床で転がる彼の姿はあまりにも情けなかった。元より威厳も何もない人間だったが、今日一日のセクハラと奇行三昧で翔流の格は最低ラインまで下った様だ。
まぁ、こんなアホは放っといて料理の続きをしよう。
翔流との茶番をしている間に『奇跡』を使って焼いた玉ねぎは良い具合に焼けてくれたみたいだ。綺麗な黄金色になった時点でピタリと焼ける音が止まっている。
このやり方で肉とかも焼こうか。
牛豚の合挽肉とパン粉と牛乳、塩、砂糖、おろしにんにく、コショウ等々。食材調味料を良い感じに混ぜてタネを作る。
「これ……もしかして『奇跡』で自動化出来ないか?」
何個か作った時点で、ふと思い付く。
俺の『奇跡』は割と何でも出来る。火を起こさずに勝手に玉ねぎを焼いたり、水を凍らせたり、対象の時間を止める事だって可能な能力だ。
そんな万能能力があれば、材料を揃えたこれらを良い感じにハンバーグの形にして即座に良い感じに焼いたりだって出来るのではないだろうか。物理法則なんてかなり無視してる能力だぞ。多分やれる。
「『材料を良い感じに混ぜてハンバーグの形にして良い感じに焼けろ。なるべく早く、焦げない様に』」
俺の声と一緒に男の声が同時に響くと、ハンバーグの材料達が一人でに動きだす。
ボウルに入っていた肉やパン粉等が混ざり合い、凄まじい速度で混ざって楕円形になり、フライパンの上で順番にジュワジュワと音が鳴って綺麗に焼ける。フライパンの上で焼けては皿に自動的に盛り付けられ、また新しくハンバーグのタネが焼かれていく。
そこそこな個数があったから相応に時間は掛かったが、普通に料理するよりも格段に早く焼き終わる。
「…………便利だな」
綺麗に盛り付けがされた皿を見てそう呟く。
いや、本当に便利が過ぎる。物は使い様とはよく言うが、戦闘から料理まで何でも出来る能力はいくらなんでも万能が過ぎないか。
これを使えば時間も節約出来るし、命令さえすれば両手が空くから並列して他の事も出来る。
凄まじい……こんな能力、紡祇が知ったら驚くだろうな。使い方次第じゃあ日々の掃除とかも楽になりそうだし、数多にあるぬいぐるみの手入れも俺の『奇跡』で自動化出来る。
あぁ……なんて素晴らしい物なんだろか。
さぁ、そろそろ皆に晩飯の用意が出来たと伝えようか。
そうして顔を上げて呼び掛けようとした所で、衝撃的な光景を見てしまう。
「なるほど……縮んだ分胸のサイズも減ってるんだな」
翔流が棒立ちしているシオンの胸部を揉みしだいているではないか。
徐々に紅潮していくシオンの顔。薄く平べったい胸を堂々と揉まれて放心している彼女には何がなんだか分からないと言いそうな表情だ。
……俺が料理している間に何が起きた?
食レポみたく胸レポする変態奇行種に為されるがままになっているシオン。そしてそれらを呆気に取られて傍観しか出来ない俺達。
何だ。何が起きている。
「あ、でもちゃんと柔らかい。柔らかくてハリがしっかりしてて」
「死ねぇぇ!!」
本格的に胸レポを始めた所でシオンがアホの両目に指を突っ込む。
「目がぁぁぁ!! 目がぁぁぁぁぁ!!!」
「目だいじょうぶ!? それはそれとして一回死んだ方が良いと思うよ!」
血が垂れる目を抑えて転げ回るアホ。それに心配する様で罵倒を投げる紡祇。きりるんはポケッとした顔で何も気にして無さそうだ。
鮮やかな目潰しを行ったシオンはテーブルの上に置いてあったティッシュで自分の指を拭いて、俺の足元に逃げる。
「信世君。もうあの人はダメだよ。救えない」
「とりあえず指洗え」
守って欲しくて来たのだろうが、人の目を潰した指は流石に汚いので水洗いさせる。
現実で本気の目潰しは初めて見たが……案外コミカルに見えるんだな。
アレの反応が割と軽い感じなのもあるが、残虐性が緩和されている一番の理由はアレの『奇跡』があるからだろう。
アレの『奇跡』は身体能力強化と身体の自然治癒能力の向上。数千度まで上がった金属に包まれても尚死なないその再生力とタフさのお陰で、目潰し程度では余裕で完全回復するのは目に見えてるからだ。
アレの目は潰されて見えてないがな。どうせ数分もしないで治るだろ。
「目がぁぁぁ……目が痛ぇ……あっでもちょっと見えてきたかも。凄い変な感じがするけど見えてきてるわ。クソ程痛いけど治ってきてるわ」
ほら見ろ。もう回復してる。
だが、これだけだと凝りなさそうなので包丁でも脳天に刺してやろうかと準備する。
その前に。一応シオンに聞いておくか。致命傷は流石に回復出来ない仕様だったら殺しかねない。そのついでに、翔流の『奇跡』について多少深堀させて貰おうか。
「なぁシオン。結構深く指してたが、アレの持ってる『奇跡』は、目潰ししても勝手に再生するような物なのか?」




