第3話 人違いの男の娘2
モールに入ってフードコートへ向かう。
到着したのは14時過ぎ。
多少ピークは過ぎたからなのか、昼頃は人でごった返しているフードコートもまばらではあるが席がいくつか空いていた。
おかげですんなりテーブル席を確保してゆっくり昼食を取れた。
昼ご飯でラーメンをそれぞれ一人前ずつ食べたが、それでも全く足らなかったので昼食後のデザートでドーナッツとクレープを追加で買って席に着く。
デザートを食べながら雑談を交えつつ雑談を交えてこの子が一体何者なのか探ってみてはいるが……どうも一切ボロを出さない。能天気な表情をしているが教えてはいけない所はしっかり誤魔化しているのか。それとも本当に何も知らないのか。
一応、紡祇以外が知らないことを知っていたり、紡祇本人のような立ち振る舞いをしていたから仮でこの子を紡祇として話してはいるが、本当にこの子が紡祇だとは全く思っていない。
欠片もそう思っちゃいない。
親友の姿を忘れるほどバカではないのだ。
紡祇をよく知る人物が紡祇と騙って来ているのか、もしくは紡祇を乗っ取って俺の前にいるのか、それとも本当にこの子は紡祇本人で朝起きたらこうなっていたのか。可能性を考えたらキリがない。
まぁ、ここはアニメでも漫画でも創作物でもない現実だ。
現実味があるように考えるなら、ストーカーや親戚が紡祇やその周辺のことを調べて俺の前に紡祇として来ているのだろう。
それでも中々ファンタジーな感じだけれども。
しかしなぜ、紡祇を騙って俺の前に来ているのだろう。しかも、よりにもよって美少年がだ。彼の中ではこの姿は紡祇の姿に近いと思っているのだろうか。
まぁ、他人を騙って他人の友人と遊びに行く奴の考えだ。本人以外がその行動原理を理解出来なくてもおかしくないだろう。
今はとにかく紡祇本人の安全を確認しなければいけない。
そのためには、一度紡祇の家に行ってどうなっているかを確認しなければ。
紡祇は今年から父親が出張に行ったっきりマンションで一人暮らししている。俺は見ての通りこの子を監視しなければいけないので、こっそりと友人の中で紡祇の家を知っている男友達に連絡を取って紡祇の安否を確認しに行ってもらっている。
何かあればすぐに連絡が来るだろう。
本当は、紡祇の家に一番近い裕太に頼みたかったのだが、朝からずっとグループチャットの既読も付かないし、個人チャットも電話もうんともすんとも言わないもんだから仕方がない。
こうやって目の前に座っている彼に隠れて実は色々としているのだが、当の本人は口いっぱいにクレープをほおばって幸せそうにしている。
さっきラーメン一杯食べたのによく食べる奴だ。
「それで、さっきは聞いてなかったが、なんでそうなってんだ」
美味しそうにクレープをほおばっている偽紡祇になんてことのない雑談のようにそう聞く。
「ほっほふぁっへへ」
「飲み込んでからで良いぞ」
多分「ちょっと待ってて」と言ったのだろう。
口の中のクレープを頑張って飲み込んで、口の周りに付いているホワイトチョコを舐め取る。
そして、残り半分となったクレープを一気に口に詰め込んでこっちを向く。
「ほへへ、ほうひはほ」
なぜもう一口行った。
しかもまた喋れないくらいにパンパンに詰めやがった。
アホなのかコイツは。
紡祇でもそんなこと……しそうだな。アイツならする。
「ゆっくりで良いぞ。ごっくんしろ」
そこまで急いでいない__むしろ時間稼ぎしたいからゆっくりしてもらって結構だ。
リスみたく膨れ上がった頬の中のクレープをもぐもぐと咀嚼して美味しそうに飲み込んでいく。
「んぐ……。ごちそうさまっ!」
おいしかった~と満足げに言う彼。
彼が紡祇だとするなら、見た目も相まって普段よりも5割増しで可愛らしくて大変良い事だ。だが、そもそもコイツが本人かどうか分からないから素直に喜びにくい。
今、紡祇の家に向かってもらっているヤツは自宅から走って行くと言っていたので、後10分ほどで家に着くだろう。陸上の大会前の丁度良いトレーニングだとか言って喜んで引き受けてくれたが、あとでお礼に何か渡しておいた方が良いだろう。
商品券1000円分で良いだろうか。
「それで、なんでそうなってんだ? 昨日の終業式まではいつも通りだったろ」
「うーん……わかんない。朝起きたらこうなってたんだよね」
朝起きて他人になる訳ないだろ。という言葉をちぎった一粒のポンデリングと一緒に一度飲み込む。
いちいち細かい所に何故何故と聞いていたらキリがないだろ。
「そうか。ていうか、なんで連絡くれなかったんだよ」
「あぁ、それは少し訳がありまして……」
なんとも言いづらそうに口をモゴモゴさせながら少し頬も赤らめる。
一体何をしていたのだろうか。頬を赤らめる位に人に言えない内容なのか、それとも恥ずかしいだけなのか。二度寝でもしていたんじゃなかろうか。
紡祇の真似をしているのなら全然していてもおかしくはないけれど、別に恥ずかしがる事ではないだろう。
紡祇の二度寝は長期休み初日によくある事だ。
春休み、ゴールデンウィーク、夏休み、後は三連休や四連休の時は高頻度で徹夜と二度寝をしているので、最早慣れた物だ。
二度寝しても数分遅れる程度だからそこまで気にしていないのもある。普段は紡祇の方が早過ぎるくらい先に待っているから、寝坊していると逆にしっかり寝ているんだなと安心してしまっている。
他にある可能性としては、ゲームに熱中かバスが遅れたか。ここくらいか。
二度寝、ゲーム、バスの遅延。さてどれだ。
二度寝が原因なのだろうけれど、一応理由は聞いておこう。
「良いから言ってみろ。ぐっすり寝てたんだろ」
「いやそうじゃなくて、あの…………」
伏目がちにちらちらと俺の目とスマホに付いているラバーストラップを交互に見る。
そして、気恥ずかしそうに俯いて話す。
「朝起きたら穂波坂 銀之助くんが家に居たからなんだ」
「良い眼科知ってるぜ。案内するよ」
「幻覚じゃないからね!!」
何言ってんだ。ゲームのキャラが現実で見えている時点で重症じゃないか。
まぁ、話だけは聞いてやろう。ただの夢の話をしているだけかも知れないしな。
「じゃあ、その幻覚は触れたか?」
「触れたよ。抱き着けれたし、ご飯作ってくれてたし、髪も綺麗にしてくれたもん。絶対幻覚なんかじゃないし」
参ったな重症だ。
この子は自分を他人なのだと思い込む以外にも、相当酷い妄想癖も患っているみたいだ。手遅れかもしれん。
「そうだな、うん。たしかにそれは幻覚じゃないかもしれないな。ところで近場に大きな病院あるんだが」
「それ絶対に信じてないじゃん!! いやたしかに嘘みたいな話だけどさ!」
必死に伝えようとしているのは分かるが、やはり妄想にしか聞こえない。
そもそもの話、朝起きたら見た目が変わっていたと言っている自称親友の美少年だ。新手の美人局か宗教勧誘の入口くらいでしか見れないシチュエーションだろ。そこに二次元キャラクターの具現化とかいうトンデモエピソードまで付いて来たら、それこそ病院案件だ。危ない人から精神的にヤバい人に昇格してしまっている。
そんな彼があーだこーだ喚いているのを適当に聞き流しながら新作ドーナッツを食べていると、スマホに電話の着信が入ってきた。
相手は天馬 翔流。紡祇の家に向かわせていた男友達だ。
「すまん。ちょっと電話してくる」
「あれ、ここでしても良いのに」
「お前にサプライズをしようっていう電話でな。お前が居る所ではしてほしくないんだとさ」
「それ本人に言っちゃって良いやつなの!?」
適当に理由を付けてそそくさとフードコートから離れる。
サプライズとは関係無くあまり話の内容は自称紡祇には聞かれたくないので、念のためにフードコートとは一階下の少し離れた男子トイレの中で電話をする。
わざわざ電話してくる程だ。確実に何か良くない事が起きたのだろう。
移動中に切れてしまった電話を折り返してスマホを耳に当てる。
「どうした翔流」
「出るのおせぇよ!」
開口一番に怒鳴る翔流。電話の向こうではかなりざわついているみたいだ。
「こちとら大変なことになってんだよ」
かなり怒った口調で電話に出る翔流。電話から聞こえる周りの音からして翔流は外に居るのだろう。
確か、紡祇の家に行くように伝えたはずなのだが……。
「すまんな。自称紡祇から距離取るのに時間掛かったわ」
一応しっかりとした言い訳はあるんだぞと言い訳をして本題に入る。
「それで、紡祇の家で何が起きた」
「いや、まだ艶縫の家には着いてないんだが、大変なことが起きてんだよ」
「まだ着いてねぇのかよ。じゃあ今どこだよ」
分かりやすく苛立っている様子で返す。
「裕太の家だ。俺ん家と艶縫の家の道中にあるのは知ってるだろ」
「あぁ、たしかにあるな」
翔琉の言う通り、翔流の家と紡祇の家の最短経路の間には裕太の家がある。
裕太と言えば、今日は朝からずっと一切連絡が付かないが、それは用事があるから出られないだけではないのだろうか。
「それで、裕太の家がどうした。火事でも起きてるのか?」
「それの方がまだ良いもんだよ。写真送ったから見てみろ」
通話をスピーカーにして翔流個人のメッセージに届いた画像を開く。
送られた画像はかなり荒れ果てた空き地の写真だった。
警官と規制線の合間を上手く狙って撮ったもののようで、少しピントはぼやけているがその割にはそこそこ綺麗に撮れたもののようだ。
「なんだこれ」
「裕太の家だ」
「はぁ?」
俺の記憶の中にある裕太の家と比べてこれは真っ更過ぎる。
地面が抉れて草一つ生えていない。周囲にはそこに元々建っていたであろう家の残骸があちらこちらに粉々に砕かれて散らかっていた。
隣接している家の壁は何かに斬り刻まれたかのような跡が多数残っている。
そして、一番目に付くのは空き地の中心にある大きな血だまりだ。
血で真っ赤に染まった洋服らしきものが浮いてあるから恐らく人の死骸なのだろうが、判断材料がそれ以外何もないくらいに。ずたずたに、ぐちゃぐちゃに、ミンチと見紛う細かさで骨と肉が混ざり合って原型を留めていなかった。
絵に描いた様な凄惨な現場。リアルだからこそ現実味が無い。
「一体何が起きたんだよ……」
「それが、警察とか近所の人に聞き回ってんだがあまり分かんねぇんだよ」
つまりほとんど情報なしと。
「とりあえず分かった事だけ教えてくれ」
「おうよ」
紡祇の件は一度置いておいて先に翔流から話を聞く。
翔流が集めた情報によると、昨晩4時頃に裕太の家からかなり大きな音がしたようだ。まるで花火が至近距離で爆ぜたかのような爆音だと。
そして、1時間後くらいに何かをぶつけたり壊したりする音が立て続けに鳴って、その音はどんどん大きくなっていった。
音が完全に止んだのは5時半頃。そこから、近所の人達が集まったのか足音や話し声聞こえ始めたかと思えば急に悲鳴が上がった。
そのあとは近所の誰かが警察を呼んだのだろう。数分後にパトカーが数台やってきて今に至るそうだ。
「そんなことがあったのか」
「あぁ。警察に聞いた話によると住人の生死は不明。ただまぁ、あの血だまりは恐らく周辺の住人のものだろうってさ」
事件が起きたのは4時頃だ。夜の内から出掛けていなければ間違いなく……。
「…………裕太が心配だな」
「裕太が気になるのは俺もそうなんだがな。まだ艶縫の安否も確認出来てないんだ」
「そうだな……近場でこんな事件が起きているんだ。紡祇の方が心配だ。先に紡祇の家に向かってくれ」
「分かった」
また何かあったら伝えてくれと言って通話を切る。
「ここで時間を無駄にしてる場合じゃない。さっさと解散して紡祇の家に行かねぇと」




