第22話 変態
皿に置いておいたポンデリングから1粒ちぎって、スライム娘の口の中に慎重に入れる。
このまま動き出しても問題ないが、出来るなら噛まれたくない。指がスライム娘の粘液まみれになってしまったら洗わなきゃいけなくなる。
洗うと言えば洗面所か台所だが……。そういやリビングは翔流が死んだら『奇跡』で勝手に直るようにしていたが、翔流が生きて帰っているからボロボロのままなのでは……。
他人の家で好き勝手暴れていたのを知られたら怒られてしまうな。紡祇に見つかる前に隙を見て直しておこう。
ポンデリングを入れて口の中から指を出す。
「なぁ、なんでアイツ、ドーナッツ食わせてんだ?」
「餌付けじゃないの?」
「それなら霜降り肉食わせるだろ。テイム率上がるんだぞ」
どこぞのドラゴンなゲームに出てきそうな設定を持ち出すんじゃない。
「ごめんね。何の話してるか分かんないや」
「え、マジで?」
あれはかなり有名なゲームだから紡祇も知ってると踏んで話したのだろうが、彼は大体放置ゲームだったり周回ゲーをよくやっていて、あまり買い切りタイプのゲームはしない。だから紡祇にそのゲームのネタは分からないだろう。
一応、みんなで遊べるようにと最新の携帯ゲーム機を置いてはいるが、持っているゲームは全てそのドラゴンなゲームとは制作会社が違うので全く触れた事が無いだろう。
俺だって、父親がやっているのを見なければ知る事も無かったゲームだ。父が「昔の若い世代はみんなやっていた」とは言っていたが、今では皆がしている訳ではないらしい。
というか、そのネタの理論で行くと俺はこの後スライム娘を討伐する事になるのだが。
出来るなら戦闘は避けたい。
後ろの2人を放っておいてスライム娘が動き出さないか凝視する。
「お前何やってんの。フィギュア鑑賞?」
「何か食わせたら動くかと思ったんだがな。何も起きなくて困ってるんだ」
俺の分のお茶も持って隣に座る。流れるように服を捲って中を確認する翔流の頭を叩いてお茶を貰う。
コイツが美少女フィギュア買ったら真っ先にパンツ確認しそうだな……。
「じゃあ、動くしかない状況にしてやれば良いじゃねぇか」
「そんなのがあるのか?」
「まぁ、良いから見とけ」
妙に自身たっぷりな翔流に任せて俺はきりるんの尻尾を触りに行く。威嚇はされたが紡祇に宥められて大人しくしているのを見て遠慮なくモフらせてもらう。
ぬいぐるみの時よりもモフモフ感がかなりアップしている。体毛自体が本物の動物の毛のようにふわふわしているので触り心地抜群だ。こりゃ寝れるな。
「おっふやわらけぇ」
翔流の興奮気味な声が聞こえたので視線をそちらに移してみると、そこにはスライム娘の後ろに回って小さな乳を揉む変態が居た。
「紡祇。硬くて殴れそうな物無いか?」
「国語辞典ならあるよ」
「貰おう」
全く何やってんだか。前々から馬鹿だとは思っていたが変態でもあったか。
貧乳に夢中の変態に気付かれないようにそっと近寄って国語辞典を頭に振り下ろそうとすると、スライム娘が突如動き出した。
翔流の腹を肘で打って変態の魔の手から逃げ出し、俺の持っていた分厚い国語辞典を奪い取って本の角で変態の頭を殴る。
「僕の体に触んな下衆」
辞典の角が凹んで丸くなってしまうくらいに威力が高かったんだろう。中々痛そうな鈍い音だった。
頭を押さえて床に転がってスライム娘に踏みつけられる変態が可哀想に見えないのはきっと日頃の行いのせいだろう。自業自得だな。
「ほ、ほら、動いたぞ」
「そうだな」
「ちょ、やめ、二人で蹴らないで」
無抵抗な女の子の乳を揉むだなんて下衆なことをしたんだ。入念に股間を蹴ろう。
「た、助けて、助けて紡祇ぃ」
「ごめんね。変態には手貸さないって決めてるんだ」
「そんなぁ」
11
スライム娘の気が晴れるまで蹴った後、その場に正座させてスライム娘と一緒に説教をした。
「少しは反省したか?」
「はい……すみませんでした」
流石に説教が効いたのか自分から土下座する。
「ほんっと最低」
「あまり友達にこんなこと言いたくないけど、人としてどうかと思うよ」
全員から冷たい目線を向けられる変態。
欠片も同情の意思がないのは彼の人望の無さもあるのだろう。
「まぁ、翔流の件については一旦ここで終わろう」
「許してくれるんですか!?」
「そんな訳無いでしょ。この変態」
何故許されると思ったのか……。
今の時間は21時過ぎだ。世間一般ではそろそろ飯の時間である。
流石に紡祇もお腹が空いたようでポンデリングを食べ終えて、お腹を鳴らしながら暇そうにベッドの上でゴロゴロしている。
冷蔵庫に食材はあったが、4人分となると少し足らないだろう。買い出しに行かなければ。
それに、翔流が生きているおかげで『奇跡』が発動せずにあの状態のままなのだ。気付かれる前に直さなければ。
「今から飯の買い出しに行ってくるから、留守番頼めるか?」
「良いよ〜。2人はどうするの?」
「アイツらも連れていく。流石にネグリジェじゃ行けないから紡祇の服貸してもらえないか?」
「うん、分かった。好きなの持っていって」
ぬいぐるみと遊んでいた紡祇に声を掛けて、スライム娘用の服を借りる許可を貰う。
「立て。買い出しに行くぞ」
「ちょっと待って……。脚が痺れて動かない……」
弱音を吐いて動かない馬鹿の首根っこを掴んで引きずって行く。脚が痛いと叫んでいるのは無視だ。
「着替える場所も案内するから、お前も着いてこい」
「あ、僕も行くんだね」
スライム娘にも声を掛けて一緒に部屋から出ていく。
「またね、紡祇君」
「うん、またね〜」




