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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
泣いても笑っても男の娘は可愛いんだよ
2/37

第2話 人違いの男の娘

03

現在時刻12時30分。

 少し早めの時間に到着した俺は暇潰しにスマホゲームをして待っていた。

「今回は俺の方が早かったな」

 スマホの時計を見て独り言を言う。

 普段の紡祇は、何も起きていなかったら約束の時間よりも早く着いている事が多い。特に、俺と二人で出掛ける時は30分前には到着しているのが普通だ。

 約束の時間よりかは全然早いのだが、紡祇にしては珍しく遅いので一応連絡はしておこう。

 何度か電話を掛けてみたが全く繋がる気配もない。何かあったのだろうか。あるとするなら……

「二度寝だろうなぁ」

 長期休みで浮かれてしまって夜更かしまって起きれていないのだろう。目覚ましは付けているだろうし、二度寝した時用に5分おきになるようにもしているはずだが、紡祇は起きない時はグッスリ寝る子だ。だからこそ今日は昼頃に集合するようにしたのだが、それでも厳しかったみたいだ。

 もうしばらく遅くなるだろから、近くのベンチに座って自販機で買ったジュースをちびちび飲みながら待つことにしよう。

 そう思い立ってベンチに座ろうとしたその時。

「あ、あの、待った?」

 腰まで髪を伸ばした銀髪の少女が上着の裾を引っ張って話しかけてきた。

 中学年くらいだろうか。身長175㎝の俺の胸元辺りまでしか届かない低い身長に、雪のように真っ白で幼い顔立ち。黒いヘアピンで雑に分けられた髪の間から覗く瞳は海に映る快晴な空のように蒼く澄んでいた。少し癖毛はあるがふわふわにスタイリングされた銀髪は太陽の光を受けてキラキラ輝いていた。これを毎日手入れするのは相当骨が折れるだろう。

 それはともかく……この子は誰だろうか。

 当然、俺にはこんなお人形さんみたいな知り合いはいないし、こういう事をするコスプレイヤーもいない。しいていうのであれば、身長が低い紡祇くらいなのだが……。

 そういえば、今日は朝から何も連絡がなかったな。もしかして、何らかのキャラクターのコスプレをして行くから連絡も忘れて遅く出てきたのだろうか。

 いやいや、それにしてもこの子は紡祇と比べてあまりにも小さすぎる。紡祇の5㎝下くらいだろう。声も見た目相応の美少女ボイスになっている。これで惚れない同級生の男はいないだろうと言うくらいに可愛い。

 もはや別人だ。誰がどう見ても明らかに完全な赤の他人だ。

 となると、この子はきっと俺を別の人と間違えているのだろう。いやきっとじゃない。間違いなくそうだ。間違いなく人違いだ。ここは年上のお兄さんらしく、親切丁寧に案内でもしてやろうじゃないか。どうせ、紡祇からの連絡は来ていないのだし。今から連絡が着てここに到着するにしても20分は余裕で掛かる。

「お嬢ちゃん、俺は君の探している人じゃないよ。たしかに俺は待ち合わせをしているけども、君とは待ち合わせしていないからね」

「えっ、え? 人、間違えちゃった……?」

 普段出さない爽やかな好青年をイメージした声で少女(まぁ、実際は骨格や歩き方から見て男なのだが、見た目が男に見えないのでここからは便宜上美少女と呼んでおこう。)もとい、美少女に話しかける。

 第一印象は悪くないはずだ。ここで変質者判定されてしまったら、お巡りさんに面倒を見てもらうことになってしまう。

「君が探している人、俺も探すの手伝うよ。どういう人かな?」

「えっと……」

 銀髪の美少女は大変困惑しているらしい。

 それもそうだろう。知人と思って話しかけたら全くの人違いでしたという状況だ。俺だったら「すみません」と叫んで踵を返して逃げるように走り去るところだ。

 そんな状況をこの美少女は叫ばず逃げず、しっかりと状況を整理しようとしているのだ。俺よりも賢いぞ。

 数分間うーんと唸りながら俺の姿を頭からつま先まで舐めまわすように、疑心暗鬼に満ちた目で上から下までじっくりと全身スキャンするように見つめる。

 そして、「あっ」と小さく呟いてスマホを取り出す。

 まずい。警察に不審者として通報されるのかもしれない。

 相手からの人違いによる遭遇だったにしても、迂闊に知らない男が小さな女の子に話しかけるのはまずかっただろうか。いやまずかったのだろうな。なにせ今まさにそこで通報されているのだから。

 美少女がスマホを耳に当てる。同時に、俺のスマホから着信音が鳴る。電話の相手は紡祇からだ。

 全く。こんなタイミングで電話に気付いたのかよ。

 まぁ、ある意味タイミングが良いのだろう。これから警察にお世話になるだろうからな。最後に親友の声くらいは聞いてもバチは当たらないだろ。

 警察に通報する美少女と同じように、俺も電話に応じる。

 さてさて、紡祇にはどう説明しようかな。

「おう。紡祇。グッドなバッドタイミングだな。聞いてくれよ。今俺、美少女に通報されそうになっててさ」

「信世……だよね?」

 次の言葉を続ける前になんとも不思議なことが起きた。女の子の声が二重に聞こえるじゃないか。

 二つの内、片方の音の発信源は間違いなく俺のスマホからだ。耳元にささやくような小さな声で聞こえる。このまま聞いていたら安眠してしまいそうだ。

 そして、もう一つの音の発信源はというと……

「ボクだよ。紡祇だよ」

 目の前の美少女からだった。

「え、紡祇?」

 いやいやいやありえない。たしかにアイツはかなり可愛い部類だが、見た目が明らかに違うじゃないか。さすがにここまで可愛くはない。美少女ではない。顔だって声だって全く違うじゃないか。

 確かにこの子が持っている肩掛けのカバンと、スマホに付いてる『穂波坂 銀之助』のラバーストラップは紡祇がいつも使っている物だ。

 服装もそうだ。この時期に紡祇がよく使う唾が広い帽子や、赤い薔薇の可愛い刺繍が付いた少しオーバーサイズ気味な薄手の白い上着に、無地のTシャツ、デニム生地のショートパンツを履いて綺麗な脚をこれでもかと出している。

 全てこの子の体格よりも少し大きいサイズではあるが、紡祇が着ている物と考えるなら丁度良いサイズでアイツが持っている物と完全に同じだ。

「たしかに、紡祇が持ってるのと全く同じだな……」

「でしょ!」

「いやでもなぁ」

「疑うって言うなら、信世の中学生3年生の夏休み中にハマって、学校始まってから毎日学校でドヤ顔しながら言ってたアニメのセリフもしっかり言ってあげるよ」

「え」

「たしかアレって信世の黒歴史でしょ? 敵対組織にいる少し闇があるダークヒーローみたいなキャラが好きだったよね~。そういえばあの作品のOVA出たの知ってる? ネットだとあれの売上次第じゃ二期来るみたいだよ! 信世が好きなキャラが沢山出てき始める所でさ! 信世が学校で原作マウント取りながら言ってたやつあったよね。たしか」

「落ち着け。そこまでにしてくれ。傷を抉るんじゃない」

 懐かしそうにぺらぺらと話し始める。懐かしいと言っても1年前の話なのだが。

 あの件以降、クラス内では中二病と呼ばれていた。中学三年生なのに中二病だぜ。ハハッ。死にたい。

 まぁ、そのアニメ自体学生を中心に人気になったバトルアニメで、丁度アニメも一期最終回が近かったからなのか、クラスの男達で毎週そのアニメの話をしていたので、冷めた目であまり見られては居なかったと思う。多分。

「アニメ関連になるとよく喋るなぁ」

「だって、信世ならしっかり聞いてくれるんだもん。裕太に話してもあんまし聞いてくれないし」

「アイツは浅く広くって感じだからな。お前とか俺みたいに作品を深堀りはしないから話について行けないんだよ。少しは話を合わせてやりな」

「んー。努力はする」

 不服そうな顔している紡祇の頭を撫でて紡祇を落ち着かせる。

 ここまで知っているなら本当にこの美少女は紡祇なのだろう。そういう事にしておこう。

「で、どうして美少女になってんだ」

「わかんない」

「わかんないかぁ……」

 意外と落ち着いているから何か原因を知っているのかと思ったが何も知らないらしい。

 紡祇は目に掛かった髪をかき分けてヘアピンで留める。そして、スマホをカバンに仕舞って空いているもう片方の手を掴んで手を繋ぐ。

 うおっ、手やわらかっ。てかちっさ。

 少し力入れたら潰してしまいそうだ。

「信世は何か知らない?」

「知らんな」

 本人が分からないなら俺も分からんな。

 なぜこんな見た目になっているかは分からないが、集合したなら予定通り飯でも食べに行こう。スマホで時間を確認すると13時30分と表示していた。

 通りでこんなにも腹が減ってる訳だ。紡祇に聞こえないように抑えているが、ずっと腹がぐーぐー鳴っている。

 ついでに裕太から連絡が着ていないか確認するが既読すら付いていなかった。代わりと言ってはなんだが、ソシャゲの通知が来ていた。

「とりあえずモールの中行こうぜ。腹減っただろ」

「うん。そうしよっ」

 とりあえずは飯だ。紡祇がこうなったのは非常に気になるが、考えるのは飯を食べてからにしよう。

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