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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
『奇跡』使い達
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第12話 電話

 ヴーヴー、ヴーヴー

 ポケットに入れたスマホが震える。バイブの長さからして電話だろう。

「もう気付いちゃったか」

「どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ」

 誰からだろうかと画面を見る。電話の相手は信世だった。

「これ、出ても良いですか?」

 だいぶ自由ではあるが一応人質の身なので聞いてみる。下手に動いて「やっぱり殺す」とか言われるのは良くない。

「うん。むしろ出て欲しいな。あ、でも、スピーカーにしてね」

 さもないと殺すから。と恐ろしいことを言われる。元気に頷いて早速電話に出る。

「あ、信世。そっちは『ビデオ通話にしてお前と紡祇を乗っ取ってる奴を一緒に映せ』「あ、ハイ」

 こっちが言い切る前に強い口調で命令される。

 俺の安否すら確認せずにこうも目的に一直線で突き進もうとするのは信世らしいが、流石に傷付いてしまう。少しは心配してくれ。

『まだ生きてるみたいだな』

「それは、俺が死んでいてほしかったって事か?」

 まるで俺が死んでいて欲しいような言い方だが、どうせ何か考えがあった上で色々と省略して言った結果こう言ったのだろう。もう少し聞いたらすぐに分かるはずだ。

『いや、別に死んでいて欲しい訳じゃないんだ。むしろ生きてくれ。そして、すぐにそこから逃げてくれ』

「随分と難しい事言ってくれるな」

 今は狼型きりるんの拘束からは抜けているが、シオンさんに背後からハグされているから逃げれない。仮に彼女を振り払えたとしても、きりるんが俺を捕まえた時のように即座に動くはずだ。やろうと思えばいつでも捕まえる事が出来る。だからこんな人質らしくない拘束なのだろう。

『じゃあ、逃げるのは後で良い。だが、絶対に死ぬな。鈍いお前の事だから気付いてないかも知れないが、お前は』

「はーい。おしまい」

 信世が何か言い切る前にシオンさんが通話を切ってスマホを取り上げてしまう。

 しっかり持っていたはずなのに、あっさり取られてしまった。

「ちょっと、返してくださいよ」

「だめ。どうしても欲しいなら押し倒してでも奪い取りなさい」

「それじゃあ、遠慮なく」

 彼女に言われた通りに押し倒す。背中を打って体を傷めないように、押し倒す勢いには気を付けたからそこまで痛くないはずだ。

 掴んだ右手を抑えつけ動けなくさせてから、彼女の手からスマホを取り返そうとする。

 あと少しで取れる所で手を少し押し返されてその隙にウサギのぬいぐるみが居る方向に投げ飛ばされた。

「あっ!」

 寝転がった状態だったのであまり飛ばなかったが、ウサギのぬいぐるみが上手くキャッチして机の下を経由して扉近くまで逃げる。

「ウサちゃん、小鳥ちゃん、きりるん。頼んだよ」

 シオンさんの掛け声に反応して、ウサギがスマホを空中に投げる。

 宙に投げ出されたスマホを、小鳥のぬいぐるみが小さな足で上手く掴んで、そのままそっぽ向いていた間に狼に変化していたきりるんの口の中に放り込む。

「俺のスマホが!!」

 取りに行こうと這って進もうとしたが、シオンさんに脚でガッチリ挟まれて動けない。

(なんだこれ、女の力じゃねぇぞ!!)

 体勢的にも彼女の方が動きにくいはずなのに、細い脚に見合わない力で挟まれて身動きが取れない。

 そのまま彼女の腕で引寄せられて抱き合う形になると、即座に寝返りを打って上下反転して逆に俺が押し倒されたような状態になる。

 視界がシオンさん以外何も見えなくなる。それほど近くまで密着させられてしまった。

 一応、日々ランニングや筋トレで鍛えているので同級生の男よりもかなり身体能力が高い方だとは自負しているが、こうもあっさり力負けしてしまうのはあまりにもおかしい。

 彼女に触れた時は見た目相応のか弱い女性の腕で、脚もそこまで筋肉が付いている訳ではなかったのだが、どこにこんな筋力があるのだろうか。俺が押し倒している時も手加減していたのか。

「翔流君。キスってしたことある?」

「したことないですけど」

「ふーん」

 彼女の指が俺の唇をゆっくりと撫でる。

 彼女の息遣いが鮮明に聞き取れる。

 下から見上げる彼女の顔は、獲物を狩る獣のようで、とても大人びて妖艶に見えた。

 自分の鼓動が早くなるのを感じる。

 何かするのだろうか。何かされてしまうのだろうか。何かされてしまうのを、期待してしまっている自分がいる。

「じゃあ、これが初めてだね」

 彼女の唇と俺の唇が触れ合う。

 初めて味わう、苦くて少し甘い人の口の中の味。

 ドーナツの甘さと彼女のほんのり苦くて甘い香りを感じる。

 それだけで正気を無くしてしまいそうになるのに、彼女はそれで満足する気配もなく手を絡ませて舌を入れてくる。

 舌と舌を絡ませて、唾液と唾液を交換して、彼女の生暖かい唾液を呑まされる。

 快楽で頭がおかしくなってしまいそうだ。

 声を出そうとしても口を塞がれてしまって何も出来ない。彼女を退かせようとしても体に力が入らない。手を握っているだけのはずなのに一切の抵抗が出来ない。

 頭の中に彼女以外の全てに靄が掛かったみたいに他の事が何も考えられない。

 彼女のキスに鳴れた整った呼吸を、彼女の小さくて繊細な手を、彼女の体温を感じる。

 今なら、彼女になんでもされても良い。例え「私の為に全てを尽くせ」と言われても従ってしまうだろう。彼女の為なら全てを捧げようと考えてしまう。

 こちらからも舌を絡ませようとした所で、彼女が唇を離してしまう。

 初めてのキスで息を荒くした俺と、余裕そうな彼女の表情が、経験の差を、大人と子供の差を見せつけているようだった。

 唇が離れてしまっているのに未だに頭がぼーとしている。

 彼女はどうだろうか。唐突にキスして、手を繋いで、舌を絡ませて。彼女はどう思っているのだろうか。彼女はどう言ってくれるだろうか。気持ち良かったのだろうか。もう一度してくれるのだろうか。

「あの……シオンさん。俺、シオンさんの事が」

 荒い息を少し整えて話しかけようとする。けれど、最後まで言い切る事は出来なかった。

 聡明な彼女ことだ。最後まで言わなくても察して答えてくれるのだろう。

 どう答えてくれるのだろうか。オーケーを出してくれるのだろうか。彼女の物にしてくれるのだろうか。頭の中は彼女の事でいっぱいだ。全てを捧げさせてくれるのだろうか。

 快楽と幸福感に包まれて、期待に胸を膨らませて彼女の声に耳を傾ける。

 しかし、意識が無くなる前に聞いた言葉は期待していた言葉とは全く違うものだった。

「人魚ちゃん。仕上げお願いね」

本日は少し短めでしたが、次に移るとかなり長くなりそうなので一度ここで切らせて頂きますね。

さて、お次は信世くん視点になります。

何に気付いたのか、あのあと綺羅星ちゃんをどうしたのか、『奇跡』についてどこまで把握したのか等々は次のお話にサクッと判明します。

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