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君との絆が奇跡になる  作者: 呂束 翠
『奇跡』使い達
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第11話 シオンの『奇跡』

「え、良いんですか!?」

「うん。良いよ。君にだけ教えてあげる」

 自分の能力を教えるという事は自分の弱点を相手に教えるのと同じようなものだ。バトル物のアニメでは当たり前のように技名と一緒に能力の内容まで敵に教えて、それが原因で負けるなんて展開をよくみる。

 彼女の世界では、能力を伝えるのが普通なのだろうか。こことは違う世界のことだ。そんな文化があってもおかしくない。

 どんな理由があろうとも、折角能力の内容を知れる機会なのだからありがたく聞いておいた方が良い。そして、隙を見て信世に連絡しよう。

「じゃあ、教えてください。あと、少し離れてもらえると助かります」

教えてもらう分は良いのだけれど、こうも近寄られていては集中できない。彼女いない歴イコール年齢の健全な男子高校生にこれは刺激が強すぎる。

さっき手を合わせられた時だってまともに考え事が出来なくて頭の中が真っ白になっていたのに、こうも後ろから抱き着かれて耳に息が掛かりそうな距離で喋られるのなんて童貞の俺を殺す気なのだろうか。

一応人質という立場なのに、こんな誘惑されたら変な妄想もはかどってしまう。助けてほしい。たまったものじゃない。

たまったものじゃないというか、色々と溜まってしまう。理性が大変なことになってしまう。

「えー。どうしよっかな」

耳に息がかかる。後ろから抱き着かれて、背中から感じるとても小さな胸の僅かな感触と彼女の甘い香りで頭がくらくらする。

……この感触は生涯覚えておこう。

「じゃあ、このまま話すね」

「離れてくれないんですね……」

 本気でこのまま続けるらしい。頑張れ俺。全部が終わって帰ったら、自室で鍵を閉めて全ての欲を発散させよう。

 背中から感じる胸のふくらみと、耳元にかかる息の感触から出来るだけ意識を切り離しつつ彼女の話に集中する。

「僕の『奇跡』は見ての通り、ぬいぐるみを自由に操る能力だよ。さっきから見てるから知ってるよね」

 俺の目の前に小さなぬいぐるみ達がくるくる回って踊りだす。

 まるで本当に中に人間が入っているかのようなとても滑らかな動きでダンスしている。これを一つずつ彼女が動かしているというのだろうか。とても器用なことをする。

 ぬいぐるみを扱う能力ということ自体は、信世と戦っている時にぬいぐるみを使っていたので分かっていた。ただ、一番知りたいのはそこではない。

 ぬいぐるみを動かすだけなら大した脅威にはならない。一番知りたいのは、小鳥のぬいぐるみがあの異常な速度で突進したこと、そして、さっきまでデカい狼になっていたあの自称きりるんの事だ。

 これが量産出来るような能力なら、知っておかなければ信世に勝ち筋はないだろう。

「まぁ、これについてはただのチュートリアルみたいな物だよ。でも、翔流君が気になるのはこれじゃないでしょ?知りたいのはきっとアレだよね」

 そう言って彼女は壊れた扉の奥に突き刺さっている小鳥のぬいぐるみを指差す。

「ある程度推測してるとは思うけど、僕の『奇跡』はぬいぐるみを動かすだけじゃなくて、自分の近くにあるぬいぐるみを強化したり、特別な能力を与える事も出来るんだよ。もちろん、そこで立っている着物の子も元々はきりるんって名前を付けられたぬいぐるみだね」

「てっきり、この着物の人に関してはシオンさんと同じ世界から来た人なのかと思ってました」

「まぁ、そう思っちゃうよね。でも、人質にされてたのにそこまで考えてたなんて、偉い子だね」

 そう褒めつつ頭を軽く撫でてくれる。

 俺がしっかり考えているみたいな口ぶりで言ってくれてはいるが、実際はそこまで考えていない。疑問には思っていたけども予想まではしていなかった。

なんて事は言えないので、ある程度話を合わせながら質問を続ける。

 実際、自称きりるんについては彼女と一緒にこの世界に来た異世界人と思っていた。まさか、留守番している見知らぬ人が紡祇の持っているぬいぐるみで、狼になるとは誰も予想出来る訳がない。

「さて、もう一つ気になっている事も答えてあげようかな」

 期待してくれている所悪いけれど、実はもう気になる事はなかったりする。

 気になる事がないというより気にする程の余裕が無い。

 ただ、彼女が勝手に話してくれるそうなので、このまま色々気付いているフリをするとしよう。適当に話を合わせれば満足して開放してくれるのに掛けよう。

「どうして僕が信世君を追いかけてまで殺そうとしなかったか、だよね」

 言われてハッとする。表情に出てなければ良いけれど……。

 突進させた小鳥は床に埋まっていたから動かないのは当然だとしても、信世が逃げた時に他のメンバーが全くと言って良いほど深追いしていなかったのはおかしい。

 殺すと言って扉ぶち抜いておきながら、逃げる信世にはぬいぐるみで引き留めようとするだけで、攻撃という程までのことはしていなかったし、シオンさん本人が追いかけたり、きりるんに追わせることもしていなかった。

わざわざ人質として使えない俺を狼一匹で抑えるくらいなら、その分を信世の妨害に回した方が確実に仕留めれるはずだ。

「本当はきりるんに追わせたかったんだけどね。僕の能力を使うには少しに条件があって出来なかったんだよね。なんだと思う?」

「なんでって……」

 条件か……。

 今知っている事から推測出来るのだろうか。ということならば、俺にも分かるのかもしれない。彼女がいじわるしていなければ、絶対に分からないということはないだろう。それなら少し考えてみようか。

 まずは真っ先に考え付くのが「何故追わなかったのか」だ。

 逃げられて能力の効果範囲外に出てしまったから殺せなかったとしても、それは追ってしまえば解決することだ。なのに、捕まえようとする素振りもなく堂々とベッドに座っていた。

 それに、初めから殺す気だったなら、わざわざ自分の部屋に招かなくても俺達が洗面所で手を洗っている時に仕留めれば良いはずだ。あそこからなら、俺達が洗面所に入った時点で入口に立ってしまえば逃げられないし、そこまで広くないから効果範囲の外に行く心配もない。

 でもそれをしなかった。ずっとこの部屋で待っていた。

ずっとこの部屋でしか能力を使っていないんだ。

そもそも、信世を殺すなら外で歩いている時に後ろから隙をみて殺してしまえば良かったはずだ。でもそれもしなかった。

しなかったんじゃなくて、出来なかったんじゃないか?

信世を追わなかったのも、洗面所で襲わなかったのも、外で能力を使わなかったのも、全部しなかったんじゃなくて、出来なかったんじゃないだろうか。

思い返してみれば、シオンさんが行動を始めたのはこの部屋に来てからだった。

つまり、シオンさんの能力を使う条件は……

「もしかして、この部屋でしか能力が使えないとかですか?」

「正解。流石だね」

頬をちょんと突っついて褒めてくれる。

少し照れてしまって、ついシオンさんの手を除けてしまう

順調に性癖が曲がって行っている気がする。貧乳低身長のお姉さんも良いかもしれない。

「翔流君の言う通り、僕の『奇跡』はこの部屋でしか使えないんだ。この子達を強化したり、能力を与えてもこの部屋でしか使えないし、僕がこの体を自由に動かせれるのもこの部屋の中だけ。この部屋が僕と僕の『奇跡』を封じ込める一種の結界みたいになってるんだよ」

 ほとんど予想した通りだった。たしかにそういう事なら、ずっとこの部屋に引きこもっている事にも納得できる。

信世を追いかけようとする素振りがないのも、この部屋で信世を待つ以外にやれる事がないから、そして外に出たら紡祇と交代してしまうからしないだけなのだ。

いいなぁぁぁぁぁぁぁ。私もからかい上手な男の娘に誘惑されてからかわれたいなぁぁぁぁぁぁ。

まぁ、中身は女性なんですけども。でも良いなぁぁぁぁ。翔流くんそこ代わりなさい。

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