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告白

「ここはどこだろう?」


 次に俺が目を覚ました時、辺りは真っ暗だった。

 近くで川の流れ音が聞こえる。


 俺は優しい明かりに気付いて、視線を向けた。


 明かりは魔道具から発せられたもので、その傍にはレイチェルが座っている。


「良かった。目を覚ましたんだね」


 レイチェルはホッとしているようだった。


 頭が働き始めて、状況を理解する。


 恐らく、レイチェルが俺を抱きかかえるか、背負って下山したんだ。


 それに怪我も治っていた。

 レイチェルの治癒魔法だろう。


「ねぇ、アレックス、どうして魔王の呪いが解呪できたの?」


 レイチェルが当然の疑問を投げかける。


 俺は自分で考えた仮説を説明した。

 聞いたレイチェルは驚く。


「私の能力にそんなことが出来たなんて…………確かにありとあらゆる能力を強化できるけど、アレックスの呪いを止める能力が、呪いを打ち消す力になったのは強化じゃなくて、変化だよね?」


「多分、ずっとレイチェルと触れていると能力が強化されるんじゃなくて、向上変化するんだと思う。今までこんなに誰かと触れていたことは無いでしょ?」


 レイチェルは即答で「あるわけないよ」と言う。


「でも、アレックス、打ち消せる呪いが一つだけって可能性はあったよね?」


「………………そうだね」


「その場合、二人とも死んじゃっていたんだよ?」


 レイチェルは少し怒っていた。


「俺は二人で生きる可能性に賭けたかったんだよ」


「…………」


 レイチェルは黙って下を向いた。


 何か言われるのでは身構えていると小さく震える声で「ありがとう」と言う。


 でも、それ以上は何も言わなくて、俺は気まずくなってしまった。


「な、なんだか、お腹が減ったなぁ」


 俺の言い方は凄く棒読みだったと思う。

  でも、それを聞いたレイチェルは笑ってくれた。


「わざとらし過ぎだよ。大丈夫、怒ってないよ。えっと、こんなもので良かったら、食べる?」


 レイチェルは干し肉を取り出す。


「もらうよ」と言い、干し肉をレイチェルから受け取った。


「美味しい?」


「硬くてあまり美味しくない」


 俺が正直なことを言うとレイチェルは苦笑した。


「そうだよね。またアレックスの料理が食べたいなぁ」


「これから何度でも作ってあげるよ。…………えっと、レイチェル」


 俺は干し肉を食べ終えて、言うべきことを口にする為に勇気を出す。


「どうしたの?」


 レイチェルは俺の覚悟なんて気付かずに軽い口調で聞き返した。

 惚けているわけではなく、本当に気付いていないようだ。


「俺は平民だし、君みたいに強くないし、凡人だけど…………」


 でも、俺がこんな切り出し方をして、何を言おうとしているのか気がついたらしく、両手で口を覆った。

 そして、姿勢を正して、次の俺の言葉を待つ。


「それにさ、このタイミングで君にこんなことを言うのは、恩を売って、断れない状況を作っているようで、卑怯だとも思うけど…………」


 レイチェルはグダグダになっている俺の言葉を黙って聞いてくれた。

 馬鹿にするでもなく、怒るでもなく、笑うでもなく、真剣な眼差しを俺に向ける。


 その瞳に俺は後押しされた。


「だから、えっと、要するに、その…………結婚をして欲しいんだ」


 俺の言葉を聞いたレイチェルは驚き、そして、笑った。


 んっ?

 今、俺はなんて言った!?


 結婚って言ったか!!?


 違う、そんな直線的な言葉を言うつもりは無かった。


「一緒にいたいんだ」的なことを言おうとしたのに、慌てて一番初めに思いついた言葉を使ってしまった。


「ご、ごめん、先走った! まだ出会って一カ月も経っていないなのに、結婚なんて言い過ぎた。でも、真剣に君とのこの先を考えているのは本当で、もし、君が良かっただけど…………でも、俺に気を使わなくていいからさ! ほら、この前、誰かに手紙を書いていたよね? その人が君の思い人なら、俺は諦めるし…………!」


 多分、顔が真っ赤だと思う。

 それに言いたいことが整理できなくて、ぐちゃぐちゃで駄目駄目だ。


「アレックス、自分の鞄をよく探してみて」


 レイチェルは優しく微笑んだ。


「えっ?」


 俺は戸惑いながら、自分の鞄を確認する。

 すると見覚えのない手紙が入っていた。


「それがこの前、私が書いていた手紙だよ」


 レイチェルは言いながら、手紙を俺の手から掠め取り、そのまま破り捨てた。


「でも、恥ずかしいことが書いてあるから見ちゃ駄目。…………アレックス、あなたは私が死ぬ寸前だからっていう理由で、接吻をするような女の子だと思っているの?」


 レイチェルは俯き、両手をもじもじと動かす。

 その仕草がとても可愛らしいと思えた。


 それにレイチェルの両手が俺から離れているとなんだか不思議な気分になる。


「あっ、アレックス、今笑ったでしょ!?」


「笑ったけど、馬鹿にしたわけじゃないよ。レイチェルの両手が自由っていうのが新鮮でさ」


「そう、だね。こうやって、近いのに触れていないのは凄く新鮮…………ずっと手を繋いでいたもんね」


 レイチェルは両手をまじまじと見る。


「それにしても……」


 レイチェルはその両手を自身の顔に当てた。


「私、色々と恥ずかしいことをしたし、言ったよね……?」


「何を今更、って感じだけど?」


 俺が言うとレイチェルはキッと睨む。


「アレックス、言っとくけど、私があそこまで明け透けに話したり、行動したのは人生の残りが少ないと思ったからだからね!? 私だって、もう少し常識あるからね! もし、こういう結末が待っているなら、アレックスが寝ている隣で自○行為なんてしなかったよ!」


 レイチェルは今までのことに対して、自己弁護を始めた。

 でも、君、現在進行形で明け透けな発言をしているからね。


「分かったよ。でも、君が子供の頃から官能小説を愛読して、しかもそのジャンルが『女勇者は奴隷に落ちて……』みたいなのは事実だよね?」


「そ、それは……うぅぅぅ……」


 明かりが魔道具の光だけで確信を持てないが、多分レイチェルの顔は真っ赤だと思う。



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