もう一度手を繋ごう
レイチェルの表情は一言で表せなかった。
嬉しい、怒っている、泣きそう、悲しそう、切なそう、いくつもの感情が混ざっている表情だった。
「ねぇ、アレックス、私は聞いているんだよ? なんでここにいるの? なんでこんな危険なことをしているの?」
今度は怒りの感情が強くなった気がする。
でも、それは俺が無茶をして、死にかけたことを怒っているようだった。
「君ともう一度、手を繋ぐために」
俺は手を伸ばした。
レイチェルも手を伸ばしかけて、途中で止める。
「アレックス、残酷なことをするんだね……私にこれ以上、生きたいと思わせるつもり?」
レイチェルは泣きそうだった。
「君は死なせない。でも、残酷なことじゃない。この手は君の運命を変える。君からもらった力で、君自身を救いたいんだ」
「私があげた力?」
ここまで格好をつけておいて、一つだけ不安があった。
それはもし、今の俺の力で打ち消せる呪いが一つだけだった場合だ。
その場合は二つ目の呪いでレイチェルは自壊し、俺も巻き込まれて死んでしまうだろう。
でも、もしレイチェルを救えないなら、そうなっても構わないと思った。
俺はどんな危険を犯してもレイチェルを失いたくない。
「もう一度、手を繋いでくれ」
レイチェルはそれ以上、詳しく聞かなかった。
黙って、俺と手を繋ぐ。
それは今までの俺たちからしたら、とても短い時間だった。
表面上は何も起こらない。
周囲には視認できる動植物がいない為、呪いが打ち消せたのか分からなかった。
分かっているのはとりあえず、レイチェルが自壊する呪いは発動していないことだけだ。
「これで何かが変わるの?」
レイチェルの問いかけの対して、俺は何も言えなかった。
今の所、確認する手段が無い。
鳥とかでいいから、生き物が近くに来てくれればいいんだけど…………
その願いは都合よく叶えられる。
ただし、都合の悪いことも起きた。
『ギャアアアア』という先ほどと同じ咆哮が聞こえた。
二体目のファイヤードレイクが姿を現す。
って、ファイヤードレイクって一頭じゃないのかよ!
慌てる俺の横でレイチェルは驚いていた。
先ほどまでなら、魔王の呪いの有効範囲だったはずの距離にいるファイヤードレイクが何ともない。
それは分かりやすい解呪の証明だった。
「アレックス、私、呪いが…………!? でも、どうして!?」
レイチェルは泣き始めた。
泣きながら、笑う。
「うん、そうだね。説明してあげたいけど、その前にあいつをどうにかしないと!」
感動的な場面にしたかったが、攻撃態勢に入ったファイヤードレイクがそれを許してくれなかった。
「うん、そうだね。アレックスの怪我も酷いし、さっさと下山しないと!」
レイチェルは言いながら、剣を抜いた。
そして、剣を振る。
恐らく、風の魔法の一種だろう。
斬撃が飛び、ファイヤードレイクへ直撃した。
『ギャアアアア!』
しかし、ファイヤードレイクは一撃は倒せなかった。
それどころか、レイチェルを脅威に感じたらしく、さらに高く飛ぶ。
こうなると飛ぶ斬撃は届かないだろう。
だったら、逃げようかと思ったが、ファイヤードレイクはまだあきらめていない。
ファイヤードレイクが放った火炎が俺たちに襲い掛かる。
しかし、それを今度はレイチェルが水の壁を作って、防いだ。
「ファイヤードレイクの攻撃をこんな簡単に防ぐなんて……」
改めて、レイチェルが勇者であり、強者であると理解した。
だとしても、飛翔しているファイヤードレイクに対して、攻撃手段が無いんじゃないのか?
「アレックス、私のとっておきの技を見せるね」
レイチェルは笑った。
そして、目に見えるほどの密度の魔力を背中へ集める。
集められた魔力はまるで翼だった。
「ちょっと行ってくるね」
レイチェルはそう言って、魔力の翼を羽ばたかせた。
飛翔し、一瞬でファイヤードレイクと距離を詰める。
レイチェルとファイヤードレイクの戦闘は一瞬で終わった。
レーテ村でジャイアントオークの首を落とした時のように一刀でファイヤードレイクの首を落とす。
ファイヤードレイクは鱗もあるし、ジャイアントオークよりも固いはずなのにそれを感じさせなかった。
あの時と違って足手纏いがいなかったから、レイチェルは全力を出せたんだ。
「勇者って凄いな…………」
レイチェルが地面に着地する。
「終わったよ。他のファイヤードレイクもいるかもしれないから、早く下山しよう」
レイチェルはとても嬉しそうだった。
それを見て、俺は安心する。
俺が女の子一人を救ったんだ…………
「ア、アレックス!?」
安心したら、急に意識が遠くなった。
そういえば、ここ二日間、まともに寝ていなかったな。
それに山を全力で駆けあがって、ファイヤードレイクに襲われて、もうボロボロだ。
俺が崩れ落ちる寸前、レイチェルが支えてくれた。
「アレックス、本当にありがとうね」
それを最後に俺の意識は途絶える。




