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少女は一人で…………

今回は三人称視点になっております。

ご了承ください。

 火口まで辿り着いたレイチェルは座り込んでいた。

 目の前にはオレンジ色に光る溶岩が広がる。

 あの中に飛び込めば、全てが終わる。


 全てを終わられる為にレイチェルはここへ来た。

 その決意に偽りはなく、本当に死ぬつもりだった。


「嫌だ……死にたくないよ……」


 でも、いざ、ここまで来て、躊躇いが生まれてしまった。


 魔王を打倒した直後は興奮していたし、他の勇者が全滅したのに自分だけ生きたいなんて我儘だと思った。

 だから、自決という行動を選択することが出来た。


 でも今は違う。


 生きたい、と思ってしまった。

 一緒に生きたい、と思う人が出来てしまった。


「なんで私、あの時、アレックスの提案を断ったの? アレックスがいいって言ってくれたから、どこか人のいない土地で一緒に暮らせたのに……ううん、それは駄目!」


 レイチェルは自らの意志を否定する。


「そんなことをしたら、アレックスの一生を巻き込んじゃう…………! 私はここで死なないといけない…………! なんで死なないといけないの…………?」


 レイチェルは迷い、苦しんでいた。


「アレックスのいた村、とても優しい雰囲気だったなぁ。あんなところで暮らしたいなぁ。それで結婚して、子供は三人。初めは女の子が良いなぁ。それでアレックスが溺愛して…………」


 レイチェルは自然にアレックスの名前を出したことに驚き、そして、笑った。


「そう、アレックスが溺愛するの。でも、私の子供だから強くて『お父さんに守られなくても私強いよ。むしろ私がお父さんを守ってあげる』とか言われて、アレックスが落ち込んで私が慰めて…………それで娘が大人になって、結婚っていう時、アレックスが私に寂しくなる、とか愚痴って…………私がまだ産めるよ、とか言ったら、少し呆れながら、私に突っ込みを入れて…………」


 レイチェルは現実から目を逸らして、理想を呟き続ける。



「レイチェル! 返事をしてくれ!!」



 だから、最初に聞こえたアレックスの声は幻聴だと思ってしまった。


「あはは、アレックスの声が聞こえるよ…………もう私、おかしくなっているのかな? …………だったら、これ以上、おかしくなる前に終わりにしないとね…………」


 レイチェルは立ち上がった。

 そして、火口へと足を進める。


 溶岩の熱気を感じるところまで近づいた時だった。


 ファイヤードレイクの咆哮が聞こえた。 


 レイチェルは足を止める。


「あの咆哮は明らかに威嚇だった。でも、こんな山頂付近でファイヤードレイクが威嚇する対象って何?」


 レイチェルは自分がとても都合の良いことを考えていると気付く。


 一度は突き放したアレックスが自分を追ってきたと思いたくなった。


 そんなはずないのに、とそれを否定しようとした時、



「レイチェル、そこにいるのか!?」



 今度ははっきりと聞こえた。


「アレックスの声だ…………!」


 レイチェルは声のした方向へ走り出す。


 すぐに飛翔しているファイヤードレイクを発見した。


 ファイヤードレイクは何かに攻撃をしようとしている。


「アレックス!?」


 レイチェルは、ついに幻影まで見始めたのかと思ったが、怒り狂ったファイヤードレイクが全て現実だと知らせていた。


 レイチェルは夢中で走り出した。


 このままだとアレックスが死んでしまう。

 絶対に死なせたくなかった。


 レイチェルがファイヤードレイクへある程度近づくと、魔王の呪いが発動する。


 ファイヤードレイクは飛ぶ力を失い、地面に激突し、そして、絶命した。


 強靭な生命力を持つファイヤードレイクでさえ、魔王の呪いの前では無力だった。


 しかし、レイチェルは初めてこの力に感謝する。

 魔王の呪いのおかげで最愛の人を守ることが出来た。


 レイチェルはゆっくりとアレックスに近づく。


 本心は嬉しかった。

 もう会えないと思ったアレックスに会えたのだ。


 だけど、何故、アレックスがここにいるか分からない。

 

 結局、喜ぶべきか、怒るべきか分からなかったレイチェルは、

「なんで、アレックスがここにいるの?」

と色々な感情が混在する表情でアレックスに尋ねた。


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