異変の始まり
「ちょ、瑠璃・・・ん・・ぁ・・・」
急に押し倒され、唇を奪われた咲耶は冷静に状況を判断しようと
必死に頭を回転させる。
所詮ゲームの中で唇を重ねたところで、それはキャラ同士の顔が
密着しているだけだという話しで、感覚があるわけではない。
そう思っていた咲耶だったが、いざ眼前で頬を蒸気させ
おぼろげな瞳で直視してくる彼女が目に入った瞬間、
自分の唇に暖かい感触を感じた。
「(なに・・・これ・・・・・まさか!?)」
不思議な感覚にしばらくボーっとした後にこのゲームの
コントローラーと瑠璃が言った夢魔の話を思い出した。
このゲームではフィードバックシステムでキャラクターを
操作できる為、想像力が豊かなほど強力な技でも魔法でも
実現することができる・・・そう、実現させる事ができるのだ。
「(じゃあ瑠璃の唇があたたかいって感じるのは・・・はぅ・・・)」
咲耶は先程から感じる瑠璃の唇、そのあたたかさを自分が
想像してしまっている事に気付き、瑠璃よりも更に頬を赤らめる。
それに気づいた瑠璃は咲耶が嫌がってはいないのをいい事に、
左手を首にまわして右手は腰のあたりに置いた。
すると咲耶はまたいらぬイメージを抱いてしまったのか
身体をピクリと動かすが、先ほどの自爆ダメージから
抜けきっていないのか一切抵抗の様子を見せない。
そんな咲耶の反応が瑠璃の興奮を更に高めるが、
瑠璃はこのまま責め続けたい衝動に耐えてゆっくりと
咲耶の耳元で口を開く。
「あらぁずいぶんと顔が赤くなってますねぇ。
息も荒いようですしどうかしちゃったんですかぁ?」
貴女のせいでしょ!と咲耶が反論しようとするが、
それよりも先に瑠璃が再び唇を重ねてそれを遮った。
もちろん現実で口を塞がれているわけではないので
ボイスチャットで喋る事はできるのだが、このゲームを
始めてからずっとフィードバックシステムを使い続けている為、
咲耶や瑠璃のような常連プレイヤーは自然とキャラクターで
喋り、聞いているイメージが脳にこびりついているせいで
口を塞がれてしまうとうまく喋れなくなってしまうのだ。
「もしかしてぇ感じちゃってますかぁ?」
更に濡れちゃってたりしますぅ?と更に追い討ちを
かけてくる瑠璃に、流石に羞恥心よりも怒りが勝ったのか
無理やり身体を動かして上下を入れ替える。
「あららぁ流石に力は強いですねぇ。
しかし素晴らしいボディです、抱き心地も最高ですよぉ」
上下が入れ替わった事になり、多少は大人しくなるかと
思われた瑠璃だが、その余裕はまったく崩れずに
自分に覆いかぶさる咲耶の身体を堪能し、
咲耶はあまり状況が変わってない事にため息をつく。
「ねぇ瑠璃、どうしたのよ急に?」
抱きついてくるのは珍しい事じゃないけれど、
ここまでしてくるのは流石に今回が初めてよ?と
多少冷静さを取り戻した咲耶が言うと、瑠璃は
プイッと顔をそらして言う。
「まぁ・・・理由は咲耶にはわからないでしょうねぇ」
「あ、貴女ねぇ・・・ここまでしといてその言い方は何よ」
咲耶は鈍感ですからねぇと勝手にうなづいている瑠璃に
今度は咲耶がつまらなそうな顔をずいっと近づけて言い返した。
すると顔が近づいた隙に瑠璃は再び、しかし今度は軽く
唇を重ねると、先ほどとは打って変わって笑顔になる。
「そのうち話してあげますよ、今日はもう落ちますねぇ」
このままベッドに直行しますのでーと言って消えていく
瑠璃のキャラを見て、咲耶はどうせ寝るのではなく
今の興奮を収める為に行くのだろうと想像したところで
再び羞恥に頬を染めてその場に寝転がる。
そして同時に、出会った頃は多少嫌悪感を感じた瑠璃の愛情表現を
今は自然と受け入れている自分に軽く驚き、軽く息を吐いた。
「私も瑠璃の色に染まってきたってことかしらね・・・」
瑠璃との長い付き合い、そして先程のような行為を思い出していた
咲耶は下腹部が疼くのを感じ、あわててそれらの考えを払いのけて
ゲームからログアウトした。
ふと手元の時計を見ると、ホームをでた時はまだ昼間だったのに
もう日が沈んでいる時間だということに気づく。
「うぅ・・・全部瑠璃のせいよ・・・シャワー浴びて寝ましょう」
こうしてまた二人の濃い一日は終わり、気づかぬうちに
二人の仲は更に親密になっていくのであった。
昨晩、咲耶との行為で高まった興奮をベッドで沈めた瑠璃は、
目を覚ましてから一直線で浴室へと向かってシャワーで身体を流す。
その際にも何度か赤面する咲耶を思い出し、自身の白く細い指を
身体に這わせるが、温度を示すデジタルモニターに表記されている
時刻が既に普段からナイトメアオンラインに接続する時間だという事に
気づき、行為を中止した瑠璃はタオルを身体に巻いて浴室をあとにする。
「今日は少し真面目な話をしないといけませんからねぇ」
その格好のままPC前の椅子に腰を下ろした瑠璃は携帯端末を手に取り、
妖狐に自分のホームへと来るようにメールを送ってからPCを立ち上げ、
ナイトメアオンラインを起動する。
すると、接続すると同時に妖狐からメールが帰ってきて内容には
『言われると思ってホームにk』と途切れた文章が書かれていたので、
途中で間違えて送信してしまったのだろうかと対して気にせず
キャラクターを選択し、そこでその理由がわかった。
「・・・妖狐ぉ?」
「・・・瑠璃・・・違う、違う」
そこには咲耶にむぎゅっと抱きしめられている妖狐が
苦しそうにパタパタと耳と尻尾を振っており、それを見た
瑠璃は綺麗な笑みを浮かべて妖狐を睨む。
だが流石の妖狐も怖いのか、必死に自分が悪いんじゃないと
首を横にフルフルと振って否定を示す。
「あら、おはよう瑠璃」
妖狐の様子で瑠璃が接続して来た事に気づいた咲耶は
とろけるような笑顔で瑠璃に朝の挨拶をするが、瑠璃は
妖狐が羨ましすぎたのか挨拶がわりに咲耶に抱きつく。
「咲耶、なにしてるんですかぁ?」
瑠璃が抱きついたまま恨めしそうな視線を咲耶に向けると、
咲耶は瑠璃の頭を撫でながらウフフと笑ってこたえる。
「ほら私って一人暮らしだから、猫とか犬とかペットを
飼いたいのだけれどやっぱり世話とか難しいじゃない?」
「まぁ・・・」
一人暮らし、という部分で瑠璃は咲耶が両親を同時に失ったという
話を聞いた時の事を思い出し、若干ばつの悪そうな顔をするが
咲耶は気にした様子もなくそのまま続ける。
「だからペットシステムとか欲しいわねぇ、なんて悩んでたら
ホームに妖狐がいるんだもの、これが我慢できずにいられるかしら!」
そう言いながら更にぎゅっと妖狐を抱きしめる咲耶と妖狐を
軽く睨んでいた瑠璃だったが、珍しくそれ以上は突っかからずに
咲耶の腕を抱くように隣に腰を下ろす。
「仕方ないですね、今回は少し真面目な話があるので
特別にそのままいてもいいですよぉ」
「あら?」
てっきり妖狐を引き剥がしにくると思っていた咲耶は
少し拍子抜けした感じで瑠璃を見るが、瑠璃はウィンドウを開き
自分のスクリーンショット画像を何枚か表示し、それを
咲耶と妖狐の前に移動させる。
その際に咲耶のあられもない姿のスクショも何枚か見えたが、
瑠璃が珍しく真面目な顔をしているのと先ほどの妖狐の件を
大目に見てもらった事で、それらを見て見ぬフリをして
咲耶は瑠璃が表示した画像に視線を移す。
「これって私たちが倒したボスモンスターやイベントモンスター?」
中には咲耶たちが倒したモンスターの他にも他のプレイヤーたちが
戦っている画像も表示されているが、それら全てがボスモンスターや
前日戦った鎧武者のようなイベントモンスターの画像である事に
気づいた咲耶が瑠璃にそう問いかけると、瑠璃は静かに頷く。
「実はですねぇこれらのボスを含むモンスターが確認されたのは
ここ一週間の話なんですよぉ」
瑠璃がそう言うと、その言葉に真っ先に反応した妖狐は
表示されたスクリーンショットの数を片っ端から数え始める。
「18・・・19・・・20・・・21・・・22・・・・・・おかしい」
そしてスクショを数え終わった妖狐は少し焦った様子で
瑠璃の顔を見ると、瑠璃はやはりですかぁと軽く唸る。
二人の様子を見ていた咲耶は何がおかしいのだろうと
急な展開についていけずにいたが、ふと先日このゲームの
公式ページを見たときに、最近はイベント告知などが全く
更新されていなかった事を思い出して違和感の正体に気づく。
「そういえば、ここ最近ボスモンスター襲撃とかの告知なんて
見てないのにどこでこんなにボスがでたのかしら?」
咲耶が疑問に思ったことをそのまま口にすると、
瑠璃と妖狐が同時に顔を咲耶へと向ける。
「そう・・・それがおかしい」
「私と妖狐は咲耶に比べるとこのゲームをプレイしてる時期が
大分長いんですけどねぇ今までこんな事なかったんですよぉ」
プレイヤー間のやり取りに対する対処はともかく、イベントや
メンテナンスの告知はしっかりする運営なんですけどねぇと
言いながら瑠璃は表示していたスクリーンショットをまとめて
片付けて立ち上がる。
「という事で妖狐、貴女を呼んだ理由はわかりましたか?」
「ん・・・行ってくる」
瑠璃にそう言われた妖狐は詳しい話も聞かずそのまま
ホームから出て行ってしまうが、意味のわからない咲耶は
瑠璃に今のやり取りについて思わず聞いてしまう。
「・・・貴女たちは今のでやり取りが成立するの?」
「あははぁそれなりに長い付き合いですからねぇ」
そう答えた瑠璃は先程とか別のウィンドウを開き、
どこかへゲーム内メールを転送すると咲耶の腕に
自分の腕を絡めて歩き出す。
「さて、それじゃ私たちも行きましょうかぁ」
急に歩き出した瑠璃に驚きながらも慌てて歩幅を合わせた
咲耶は思わず瑠璃に聞き返す。
「ちょ、ちょっといきなりどこに行くって言うのよ」
「それはですねぇ今回の異常事態を調べるためにこの世界で
一番情報が集まる場所を訪ねてみようかなぁと思いましてぇ」
「どこよ・・・それ」
瑠璃は自分たちの足元―地面を指差して答える。
「この悪夢世界の破落戸が集まる大型ギルド、
空洞都市アースランドを支配する嵐王国ですよぉ」
お久しぶりの更新となります・・・遅くなって申し訳ありませン。
すべてドラクエ10が悪いんです、そうだドラクエが悪い。
ということで次回からはまた普通に更新していけたらいいなと思います。
今後ともよろしくお願いします。




