第484話 灯火が消えぬ間に……、
「あんまり気負いすぎるなよ。」
「ああ……。すまない……。」
ゲイリーに引導を渡し、徐々にチリチリと灰のように消滅していく様を見つめていた。涙を流しながらそんな姿を晒しているもんだから、それを見かねた相棒が声をかける。普段、俺にはそんな優しくしないような男だが、こういうときは流石にそういう風になるもんだなぁと俺は思った。それが今の俺の心に染み入った。
「お前、この期に及んで、コアを壊さなかったのかよ……。」
「……ゲイリーを介錯することしか、頭になかったんだ。」
「お前の”無意識”剣が産み出した結果か……。でも、まあ、それだけこの男にコアが定着してなかっただけかもしれんな。無意識であれ、相手を斬ったときに同時に消滅しないのはそういうことなんだろうよ。」
不肖の弟子に始末をつける……それ以外、頭には何も浮かんでいなかった。今までの思い出で頭が一杯だったというのもあるし、何しろ全身が痛いし、頭もガンガンする。色々と余裕がなかったのだ。きっとコアを破壊しようと思っていたとしても、体力的に不可能だったはず。アレを破壊するときはとてつもなく体力も精神力も消耗するのだ。
「戦いは……まだ終わってないな……。」
「奴らめ……、俺達に何が起きたのかさえ気付いてないのかもしれんな。」
遠くを見ると鬼とグレートが戦いを続けていた。オニオンズですらもう片付いているというのにだ。ああやってグレートが鬼を押さえていてくれたからこそ、ハリスやゲイリーに対処することが出来たのだ。混戦になっていたら、今頃どうなっていたかわからない。
「良かった。生きていてくれて……。私たちが決死の思いで助けようとしてもどうにもならなかったから……。」
「一時は我々も全滅する可能性すらあったというのに……奇跡という他ないな。」
エルとエドがよろよろと俺達のところに歩み寄ってきた。俺は最初の一撃で気を失ってしまっていたから詳しい状況は知らなかったが、きっと俺を助けようとしてみんな傷付いてしまったに違いなかった。それでも怪我を負った程度で済んでいるのは、エドの言うように奇跡としか言いようがなかった。あの暴力の嵐に巻き込まれて助かって安心した。
「君らが倒したのであれば、我々の勝利ということになるな。ハリスの僮達も生命を維持しきれまい。」
「俺らがやった訳じゃない。あいつらが勝手に自滅したようなものさ。」
ハリスを殺したのはゲイリーでコアを奪った故に主が死んでも平気だったのだろうが、その他のオニオンズ達はそうもいかなかったようだ。数多くいたのに奴らの軍団が瓦解したのはハリスの死が原因のようだ。周囲を見ると、次々と灰に変わっていっている様子が確認できた。灰に変わる……? その事実を考えたとき、俺は重大なことを忘れていたことを思い出した!
「そうだ! カレル! カレルはどうなったんだ?」
オニオンズが消滅の一途を辿るなら、同じくハリスによって作られた複製人間のカレルだって無事で済まされるはずがない! その事実に今頃気付いた俺は周囲を見渡してカレルの姿を探した。ようやく見付けはしたが、彼は地に伏せ倒れたままだった。しかも、体から徐々にチリチリと灰を舞い上がっている様にも見えた! 俺は急いで彼の元へと駆け寄った!
「カレル! しっかりしろ!」
「……君か。良かった。無事だったんだな。」
「俺は大したことなんてない! でも、アンタはもう……、」
「そうだ。ご覧の通り、仮初めの命を与えられた私はたった今、滅びの時を迎えている。」
ゲイリーがハリスを殺害してからこうなっていたに違いない。アイツにばかり気を取られ、それどころか、俺は気を失ってさえいた。なんと情けないことか! 彼もそうだが仲間達を守ることすら出来ずに気を失っていた自分を恥じる事しか出来なかった。
「君との約束は果たさなければならないな……。あの日の真実を手短に話す……。」
「そんな話はどうでもいい! 無理すれば命が持たない! そうだ! コアだ! コアがあれば……、」
「止めるんだ。そんなことをしてもその行いは我々の首を絞めることになる。それこそ私の命を狙った者にとっては好都合になってしまう……。」
「それはどういう……、」
「私の命を狙ったのは……ヴァルだけじゃない。テンプル騎士団総長も関わっているんだ。そして、私に致命傷を与えたのもあの男だ。」
「なんでそんな人間が関わっているんだ? 法王庁の人間がなんで勇者の命を狙うんだ?」
意味がわからなかった。カレルの命を奪ったのはヴァルではなく、テンプル騎士団の総長? テンプル騎士団ってたしか法王直属の騎士団だと聞いている。そんな組織の人間から命を狙われるとは、どういうことなんだ?
「彼はヴァルを勇者の殺害犯に仕立て上げ、隠蔽しようと画策していたようだが、あの日にヴァルを討ち漏らしてしまったようだな? 殺害した上でなら、物言わぬ屍が真実を口にすることもできないはずだからね……。」
「ヴァルすらターゲットになっていたのか? 勇者と英雄が共倒れになったところで何を……?」
「思い当たる事はある……。少なくとも私とヴァルは”七賢人”に煙たがられていたからね。彼らにとって私達は計画の邪魔になると判断していたのだろう……。」
”七賢人”……確か、フェルディナンドがその内の一人だったという説があると聞いたことがある。他にも法王や聖女までもがその一員であるとも……。確かに世界制覇を目指すヴァルなんかはそいつらにとって脅威だったんだろうけど、カレルは? 勇者が彼らの妨げになっていたのだろうか?




