729.冷戦はどこの世界にもありますよ。
イリーナ達をヒアリングした結果、必要だからと学んではいるものの、現実味を感じられないため、身に入らないと言った感じ。
二人とも頭で考えるより体で覚えるタイプだもんね。
それならば、それで体で覚えるくらい実務をやらせてあげるだけ。
「無理っ!」
「わかんねぇよっ!」
苦情は聞かない。
私や周囲の手間や時間が増えるけど、身をもって必要性を学んでもらうためには必要な事。
どうせ私は秋祭りの時に舞踏大会に勝手に出たとからと、罰で行動制限されて監視下に置かれているのだから、時間はあるので幾らでも付き合ってあげるわよ。
ちなみにシェリーちゃんとミーナちゃんは私に巻き込まれただけなので、何とか守り切って無罪。
伴奏をしていたサッシャ達は村の音楽隊は私からの報酬目当ての参加だったので、自分でディアーナ様達を何とかしなさいと放置。
現在、罰として秋の収穫物の加工作業に、朝から晩まで従事しているそうだ。
頑張れ、後で差し入れくらいはするわ。
「騎士団だって、事務仕事は沢山あるのよ。
護衛騎士ともなれば、主人の仕事を手伝う事だってあるから、それくらいの作業は求められる事もあるの」
嘘ではない。
日誌は最低限付けるとしても、報告書や消耗品の申請と使用記録、設備の申請から人の手配にそれに付随する書類の作成。
その中には計算だって必要となる。
仕事の手伝いに関しては、私の場合は偶にアドル達にやらせる程度だけど、王太子であるカイル殿下の場合、使えそうな人間は専属の護衛騎士にして、どんどんと仕事を叩き込んで手伝わせているって話だからね。
「あっ、ちなみに来年の秋祭りにはイリーナ達四人を舞台に出すから、そのつもりでね」
「……は? なんでっ!?」
「関係ないですよねっ!?」
「言ったでしょう、主人の仕事の手伝いをする事があるって。
私がまた出ようとすると、周囲が怒るからその代わり。これ、当主命令ね」
すごく嫌そうな顔をするけど、別に本気で私の代わりという訳ではないので悪しからず。
怒られようが周囲が反対しようが、やりたければ自分で出るのが私。
イリーナ達って、ちょっと思考も身体も硬いのよね。
頭も身体も解すには舞踏は良いのよ。
一見、不規則な動きの連続だから、体幹や身体のバネを鍛えるのにも良いし、リズム感を磨くにも良い。
その上で、騎士は怖いだけではなく、親しみのある人間だと広報にもなるのだから、立派な仕事よ。
「クラリスとネギラークには貴方達の口で伝えておいて、連帯責任だと」
「「ぐぉ〜〜〜〜っ」」
うん、心地良い悲鳴だわ。
でも四人全体の底上げに繋がるのだから、必要な事よ。
アドル達同様に、四人は班で動く以上運命共同体。
互いに互いを把握すると同時に、自然と協力し合う思考と体制を作っておかないと。
「ああ、それとこれは最初の課題ね。
一個中隊の部隊を動かすのに、どれだけの人と物資が必要で、移動にどれだけ時間が掛かり、その間の監視体制の必要性と消耗品の使用計画を出して来なさい。
セバスあたりに相談すると、きっと資料を揃えてくれるから、その際にもどういった基準で資料を選んだかも学んでおくと良いわよ」
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部屋に戻りラッキングチェアに腰掛け、体の力を抜いてゆっくりと息を吸う。
珍しく暇だ。
やろうと思えば幾らでもやる事はあるけど、今やらねばならない仕事はあまりない。
港街の方は秋祭りを終えたので、その後始末と収穫物の税の徴収に忙しくはあるけど、その報告が私の所にまで上がってくるのにはまだ時間が掛かる。
行政そのものも年間計画通りにだいたい進んでいるので、私が何か新しい事をしない限り丸投げ状態……、と言うか任せないと人が育たないので、今は手を出さないで欲しいと言われているからね。
秋頃には届くだろうと思っていたトライワイト王国からの賠償である船は、一度王国に献上した後に私に下賜されると言う形になったため、春頃にフォルスの港街に入港してからの話になるので、まだ時間的余裕はある。
魔導船に関しては既に完成しており、秋祭りの際に進水式を行い、そのまま試験航行を兼ねて同じくフォルス港に向かっているけど、こちらは船の速度が違うからね。
普通ならば三ヶ月以上は掛かる航路も、半月で到着するのでもうフォルスの港に到着しているはず。
三隻の魔導船の内の一つは国に献上したけど、残りの二隻はそのまま東の方に行って、商売をしてくる予定で、どちらにしろ私の手から離れた事なので関係なし。
商売と言えば商会なんだけど、元々副商会長のゼルに丸投げしていたものの、そのゼルから新規の事業を起こすのは、しばらく禁止と通達されてしまっている。
『無事に出産を終えるまで、大人しくしていて下さい。
シンフェリア家に跡取りがいるかいないかで、今後の商売に大きく関わってくるんです。
将来、商会員を路頭に迷わせたくないとお考えならば、私の言う事を聞いてくれると信じています』
商会長に脅しを掛けるゼルも酷いよね。
ごもっともな意見なので、従うけどさ。
新規の事業を起こしても、今は人手が足りないと言っていたもの。
それで魔導具や魔法の研究も、ちょっと行き詰まり気味だし、あまり根を詰めると周りが煩いので、此処暫くは読書をしたり、料理をしたり、若い子達の面倒を見ていたりとしているのだけど、それもちょっと飽きて来た所。
ちょこちょこと工作もして来たけど、う〜ん、ちょっとリフレッシュしたい。
嫁二人に甘えたい気分だけど、秋祭りの時にシェリーちゃん達とユニットを組んで舞踏した事で、ちょっとまだプンスコ状態なのよね。
『じゃあ、ジュリとエリシィーは、一緒に踊ってくれた?』
『あんな人前でなんて無理ですわっ!』
『恥ずかしいから嫌よ』
そう言うと思ったから、内緒にしてシェリーちゃん達とユニットを組んだのに、それでも怒るだなんて酷いよね。
十三歳のシェリーちゃんと十歳のミーナちゃん、その中間に見える私とで、丁度見た目のバランスも良いと思っただけなのに、ヤキモチを焼かれてしまった。
あと、私が正体を隠すために、カツラと付け耳と付け尻尾をして【ふわかわケモノっ娘隊】として舞台に飛び入り参加をしたのが似合い過ぎていたのも原因らしい。
それだって……。
『せっかく、ふわ可愛い子供の獣人族がいるなら、可愛さを全面に出さなてどうするのよ』
この一言に限る。
私はそのコンセプトに合わせただけよ。
フワモコの可愛い耳と尻尾をした幼さを残した女の子が、かわかっこよく踊るのよ。
舞台の最中に必要以上に仲が良さそうに見えたのだって、そう言う演出なの。
子猫が数匹重なっているだけで、可愛く見えるのと一緒よ。
顔が近かったり、手を重ねたり、抱き合ったりするくらい何よ。
あざと可愛いは、演出の基本よ基本。
あと真面目な話、獣人族に対する差別の緩和を狙った物でもあるのよね。
だからこそシェリーちゃんもミーナちゃんも、恥ずかいと思いながらも全面的に協力してくれただけなのに、それなのに邪な目で見たら可哀想だと思うの。
周りに黙っていた事で、私が巻き込んだシェリーちゃん達を庇ったのも要因だと思うけど。
と言う訳で、ちょっと嫁二人との冷戦が長引いている状態。
二人が面白くないのも分かるけど、私も疑われて面白くないのだから仕方がないでしょ。
「と言う訳で、癒しをプリーズ」
ポイ。
部屋に入って来たエリシィーに飛びついたら、ベッドにそっとポイされてしまった。
嫁が冷たい。
いえ、優しいけどね。
どっちやねんと言う以前に、節操なしとも言うけど、心の儘に動いた結果でしかない。
エリシィー成分とジュリ成分が足りないのよ。
「ふぅ……」
うわぁ……、そこで溜め息を吐かれるとキツイんですけど。
でも真面目な話、そろそろ許して欲しいなぁと言うか、分かって欲しいと言うか。
「ユゥーリィ、ちっとも分かっていない」
「……ぇ〜と、何が?」
「自分でも矛盾しているとは分かってはいるの。
最初から話を聞いていたら、きっと反対していただろうし、シェリーちゃん達と仲が良さそうに見えたのだて、私が思うような事ではないってのも分かってはいるの。
でもね、最初から除外されていただなんて、すっごく腹が立つのよ。
頼まれたって、あんな大舞台で踊るだなんて真似は恥ずかしくて絶対に頷かないと言いきれはしてもね」
うわぁ〜、確かに矛盾しているけど、何、その可愛い理由は。
つまり一番最初に話を持って行かなかったから、腹を立てていたと。
でも賛成するどころか、反対する側に回ると自分でも分かっているから、余計に素直になれないから、ムクれていただなんて、私の嫁達は可愛すぎる。
「ユゥーリィ、そこでニヤニヤするところ、私、嫌い」
「が〜〜んっ! 嫁の可愛さを再認識していたら嫌われたっ!」
むに〜〜〜〜っ!
「いひゃい、いひゃい、いひゃい」
「ユゥーリィーっ!」
この後、遅れて部屋に来たジュリにまで、私の頬を散々弄ばれてしまったけど、仲直りできる切っ掛けになったのでよし。
「すぅ〜〜〜〜、はぁ〜〜〜〜。
危うく禁断症状が出る所でしたわ」
ジュリ……、人の頭頂部でクンクンしながらそういう事を言うのは、出来れば止めてくれないかな。
色々と台無しだからね。
いえ、胸に顔を埋めている私が言っても説得力はないですけど。




