485.沈黙は金なりと言うじゃないですか。えっ、この場合は違う?
三日ごとの更新から、二日ごとの更新に改めます。
相も変わらず慌ただしい毎日を過ごす中、年に三回卵を産むペンペン鳥と群青半獅半鷲の二回目の産卵がピークを終えた頃、約束の日が近づいて来ました。
「皆の者一同、今度の事を心より楽しみにしております」
「此処では領主様のおかげで、時折、海の物も口にさせて戴けますが、やはり自分で採った物となると、味も嬉しさもひとしおです」
ダルスとケーニャの言葉に、私も嬉しくなる。
田舎だから催し事も滅多にないからね。
【第二回、夏だっ!海だっ!その手に掴めっ! 海の幸、手掴み大会っ!】
参加自由で、費用は無料っ!
道具の貸し出しありで、得た獲物のお持ち帰りも自由っ!
余った物は、皆んなで保存食に加工したり、収納の魔法の中に保管して普段の食事に。
もちろん、食料以外に肥料になる物や利用できる物は、根こそぎ採って来てもらうけど、領民達に取ってはメリットしかない話。
その上、お祭り騒ぎになるとなれば、尚の事。
私としては、私やジュリがいくら頑張っても採り切れないし、無駄になってしまうから、皆んなの手を借りれて皆んなが楽しめたのなら、と言う程度でしかないんだけどね。
とりあえず、ダルスとケーニャには、皆んなの準備の様子を聞くためもあって朝食会と称して呼び出した。
招待したのは、ダルスとケーニャだけで無く……。
「私も楽しみにしていましたの。
今度は、アイリスも参加してくれますし」
この地の教会の代表者として、ローランド様が微笑みながら答えてくれるけど、前回の時は物凄く活き活きと楽しんでいられたんですよね。
参加者も増えると言うのは、大変喜ばしい事だと思う。
「あのう、それですと留守番が二人だけになってしまいますが、宜しいので?」
「ええ、殆どの方が向こうに行きますし、二人いれば十分かと。
それに、貴族出身のあの子には、今回の様な催しは、少々合わないでしょうから」
言外に『貴族の令嬢たるもの、その様な催しに参加するなどはしたない』と言われてはいる様な気がするけど、気にしない。
確か、修道士のサッシャ・リームト様だったかな。
伯爵家の出自ならそう言う感覚があると言う事は分かるけど、目の前のローランド様も同じ伯爵家の出自だから、合う、合わないは人それぞれかな。
そもそも田舎育ちの元男爵家の次女に、そう言う上品さを求められてもね。
ウチの屋敷の子達は、その手の催しには、喜んで参加する子達が多いし、私としては改める気はない。
と言っても今回はそんな暇はないのよね。
「今回は、別件の用事がありますので、送迎はしますが、当屋敷の者はあまり手を貸せませんが、ダルス、ケーニャ、皆をしっかりと纏めなさい。
念のため、当日はポーニャをつけますので、収穫物の保管に関しては問題ありません。
ポーニャ、頼んだわよ」
「かしこまりました」
頷きはするけど、困惑な表情を見せるポーニャに、ダルスとケーニャ。
この手の催しが好きな私が、手を出さないと言う事に疑問を持ったのでしょうね。
そして、視線を天井へと向けるセバスとプシュケ。
事情を知っているセバスはもちろん、準備や打ち合わせをしているプシュケは当然ながら聞かされているのだと思う。
「今回は、多くの王族の方と、国の重臣と言える古き血筋の方々全てに、重職に就かれている何名かが、今作っている港街と軍港の視察に来られます。
今回の催しも、その内の一つですが、領民の皆様方は気にせずに楽しんでください。
楽しむ自然の姿を見せる方が、陛下達も喜ばれると思います。
それと、今回は少し長めの滞在となりますので、催しの以外の時は、皆様に失礼の無いように御協力をお願いします」
「「「「「……、……、……はっ?」」」」」
いえいえ、聞こえてましたよね。
青い顔をしているって事は、聞こえていた証拠です。
何やら、港街? 軍港? 聞いていないと呟くダルスとケーニャ、そしてローランド様が目を見開いて驚いているけど、今、初めて教えましたから、知らなくて当然。
ジュリやアドル達も驚いているのは、陛下達の事を黙っていたからね。
エリシィーは何やら諦めた様に溜息を吐いているけど、空き部屋に寝台を持ち込んだ事で、なんとなく覚悟は決めていたのかも。
「セバスには事前に話してありますから、まだ聞いていないのでしたら、細かな事は各自セバスの指示に従うように。
今回は少し人数が多くて滞在予定が多いかもしれませんが、いつも通りの対応でを望まれている様ですので、その様に。
無理かもしれないけど、気軽に構えて準備をお願いします」
なにかセバスが目を見開いて、此方を見ているけど知らない振りをする。
裏切りではない、事前に任せたと私は確かに言ったからね。
皆んなに話す、話さないの裁量をセバスは持っていた訳だし、準備の手配を絡ませてセバスに話を持っていっただけです。
まぁ……、聴く側からしたら、セバスの所で止まっていた様に聞こえるかもしれないけど、嘘は言っていない。
うん、とりあえず、大変な仕事を押し付けた御褒美として、良いワインでも贈っておこう。
いつぞや蜂蜜酒のお礼に、戴いた貰い物だけどね。
「ユゥーリィ様、後で、少しお話が」
ビクッ!
そこへ子供の頃から聴き慣れた声が……。
だけど、何処か冷たく硬い声色に、思わず身体が小さく震える。
あれ? エリシィー、もしかして怒ってる?
いや、でも、陛下達が急遽訪ねてくるなんて今更だし、今回は前持って分かっているだけマシなはず。
はい、この後、エリシィーに当主らしくないとお説教をされてしまいました。
色々と面倒事を纏めてもらっているセバスにアレはないと、特に小細工がエリシィーの琴線に触れた様で、ちょっと反省。
いえ、きちんと反省します。ごめんなさい。
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と、超VIPを我が家に迎えると言っても、コンフォード領のリズドの街とかならともかく、二つの村しかないオルディーネ領では、田舎すぎて何もやる事がないのが実情なんですよね。
パレード?
そんな派手な物は王都や各地で慣れているだろうし、人口が限界集落並みしかないこの地でやっても虚しくなるだけよ。
観光?
温泉と教会ぐらいしか観光になる物がないです。
せいぜいが、露天温泉から一望できる大自然だけですよ。
豪華な食事?
宮廷料理や上流階級の食事に、飽き飽きしている方にですか?
出せない事はないですが、そんな食事を出したら逆に怒られます。
上流階級では出されない様な、庶民の美味しい料理を求められていますからね。
食材に関しては、四季を無視してシンフォニア王国各地の食材が新鮮な状態で収納の魔法の中に入っており、当然、魔物の領域の食材も取り揃えてありますので、今回の人数くらいなら、今更取り寄せる物などない状態。
お部屋の準備? 寝台とお茶の道具、あとは掃除以外に何か?
高価な調度品なんて、陛下達にとってはありふれた日用品。
我が家は質実剛健が売りで、せいぜい季節の花を生ける花瓶くらいかな。
何もないのが、我が家の売りですと開き直るしかない。
庭の花壇は、ありがたい事に警備の家族の方が手入をしてくださっているので、枯山水と四季に応じた花が楽しめる状態。
もちろん働きに対するお給金はお渡ししているけど、お金を使わないこの地だと、お酒などの物資によるお礼の方が、実は喜ばれるんですよね。
私が空間移動の魔法を持っているのを皆さん知っているから、なにかのついでの時で良いのでと、当主なのにパシリ状態です。
私自身がそれを口実に、彼方此方にフラフラと遊びに行くので、お互い様ですけどね。
ただ面倒を見てくださる方がいると言っても、所詮は田舎の子爵家。
花壇はこじんまりしてはいても、色々と楽しめる様に工夫されていて、私からしたら十分楽しめるのだけど、上流階級の方々の御宅からしたら質素に映るかもしれないのが心配事と言えば心配事だけど、この屋敷にそれを求められてもね。
うちは、しがない田舎の子爵家ですから、やれる事には限りがあるんです。
既に今までに何回かご滞在になられた事もあって、最低限の備品は揃っているし、出歩かれる様な場所は石畳も敷き終わっているため、あとは雑草対策と清掃くらい?
その辺りはダルスや領民の皆さんにお願いしてあるけど、普段からある程度清掃してくださっているからね。
「と言う訳で、前もって言った所で、心構え以外の準備なんて、たいしてないと思わない?」
「「「「「納得できるけど、納得できないっ」」」」」
エリシィーに叱られて反省した私は、あらためて屋敷の皆んなに黙っていた理由を説明したのだけど、帰ってきた返事は自棄糞気味の言葉。
納得できるなら、良いじゃんと思うのに、……解せぬ。




