428.小さな子が頑張る姿って、可愛いですよね。
陛下達の強襲によって、またもや後回しにされてしまったラード王子との約束。
約束を破るのは好きではないし、王子の魔力制御の鍛錬は今が一番大切な時なので、日を改めて訪れて、さっそく優しいお姉ちゃんのお勉強会を催しました。
えっ、約束の日に来れなかった事に関してですか?
それならば、陛下と王妃様と、殿下の御両親と、そして宰相閣下に言ってください。
約束を守りたくても、どうしようもない相手という者が存在するんです。
私、あの方達に文句を言えませんので、ラード王子が代わりにどうぞ、と言う言葉の後、早々に白旗を上げたラード王子の向こうで、無茶を仰らないで下さいと言わんばかりの王子付きの侍女の目が痛かったかな。
「はい、お疲れ様でした」
「ふはぁ〜……、はぁ……、はぁ……」
私の言葉と共に、身体中に溜まっている酸素を一気に吐き出す様にした後、荒く呼吸するラード王子に懐かしさを覚える。
冬だと言うのに、額にたくさんの汗の玉を浮かべながら、今は息を整える事に意識を集中させる姿は、幼い頃の自分の姿と重なる。
「だいぶ形にはなりましたね」
「はぁ…、はぁ…、あ、あたり、はぁ…、はぁ…、まえ、はぁ…、だ……」
ラード王子は強がって返事をするも、欠片も説得力はない様子に、男の子だなぁと思いつつも、ラード王子の呼吸が整うまで、少しだけ話を長めに取る事にする。
「今やって戴いたのが、魔導士や魔力持ちの方達が行う魔力循環の基本の基本の基本です。
実際には、ここから緩急や強弱をつけたり、魔力を分岐させたりする必要が出てきますが、まずは、これを一呼吸で出来る様になり、今の十倍の時間を汗一つ掻かずに出来る様になるまで鍛えましょう」
ラード王子が自分の意識で、魔力循環が出来る様になり、魔導具の衣服による強制的な魔力循環を経て半年以上たった今では、ラード王子はスッカリと健康を取り戻す事ができたみたい。
止めていた王子の勉強も秋頃から再開され、私もそれに合わせて王子に、魔力中毒症を抑えるための最低限の魔力循環ではなく、魔力を扱う上での魔力循環の仕方を教え始めたのだけど……、見ての通り三ヶ月近く掛けて、小さな薬缶にやっとお湯が沸く程度の時間を循環させる様になった所。
私も【相沢ゆう】が目覚めてから四ヶ月掛けて、光球魔法を初めて発動させれる様になったけど、王子の場合は、魔力の自覚と最低限の魔力循環も出来る様になった状態から、此処までで三ヶ月近くなのだから、遅いのか早いのかどうなんだろう。
前世の記憶と価値観を持っていた私の経験は例外扱いだろうし、八歳と言う年齢で王子が出来ているのか出来ていないのか判断がつけれない。
実際此処から魔法を発動させるには、魔力の集中と頭の中に浮かべた構成を、幻視するほど明確にして魔力と融合させる必要があるのだけど、魔導具の補助なしでは今の王子ではそこまでは出来ない。
この幻視するほど明確に想像する事が、普通の子供では難しいらしいからね。
少なくとも、先程王子に述べた条件が出来る様になるまでは、先に進むのはまだ幼い王子には危険がある。
「はぁ…、はぁ…、こ、これを一息って、はぁ…、はぁ…、」
「身体を使うか魔力を使うかだけで、歩くのと一緒ですよ。
今の王子は、赤ん坊のヨチヨチ歩きをやっと覚えた所です。
だから、歩き始めるに準備に時間が掛かりますし、数歩で疲れ切ってしまっているだけです。
でも、歩き方さえ覚えれば、後は慣れの問題なので、歩く事も直ぐに出来る様になるでしょうし、鍛錬を積めば、走れる様にもなれます。
まぁ比喩的な話で言えばですけどね」
今は大変かもしれないけど、本当に出来る様になるまで慣れて行くしかない。
それまで私が教えてあげるのは、正しい姿勢で歩いているかどうかだけ。
「でも、それが出来る様になる頃には、魔導具による光楯も、少しは盾らしくなりますよ」
「はぁ…、そ、そうなのか? はぁ…、はぁ…、」
今の王子では、魔導具【吸魔の自在楯】の補助による盾の魔法も、何の防御力もない、ただの光球魔法と大差ないですからね。
「拳一発で壊れる程度ですが」
「はぁ…、い、意味ねぇ、はぁ…、はぁ…」
がっくりっとされるけど、嘘を言っても仕方がない。
王子の魔力は、魔力中毒を起こす程に強いと言っても、あくまで歳の割でしかないし、魔力の集中や圧縮が出来ない状態では、その程度が精々。
魔力の集中や圧縮を覚えれば、もっと強固な盾なるけど、威力を高めれば、それなりに集中力や魔力を大きく必要とする。
でも、今の王子の年齢と実力なら、威力を出す事よりも制御力や使い方を成長させる事に力を注いだ方が良いと思っている。
「そうですか?
威力は筋力と一緒で鍛えれば上がりますが、王子のお歳ですと、年齢と共に自然にも上がります。
それよりも今は色々な使い方ができる様にした方が、有意義ですし楽しいですよ。
と言っても、言葉だけでは納得し難いでしょう。
リベルト様、少々お力をお借りしたいのですが、宜しいでしょうか?」
ラード王子の側付きの騎士にお頼みして、ラード王子が先程の条件を身に付けた頃の光楯を騎士の前に展開して、それに拳で攻撃してもらうと、言った通り拳が当たると共に、光楯は砕けてしまう。
「しょぼっ!」
「……ええと、これで良かったのですか?」
ラード王子の言葉予想通りだけど、リベルト様の言葉は騎士としてどうかと思う。
確かにアッサリと光楯は砕けたけど、リベルト様の拳の威力もそれなりに殺している。
「では、今度はお腰の剣で、鞘ごと攻撃して来てみてください。
光楯の強度は先程と同じ程度ですが、今度は私もそれなりにお相手しますので、決着がつくまで本気でお願いします」
「ほ、本気でですか?」
「その方が説得力がありますから」
騎士が私みたいな身体の小さな女性に攻撃する事を躊躇うのは分かるけど、そのための鞘付きでの攻撃にしてもらっている。
でもまぁ、近衛騎士の鞘というのは、時には相手を殺さずに抑える必要があるため、硬い鉄製の物で十分に鈍器ではあるけど、骨折くらいなら治癒魔法で直ぐに治せるし、打ちどころが悪い様な攻撃はしてこないだろうから、結果的な大怪我の心配はない。
魔物討伐騎士団の騎士との仕合は、幾度も行っているとお伝えすると、やっと納得してくれた様で、剣を構えてくれる様子に、私も意識を入れ替える。
今の王子の魔力と魔力許容量だと、出来て六枚ってところかな。
ヒュッ!
リベルド様の攻撃に合わせて光楯を張る。
ただし、王子の限界であろう六枚の光楯を重ねる様に。
パパパパパンッ。
だけどその光楯も、アッサリと砕けてゆく。
でも、砕けたのは四枚までで、五枚目の光楯で受け止められ、威力を止めきった所で、五枚目の光楯も消え失せる。
「続けてお願いします」
「では、行かせて戴きます」
ヒュッ!
パパパパパンッ。
フッ!
パパパパンッ。
シュッ!
パパパパンッ。
幾度となく繰り返される攻防だけど、焦るのは責められている私ではなく、攻めているリベルト様。
リベルト様の攻撃は次第に重く鋭くなっているにも関わらず、私は一歩も動いていないに上に、私の張る光楯が砕かれる枚数は次第に少なくなっている。
「念のため確認をしますが、威力は上げておりませんよね?」
「もちろんです。
それは攻撃をされているリベルト様の方が、よくお分かりだと思いますが」
「愚問でしたな」
ヒュッ!
パパパンッ。
僅かに交わされた言葉の後に放たれた攻撃は、たった二枚の光楯が砕かれただけ。
威力が変わらないにも関わらず、砕かれる光楯が減ったのは簡単な事。
攻撃に対して垂直に光楯を置くのではなく、斜めにしておき攻撃を流している結果、力が分散し逸れて、本来の攻撃力を殺されているため。
威力がないと言っても、魔導具の補助があれば、溜めも、集中もそれほどする必要がないと言うのは、魔法が発動するためのタイムラグが少なく、制御が楽だという事。
もっとも、今は魔導具の能力に合わせて、私が魔法を使っているだけですけどね。
さてと防御力は見せたので、今度は私の番。
と言っても、攻撃魔法を使う訳ではないですよ。
身体強化の魔法も使いません。
使うのはあくまで光楯だけ。
私からリベルト様に歩みながら。
ヒュッ!
「うっ」
パパンッ。
今度は砕かれた光楯は一枚。
近づいた分、光楯をリベルト様の攻撃を振るう腕の内側に張り、腕を振るう力そのものを殺したため、剣に伝わる威力そのものが減ったからこそ。
そして、剣を受け止めるのに二枚。
剣を振るう腕の動きを阻害するために二枚。
そして、もう二枚は……。
「うぉっ!」
リベルト様の足元に置いてつまづかせる。
同時に、既に消えた光楯を直ぐに発生させ、今度は顔の前で盾を。
ただし、防御力ゼロで光を最大で。
眩しさに怯むリベルト様の喉元に、今度は光楯を突きつける。
「ま、まいりました」
「リベルト様、御協力を感謝いたしますわ」
「す、凄え、リベルトが手も足も出ないだなんて」
ラード王子……、確かにそうなんだけど、驚くのはそこではなくて、魔法の使い方に目を向けて欲しかった。
なので、あらためて魔法の威力を上げる事より、魔法の使い方一つで、多くの事が出来る事を見つけて行きながら制御力を磨く事の方が、本当の意味で魔法を使い熟す事が出来るのだと説明する。
「王子、騎士はその手に持つ剣が強いからではなく、それを扱う肉体と技量、そしてそれを支える心を鍛えているから強いのです。
そして魔法使いも、魔法を使えるから魔法使いという訳ではないんですよ。
魔法を使い熟し、様々の事に対応出来る人間の事を、本当の意味での魔法使いなのだと私は思っています。」
「魔法を使い熟すから魔法使いか……、良いなぁ、それっ!」
生憎と魔法使いである王宮魔導師は、陛下曰く、自己顕示欲が強い脳筋魔導士が大半みたいなので、頭が痛い所らしいですけどね。
「ラード王子にお渡しした魔導具は、【吸魔の自在楯】と盾の名前を付けてはありますが、これを盾としてのみ捉えるか、それとも無限の可能性を持つ何かと捉えるかは、王子次第。
まずは魔法を使い熟す第一歩として、その魔導具による魔法を使い熟す所を目指しましょう。
ちなみに、私の最も得意とする魔法は盾の魔法ですから、それを超える使い方出来る様になってくださいね」
「もちろんだ。
直ぐに抜いてやるぞ」
「それと、リベルト様が手も足も出なかったと言うのは、王子の誤解です。
近衛騎士であるリベルト様の実力は、あんな物ではありません。
王子が理解できる程度に力を抑えてくれているからこそ、先程の動きを理解出来ただけと言う事をお忘れなく」
「お、おう、それはそうだよな」
王子は少し信用していないようだけど、王子付きの側付きの騎士が弱い訳がない。
実際、先程の攻撃は単調だったし、速度もだいぶ抑えていた上、体重もそれほど乗った攻撃ではなかった。
あくまで子供向けの接待試合の範囲での動きでしかない。
「さぁ、休憩は終わりにして、先程の循環をもう一度やりましょう。
それが終わったら、いつも通り遊びの時間にしましょうね」
「うむ」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
【とある女中と騎士との会話】
「実際の所はどうなのですか?」
「手加減をしていたのは確かだが、シンフェリア様はそれ以上に手加減されていた。
おそらく本気で挑んだとしても、結果は変わらないだろうな。
あれが本当の魔法使いと言う物なのだろうな、良い経験をさせてもらった」




