1040.決闘に対して、王妃様はやはり姿勢が違いますね。
陛下の事に関しては予告通り王妃様にチクっおいた。
後で懲らしめてくれるらしい。
ただ、私が相手だからこそ安心して甘えられるのだから、多少の事は目を瞑って欲しいと頼まれてしまった。
流石はあの変人陛下の奥さんだけあって、フォローが上手いよね。
ついでに原因となった決闘の件についても相談。
「公開賭け試合ですか?」
「はい、この手の事には裏でやられていたとは思うのですが、きちんと管理する体制をこの際に作ってはどうかと思いまして」
どうせ見世物になるなら、より多くの人を巻き込んだ方が良いからね。
そのためには賭けというのは人を集める要因になるし、今までやっていない方式を採るのであれば、尚のこと人々の注目を集めやすくなる。
「話は分かりましたが、そのような端たない行いをするのは、私の立場では少々醜聞に関わります。
それくらい分からない貴方ではないでしょう」
まぁそう言うよね。
実際にやっている事であっても、それを表に出す事は別問題だってね。
「ですから、そのための大義名分があれば良いのです。
利益を慈善事業に回すのであれば、王妃様の名を汚す事にはなりませんし、より多くの方々に慈善事業を知ってもらう意味でも、掛け金も固定します。
一人辺りの掛け金を固定する事によって賭けで得られる旨味が減ってしまうため、第三者による不正な行いを防ぐ事にも繋がります。
なにより慈善事業という名目があれば、表だって賭けに参加する事を躊躇する方も巻き込めます」
「なるほど、確かにその名分と一人頭の掛け金を固定するのであれば、醜聞に関わるどころか、名声を集める事にもなりましょう。
しかしそう上手くいくものですか?」
だから王妃様のお力が必要なんです。
王妃様ですから、お城の文官を何人か顎で使う事くらいは可能ですからね。
つまり態々そのための組織を作る必要はなく、既にある組織の余剰……もとい予備人員に一時的に仕事をして貰うだけ。
内容としても、それほど難しくない。
なので、内容を紙に魔法で文字を焼き付けてながら説明。
その事で何か言いたげそうだったけれど、そこはサクッとスルー。
だって魔法で書いた方が早いし、インクが乾くのを待つ必要もないもの。
「……よくも即興で此処まで考えつくものですね」
説明を終えての第一声が盛大な溜め息ですか。
一応は前世にある内容を元に作ったから、それほどおかしくはないはずですけどね。
「大義名分には申し分なし、手法も新しい事ですが、此処まで叩き台が出来ているのであれば、然程問題はないでしょう。
肝心の人が集まるかどうかも……、まぁ貴女が関わっていますからね、見世物として人は呼べる事は間違いないとは思います」
見世物って……いえ、そうなんですけどね。
結局この世界だと、決闘だの処刑だのって娯楽扱いですから、間違ってはいないものの、私が関わっているからと言われてしまうと、どうかと思ってしまう。
「掛け金は一律銀貨一枚と銅板貨二枚、銅板貨二枚を運営費と運営側の利益として回し、残りの金額が純然たる掛け金とする。
慈善事業と言うには、たいした金額になる事はないでしょうが、この掛け金ならば人は集まりましょう」
大国の王城ですから、お城だけで四千人はいますからね。
王城務めの人間からしたら、例え下の者であっても、銀貨一枚と銅板貨二枚はたいした金額ではない。
銀貨ではなく銀板貨でも良いかもしれないけれど、多分それだと賭けに参加する人が減るので、慈善事業を知ってもらう趣旨には沿わない事になる。
銀貨一枚と銅板貨二枚は、生活に余裕のある人間からしたら、一回の娯楽費としては、十分に有りの金額なのよ。
お城の人間の内三割が賭けたとして千二百人、更に王都内にいる貴族や出入りしている商人達、果ては噂を聞き付けたまったく関係ない第三者ともなれば、だいたい二千人に届くだろうというのは、王妃様付の侍女の方の概算でもあるので、そうなると金貨四枚程の収入になる。
倍率は賭けの集計で以て決めるので赤字はないとはいえ、収益から運営費を差し引くと、本当にたいした金額にはならないのだけど、そこは話を持ってきたのが王妃様ですからね。
「運営費は私が出しましょう。
何時もに比べたら、たいした金額ではありません」
王城勤めの人間を使うので、実質的には無料ではあるけれど、お酒か金一封辺りで済む話。
王妃様が普段行う慈善福祉活動をする事を思えば、本当にたいした金額ではない。
王妃様の御気性を考えたら、そこに御自分の慈善福祉活動としての金額を加算されるだろうから、余分な出費になる可能性も高い。
そう考えると、話を持って来た私も責任を取って、お酒を少し提供する事を約束しておく。
「嬉しいお話だけれど、あまり良いお酒は止めてね。
貴女が持ってくるお酒ですと、それを売った方が余程お金を集めれると言われそうですから」
領地のお酒のブランド力が上がっているのは喜ばしいけれど、まだそれほど出していないはずなのに、そこまで価格が上がっているのかと疑問に思ってしまう。
「数がないからこそ、お金では手に入らない代物なのよ。
お金で買えるとなれば、幾らでも出す人間はいるわ。
陛下が貴女にお頼みして作った、バーカウンターなる物で出しているお酒、どれだけ噂になっていると思っているのよ。
彼処を使える人間は限られているはずなのに、貴女の所から持ち込んだ価値あるお酒は既に在庫が切れているため、尚更に評判だけが一人歩きしているのよ」
取り敢えず赤い蜂蜜酒を始めとする、魔物の領域産や人工栽培に成功した果物を原料にしたお酒は、自重して止めておくとお約束しておく。
まぁ港街で作っている方の普通のエールでも、王都で扱っているエールより別物と言えるぐらいの出来だから、それで十分かもしれない。
「今日はその補充も兼ねて来ております」
「そう、ではさっそく今日にでも足を運ぶ事にしましょう。
そこの貴女、手配をしておいて頂戴」
王妃様も楽しみにしている一人でしたか。
お聞きしてみた所、泡水で割ったお酒も好きだけど、果汁を用いた甘みを感じる程度の混合酒と、ハーブを用いた爽やかな香りのする混合酒がお気に入りだと。
今日は良いお酒が入っているはずなので、そちらを楽しむとか、嬉しそうに話すあたり、王妃様も何だかんだとお酒は好きなんだなと思う一幕だったりする。
だってねぇ、社交界だとお酒は当たり前に付いてくる物だけど、社交の場以外で女性がお酒を嗜むのは、はしたなくみっともないと考える人がそれなりにいるのよ。
「後宮にも作ろうと考えているの」
「先に申しておきますが、お城に収める量は変わりませんよ」
「……意地悪な事を言うのね」
すぐには生産量を増やせませんって。
ブランド力を高めるには有力な方に知ってもらうだけでなく、流通量も増やさないといけないので、増産分はなるべくそちらに回したい。
という訳で、領地経営的な事であって、けっして意地悪で言っているのではない。
「……どうしても?」
「……完成祝いに送る程度であれば、喜んで贈らせて戴きます」
首を傾げて可愛くおねだりだなんて、王妃様、私の扱いが分かって来たというか、アザとすぎません?
王妃様って美魔女で笑みを浮かべると、年を感じさせないほど可愛い方ですよ。
そりゃあ年上好きの私としては、御馳走様ですと懐が弛むというもの。
いえ、冗談ですけどね。
私には嫁がいますので、それで満足しています。
「良いのは数は少なくて構わないから、安価な物を多めにお願いね」
王妃様曰く、自分達王族専用のものも作るものの、使用人達が気軽に使える憩いの場を作るのが主な狙いみたい。
娯楽のための場ではなく、お酒の一杯か二杯呑んで、次の日の英気を養って貰うんですって。
流石は国母となられる方は考え方が違うわね。
陛下達みたいに、ダートンの貸出期限を延長しろ、とか言ってこないだけ大人だ。
そしてダートンの貸出期限の延長に関しては、当然ながらお断りしたのは言うまでもない事。
『混合酒に関しては本も出しましたから、各自で勉強し鍛錬してください』
と言ってね。
彼は我が家の人間ですから貸し出しはしたけれど、ちゃんと守ります。
「話を戻しますが、王家の力を強めるため貴女を散々利用した以上、本来は私達が守るべき立場であるのにも拘わらず、こうして貴女を矢面に立たせる事態になってしまった事には、陛下も私も本意ではないのです。
ですが、それでも貴女を心より心配している事には変わりありません。
まぁあの方は、少々貴女に対して素直に接する事が出来ない所はありますが、それは王としての矜持もあっての事ですから、そこは許してあげて頂戴。
ですので、もしも勝てそうもないのであれば、今、素直に申してください。
私の力を持って、何としても小さな淑女たる貴女を決闘の場に立たせるなどと言う、馬鹿な話を押さえ込みます。
貴女は本来魔導士なのです、剣で以て戦う者ではありません」
真っ直ぐな目。
言葉通り本当に心配しているのだろうと言う事は、散々嫁達から鈍いと言われている私でも分かる。
でも心配ない。
確かに魔法を一切使えない私なんて、雑魚も良い所だろう。
だけど、身体強化の魔法さえ使えれば何とでもなる。
こう言う時のために、鍛錬を欠かさずに行ってきたのだもの。
それにね、何だかんだと陛下も私に甘いのよ。
身体の小さい私だと武器を持ち歩くのも大変だろうからと、収納の魔法も使う事を認めてくれたのだもの。
これで勝てない訳がない。
なので、私の返事は決まっている。
「御心配なく、勝利を王妃様に捧げて見せますので」




