1028.絵本で終わらずに、多方面に連携しているからこその政策です。
子供向けの絵本問題は、取り敢えず書籍ギルドを納得させる算段が付きそうだ。
ラフェルさんに言われるまでもなく、私の後ろ盾に協力して貰えれば、何とかなるだろうとは思ってはいたけれど、説得するための方便があるのは大変にありがたい。
ラフェルさんを呼んだ一番の目的は、私が後ろ盾をして下さっている方々の力を多用するあまり、強固に反対される可能性があったため、まず始めに書籍ギルド内に賛同者を得た上で、ギルドに許可を求める事だったからね。
ギルド内部で賛同者を募って協力して下さるのであれば、かなり成功する算段が高くなる。
ただ、やはりこれだけだと弱いと思うので、更に提案。
「書籍ギルドの中に、木版画による書籍の専門の組織を提案されては如何でしょうか?
私の目的は子供達に、絵本を通して多くの事を学んで貰う事です。
商会としての利益は減ずる事になってしまいますが、此方本来の趣旨を通すには多少の犠牲は仕方ありませんし、書籍関係を管理したいギルドの基本方針に叶う事になりますので、悪い話ではないと思います。
木版画の技術者の流出と管理をする事も可能となる上、更なる品質の向上にも繋がり、ギルドの存在意義を強める事にも繋がります」
要は原始的な編集者と印刷業をくっつけた、専門の部門を作りましょうって事。
ギルドの管理下にあるのであれば、書籍の価格の大幅な下落も防ぐ事が可能だし、社会的な立場も向上する。
書籍ギルドの支部全ての場所に部門を置く必要はないけれど、国内に数カ所設ければ需要に対してある程度供給を満たす事が出来るはず。
ぶっちゃけ、経済的な事を考えたら需要を満たす必要はないので、足りないぐらいが価値を高め維持するには丁度良い。
管理する観点からしても、高位貴族が治める都市の中からって所だろうけれど、ギルドの起源を考えたら、たぶん王都と古き血筋の一族が治める領地になると思う。
無論、発案者の特権と立地的な意味で、オルディーネ領にも部門を置く許可を戴くつもりだけどね。
そこは案さえ通ってしまえば、ギルド内で反対意見が出ても、権力のゴリ押しでいける自信がある。
そもそも書籍ギルドのギルド長って、王家所縁の公爵家が持ち回りでやっているのだから、権力のゴリ押しも何もない。
そんな訳で、部門の詳細と利点と共に、危惧される事もラフェルさんに説明。
「そうね、それならば、おそらくいけると思うわ。
子供達のためにだなんて物は、やはり感情論でしかないもの。
そこへギルドとしての価値を高める内容が含まれているならば、賛同しやすくなる事は確かね」
因みに散々子供達のためにと口にしたけれど、当然ながら子供達の為にという理由だけではない。
商会収益の確実性を上げるために利益を減らすのには、減らしても構わないという理由があり、そこにはオルディーネ領の政治的な思惑があるからこそ。
前世でも木版刷りは当初は、確か経典の印刷に使われていた技術。
ただ、文字を彫るのは高い技術が要求されるし、細かな文字となれば、その分だけ職人の費用が嵩む上、この世界で広めた木版刷りでも、写本をしている達の仕事を保護すると共に、本の価値を下げない為もあって、文字の木版刷りは極一部にしか使われていないの。
絵本はその一部の枠を広げる事に繋がるし、将来的には草双紙などが広まる可能性も出て来る。
そうなれば、その極一部に食い込む事が出来ると考えているの。
それで食い込んで何をしたいかと言うと……。
【 瓦 版 】
前世の新聞やニュースの起源になった物の一つ。
情報広域伝達の道具としては、非常に優れた物なのよね。
だって現状だと口答による回覧だったり、立て札と共に読み上げる専任の人間を置いて広めないといけないのよ。
そんな伝言ゲームや、その前をその時間に通りかかった人にしか伝わらないなんて、非常に不便じゃない。
だから、そのための瓦版。
以前に感染症が港街を襲った時には、普通に手書きで書き写した物を配布させため時間が掛かり、これがあったらとどれだけ助かったかと思った事か。
載せる内容としては、そういった緊急情報といった行政からのお知らせではあるけれど、定期的に購読して貰うためには、それだけでは駄目。
お堅いだけの内容なんて最初はともかく、その内に真面目な人しか読まなくなるし、そもそも簡単な単語程度ならともかく、真面な文章ともなれば平民の識字率は低いのが現状。
読みたい。
だからこそこう思わせる事が大切で、簡単な季節の野菜を使った料理の調理方法や、知っておくと便利な事や、身近な体験談などのコラムを乗せようと思っているの。
多く広めるための物だから、紙は例のトイレットペーパーを硬く厚くした藁半紙もどきなら安く出来る。
元々国の政策になっているため管理しやすいし、私も大きく関与している事業なので、国の協力も得やすい。
問題は書籍ギルドの紙に関する既得損益だけど、これも行政からのお知らせ用に限定した上で後ろ盾の皆様と協力すればおそらく通るし、費用面も広告となる部分を確保すれば、名を少しでも売りたい様々な商会からの援助の申し出があるだろう。
当然、広告の内容等は精査するけれど、援助の申し込みがなくてもなんとでもなる。
そもそも【やる】か【やらない】かの話だもの。
それに瓦版政策は、何も行政からのお知らせを確実に広げるためだけのものではないの。
民の知識の向上と思考の誘導。
副次的にはあるけれど、これらって政治的に見たら凄く有効なのよ。
内容が面白いとなれば識字率が上がるし、それに伴って知識も向上する。
内容をある程度精査しておけば、行政として望ましい考え方を刷り込む事が出来る事を思えば、将来的な事を考えたら費用を掛ける価値が出てくる。
クロスワードや数独等のマス埋めパズルは、暇潰しの材料となると同時に、思考力や記憶力の向上と共に、達成感や爽快感の獲得がある。
それらの情報や知識を複数人が共有する事は、コミュニケーションの促進にも繋がるため、コミュニティーの結束の高める事になる。
ただ、問題も出て来るのよ。
【ペンは剣より強し】を履き違えた悪用。
俗に言うゴミメディアね。
でも、行政以外は禁止する事で悪用化を防ぐと共に、書籍ギルドの利益の保護にも繋がるため、その方向性で持って行けば国の後押しが得られると考えている。
国にしたってね、連絡事項の徹底には頭を悩ませているもの。
私のこの提案に乗らない訳がない。
無論、中には不安視する人達も出てくるだろうけれど、そこで活きるのがオルディーネ領の立地条件。
陸続きではあるけれど、真面な交通手段は船で数ヶ月と、事実上は陸の孤島。
何かを失敗しても本国への影響はほぼ皆無と、実験をするには丁度良い条件なのよ。
賛成派も反対派も、試験運用する事自体が問題にならないのであれば、双方共に意見を主張する根拠が増えるし、導入するのであれば、問題点を洗い出しが済んでいた方が良い。
しかも許可を出すだけで費用は此方持ちとなれば、反対する理由その物がなくなってしまう。
元々オルディーネ領は、そう言った先進的な都市運営の実験場の側面もあって、私に与えられた領地だもの。
「では、宜しくお願いします。
私で出来る事があれば、何時でも連絡を下さい」
「ええ、その時はお願いするわ」
という訳で、純粋な想いでない事にラフェルさんには申し訳ないと思いつつも、それは顔には欠片も出さずに笑みを向ける。
うん、顔の筋肉が攣りそうだわ。
やっぱりこう言う貴族って私には向かないと、熟々実感させられる。
「ゆうちゃん、これ、可愛いわぁ〜♡」
そんでもって、一応は絵本の事は現状では機密事項で、お客様の中ではラフェルさん夫妻にしか見せてなかったのだけど、一応は一般人の反応はって事でライラさんに見て貰った。
結果はラフェルさんとの話が一段落付いた所でこの反応。
最早、聞くまでもないと言っていい。
「子供向けって事だけど、絶対に大人の女性も買うわよ。
絵もそうだけど、書かれている内容がとっても可愛いの。
ぽわぽわと暖かな気持ちになるから、普通に飾っておいても良いと思うの。
ほらほら、こうして見開きにして読書台に立て掛けて置けばね─────」
そこまで気に入ってくれたのは嬉しいけれど、生憎とまだ世に出せない代物なのでお持ち帰り出来ないし、世に出るまで秘密だとお願いしておく。
「うぅぅ……、そこは我慢するしかないわね。
ところでこの本を書いたのは?」
「私が原作を書いて、当家の木工職人に元となる版木を彫らせて刷りました」
「うわぁ、ゆうちゃん、こんな可愛い本も書けたんだ。
ゆうちゃんの見た目の印象に合って・」
「ライラさん、話も途中ですので感想はそれくらいで」
ちょっと危ない事を口に仕掛けたライラさんを止める。
一応は私の名で本を出している書物もあるので、発覚する恐れは少ないのだけど、物語関係の本は例の表沙汰に出来ない名前の著者の物だけ。
今後は絵本の著者を募集して行くつもりではあったけれど、まだ試作だし問題ないと思って私が書いたものの、とんだ伏兵が待機していた。
しっかりと睨み付けたので、きっと意味は通じたと思う。
ペンネームで出している著者の正体を第三者に明かすのは、書籍ギルドにおいて禁則事項になっているため、危なかったのは私だけでなくライラさんも含まれるので、発言には気を付けて貰いたい。
後で念の為に釘を刺しておこう。
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【双子ちゃん女中の、なぜなにコーナー】
〜 書籍ギルドとは 〜
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メアリー「今日も仕事に負けずに明るい姉のメアリーと」
アンネ 「今日も明日も書類の山に埋もれているアンネの」
メ&ア「「二人揃って、双子ちゃん女中の、なぜなにコーナー」」
メアリー「さぁ〜、今回も始まりましたこのコーナーですが、今回の用意しましたお題は書籍ギルド」
アンネ 「ユゥーリィ様が家を出て最初に組織として後援した組織として、ユゥーリィ様は関係が薄くなった現在も格別な計らいをしている」
メアリー「その辺りも、ユゥーリィ様が義理堅い人物だと一部で評価されている要因になっているのですが、有名な話ではないため全体の評価としては、あまり役になっていないのが現実です」
アンネ 「そんな書籍ギルドの存在意義は、ずばり民衆への知識の抑制。民には余計な知識は与えず愚かなまま、権力者の言う事にだけ従っていれば良い、とする考えの下で発足された」
メアリー「歴史を持つだけで、その側面もない訳ではないですが、現在は中立的な立場と理念で運営されています」
アンネ 「でも実際に簡単な文字や計算を教える教会に、教育を施さないように圧力を掛ける貴族もいる」
メアリー「その考えは国力の低下を招くと共に、領地の運営に破綻を来す事になるとして、今ではかなり小さな領地でしか通用しない考えとなっています」
アンネ 「領民が言う事を聞く代わりに、全てを一々指示しなくてはならなくなってしまうため、結果、年中不眠不休で働く羽目になる。ざまぁ〜、まさに自業自得」
メアリー「なので使える人間を育てるためには、ある程度の知識の普及は大切。あと、アンネちゃん、言葉遣いが悪いわよ」
アンネ 「はい、気を付けます(多分)。なので書籍ギルドは書物の価格を一定以上に保つ事で知識を得られる層を間接的に限定し、必要以上に知識を与えないように管理している反面、文化面に関しては(貴族の娯楽のため)進んで促進している組織」
メアリー「なので、文化関係の書物は比較的安価ですが、知識や技術系の書物は非常に高価です」
アンネ 「比較的安価といっても、普通に銀貨数枚から銀板貨数枚もする様な代物を安価と言って良いものかどうか」
メアリー「昔は羊皮紙一枚が、街に入る門を守る門兵の一月分の給金に匹敵していた事を思えば、安価になったと思うわよ」




