1027.お姉様に甘えた代償と、子供向けの安価な絵本。
お姉様に必要以上に甘えたのは、お義兄様に本気を出させるため。
目の前で姉妹イチャイチャを見せる事で己が迂闊さを反省させつつも、私が動いても良いなと思えるような案を絞り出させるため。
という訳で、浮気ではなく単なる姉妹間の絆を確かめ合っただけ、と嫁に説明したのだけど駄目だった
「ユゥーリィ、もの凄く顔が弛んでた」
「とても幸せそうな、それでいて締まりのない顔でしたわ」
嫁二人に無茶苦茶妬かれてしまった。
ミレニアお姉様相手に浮気ではないのかって。
いやいや血の繋がった姉妹相手にそれはないから、と一応は信じて貰えたものの大変御立腹の様子。
まぁ、兄妹で遣らかした例が我が家にはいますから、説得力が薄くなるのは仕方ないにしろ、そこは信じてほしかった。
「弛んだだらしない可愛い顔は、私達だけに見せれば良いの」
「ユウさんは私達にだけ目を向けるべきです」
という訳で御機嫌を取る為もあって、その日の晩は嫁達とイチャイチャを堪能。
お客様が来ている間は、夫婦の営みは自重するように言ってあったので、安心してイチャつけると油断をしていたの確かで、嫁二人の本当の狙いは、このイチャイチャなボディータッチを含む愛情表現にこそあったの。
うん、最初は普通にね、恋人同士や夫婦同士だからこその、ちょっと外でやったら『リア充爆発しろっ』て言われる程度だから、室内である事もあって好きにさせていた。
触れるだけの軽い口付けしながら、偶に深く口付けしたりして、耳元で囁くだけならって、ちょっと二人に左右から恋人繋ぎされた手から伝わる感触と、お腹に置かれた手から伝わってくる温もりが心地良くて気持ち良い、私も嫁が甘えてくれているなぁ、嬉しいなぁ幸せだなぁと甘えていたのだけど……これが、延々と続くとあんなに辛くなるとは思わなかったわ。
だってね、ずっとずっと両耳からさ囁かれながら、時に耳に唇と舌の感触を感じながらだよ、それだけで気持ちが蕩けて力が抜けてしまうのに、その間、ずっとお腹の上に置かれた手が、とんとんとされたり、軽くグッグッッと押され続けられて、気が付いたらもう凄い状態になっていて。
何がかは察して頂戴……。
『ふぁ……ちょ……まっ……ぅぅ、ぁぅ……て』
『え〜、なんで〜?
えっちぃ事はしてないよ〜』
『そうですわ、ユウさんの好きな事しかしてませんわ』
「んん……、こぅぇ、ち、ひが……ぅぅ……」
デリケートな部分は一切触れてもいないものの、アレは絶対にボディータッチやスキンシップではなく、えっちぃ事ではないだろうか。
その証拠に恥ずかしく情けなくも何度も軽く……そのね、……びくびくって足先までピンとなっちゃてしまっていたから抵抗が不可能な状態にさせられたし、一向に弛まない攻撃の手は、お腹の奥が重くなるに伴い、どんどんと身体の方は熱くなってしまっていたもの。
ようやく二人が離れたから終わったと思ったら、今度はそのまま寝台に連れ込まれて、朝まで手を繋いだまま清い夜です。
身体がそんな状態だから、嫁達の寝息すら感じてしまって、私一人悶々とした夜だよ。
身体が疼いて眠れるか〜〜〜〜っ!
と心の中で叫びながら、ようやく朝方になって落ち着いたと思ったら、嫁達の前で姉とは言え、嫁達以外とイチャコラした罰として、お客様が帰るまで毎晩すると生殺し宣告を受けました。
うん……、嫁二人の嫉妬を舐めてました、反省。
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「おはよう……って、何か疲れた顔をしているわね?」
「お姉様、おはようございます。
自覚症状はありませんが、少し先日の疲れが出たのかも知れませんね」
そして流石は私が幼い頃から見てただけあって、ミレニアお姉様には朝の挨拶をした段階で見抜かれてしまった。
私は毎朝湯を浴びるので、匂いでバレる事はないだろうけれど、心臓に悪い事には違いない。
一応は清い夜ではあったものの、悶々とした夜を過ごさせられたので、睡眠不足で疲れが多少出るのは仕方がない。
ワザとではないとは言え、嫁達の前でミレニアお姉様とイチャコラと、結果的に煽った形になった私にも非があるから、嫁達からの罰は甘んじて受けるつもり。
加えて言うならば、お姉様にした言い訳も疲労の蓄積に関係している事は確かか。
当初の予想と覚悟に反して死傷者を出す事なく、表向きには穏便に収まったものの、この国で言う領主が王族と組んで他国の船を略奪しようとしただなんて、どう考えても国際問題でしかなく、面倒な事案だったものね。
まぁ……その後の嫁達からの罰は脇に置くとするけど。
「ぅ〜ぁ〜」
「はいはい、サクラも朝の挨拶ねえ」
「もう、まだ分からないでしょうに、何か誤魔化そうとしていない?」
「でも大切な事ですから、そういう物だと見せる事もこの子のためですよ」
「……意外に教育熱心なのね。
てっきり貴女の事だから、可愛がるだけ可愛がっての放任主義だと思っていたわ」
お姉様、それは酷い誤解です。
確かに何方かというと、私はお姉様の言うとおり放任主義ではある自覚はあるけれど、放任主義って、実は放任しても良い環境作りをして、子供が自分で考えて正しい方向に自分で歩めるように導いてから、離れて見守る考え方であって、放置と放任はまったくの別もの。
と言うか、子供は好きですから、子供の事は真剣に考えますよ。
ましてや自分の子ですから。
「お姉様、放任主義は何方かと言うとお父様だったと思いますよ。
お母様は教育熱心な方ではありましたけど」
「お父様も何方かというと教育熱心な方よ。
単に貴女の場合、放っておいても自分で学んでいたから、勝手にさせた方が良いと判断されていただけの事よ。
行儀作法や女性らしさの教育に関しては、女性の事は女性に任せた方が良いと言う事でお母様に任せていただけ」
「生憎とそちらは私、興味がありませんでしたから」
だって中身が中年男性だったから、興味を持って積極的に女性らしさを学べと言う方が無理筋でしかない。
それでも身に付くくらい、しっかりと叩き込まれたけどね。
でも言われてみれば、お兄様達はお父様に色々と絞られていた記憶がある。
単に家を継ぐ可能性が高い男性だから、しっかりと教育せねばと考えての事だろうと思っていたので気にもしていなかった。
「でも逃げるなんて事はせずに修得していたから、結局、お父様もお兄様も口出ししなかっただけよ。
授業の成果が日々の生活に出ないと嘆くお母様としては、口を出して欲しかったみたいだけどね」
「あはははっ」
笑って話を誤魔化す。
もう済んだ事を言われても、今更どうしようもないし、当時言われたとしても、たぶん結果は変わらなかっただろうしね。
そこは当事者である私が断言しよう。
口にした所で、双方共に無駄な時間を過ごす事になっただけだと。
「そう言えば貴女の商会では、色々と子供向けの玩具も扱っていたわね。
貴女が留守にしている間、色々な商品を見せて戴いたわ。
あれらをアレを見る限り、確かに子供の教育に興味がないだなんて、有り得ない話しだったわね。
私の勝手な思い込みだったわ。
もっともその勝手な思い込みは、貴女の子供の頃の野生児ぶりから来ているのだけど」
知育玩具は、子供の知能や心の発達を促し助ける物だからね。
教育熱心というより、子供を持つと子供の健やかな成長を願う気持ちが強くなるから、子供を口実に前世の知識を活かして商売にしただけ。
教育熱心とはちょっと違うかも。
勿論、親である以上、可愛いサクラを放置する気など欠片もないけどね。
「あれ等はお姉様方に持って帰って戴こうと用意してあった物ですので、どうぞ気にせずにお持ち帰りください」
「ええ、そこは有り難く戴く事にするわ。
ちょっと量が多いけれど、子供のいる使用人もいるし、お付き合いしている家の中には幼い子供がいる所もあるから、貰って困る事はないもの。
かなり売れているって聞いているから、その中でも最新の商品や売れ筋の商品だと聞けば、きっと感謝されるわ」
玩具一つとっても、使い方次第では立派な社交の武器になるし、噂が広まれば巡り巡って商品が売れ、我が家の収益に繋がる事になる。
後半はどうでも良いけど、売れて困る物ではないので、私としては然程気にしていない。
お姉様の子供達が健やかに育つ、その手助けになったのなら、それだけで満足。
「ユゥーリィさん、その商会から売り出す予定という本を私も見せて戴いたのだけど、私では少し判断が難しいので、時間を戴いて本部に協議に掛けさせて戴けないかしら?
勿論、商品の案を横取りするような真似はさせない、と書面で以て約束させて戴きますけど」
玩具とそれを取り扱う商会の事が、朝食の席で話題に上がったついでとばかりに、ラフェルさんが意を決したかのように声を掛けてきた。
うん、現状の利得権益というか社会構造からして、難しい案件だったからね。
でも悩んで下さったと言う事は、ラフェルさんも価値があると考えての事だと思う。
それで何の事を考えていたかというと。
「やはり飛び出す絵本となれば、一見玩具として思えるかも知れませんが、やはり本質は本ですので、書籍ギルドの管轄だとは思うの。
ただ、今まで取り扱っている本とは一線を画しているのも事実なのよ。
それに元々絵本は唯の書籍というよりも、画集のような美術品扱いだったのもあるから、ギルドとしては難しい立ち位置だったのよ。
子供向けの物という事で、放置されていたっていうのが現状ってだけでね。
それに見せて戴いた本の中には、普通の絵本もあったけれど、アレも今までの物と違いますし、絵本でも書かれている視点からして違うから、私としても色々考えさせられたの。
きっとギルドにとっても難しい案件では在るとは思うけど、只今までの様なやり方に拘っていては、時代に取り残される事になりかねないわ」
飛び出す絵本は、玩具を取り扱う商会で新製品として出そうとは思ってはいたけれど、やはり書籍ギルドの領分と被る事になるので、ラフェルさんに相談したかったのよね。
ラフェルさん夫妻をお招きしたのは、こういった目的もあっての事。
ただね、ルチアの子供のオルヴァー君の時にも思ったけれど、この世界の子供向けの本って、全然子供向けの本じゃないのよ。
基本的には読み聞かせのための本で、横で言葉にしながら文字を教えるための代物。
なので当然ながら、絵本と言いながらも挿絵程度で絵が少ない代物なのよ。
何より、お値段がちっとも子供向けではない。
おまけに絵本って画集扱いだから、一冊で銀板貨から金貨数枚……。
買えるか〜〜〜っ!
って値段なのよ。
そんな訳で試しで作らせましたよ、もう少し安価になる絵本を。
そのためにも前世の世界に普及しているような、絵の中に文字が書かれている普通の絵本をね。
そしてそこに描かれている絵も、此方の絵本に書かれているような芸術的な要素の少ない絵。
素人でも書けそうだと思われそうではあるけど、敢えてそうした書き方をしているし、そもそも絵は絵でも木版刷りによる木版画。
手書きによる写本が基本のこの世界の書籍業界ではあるけれど、以前にライラさん経由で書籍ギルドに登録された木版刷りは、挿絵や技術書における図面を一定の品質で書くために採用されている。
「木版刷りで、あんなに多彩な表現を表せるとは思わなかったわ。
簡素で色数が少ないながらも、一つの手法として確立された絵だと私は思うの」
だから基本的には一枚刷りによる線画。
でも、試作させた絵本は多色刷りによる木版画は、ラフェルさんの目にはかなり新鮮に写ったみたい。
前世でも多色刷りで描かれた浮世絵は、海外でかなりの衝撃を与えたと言うからね。
もしかしたらとは思っていたので、相談して正解だったようだ。
「高い評価を戴いた事、深く感謝致します。
私としましては、多くの子供の手に渡るように考えた事ですので、その辺りを考慮して戴ければと思います」
「ええ、確かにこの方法ならば、絵本の価格は下げられるとは思います。
ただ、先程も申しましたが、既存の子供向けの本との兼ね合いもありますので、協議を重ねる事になると思うの、私もユゥーリィさんのその考えには賛同したいので、力を尽くすつもりではあるけれど、そこは理解して欲しいわ」
既得権益があるからね。
貴族のお抱えの絵師達が、どれだけ絵本に関わっているかは分からないけれど、勝手に勧めると貴族の横槍が入る可能性が高いと、ラフェルさんも見ている訳か。
そもそも書籍ギルドは印刷技術そのものを否定しているから、難しい案件である事には変わりない。
「もしもユゥーリィさんが、本当に多くの子供達の事を思ってなら、ユゥーリィさんも動くべきだと思うの」
そう前置きしてラフェルさんが口にしたのは、私のお付き合いのある貴族。
分かりやすく言えば、後ろ盾の家の奥様方の協力を仰ぐべきだとの事。
できる事なら、王妃様や皇太子妃様を巻き込めたら、確実性が上がるだろうって。
「子供を産み育ててきた方は、ユゥーリィさんの考えに賛同してくださる可能性が高いわ。
それに貴族婦人として民に施す事、特に子供に施す事は徳が高いと取られやすいから、安価に作った絵本を子供達に配る事で子供達の道徳心を養い、識字率が少しでも上がる可能性があると言えば、力になって下さる方も多いと思うの」
貴族の施しとは言っているけれど、要は鞭と飴の飴の部分。
そして飴の部分は、貴族家の女性が担当する事が多いため、御婦人に協力を仰ぐのはある意味当然の事だと言える。
そんでもって施しって施しの内容や規模が大切で、毎回同じ様な内容では有り難みが薄れ、慣れてしまった民からは施しが当然だと思われやすいし、それでは助けられる民も片寄ってしまう。
だから出来れば施しの内容を変えてゆく事で、より多くの人に施しが行き渡るようにして徳を積むのが良いとされている。
でも、施しでやれる事ってやはり限界があるため、その中に教会の孤児院に寄贈する絵本が入るのであれば婦人達の選択肢が増え、尚且つ民の将来の助けになる可能性が高まる。
それに絵本って別に一度に寄贈する必要はなく、毎年数冊ずつで構わない上に、痛みはしても腐る物でもないので、少しずつ絵本の数が増える事で、効果が高まって行くとなれば、長い目で見れば費用対効果の高い施しになる。
うん、私が推し進めようとしている絵本を、書籍ギルドが認めるように働き掛けてくれる価値が在ると考えてくれるかも。




