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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第八章 〜親としては新米だけど頑張ります編〜
1005/1066

1005.卵検知器の魔道具で、沢山の恨みを買っちゃいます。





 魔導回路を用いた卵菌検知器は何とか形になった。

 やはり輝石や輝結晶での魔力の属性変化は能力不足だった為、対象を限定的にする事で魔法の負荷を軽くしないと、上手く魔導具が発動しなかったのよね。

 そこで対象を限定的にすると言っても、魔法ではなく魔導具だからその辺りを指定しないといけない。

 ある程度は従来の魔法石による魔導具で何とかなるにしても、やはり出来るだけ魔法石に描く魔方陣を簡易化する事で魔法石の寿命を延ばすと共に、魔導具師に掛かる技術料を下げたいところ。

 そこで魔法石から放つ魔法に指向性を持たす為の補助として、タマゴの殻を使うと魔方陣は必要最低限で収まり、尚且つ輝石でも発動出来るようになったの。

 ただ、このタマゴの殻をどう安定させるかで苦労した。

 知っての通りタマゴの殻って割れていないからこそ硬いのであって、罅が入ったり割れてしまっていると意外に脆い代物。

 結局、粉末焼成圧縮加工で一定の体積があれば、安定する事が判明。

 基本は毒検知の魔法なので、他にも使えそうだと思うかもしれないけれど、残念ながらそんなに世の中は上手くない。

 既に以前に作った毒消し毒検知の魔導具【孔雀双蛇の指輪(毒消し毒検知)】が、貴重な魔物領域産の素材を使っている事から判るように、魔法や魔導具の機能に多様性を齎せると途端に高度になる。

 その代わり、卵菌検知器に組み込まれた魔導回路は卵菌にしか、その機能を発動しない。

 おまけにあまり出力を上げると、菌の量が問題ない数であっても検出してしまうから、その匙加減が難しい。

 確か卵菌による食中毒を発症には、十万個以上の菌量が必要だったけれど、かと言ってその量まで安全という訳ではないし、保管状態を考えたら多くても二百分の一以下には抑えたい。


「このままでも使えない事はないけれど……、ちょっと勿体ないわね」


 素材的には比較的安価だし、使っている魔導回路も極力簡略化したから、普通の人間が使ってもそれほど負担はないはず。

 そりゃあ魔法石を使った魔導具だけでもある程度値段が高くなるのに、更に魔導回路として魔法銀(ミスリル)を使っているから、決して安価とは言えないけれど、使い続けられる検査機器としては安価な部類になったはず。

 完成した検知器は上面が窪みのある台座付きのお皿の様な形状になっており、この上に卵を置けば発動する仕組みになっており、魔力の供給は例によって魔力伝達コード使用者の身体に引っ掛ける型式なので、スイッチすら要らないのは便利であると同時に、余分な部品を排除するのにも繋がっている。

 だから安全な卵を置いても何も反応しないけれど、菌に汚染された卵を置くとお皿の下に仕込まれている輝石が発光して卵に光が透過して卵自体が発光して見えるのが、この検知器の現在の状態。


 但し、何故か闇色に光る。


 なんて厨二仕様なのかと思ったけれど、そう言う物なんだから仕方がない。

 私のせいではないが、不気味な光景なので、ある意味分かりやすい結果だとも言える。

 実験で検査を手伝っていたアドル達が、その光景にどん引きだったけど、そんな物は慣れの問題。

 蛸だって最初は気持ち悪いだのなんだの言っていたのに、今では姿を見れば美味しそうと言う感想が出てくるのよ。

 そんな彼等はイリーナ達や他の使用人も手伝って、耐久試験を兼ねた精度実験をしてもらっている。

 単純作業なので丸投げしやすい。


 話を戻そう。

 勿体ないと思うのは、問題ない時に何も起きない事。

 矛盾しているけれど、回路を増やしてでも問題ないのであれば問題ないと判るようにしておきたい。

 という訳で、卵に問題があれば本来の回路が発動し、本来の回路が発動しない場合は、別に仕掛けた輝石が普通に白く灯るように変更。

 単に輝石が灯るだけなので、それほど複雑にはならないし、値段もそれほど上がらない。


「これで卵に問題なければ普通に光って、卵が菌に汚染されていたら闇色に光る」


 実に判りやすいし、どちらも違う反応がするので動作確認にもなる。

 更に言うなら、普通に卵が光で透過される事で、卵に罅が入っていないか判りやすいし、黄身と白身の状態もある程度判別ができるようになるから、けっして無駄な回路ではないのも良いところ。

 只、判断基準を含めた手順書を書かないと意味はないので、そちらの方が根拠となる情報を集めるのに手間が掛かるかな。

 卵の透過光試験に関して大雑把な知識は有るけれど、細かな事は知らないし、一々覚えていないので、大枠だけ書いて後は細かな情報収集は丸投げかな。


「追加の試験、お願いねぇ〜」

「「「「まだあるのっ!?」」」」


 何か悲鳴が聞こえてきたけど、まだあるのだよ。

 それにしたってやらせるのは、本格的な情報収集を兼ねた試験運用をする為の試験だから知れているよ。

 村では魔物の繁殖が主で養鶏はそれほどしていない為、キンペイ商会が持つ養鶏所にお願いするつもりだもの。

 キンペイ商会からしたら、おそらく喉から手が出るほど欲する魔導具ではあるから、協力には積極的になるだろう。

 だから終わりは近いわよ、とちゃんとフォローしておく。


「問題は……、また恨まれる事かな」

「かも知れないけれど、ユゥーリィが気にする事ではないと思う」

「それに仕方ない事でもありますわ」


 気にする気はないけれど、嫁二人の言葉に少しだけ慰められる。

 この卵を検査する魔導具は、一般販売するつもり。

 食の安全に繋がる上に、検査を通した事で安心して売れる利点はある反面、検査に弾かれた卵の中には廃棄される物も出てくるため、その分だけ売り上げが下がってしまうし、貴族が抱える調理人は魔導具をまず購入する事になるだろうから、そこで魔導具で弾かれる卵が多ければ、卵を卸したお店はその分だけ信頼を失う事になる。

 一番の問題は検査をする為の魔導具を所有出来るお店と、魔導具を所有していないお店とでは差別が出てしまう事。

 買い手は安全な卵の方が良いだろうし、売り手は手間を掛け設備に投資した分、安全を理由に価格を上げる事が出来る反面、魔導具を所有していないお店は価格を下げないと売れなくなってしまう。

 更により早く設備投資をして売り文句にすれば、客はその印象が強く残る。

 要は売れる売れないが明確になってしまうのよ。

 幾ら安価に作れる事を目指したと言っても、魔導具である以上はどうしてもある程度の金額になってしまう。

 幾らこの世界での卵の価格が高いと言っても、投資分を取り戻すのに何年掛かる事か。

 特に個人でやっている処は影響が出やすいでしょうね。


「商売をやっていれば、避けられない事とは言え、気持ちが重くなる事には変わりないわ。

 皆んなに外に出る時は、より気を付けるように通達しておかないとね」


 新しい物を生み出す度に通達を出しているから、慣れすぎてしまって逆効果かもしれないけれど、出さないよりマシだと思っている。

 実際、過去にそう言う逆恨みしている輩に襲われた事は何度もあるのよ、これが。

 しかも私ではなく、商会関係者を狙うから性質(たち)が悪い。

 陰湿な嫌がらせなんて、それこそ数え切れないくらい。

 だから、どの建物にも警備の人間を増やさないといけなかったのだから、必要経費が上がる一方なのが悩みの種。

 最近で一番悪質な嫌がらせは、秋口に国内の幾つもの都市で開店した平民向け服飾店【森の紬屋さん】(レ・シルヴァン)への襲撃。

 店は小火で済んだものの、抵抗した従業員の何人かが怪我を負っただけでなく、死亡者まで出てしまった。


『天誅であるっ!』


 おまけに、こんな巫山戯た捨て台詞を残して。

 そしてそれは一店舗だけではなく、似たような事が複数店舗で似たような時期に行われた。

 確かに平民向け服飾店【森の紬屋さん】(レ・シルヴァン)は私の所有している幾つもの商会が所有しているお店ではあるけれど、その実態は複数もの貴族からの出資による株式会社のような物なのよ。

 その貴族は私の後ろ盾の恐い方々の家が主となって参加しており、その方々のお力添えもあって、あっと言う間に犯人が割り出された。

 死亡した従業員はその後ろ盾の家の縁者、を庇った縁者の乳母兄弟だったのも大きな原動力になった模様。

 犯人は中古服を扱う商会や、その商会を所有する貴族達。

 理由は私達のお店の存在が、自分達の商売を邪魔したからだそうだ。


『あんな値段で新品の服を売られたら、中古の服等誰も買わなくなるっ!』


 相手の言い分は当然と言えば当然の事ではあるけれど、だからと言って凶行が許される訳ではない。

 そもそもな話、平民向け服飾店に関しては、平民の生活と労働意欲の向上によって国内の景気を向上させる狙いがあると同時に、服を通して衛生概念を意識させる事で流感や疫病の発生を抑える目的がある。

 そんな壮大な話である以上、当然ながら国が関わっており、民向け服飾店【森の紬屋さん】(レ・シルヴァン)の開店は国策でもあるの。

 だから中古服を扱うお店を含めた関係者には、それなりに通達が言っているはずなのよ。

 在庫を早急に処分するなり、商売の仕方を変えるなりのね。


『我等に死ねというのかっ!』


 だから、そのための通達だって。

 だいたいちゃんと差別化を図ってもいるのよ。

 【森の紬屋さん】(レ・シルヴァン)で扱っている服の布地は基本的に軽くて薄いため、耐久性に関しては既成の物より弱い生地の物もある。

 そもそも布に使われている糸だって安価な材料の物だし、貴族の為に作られた布地に比べたら差は大きく、あくまで平民やお金のない下位貴族の為の服を目指して作った布地でしかない。

 更に言わせてもらうなら、そう言う暴挙に出る輩ほど真面目に商売はしておらず、安く買い叩いて高く売るだけの楽な商売をしている。

 国の通達を受けた店の中には、中古の服をきちんと修復して新品同様にしたり、流行遅れの物は今時風にリメイクしてたりと、安くて見栄えが良いだけのお店とは違う処を見せてきている。

 貴族向けの服と平民向けの服とでは意匠の方向性が違う為、その辺りを活かしてね。

 国策である以上はその辺りは調べたり、時には融資したりと、時間を掛けて色々とやっていたのよ。


 ゼルやエルヴィス様達がっ。


 そんな訳で、いずれ落ち着くとは言え、変革期にはどうしても妬み恨みは買いやすい。

 因みに別件ではあるが、我が家の調理人であるヴァイスとエマの夫妻も、そういった逆恨みの被害者だったりする。

 ヴァイスの実家のロッテ家は蝋燭を扱う商会を所有しており、私の実家が照明の魔道具を販売してからは貴族向けの蝋燭が売れなくなったの。

 そこへ現体制に不満を持つ連中に、新しい物にばかりに目が行って古い物に目が行かなくなったのは国の責任だ、と唆されて王族に対して馬鹿な事を企てたのがヴァイスの実の兄達。

 実行する前に発覚した為未然に防げたものの、事が王族を害する計画であった以上、貴族であっても只で済む訳がない。

 幸いな事にヴァイスとエマは寧ろ被害者だった事もあって、宮廷調理人であった職を失うだけで済んだけれど、ロッテ家の当主であったヴァイスの父親も無関係である事が認められたものの、伯爵から子爵への降爵処分と罰金処分を受ける事になった。

 おまけに責任を感じて、原因となった蝋燭事業から手を引いたの。

 此処までは以前にも話したことがあると思うけれど、実はこの話には続きがあって……。


『俺等は何処までも旦那様について行きますっ。

 いや、ついて行かせて下さいませっ』


 そのヴァイスの父親である元伯爵のロッテ子爵は、ヴァイス同様にとても真面目な方で職人達にも慕われていたらしい。

 それで降爵処分の際に領地替えになった為、蝋燭産業と共に紹介も販路も全て売り払ったものの、ロッテ子爵を慕う一部の職人達はそのままロッテ子爵に付いていったのよ。

 何でもやるし給金も安くて構わないから、どうかロッテ子爵の元で働かせて欲しいって。

 そんな話をゼルから聞いた私は、例によって勿体ない根性を出して……。


『じゃあ、新たに香蝋燭(アロマキャンドル)を売り出しましょう』


 と前世の知識から新たな商売の種を思いついて、一緒に商売をしませんかと声を掛けたのよね。

 陛下達の部屋にも使うような蝋燭を作っていたのなら、かなり質の高い蝋燭を作れるだけの技術を持っている訳だもの。

 灯りを取る為の蝋燭ではなく、香りや雰囲気を楽しむ為の蝋燭作り。

 その辺りはお香と被るけれど、高貴な方は飽きないように色々と楽しむ事に意義や価値を見出すもの。

 元より独占しようとしなければ共存は可能。


『蝋燭に絵を? 使えば溶けて無くなるのに?』

『花の形の蝋燭って……、そんな事をしたら溶けきれずに、無駄になる部分も出てくるぞ』

『硝子や水晶の器の中で焚くって、直ぐに煤けるだろうが』

『蝋燭に色を付けるって……、そもそも香料もそうだが、そんな物を混ぜてずっと灯していたら身体に悪くないか?』

『蝋燭を水に浮かべるって、意味が分からんのだが』


 まぁ……、職人を集めて戴いて、最初に説明会をした時の反応は散々だったけれどね。

 なにせ灯りと言う生活の為の蝋燭から、言い方は悪いけれど娯楽や趣味の為の代物を作ろうとするのだから、困惑するのも当然。

 そもそも以前のような大量生産ではなく多品種少量生産な上、取り扱う全体量も以前とは比べ様もなく少ない。

 ただ、その辺りはロッテ子爵に付いてきた職人も少ないので、丁度良いと言える。

 そんな訳で、結局は多少勝手は違っても今までの知識と技術を使える業種ならばと言う事で、私も融資して新たに蝋燭事業を立ち上げたの。

 当然、香料と言う事で、ミレニアお姉様の嫁ぎ先であるグットウィル家を巻き込んでね。

 そして流石は職人であり、技術集団なだけあった。


『うわぁ〜、余分な香りが一切なく、仄かに香る感じが良いわね。

 こっちなんて敢えて煙を出させているのに、変に広がる事なく消え行く感じが香りをより際立たせている雰囲気を醸し出しているわ。

 勿論、蝋燭の飾り彫りは使うのが勿体ないというか、このまま飾っていても部屋の飾りになるくらいだわ。

 でも高貴な方々って、こう言うのを惜しみなく使う事に特別感を見出すから、きっと売れるわね』


 いいから、クダクダ言わずに作って見ろと言ったら、本当に短期間で注文通りに作り上げたのよ。

 本人達は、まだまだだとあの時には言っていたけど、実際には大分苦労したと思う。

 その後、私の後ろ盾の家の奥様方の御協力もあって、売り上げの方はそこそこで、少なくとも追加の融資が必要がないくらいには利益は出ている状態。

 照明の魔道具が当たり前になると、今度は逆に蝋燭の灯火が特別感を齎すようになったようで、ついでとばかりに新たに開発した魔導回路だけで作れるキャンドルウォーマーの魔道具も、火を使わない安全な目新しい道具として、話題を呼んだのも大きかったようだ。


 そうやって商売敵が出ても、今までの技術を活かして別の商売で成功する人はいるのだから、逆恨みする人達は単なる努力不足で、商売を舐めている連中と言うだけの事。

 ただ香蝋燭(アロマキャンドル)の件で……。


『我等夫婦、ユゥーリィ様に生涯、心よりの忠誠を誓います』


 ヴァイスが暑苦しい事を言い出したのには困った。

 元々ヴァイス達は行き場がないため、彼からしたら言葉にする事で、あらためて心を引き締めたって事なのは分かるのよ。

 只、その忠誠心の方向性が問題で、その結果、私の食事の量に関しての目が本当に厳しくなった、……いや、私の身体が人間の枠から外れてきて、それが食事量に影響しているだなんて言える訳がないのにさ。

 気持ちは嬉しいけれど、あの暑苦しさには困ったものだ。

 そして本当に困った迷惑な人達と言うのはいて、ヴァイスの実家であるロッテ家が新たな分野の蝋燭で商売が成功したと知ると、以前の蝋燭職人達がロッテ家は自分達を見捨てたと押し掛けて来たのよ。

 ロッテ子爵も負い目があるのは事実ではあるものの、彼等を見捨てた訳でも裏切った訳ではなく、ちゃんと彼等職人の面倒をきちんと見る事を条件に、以前持っていた商会の権利を安売りする事になってでも、職人達の生活の方が大切だと売却する事に同意した訳だもの。

 そして押し掛けてきた職人達には実は裏の目的があり、ロッテ家が新たに始めた香蝋燭の権利と販路を賠償として寄越せって事だったのよ。

 ハッキリとは口にしなかったけれど、それらしい事をそれとなくロッテ子爵に要求していた。

 なにより……。


『以前のような蝋燭産業は先細りする事が目に見えていますが、それでも平民にとってはまだまだ何十年も成り立つ商売である事には変わりません。

 どう考えても貴族や富裕層を相手にした、利益性の高い商品を狙っての事でしょうな』


 流石は国の情報を司る暗部にいただけあって、ゼルがしっかりと背景を調べてきましたよ。

 彼等は商会を買った貴族に脅されての行動だったらしい。

 残念ながらロッテ家の新たな商会は公表はされてはいないものの、私が出資している事もあって共同経営による商会。

 ぶっちゃけて言えば、私の持つ商会に所属する傘下の商会だとさえ言える。

 つまり子会社の様なもので、更に正確に言うならば孫会社かな。

 どちらにしろロッテ家は蝋燭事業の陰りを切っ掛けとして一度王家に牙を向けている事もあって、我が家の監督下で新たな蝋燭業を起こした体裁が必要な事もあり、殆ど名前だけではあっても、香蝋燭の利権は私にもある為、ロッテ家の一存で勝手に利権を譲渡出来ない。

 かと言って、黙っていたらロッテ子爵やお抱え職人達が精神的にやられてしまうかもと思うとね、我が家の調理人であるヴァイスの胃が心配になる。


『あら、お久しぶりですわね。

 こうしてお顔を拝見するのは何年ぶりかしら?』

『本日は何やら面白いお話を聞かせて戴けるとか』

『私、どんな愉快なお話を聞かせて戴けるのか、楽しみにしておりましたのよ』


 なのでロッテ子爵と共に相手の家に訪問させて戴きましたよ。

 香蝋燭を気に入って戴けた、私とお付き合いのある家の御婦人方々と一緒にね。

 私、こう見えても一部の高位貴族の方々と仲良くさせて戴いていますからね。

 御婦人方の挨拶に、相手は青い顔でガチガチ状態に。

 そりゃあそうだろう。

 自分の派閥のトップの奥様も中にはいましたからね。


『……、……ぃ、ぃぇ、わ、私は……、只……、ロッテ子爵があのような事があっても、挫けずに新たな蝋燭を生み出した事に、以前の事業を譲られた者として、今後も……、し静かに大人しく(・・・・・・・)応援して行きたいと言うお話を……』


 婉曲に今後一切関わりません宣言を戴けたので、その後は普通に商売の話。

 照明の魔道具が普及していると言っても、それは貴族や富裕層の中での話しであって、世間一般では蝋燭は当たりの生活必需品。

 各家の所有する領内に普及する普通の蝋燭の幾らかを、定期的の安定した供給をする事を条件に購入する話。

 領民の生活に必要な生活必需品ですから、仕入れ先を一つに絞らずに複数確保しておくのは領主一族としては当然の事なのよね。

 しかも例の事件で落ちぶれたとは言え、元は王城に蝋燭を収めていた優秀な職人集団を抱える商会を紹介する形になる為、奥様方を一方的に利用した事にはならない。

 ついでに私からは硝子を用いた蝋燭用のランタンを提案。

 硝子はまだまだ高いので平民が購入するには少し勇気がいる価格かも知れないけれど、火事の心配がかなり減るし、硝子で光が程良く拡散するから以前より明るく感じるはず。

 何より取り扱いさえ気を付ければ、ずっと使える代物だしね。

 硝子製品に関しては、私の実家の商会への図面入りで紹介状を認めておいたので、大丈夫だと思う。


『さて、商談は此処までにして、もう少しお話ししましょうか』

『このまま帰っては、私、主人に叱られてしまいますの』

『自分の行動が後々どのように影響するか、もう少し考えられるようにして貰わねば、貴家の後見人として、我が家が恥を掻く事になると思いません?』


 何度も言うけれど、元が優秀な蝋燭を扱う職人達なんだよ。

 真面目に商売をしていれば、こう言った商談を彼方此方から持ち込まれたはずなのに、欲に走っただけでなく馬鹿な手段を取ったばかりに、恐い方々に目を付けれる事になるの。

 商談の後に、しっかりと御婦人方に釘を刺されていましたよ。

 勿論のお小言で済む訳もなく、高位の家の方々に安易な愚かな手段に走る家だと認識されてしまった訳。

 所有する商会としては利益がある話にはなったものの、家としては上の方々に目を目を付けられた事の方が、どう考えても貴族としては大きな失点と言える。


 ……厳しい?


 いえいえ、今回連れてきたのは御婦人方だけですからね。

 これで旦那さん方も連れてきていたら、真面目な話、責任問題にまで発展しますよ。

 なにせ先方が引き取った職人達をしっかりと面倒を見る、という約束は双方のみの契約ではなく、神殿が発行した書式を用いた神殿契約。

 破ったからと言って神様から直接神罰を受ける様な神秘的な代物ではないけれど、その代わりバレれば信頼が失墜するし、教会が威信を掛けて神罰代行をしてくる事になりかねない。

 そして男尊女卑が大きいこの世界だと、男性と女性の言葉では信頼度も発言力が大きく違うため、逆にそれを利用して女性である奥様方が顔を出す事で……。


『夫を連れて来なかったのは、話が大きくなったら貴方も拙いでしょう?

 内々に済ましてあげますから、私達(我が家)に恩を着なさい』


 と言う意味でもあるの。

 それが分かっているから、相手は御婦人達の顔を見るなり顔を青くしていた訳。

 一応この件でも、私的には相手に気遣って丸く収めたつもりだけど、どこで如何恨みを買っているかは判らない。

 卵の検知器だってそうならないとは限らないし、商売とはそういう物だと判ってはいても、困ったものだと思ってしまう。








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