1002.気持ちは分かるけれど、遊びに来ている訳ではないと判りなさいよ。
「……、……、……、……はぁ〜〜」
王妃様、気持ちは分かりますが、盛大に溜め息を吐かないでくださいよ。
今回の一件、普通であれば家同士の話しで済ませなければならないのだけど、残念ながら新しい古傷の治療方法に於ける集団治験は、王妃様主導で行われた物である以上、大きな問題が起きれば王妃様にお話ししない訳にはいかない。
主導って言う事は、責任を持つって事ですからね。
おまけに前回、治療に王家が関わっている事も自覚しない馬鹿が出たため、お目付役を付けるように各家に伝達し、患者のお付きの人間を人数制限をしていた私にもそれを受け入れるように要求したのは、他ならぬ王妃様自身。
そのお目付役の人間が率先して問題を起こしたのだから、王妃様としては無視出来ない話しとなってしまう。
でもね、こんなくだらない騒動を起こされて、それを王妃様に報告しに来させられる私の方が溜め息を吐きたい気分なのよ。
「我が家で起きた事ですので、私の監督責任という事にしますか?」
「……出来る事ならそうしたい所ですが、そう言う訳にもゆきません」
こういった問題が起きた場合、普通は我が家の責任にして、後は各家同士の話に持って行くというのが一般的な流れとなる。
ただ、今回で最後の予定の集団治験とは言え、他の患者にも影響を及ぼす事になりかねないし、私の責任にしては、新しい治療方法その物に疑念が向きかねない事態に発展する可能性がある。
治療方法を早く広めたい王家としてはそれは防ぎたいでしょうから、私の確認を兼ねた提案には頷けないのも分かる。
かと言って、話しを大きくしたい訳でもない。
「……よりにもよって魔法を使うなどと、いったい何を考えているのかしら」
「……恐れながら、何も考えていないかと」
問題は此れなのよね。
以前にも何度か話したけれど、コッフェルさん曰く魔導士は【人間のなり損ない】であり、魔法を使えない人達からしたら【同じ人間ではない】潜在的な脅威でしかないの。
魔導士の人口が少なく、人類にとって脅威である魔物に対して有効的な存在だからこそ、【自分達を守るナニカ】として受け入れられていると言っても良い。
極論ではあるけどね。
だとしても普通の人とは違う力があるからこそ、その力の悪用には厳罰を求められる。
これは魔導士だけでなく、騎士や階級の高い傭兵や冒険者にも言える事なので、魔導士だけが特別という訳ではない。
たんに能力的により大きな被害を生む可能性が高い分、より厳しい処分を求められると言うだけの事。
そして国としても、世間が魔導士に対して厳しい目で見る事によって、迫害が起きる事は防ぎたい事情がある。
何だかんだと言って、魔導士は歩く砲台であり、人間兵器であるからだ。
国防を考えたら魔導士はいなくてはならない存在であり、出来るうる限り協力的な関係を維持しておきたいと考えるのは国として当然の事。
「真面目な話を述べさせて戴くのであれば、力の無い魔導士が故に、危機意識が欠如しているのかと」
「……十分にあり得る話しだわ」
喧嘩に魔法を使うなど、絶対に在ってはならない事。
やるのならば、せめて被害が出ない魔法を使うべきなのよ。
身体強化とか盾の魔法とか、工夫をすれば幾らでも喧嘩に使える魔法があるというのに、よりにもよって攻撃力の高く派手な【火】属性魔法を使うなど、なにも考えていない馬鹿だとしか言えない。
よくもまぁ今まで問題にならなかったと思う。
しかも辺境伯の屋敷の一室を焼くなど、その場で処刑されても文句は言えないだろう。
と言うか、おそらく関係している家は、そうしてくれた方が良かったと思うでしょうね。
処刑されていたのならそこで罪を償った事になり、話しは必要最低限の賠償だけで済むもの。
「その辺りは国にお任せします」
「……簡単に言うけれど、現状ではそれとなく注意喚起する事しか出来ないわね」
だから学校のような共通する倫理観を養う場所は必要だと思うんですけど、民に必要以上に知識と知恵を与える事を嫌う人達がいる以上、王妃様の言う通り注意喚起をする事しか出来ない。
まぁ教会のミサで説法を説いて貰うのが、今の所一番現実的だと言える。
それも教会に足繁く通っていて、家族揃って熱心な教徒でないと効果は薄いのが欠点だから、残るのはお茶会などで地道な運動となってしまう。
「そこは国のお仕事だと思います」
「言われなくても分かっています。
問題は今回の件をどう収めるかよ」
頭の痛い問題から目を逸らしたというより、どうにもならない問題を今していても仕方がないから本題を求めてきた感じだけど、まぁそうなるわよね。
実のない話をしていても仕方がないもの。
「処刑してしまうのが一番手っ取り早くはあるわね」
「それは何も解決しない解決法ではありますが?」
「無理に解決する必要も無い事ですから」
結局は個人の犯罪でしかない。
魔導士の社会的立場の危うさは何ら解決出来ないし、現状で社会問題に発展していない以上は今すぐに解決する必要も無い。
只、状況的に国と家が関わっているため、それなりに筋を通さないといけないと言うだけの話しなのよ。
これもまた極論だけどね。
ただ、何度も言うようだけど、国と家が関わっているため、それだけで済ませれない事情がある。
国としては今回の問題で我が家に瑕疵があるように持って行きたくない以上、問題を起こした者を寄こした家と、その問題を起こした者の家に、私の分も被って貰わないといけない。
ある意味当然の事なのだけど、これまた相手にとっては、なるべく責任を負いたくないと思うのも当然の事なの。
その落とし所をどうするかなのよ。
長引かせてしまえば問題が大きくなる可能性があるから、早急に片を付ける必要がある。
「先程も口にしましたが、処刑をした所で何ら解決いたしません」
私に言わせれば、罪を犯した人間を楽にさせるだけの処分でしかない。
例え魔導士の社会的立場に亀裂を入れる愚行で、魔導士全体からしたら殺した方が良い人間であったとしても、一人の人間として罪を問うた場合、殺した方が良いとまでは言えない。
かと言って前世の国の法律のように、犯罪者の人権と将来性を理由に、次の被害者が出る事を容認する気もない。
「王族であられる王妃様が関係していると知りながらも、安易な理由で辺境伯の屋敷で問題を起こすなど、許してはならない事です」
この言葉に王妃様は小さくではあるけれど、しっかりと頷かれる。
結局はこれなのよね。
身分制度が厳しい貴族社会で生活をしていながらも、そんな事すら考慮せずに感情の儘に暴れる人間が、魔導士と普通の人との共存を配慮して生きて行ける訳がない。
「ですので関係した家には、しっかりと責任を取って貰おうと思います」
問題を起こした二人には、二度と魔法を悪用出来ないように魔法じの枷を付けて生涯を過ごして貰う事を提案。
関係した家は、この様な問題を起こす人物を選定したとして、その責任をとって彼女達を今まで通り生活をして貰いながらも、再教育をする事を求める。
牢に入れられるなり、部屋に監禁されるならばともかく、問題を起こした二人にとっては今まで通りの生活など針の筵でしかないだろう。
ましてや枷を付けた儘など、犯罪者や奴隷と言っているようなもの。
貴族の家の出の者としたら、さぞかし屈辱である事は間違いない。
もしかして悲壮にくれて自殺するかもしれないけれど、当然ながら自殺しないように監視の目を付けさせるのも条件の中に入れる。
その代わり、この条件を受け入れるのであれば賠償は最低限しか求めない。
最低限であっても賠償を求めるのは、それでこの話は終えたとする為の物で、相手にとっては安心する為の材料でもある。
「……ぅわぁ」
この時点で王妃様は、どん引きのあまり淑女等しかぬ声を漏らすけれど、そこは礼儀正しく聞こえないふりをしておく。
私、よく甘いと言われるけれど、別に甘いつもりはないし、見も知らぬ他人がどう生きようが知った事ではないとさえ思っているので、寧ろ冷たい人間だと言う自覚がある程。
「ちなみに受け入れられないというのであれば、問題の部屋の修理費用以外に別邸の内中の壁紙や絨毯、そしてカーテンなどの布類以外にも、飾られていた絵画などの美術品の交換費用を上乗せして賠償を請求いたします。
どうやら小火の際に煙が回ったようでして、どうにも煤けた匂いがする気がしますので」
勿論、問題の部屋とその周辺以外はそんな事はないし、念の為に屋敷中を洗浄魔法を施したので、匂いも染みも無い状態。
でも仮にも貴族の家、しかも辺境伯の屋敷ともなれば請求しても少しもおかしくはない。
おまけに築二年と新築当然ともなれば、当然の請求だと思われるだろう。
更に言うならば、セバスが金に糸目を付けずに建てた別邸よ。
成金趣味にならないように気を付けさせたと言っても、壁紙やカーテン一つ取っても掛かっている金額が、そこ等の下級貴族の屋敷とは桁が幾つも違う。
そこに賠償費も加われば、さぞかし莫大な金額になる事は間違いない。
「……もしかして、かなり腹に据えかねていますの?」
「失礼ながらも逆にお聞きしますが、私が怒っていないとお思いですか?
王妃様、私が魔導士の立場を守るために、どれだけ我慢をし努力しているか、その一端を御存知ですよね?」
私、痛いのも痛くするのも嫌いな人間よ。
小さいながらも力を持っているからと、その力の恐ろしさを知ろうともせずに馬鹿をする人間を、私が容認する訳がないじゃない。
弱い力だと言っても、くだらない喧嘩に魔法を用いるなど、ナイフどころか重火器を持ち出すようなもの。
今回の一件は、ショッピングモール内で自動小銃を乱射した行為に等しい。
死人が出なかったのは単に運が良かっただけで、だからと言って行った愚行が消える訳ではない。
それを理解出来ないのであれば、嫌でも理解させるだけの事。
「……愚問でしたわね」
別に王妃様に謝って戴きたい事ではないわ。
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【双子ちゃん女中の、なぜなにコーナー】
〜 魔法使いのなり損ないの基準 〜
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メアリー「姉のメアリーと」
アンネ 「妹アンネの
メ&ア「「なぜなにコ〜〜ナ〜〜〜♪」」
メアリー「今回は前回の続きです」
アンネ 「何を持って【魔法使いのなり損ない】とするかです」
メアリー「ぶっちゃけ明確な基準はありません」
アンネ 「力の無い魔導士とするならば、ユゥーリィ様の御実家の御家族の大半は魔導士という事になる。だけど外部魔力を持ちながらも、火種魔法など本当にごく小さい魔法しか使えない者は魔導士とは認識されず、唯の魔力持ちというのが世間での認識」
メアリー「そういう意味では、シンフェリア家は魔法の素質に恵まれた血筋だと言えますが、魔導士を輩出した数はそれほど特出していません。今回はユゥーリィ様の御実家のお話ではないので本題に戻りますが、殆どの【魔法使いのなり損ない】は生み出した魔法を遠くに射出する事が出来ません」
アンネ 「生み出した魔法の威力その物も弱く、魔法に対して抵抗力を持つ魔物には殆ど効果を成さない」
メアリー「ユゥーリィ様曰く、魔力を身体の外に強く放出する【無】属性が外部魔力であるのに対して、放出した魔力と魔法を維持するための自己力場を掴む感覚の欠如が理由だそうです」
アンネ 「誤解のないように言っておくと、感覚と言っても訓練で何とかなるものではなく、魔力神経同様に、何らかの魔力的な器官の欠如によるものと思われると言うのが、ユゥーリィ様の研究結果の一端」
メアリー「そのため魔力の霧散が早く、例え魔力その物が高くても弱い魔法になってしまいます」
アンネ 「只、威力に関しては生まれ持った魔力が高かったり、訓練次第で魔力を圧縮する事で一定の威力を維持する事は可能。何処かの王都の双子姉妹は後者に当たる。そう、単なる色惚け双子姉妹ではなく、努力をする色惚け双子姉妹。才能はあるのに中身が残念双子姉妹とも言う」
メアリー「他にも少数ですが、精神的な問題で【魔法使いのなり損ない】となる方もおり」
アンネ 「少しの血を見ただけで気絶する人間は、戦場では邪魔な足手纏いでしかない。逆療法で悪化した人間も多いと聞くけれど、腹を割いた豚と共にその臓物を頭からぶちまけられたら、悪化するのも当然だと思う」
メアリー「その例を持ち出すのは、お姉ちゃん流石にどうかと思うのだけど」
アンネ 「死刑囚の処刑を目の前で見せた例を出すよりはマシ。特に腰斬刑を目と鼻の先で見せた結果、発狂したと言う記録もある」
メアリー「……まぁ、その繰り返しの結果。逆療法が行われる結果が減ったと思えば、【魔法使いのなり損ない】の方にとっては良かったのかも」
アンネ 「ふっ、人は愚かね。でも愚かしさから学ぶだけ、まだ救いがあるのかもしれない」




