ミッション8 ようやく帰宅しました・・・!?
2021年10月20日に文章の一部変更をしました。
「た、ただいま~・・・・・・」
「「「イ~・・・!」」」(今戻りました~・・・!)
件の工場での仕事を終え、更には遭遇したアニマルレンジャーというヒーロー達との戦闘を終えた後、俺達は転送装置を使って秘密基地へと帰って来た。
正直、今回は本当に疲れた。まさか初仕事でヒーローと遭遇して戦う事になるだなんて思ってもみなかったからだ。
・・・いやまあ、そのヒーロー達がまさかの変態共だったというのも、疲労感を増している要因だったが。
「よくぞ帰って来た、諸君!ご飯にする?お風呂にする?それとも・・・・・・」
そんな俺達を悪の組織アンビリバブルのボスであるブレーバーが出迎えてくれた。・・・何故かエプロンを羽織り、新妻的な出迎えのセリフとポーズを決めながらであったが。
いや、マジで何でそんな恰好してんのアンタ?しかも無駄に着こなしてるし。見た目はミスマッチなのに全然違和感を感じないとか何なの?
「部屋で休む~・・・・・・」
「イーイイー!」(戸棚におやつがあったはずだから食べよ~!)
「イー・・・・・・」(俺は本でも読むか・・・・・・)
「イイー、イー。」(俺はトラックを格納庫に返してくるぜ。)
まあ、それに対してわざわざツッコミを入れる程の体力がなかった俺はそれを華麗にスルー。戦闘員達もツッコミを入れることなく、ブレーバーの格好を見ていないと言いたげに視線を逸らしていた。
「・・・うぅ・・・皆冷たい・・・・・・少しくらい反応してくれてもいいではないか」
そして、俺達にツッコミを入れられず、どころか気にもすらしてもらえなかったブレーバーはと言えば、目尻に涙を浮かべながら寂しそうにガクリと崩れ落ちていた。
『次のニュースです。本日の午前九時頃、近藤食品生産工場にて謎の爆発事件が発生しました』
「・・・・・・ん?」
崩れ落ちたブレーバーを横を通って自分の部屋に戻ろうとした俺だったが、そこで彼の後ろに設置されていた大型テレビで放送されていたニュースが気になって足を止めた。
『工場の上空にて大規模な爆発と爆発音が確認され、警察が調査の為に急行。我々報道関係者も直ちに現場へと向かいました。現場の向井さん!』
『はい、こちら現場の近藤食品生産工場にいる向井です!現在ここでは数多くの警察官が工場内を調査している最中です。現在は封鎖されて入る事は出来なくなっているのですが、我々は封鎖される前に一度中に入る事が出来ました。そして、工場の駐車場で見た光景に我々は驚かされました!』
『一体何を見たんですか?』
『そこには、ここ最近五人組ヒーローとしてデビューした始めたアニマルレンジャー達が黒焦げの姿となって駐車場に倒れている姿が発見されました!』
『ええ!?それは、アニマルレンジャー達は大丈夫なのですか?』
『病院への緊急搬送後、病院からの発表では命に別状はないとのことですが、全身に大火傷を負い、全身の骨に罅が入っている状態とのことで、当分の間はヒーロー活動を行うことは出来ないとの事でした』
『デビューしてから連戦連勝中のアニマルレンジャー達がそんな姿になっているなんて・・・・・・彼らがそんな様子になった原因に、現時点で心当たりはありますか?』
『いいえ、詳しいことはまだ何もわかっておりません。ただ、警察と報道関係者が工場内へ入ろうとした際、一台のトラックが猛スピードで工場から出てくる様子が見られており、おそらくそのトラックに乗っていた人物または人物達が原因ではないかと思われます』
『犯人がいたのですね?』
『はい。もちろん警察及び我々報道陣もその不審なトラックを発見した際に追いかけたのですが、トラックを運転していた人物は物凄い運転技術を有していたようで、あっという間に撒かれてしまいました。現在も警察が周辺の捜索を行っておりますが、未だ発見できておりません。また、工場内にその不審人物達がいたという証拠が残っているようで、警察関係者が今も調査を行っているとのことです』
テレビのニュースでやっていた内容は、俺達がいた工場についてのモノだった。
「イッ!イイー。」(・・・お!俺達がいた工場がニュースに出ているぞ)
「イイッ。イーイイーイー?」(ほんとだ。これで俺達も有名になるのかな?)
「イーイイー・・・・・・イイッ、イイイーイイー、イーイー」(そんなにすぐに有名になれるわけないだろう。・・・・・・それにあの後、トラックを運転していた俺は結構大変だったんだぞ)
疲れた様な溜め息を吐く戦闘員二号。
実はアニマルレンジャー達を倒した後の事なのだが、爆発音を聞き取った警察と報道関係者が俺達のいた工場へと集まって来たのだ。
残るは後片付けだけだと気を抜いていた俺達は、次々と集まってくる人々に驚きながらも急いで撤収作業を開始した。そして戦闘員二号の運転するトラックに乗り込み、そのまま転送装置のある貸倉庫に戻ろうとしたのだが、しかし工場の敷地から出た途端に警察に見つかり、急遽追う者と追われる者カーチェイスが開始されたのである。
その時に戦闘員二号のプロ級とも言えるドライブテクが冴え渡った。急発進した後に蛇行した道路や急カーブやらをドリフトしたり、スピンしながらUターンを行うなどし、更にはアクセルを踏み抜いたフルスロットルの状態で車の流れの隙間を縫う様に走ったのである。
だがしかし、警察と報道陣はそんな俺達の乗ったトラックに追い付こうと食らい付いて来た。具体的には人海戦術やら交通封鎖で。
最終的に俺達が彼等を何とか撒く事に成功したのは、逃げ始めてから約三時間が経った後の事であり、その後になってようやっと転送装置のある貸倉庫に到着し、秘密基地に帰って来ることができたのである。
「・・・・・・疲れた。本当に疲れたよ、もう」
「イッ!?イーイイーッ!?」(うおっ!?ディーアルナ様の目が、死んだ魚のような目をしている!?)
「イー・・・イイイー、イー・・・・・・!」(うわぁ・・・目元のハイライトも消えているように見えるから、なんか怖い・・・・・・!)
「イイーッ・・・・・・!?」(軽いホラーを感じるな・・・・・・!?)
その事を思い出した俺は、ハァ・・・と溜め息を吐く。
戦闘員達にも色々と言われていたが、それについて言い返す気力ももうなかった俺は、フラフラとしながら自室へと向かう為に廊下を歩いていくのであった。
「イッ、イー。イーイー、イイー?」(そういえば、ブレーバー様。あの件をディーアルナ様に伝えなくてよかったんですか?)
「・・・・・・グスッ・・・ん?あの件って何のことだ?」
ディーアルナが自室へ向かう為にその場から離れた後、戦闘員一号がそう言えばという感じにブレーバーへと話し掛けた。
ディーアルナと戦闘員達にツッコミを入れられることなくスルーされた事にガッカリしていたブレーバーは、目尻に溜まった涙を指で拭いつつ「一体何の事?」と首を傾げた。
「イイー。イーイイー」(ほら、あれですよ。ディーアルナ様の弁護士の件です)
「ああ、あのクズ野郎の事か」
フン!と鼻を鳴らしたブレーバーは、思い出したくもないと呟く。
「イー・・・イイッ。イーイー?」(クズ野郎って・・・まあいいや。それで、本当に伝えなくていいんですか?)
「構わん構わん。もう既に終わった話だ。わざわざ蒸し返すこともない」
ブレーバーは立ち上がると、手を横に振って、言わなくていいと答える。
「借金という名の遺産の相続を放棄できることを、何も知らなかった子供にわざと教えなかったクズの事なんかで、彼女を悩ませる必要などないだろう」
「イー、イー。イイッ、イイイーイー。イッイー」(まあ、そうですね。それに、もともとディーアルナ様の父親が負っていた借金は一億円。アイツはその十倍を吹っ掛けていたようですからね)
「うむ。しかも闇金融との癒着もあったみたいで、書類の複数偽造なんてこともしていたようだしな。そんな奴は豚箱に放り込まれるのは当然の帰結だろう」
ブレーバーはそう口にすると、テレビの方へ視線を向ける。
テレビではまだニュースが続いており、今はとある一つの事件についての報道が行われていた。
『現在私がいるのは、宝堂法律相事務所という建物の近くで、今私の後ろにある建物がその事務所となります。そして、今ここでは警察関係者が一斉摘発を行っております』
テレビの画面にはとある街中にてリポーターが報道を行っていた。その背後には宝堂法律事務所という看板が掲げられた建物が映し出され、その入り口で多数の警察官たちが出たり入ったりを繰り返している様子が見える。
『なぜ宝堂法律事務所がこのような状況になっているのかと言うと、警察関係者に話を聞く限りでは、警察署に匿名での証拠提出が出されたからなのだそうです。警察がその証拠を元に関係調査を行ったところを、闇金融との癒着が発覚し、さらに不正な金銭の取得も行われていたという事も判明されました』
リポーターはそこまで話すと、今度は建物の前へと移動する。
『この宝堂法律事務所を経営している宝堂文三被告、四十一歳の行っていた不正な金銭の取得についてなのですが、何と借金返済の相談をしに来た方の書類を偽造したり、遺産相続の内容を改ざんするなどの違法行為を行われ、その時に出来た余剰分とも言えるものとなったお金を自らの懐に入れていたとのことです。・・・・・・・・・あ、警察官が誰かを連れて行こうとしている様子が確認できます!それでは、我々もお話を伺っていきたいと思います。』
宝堂法律事務所から複数の警察官と頭から布を被った人物が出てきた際に、そこへ『すみませーん!』と突撃していくリポーター。
しかし、その周囲にはかなりの数の他の報道関係者が押し合いへし合いしている状況であり、足を踏み入れる隙間が中々なかった。・・・が、リポーターはその中をまるで荒れ狂う波を掻い潜るかのごとく進んで行き、そしてようやく移送されようとしているその人物にマイクを向けて―――
「ポチッとな」
―――話を聞こうとしたところで、ブレーバーがリモコンのボタンを押してテレビのチャンネルを歌番組のそれへと変更した。
「「「イイーーーッ!?」」」(ええーーーっ!?)
弁護士でありながら犯罪行為を行った人物の結末がどうなるのかが気になり、食い気味テレビを見ていた戦闘員達は、突然チャンネルを変えられた事で「いい所なのに!?」と驚きと不満の声を上げた。
「あんなクズについての話なんて聞いていても面白くないだろう。それよりも歌番組を聞こうじゃないか!今日の歌番組には歌って踊って戦えるアイドルヒーローのシィナちゃんが出演するから、見逃すわけにはいかないのだ!」
「「「イイィー・・・」」」(えぇー・・・)
テレビの歌番組を見ながらルンルンルーンとするブレーバー。
そんな自分達のボスを見た戦闘員達は思わず残念なモノを見るかのような視線を向けてしまった。
「・・・・・・あ、そうだ。君たち、頼んでいた例のお土産は?」
「イ、イイ。イー。」(・・・え?あ、はい。もちろん持ってきましたよ)
そこで、そういえばという感じにブレーバーが戦闘員達に声を掛けた。
彼の言う例のお土産が何なのかを知っていた戦闘員達―――その内の一号がどこからともなく紙袋を持って来ると、その中からブレーバーの言うお土産を取り出した。
「イー。イーイイ」(はい。ご所望だった近藤食品の特製竹輪とかまぼこです)
「うむ!これだよこれ!あの会社で作られている竹輪とかまぼこは、酒の肴に最適だからな。今回の作戦は我らの存在を世に知らしめるのも目的だったが、どちらかと言えばこれが欲しかったからやった様なものだ。なにせ買いに行きたくても外には出られないし、宅配に頼もうにもさすがに此処に届けてもらう訳にはいかないし・・・」
そう言いながらソファに座ったブレーバーは、竹輪とかまぼこの入った袋を開いた用意していた皿の上に盛りつけていく。
そう。今回ディーアルナ達が行った悪の組織としての活動は、結局のところそれ等を手に入れんが為に行われた事であった。戦闘員達がそれ等を持っていたのも先程ブレーバーが言っていた通り、彼が戦闘員達にお土産として持ってくる様に頼んでいたからだ
ちなみに、戦闘員達が工場に設置してきた機械は竹輪とかまぼこの代金代わりと今後の発展を期待して用意した物であり、工場に元々あった機械よりも高性能且つより効率的に竹輪とかまぼこを生産する事ができる代物であった。
尚、今回の作戦がどういった目的で立てられたのかを事前に聞いていた戦闘員達は、「金銭感覚がくるっているんじゃないか?」とか、「等価交換になっていないどころか過剰に払い過ぎだろう」と内心で思い、呆れていたが。
「それじゃあ、こいつで一杯やりながらシィナちゃんの歌を聞くとしようか!」
そう言いながら皿に竹輪とかまぼこといった酒の肴を盛り付けたブレーバーは、どこからかともなく日本酒を取り出し、それをこれまたどこからともなく取り出したコップに注いだ後に、テレビを見ながら飲み食いをし始めた。
それを横目で見ていた戦闘員達は「信じられルカ?これがウチの組織のボスなんだぜ?」と言いたげな視線を彼に向けながら、先程の話しの続きをする為に集まる。
「イー、イイー。イーイーイー」(しかし、ディーアルナ様も不憫な身の上だよなぁ。父親が死んだ矢先で詐欺紛いの事を行う弁護士に目をつけられるなんてさ)
「イイー、イーイー、イイイー、イーッ」(その件についてなんだがな、後からもう一度調べなおしてみたんだが、どうもあの弁護士をディーアルナ様に紹介したのってヒーロー連合協会らしいんだよな)
「イッ?イイー?」(・・・え?それマジ話?)
「イー。・・・・・・イイ、イーイーイー、イイイッ」(マジ話。・・・・・・父親が死んだ後にアレを宛がったのが、その父親の直属の上司だったようでな、酷い話もあったもんだよなぁ)
「イー・・・?イッイー、イーイー・・・・・・」(えー・・・なんだよ、それ?天下に名高いヒーロー連合協会だったらもっとマシな、まともな弁護士を紹介できるだろうに・・・・・・)
「イイー、イーイー。イイイッ、イイーイーイイー、イイッ、イーイー」(あと、借金の件についてもちょっとおかしいんだよ。確かにディーアルナ様の父親はその仕事の関係上、弁償請求が出されていてもおかしいとは思わないんだけど、それでも、いくらなんでも一億円なんて借金を負うなんてことは考えられないんだよ)
「イイー、イー?」(どういうことだ、三号?)
「イイ、イーイイー、イッイーッ。イー、イイー、イー」(だって、その父親の収入について軽く調べただけでも、年収を数千万くらい得ているんだもん。例え億単位での借金があるとしても、とっくに返済できている筈なんだ)
「イイー!?イー?・・・・・・イッ?イー、イイー、イーイー?」(はあ!?それマジかよ?・・・・・・でも、それだとおかしくないか?それじゃあ、なんでディーアルナ様はそんな父親と生活していてバイト三昧の貧困生活なんて送ることになっているんだ?)
「イイー、イーイイー、・・・・・・」(そこはまだ調査中だけど、たぶん僕の考えが正しければ・・・・・・)
「・・・・・・おい、お前達」
ディーアルナの身の上と彼女の父親について戦闘員三号が自身が予想したことを語ろうとした時、そこでブレーバーから声が掛けられた。
その声を聞いた戦闘員達は全身にゾワゾワと尋常ではない悪寒が駆け巡って行くのを感じた。そしてギギギッと壊れた機械の様にどこか軋んだ音が出そうな動きでブレーバーの方へと振り向く。
そこには強烈な怒気とあらゆるモノを平伏させるかのような覇気を放つブレーバーが、ソファに座りながら横目で―――仮面で顔が隠されているので、感じられる印象としてだが―――彼等の事を睨んでいた。
「その話、彼女の前でするんじゃないぞ。もちろん彼女に伝えることもなしだ。・・・・・・彼女は我々と出会ったことで、ようやく己の身を苛む状況から抜け出すことが出来たのだ。なのに、その我々が彼女を悩ませ、苛ませるなど、絶対にしてはならない事だ」
ブレーバーから放たれる雰囲気は並大抵の者であれば近くで感じただけでも即座に失神してもおかしくなく、また怒りを押さえ込んでいるかのようなその声音と相まって聞いている側からすれば「こ、殺される!?」と思ってしまう程のモノだ。
「「「イイイイイイイイッ・・・・・・!?」」」(あわわわわわわわっ・・・・・・!?)
そして、それを直で感じている戦闘員達の心情も推して知るべし。
彼らは恐怖で体をガクガクと震わせ、中には恐怖のあまり何かの液を漏らしてしまう者さえいた。
「いいか?絶対に彼女の前でその話をするんじゃないぞ。もし、言いつけを破って彼女に言うようであれば・・・・・・・・・」
「「「イーッ!!!」」」(絶対に言いません、ボス!!!)
ビシッ!!と全力で直立不動となって敬礼をする戦闘員達。
そんな彼等を見たブレーバーは納得した様に頷くと周囲へ放っていた覇気を収める。
「うむ。分かればよろしい。それでは後は――――――全力でシィナちゃんを応援するだけだな!!」
『それでは、本日のゲストを紹介いたします!皆さんお待ちかねのアイドルヒーローのシィナさんです!』
『どうも!アイドルヒーローのシィナでーす!』
「うぉぉおおおおっ!シィナちゃーん!!」
そして視線をテレビに戻した途端、一転して何処からか取り出したポンポンを両手に持って縦横に降り始め、テレビに向かって応援をし始めた。
それを見ていた戦闘員達は、先ほどまでの雰囲気との天と地ほどのギャップに「えー・・・・・・!?」と言いたげに驚愕の視線をブレーバーに向けた。
「イ、イイーッ、イーイイーイーイイー・・・・・・!?」(さ、さっきまで、とっても悪の組織のボスらしい雰囲気と貫禄があったのに・・・・・・!?)
「イイイー・・・・・・!」(一気に台無しになったな・・・・・・!)
「イ、イイー!?イイーイー・・・・・・!」(こ、怖かった!?なんか色々漏れちゃった・・・・・・!)
テレビの前でポンポンを振りまくっているブレーバーの姿を見て、彼らは同時に「さっきみたいな雰囲気を何時も出していたら、とっても悪の組織のボスらしいのに」と思うのであった。
「・・・・・・はぁ、一日も経つとなれるもんなんだな。初めて女になったと知った時には、自分の体だとしても結構動揺していたはずなのに」
皆と別れた後、廊下を歩いて秘密基地内に存在する自分の部屋に到着した俺は、部屋の中に備え付けられている浴室でシャワーを浴びて、今日の仕事で付いた誇りやら汚れやらをお湯で流していた。
そして、その際に女の体となった自分の体を見下ろした俺は不意にそう溜め息を吐いた。
それだけでなく、目の前にある等身大の鏡でも変わってしまった自身の体を見る。
男の頃の比較的がっしりとした筋肉が付いていた体つきとは違い、この女の体は丸みを帯びてどこもかしこも柔らかそうな、しかしキュッと引き締まった印象を受ける。
だが、そんな見た目をしていても身体能力そのものは男の頃と何も変わらない。どころか、アニマルレンジャー達との戦闘で実感したのだが、より向上しているような感覚があった。
「・・・・・・まあ、変に考えすぎても仕方がないか」
それが怪人となったからなのかまでは分からない。けれど、少なくとも日常生活もそうだが、悪の組織の活動でも特に問題になる様な事ではないだろうと結論を出した俺は、キュッキュッ、とシャワーの元栓を閉めてお湯を止め、浴室から出る。
バスタオルで体を拭き、髪をドライヤーで軽く乾かした後、長袖のパジャマに着替えてベッドに寝転がった。
「ふぅ・・・今日は本当に疲れた。これからもあんな感じの事が起こるのかなぁ?」
今日の出来事を思い出した俺は、ハァ・・・と溜め息を吐いた。
まさか悪の組織や秘密結社と戦うヒーローが変態だったとは実際に会うまでは知らなかった―――というか、知りたくなかったと頭を抱えながら思わず唸る。
流石に元男と言えど、自らの体を狙う変態の相手などしたくはなかったからだ。
「出来る事なら、もう変態の相手は勘弁してほしいなぁ・・・」
ベッドの上に寝転びながらそうボソリと呟いた俺は、心の中で「出来れば、次に会うヒーローはもっとまともそうな人でありますように」と願った。・・・まあ、その願いが叶うかどうかは分からなかったが。
「・・・・・・ん~・・・」
そうして寝転んでいるうちに眠気がピークになって来たのを感じた俺は、足下に纏めてあった掛け布団を掴むと自分の体の上に掛けた。
「・・・んぅ。」
そして全身を布団の中に入れた俺はモソモソと体制を寝やすい形に整えると、数分もしない内に寝息を立て始め、意識を穏やかな微睡の中に落としていくのであった。
ここまで当作品を読んでくださりありがとうございます。
当作品ですが、ここで一旦区切りとします。
次回の投稿についてですが、作者のもう一つの作品であるカオスゲートの方を集中して行いたい為、しばらく先にさせていただきます。
とりあえずカオスゲートの方が一段落した後に、当作品の執筆作業等を再開するつもりです。
それまでお待ちいただければありがたいと思います。
興味がある方は作者のもう一つの作品も読んで頂けると嬉しいです。