ミッション18 任務からの帰還と後日談・・・!?
アンビリバブル秘密基地の中にある転送装置。
その目の前には、ブレーバーが今か今かとディーアルナ達が帰ってくるのを待っていた。
「皆無事かなぁ。今回用意した特製饅頭に入れる材料を間違えちゃったから、大変な目に合っていないといいけど。」
プルプルと震えながら独り言を零すブレーバー。
自身の不手際によって、口にしたモノを元気にする栄養剤などではなく、肉体を強化して超人化させる強化剤が混ぜ込まれた特製饅頭をディーアルナ達に渡してしまったことをひどく後悔していた。
強化剤――――――『超筋肉増強液』は効果の最終的な結果としては栄養剤――――――『多目的超栄養補完液』とそう変わりはないのだが、用法容量をきちんと守らないと服用者がとんでもない状態となってしまう。
本来は一日おきに時間を置きながら少量ずつ飲まなければ永続的な効果は発揮されず、一度に大量を服用すると短時間の間だけ一時的に筋肉が膨張し、肉体が生物としての枠組みを超えるほど強化され、また副作用である興奮作用によって理性を失くし、薬が切れるまで暴れ回るのである。
その事を知っていたブレーバーは「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ!」と大慌てし、目的地へと向かってしまったディーアルナ達を助けに行こうとして、しかしそんなことをしたら自身の存在が露見してより被害が広がってしまう可能性が頭を過り、結局最早どうしようもないと諦めて転送装置の前でディーアルナ達の無事を祈りながら、彼女たちが帰ってくるのを待っているのであった。
「皆が帰ってきたら速攻で謝ろう・・・!大変な目にあって来ただろう皆を労わろう・・・!今回のお詫びに皆が欲しがる物を用意してあげよう・・・!」
悲壮感を漂わせながらブツブツと呟くブレーバー。
この姿をディーアルナが見ようものならば、「メンタル面弱すぎだろう・・・!」とツッコミを入れていただろう。
ディーアルナ達が帰って来るまでブツブツと独り言を続けていそうだったブレーバーだったが、それは転送装置が起動したことによって中断された。
「・・・転送装置が起動した!皆が帰って来るのか!・・・・・・・・・よし、正座して土下座をする準備をしよう!」
スッと床に正座して背筋を伸ばして座るブレーバー。
ある意味お手本になりそうな程綺麗な形での正座であるのだが、それが土下座をするための体勢と言うのだから物悲しさが感じられた。
悪の組織のボスとしての威厳は本当にどこに行ったのだろうか?
「・・・・・・そろそろ転移されて来るな。いつまでもクヨクヨするな、我!皆にしっかり謝って詫びを入れるのだ!」
転送装置に転移サークルが出現し、間もなくディーアルナ達が転移してくることを理解したブレーバーは、何時でもすぐに土下座して謝罪出来るように心構えと覚悟を決めた。
そして転移サークルの輝きが一際強くなり、ディーアルナ達が転移されてきた。
「み、皆・・・!すみませんでし―――――――――」
「か、帰って来れたぁーーーッ!?」
「イィイイイーーッ!?イイーーッ!!」(うぉおおおーーっ!?愛しき我が家ーーっ!!)
「イイッ・・・!イイイッ、イー・・・・・・!!」(逃げ切った・・・!逃げ切ったんだな、俺達・・・・・・!!)
「イイイーッ・・・!!!」(アイルビーバァァックッ・・・!!!)
「――――――たぁエェェエエエエエ!?」
ディーアルナ達が姿を現した瞬間に土下座をしようとしたブレーバーであったが、彼女たちは帰ってきた途端に何かをやり遂げたんだと言いたげに叫ぶ様子を見せ、それに困惑して両手を地面についた段階で止まってしまった。
「・・・え、えぇぇ・・・・・・・・・い、一体何があったの・・・?」
何が何だか分からないと言いたげに志向が停止して固まってしまったブレーバー。
帰って来た喜びに騒いでいたディーアルナ達は、ある程度落ち着いた後でそんなブレーバーの姿を目にした。
「・・・・・・何してるの、ブレーバー?」
「・・・え?あっ、いや、そのだな・・・・・・!?」
ディーアルナに声を掛けられて視線を右往左往するブレーバー。
彼はせっかく決めた覚悟が先ほどのディーアルナ達の喜びの叫びで吹き飛んでしまい、どうしたらいいのかと混乱していた。
「イッ?イイッ?」(えっ?ボス?)
「イッ、イイッ!・・・・・・イー?」(本当だ、ボスだ!・・・・・・なんで正座してんの?)
「イイッ、イー。イーイーイイー・・・・・・」(丁度良かった、ボス。ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・・・・)
「う、うむ。実は我からも話があってだな。・・・実は、皆に謝らなければならないことが―――――――――」
戦闘員達にも気付かれ話し掛けられたことで、再度覚悟が決まったブレーバー。
事情説明を行う前に謝罪から入ろうとした時、突然転送装置がギィギギギギギッ!!という異音を発し始めた。
「「・・・・・・えっ?」」
「「「・・・・・・イッ?」」」(・・・・・・何事?)
一体何がと、一斉に転送装置に視線を向ける。
転送装置は異音を発し続けながら各所に走っているエネルギーラインが明滅し、先程ディーアルナ達を転送し終えて消えようとしていた転移サークルが、何故か力強く光輝いていた。
その光景は、まるでこれから何者かが転送されようとしているようであった。
「イイッ!?イッ!イーイーイイー!?」(転送装置が稼働している!?そんな馬鹿な!俺達以外にコイツを使う奴なんていないはずだぞ!?)
「転送装置を停止させろ!」
「イイッ!イーイー!・・・・・・イッ、」(駄目です!こちらの操作を受け付けません!・・・・・・というかこれ、もしかして向こう側から抉じ開けようとしているのか?)
転送装置を止めようとコンソールを操作する戦闘員三号が、あり得ないと言いたげに呆然と呟く。
「抉じ開けるって、一体何がーーーーーーまさか・・・・・・!?」
そこで猛烈な嫌な予感を感じたディーアルナ。
自分達が帰ってくる直前の状況を思い出して顔色を青くしながら、「そんなことが出来る筈が・・・・・・」と呟く。
「イーイイー!イイイッ!」(転移サークル不安定ながら起動を確認!何者かが強引に転移してきます!)
戦闘員三号がそう叫んだ時、転移サークルの真ん中、まるで中空に縦に裂けるようにして亀裂が入っていき、そこから一本の人の腕が飛び出して来た。
手先が白い毛に覆われた腕は裂け目の縁を掴み、押し退けるようにして裂け目を大きく広げていく。
広がった隙間から二本目の腕が続いて現れ、先の腕とは反対の方向へと裂け目の縁を押し退けていく。
そして人が一人通れるくらいに裂け目が広がった時、裂け目の向こうからウサギ頭のマッチョメンの上半身が姿を現した。
「「ギャァァアアアアアアッ!?」」
「「「イィィィイイイイイイッ!?」」」(ギャァァアアアアアアッ!?)
その光景を目にしたアンビリバブルの構成員全員が恐怖の悲鳴を上げた。
マッスルウサギ(仮称)に追いかけられていたディーアルナ達は、またなのか!?というなんとかして撒いた筈の相手が追いかけて来たことに対する悲鳴を上げ、初めてマッスルウサギ(仮称)を見たブレーバーは、視界の暴力と言えそうなその姿を見て、変態だぁ!?という唐突に現れた不審者に対する恐怖からくる悲鳴を上げた。
「イ、イイィッ!?イイッ!イイィッ!?」(う、うわぁっ!?こっち来た、こっち来たぁ!?)
「イッ!?イーイイー、イイイーッ!イイーッ!」(ちょっ!?空間の裂け目を素手で開くって、どうやったらそんなことが出来るんだよ!?力業にも限度があるぞ!)
「・・・な、何アレ?我の頭脳が理解することを拒否しているんだけど・・・・・・!?」
「アンタが用意した特製饅頭を食べたらこうなったんだよ!」
「いやいやいや!アレにこんな姿になる効果なんてないから!筋肉が強化されるだけだから!・・・・・・えっ、本当にどうしてそうなっちゃったのぉ!?」
「――――――ッ!」
「イッ!?イイー!・・・イーイイーッ!?」(げっ!?完全にこっちに這い出てきやがった!・・・そしてこっちに向かって走って来たぁっ!?)
マッスルウサギ(仮称)は腕の力を使って裂け目から飛び出し、地面に着地。
そして軽快に両手を前後に振りながらディーアルナ達に向かって駆けて行く。
「う、うぅぉぉおおおおおおっ・・・!?」
「またなのかぁーーーっ!?」
「「「イイイーーッ!?」」」(もういい加減にしてほしいんだけどぉーーっ!?)
それを見た全員が恐怖と危機感を感じて一斉に逃げ出した。
秘密基地にて始まった悪の組織アンビリバブルとマッスルウサギ(仮称)の追いかけっこ。
悪の組織アンビリバブルは、結成されて以来初めての阿鼻叫喚の渦へと叩きこまれ、この追いかけられる側にとっての恐怖の逃走劇は『超筋肉増強液』の効果が切れる一時間後まで続くのであった。
後日談
ディーアルナ達が任務として向かった坂之上動物園だが、ディーアルナ達が去ってからしばらくした後に事態が収束していった。
『超筋肉増強液』が混ぜ込まれた特製饅頭の効果で強化され暴走状態に陥っていた動物達は、時間経過によって薬の効果が切れ、肉体が元の状態へと戻って行った。
体が元に戻った後の動物達は、肉食・草食動物問わず一時的に穏やかな気質となり暴れ回ることなく、騒動の中で無事だった飼育員の指示に従っておとなしく仮設の檻の中へ入って行った。
ちなみに健康状態に関しては、後に獣医の診察で良好状態であることが判明。
獣解放戦線がバラ撒いた粉末を受ける前よりも健康的であると説明を受けた飼育員達は、皆複雑な心境に至ったのだそうな。
ちなみにディーアルナ達と戦った飼育員の山田だが、狂暴化した動物達の群れに立ち向かった彼も獅子奮迅の活躍を見せていた。
動物園内で暴れまわっていた動物達と対峙した彼は次々に動物達を物理的に鎮静化させていった。
小型動物達が通路を爆走している時には強烈な気迫を当てて本能的な恐怖によって肉体を硬直させ、トラやライオン、シカなどの中型動物達が暴れていたら彼等の首の骨を折らないようにチョークスリーパーを決め、ゾウやキリンなどの大型動物には肉体のツボを的確に突いて行動不能にするなどの大活躍を行っていたと、後にテレビの報道で取り上げられていた。
せっかく登場したのに一切見せ場なく狂暴化した動物達に徹底的にボコられてフェードアウトした仮面ヒーローサンフラッシュだが、事態収束後に病院へ搬送されたらしい。
命に別状はないそうなのだが全治数ヶ月と診断され、しばらくの間ヒーロー活動を休止することになったという。
「せっかく活躍できると思ったのに」と言うのが病院での彼の言葉であったそうなのだが、それを聞いたのは病院で働いていた看護師だけであったという。
それから秘密基地にて強化されたウサギからの逃走劇を繰り広げていたディーアルナ達はと言うと。
「ほれ、人参だぞ。ちゃんとご飯食べろよ。」
「イイー、イイイー!」(ディーアルナ様、飼育ケージを用意しましたよぉ!)
「イーイイー!」(飼育用の部屋も増設済みだぜ!)
薬の効果が切れた後、結果的に秘密基地に連れてきてしまったウサギをどうするのか仲間内で協議した際、このままアンビリバブルにて飼うことに決まった。
本当なら元いた坂之上動物園に返すべきなのだろうが、騒動が起こってそう時間が経っていない為、今も警戒しているだろう現場に向かおうものなら、周辺を警備するために集まっている警察機構やヒーロー達との戦闘になる可能性が高く、また現場に向かった際に出会った超人飼育員山田に再び出会いたくないというディーアルナと戦闘員達の心情もあって、ウサギを届けに行くという選択肢を選ぶことは出来なかったのである。
初めはマッスルウサギ(仮称)となっていたウサギに対して苦手意識を持っていたディーアルナ達であったが、そんな異常状態は薬の効果によって起きたことであり、それがなければ普通のウサギと変わらない為、その苦手意識はすぐに払拭されていった。
「・・・・・・あ、あの~?出来れば、こっちの事を少しだけでも手伝ってほしいんだけど~?」
「―――――――――あ゛ぁ゛・・・・・・!!」
「・・・・・・・・・はい、何でもございませんです。はい。」
今回の作戦での不手際を起こしてしまったブレーバーだが、逃走劇の後に作戦に赴いたディーアルナ達に対し謝罪を行った。
ブレーバーの話から事情を知った四人は驚き、そして「なんじゃそりゃ!?」と怒った。
特にディーアルナは、無表情ながらその気迫は般若のごとき怒気を発し、視線だけでもブレーバーを殺せそうな雰囲気を醸し出し、彼女と同様に怒っていた戦闘員達が思わず仲裁に入ってしまう程であったと、後に戦闘員達が零していたという。
最終的には連れてきてしまったウサギの住処を作ることで許すという事になり、組織のボスである筈のブレーバーが半泣きになりながらウサギの飼育に必要な道具の作成や環境造りを行っていた。
「・・・う、うぅ・・・!?こ、怖い・・・!怒ったディーアルナさん怖い・・・!?」
「イイー、イー。イイイッ、イイーイーイー。」(しょうがないって、ボス。今回の騒動で俺達結構振り回されたし、これで許されるだけで良しとしましょうや。)
「イーイー、イイー。」(俺達も手伝いますから、がんばりましょう。)
「ううぅ・・・・・・ありがとう。一号、二号。」
戦闘員達にお礼を言いながらトンテンカンテンと金槌を使って板に釘を打ち付けるブレーバー。
今ブレーバーが作っているのはウサギが部屋から出て行かないようにする柵であった。
秘密基地に動物飼育用の部屋を増設して部屋の中での放し飼いをすることに決まったのだが、それでも入口辺りにはウサギが出て行かないようにする物が必要になり、また容易に取り外しが出来るものをという事で木製の柵を作ることになったのである。
なんというか、悪の組織のボスであるブレーバーを筆頭に、色々と締まらないアンビリバブルの面々であった。
「・・・ふぎゅっ!?指!指撃ったぁ!?」
「イイッ、イー?イイー?」(大丈夫ですか、ボス?氷か何かで冷やしますか?)
「だ、大丈夫。このくらい、なんとも・・・・・・――――――ッ!?今度は足の小指ぃ!?――――――グハァッ!?」
「イッ、イイーーッ!?」(ボ、ボスゥーーッ!?)
「イー、イイー・・・!イイイー、イーイーイー・・・!イイッ・・・!?」(うわぁ、スゲェ痛そう・・・!間違って小指を撃っちゃった際に放り投げた金槌が、奇跡的な放物線を描きながらボスの小指にダイレクトヒットしやがった・・・!何というミラクル・・・!?)
「イイイッ、イイーイー。」(痛い思いをしたボスには悪いけど、一瞬真面目に何かのコントかと思ってしまった。)
「イー。」(それな。)
「・・・・・・・・はぁ、本当に何やってんだか。」
本当に締まらない騒動の終りであった。




