ミッション17 動物園からの脱出・・・!?
飼育員の山田は、はるか上空で起こった爆発を見て、呆然と見惚れながらも安堵していた。
もしあの爆発が動物園の園内で引き起こされようものなら、この動物園も自分達も諸共に吹き飛んでいた筈なのだから。
九死に一生を得たと感じた飼育員の山田は、視線を下してディーアルナに礼を言おうと後ろに振り向く。
動物園に騒動を持ち込んだ不審人物であることは間違いなく、最終的には叩きのめして捕まえるのだが、それでも同時に自分達の危機を救ってくれた人物であるのだから一度くらいはお礼を言うべきだろうと考えたからであった。
「――――――?――――――??」
しかし、いくら探してもディーアルナの姿を見つけることは出来なかった。
辺りを見回したり、近くの建物や草むらの影を探してみても彼女も彼女に付き従っていた者達も見つけられなかった。
「――――――?――――――ッ!?」
一体何処に行ったのだろうと首を傾げていると、不意に背後から大量の足音と地響きが響いてくるのが感じられた。
何事だろうと振り向いて見て、飼育員の山田は驚愕に目を見開いた。
なんと、先ほどまで園内の至る所を走り回っていたスーパー化した大量の動物達がこちらに向かって驀進して来たからであった。
「――――――オォ、オオォォォオオオオオォオオオオオッ!!!」
その光景を見て初めは驚いた飼育員の山田であったが、すぐに気を取り直し、雄叫びを上げながら迫り来る動物達を迎え撃つ体勢に入った。
動物園の飼育員としての責務を果たすために、そして自分の大好きな動物達が悲劇を生みだしてしまう前に。
その気持ちを胸に抱きながら飼育員の山田は、迫り来る動物達の群れへと飛び込むのであった。
「・・・・・・・・・行ったか?」
「・・・・・イイー。」(・・・・・・行ったようですよ。)
飼育員の山田が探していた場所の近くに植えられていた大きな木。
その枝葉の中からガサリと音を立ててディーアルナと戦闘員達が顔を出した。
ディーアルナの大技でバスタートータスを遥か上空へと殴り飛ばして爆発させた時、飼育員の山田がその爆発に意識を向けているのに気付いたディーアルナは、彼の追跡から逃れるために一先ず身を隠すことを選んだ。
建物の影や草むらの中などはすぐに見つけられてしまうと考えたディーアルナは、隠れる場所を下ではなく上にしようと考え、丁度近くにあった背の高い木を目にし、ようやっと動けるようになった戦闘員達と一緒にその木の枝葉の影に隠れたのであった。
そしてその考えは上手くいき、飼育員山田に見つかることはなかったのであった。
「・・・よっ!」
「「「・・・イーッ!」」」(・・・トゥッ!)
ガサガサと枝葉を鳴らしながら地面へと降り立つディーアルナ達。
そしてすぐに転移ポイントである物置小屋へと駆け足で向かいだす。
「・・・イ~、イッ、イイイー。」(・・・はぁ~、しっかし、まさか他の悪の組織が活動していたなんて思いもよらなかったぜ。)
「イー。イーイイーイーイー。」(そうだね。しかも獣解放戦線なんて出来たばかりの小規模組織がこんなに活発に活動しているなんて驚きだよ。)
園内を駆け足で走りつつため息を零す戦闘員一号とそれに同意する三号。
二人の話している内容が気になったディーアルナは、緩く首を傾げなら二人に問いかける。
「・・・小規模組織が活動的なのがどうして驚きなんだ?」
「イイーイー。イーイー。」(小規模の組織って色々なものが足りないことが多いんだよ。物資とか技術とか。)
「イイー。」(俺達で言えば人材だな)
「イー、イイー、イイイーイイー。」(それなのに、こんなに立て続けに怪人を送り込むなんて、活動資金も人材も無駄になりやすい事をするのは正直理解出来ないんだ。)
「イーイイイー。」(ヒーローとかに出くわした時に倒される可能性があるからな)
「なるほど。」
戦闘員一号と三号の説明を聞いてどうして二人が不思議そうにしていたのか理解した。
確かにヒーローと戦闘することを想定すれば、せっかく生み出した怪人が作戦を完了する前に倒されてしまっては、これまでの費用や準備が無駄になってしまうだろう。
それも小規模の組織であれば、その様な事態は死活問題にすらなりかねない。
「・・・・・・でも、それって俺達も当て嵌まるよな。」
「イッ、イイ。イイー、イーイイー。」(まあ、確かに。ウチは資金とか技術に関しては大規模組織と同等の規模ではあるけど、中々人が集まらないからな。)
「イイイー、イーイーイー、イイー。」(ブレーバー様が伝手を使って人材募集をしているそうだけど、アンビリバブルと言う組織の知名度が低すぎて興味すら示して貰えないって、この前酔っ払いながら愚痴っていたよ。)
「・・・・・・相変わらずというか、悪の組織のボスの威厳がまるで感じられないな。」
グデングデンに酔っ払い、大泣きしながらゴロゴロと地面を転がっていたと、愚痴を零していた当時のブレーバーの様子を語る戦闘員三号。
その話を聞いて、思わずため息を吐きながら呆れた表情になる。
戦闘員達も同じ気持ちなのか、同意するようにウンウンと頷いていた。
そんな風にディーアルナ達が話していた時、不意に近くの草むらがガサリ!と音を鳴らしながら大きく揺れた。
「・・・・・・ッ!止まれ!」
それにいち早く気付いたディーアルナは戦闘員達を立ち止まらせ、警戒するように促す。
「・・・・・・イイー?」(・・・・・・いったい何がいるんでしょうかね?)
「・・・・・・イー。イーイイー、イイイー。」(・・・・・・分からん。狂暴化した動物かそれとも動物園の飼育員か、可能性は低いが獣解放戦線の戦闘員の生き残りという事もあり得る。)
「静かに・・・!出てくるぞ!」
ディーアルナ達が警戒している最中も、ガサガサ!と激しく揺れる草むら。
そして一際多き揺れ動いた時、草むらの中から何かが顔を出した。
ピンと真上に立った細長い白い耳。こちらをキュルンと見つめる黒い瞳。そして顔全体を包み込でいる白いフワフワとした毛。
「――――――ッ!」
「・・・・・・ウサギ?」
「・・・・・・イー。」(・・・・・・ウサギだな。)
「・・・・・・イイー?」(・・・・・・どうしてウサギがこんな所に?)
ディーアルナ達の前に姿を現したのは、頭だけを草むらから出したウサギであった。
おそらく動物園で飼育されていたと思われるそのウサギは、鼻先をピクピクと匂いを嗅ぐように頻りに動かし、ピンと立てている耳を様々な方向へ向けるなど、どこか落ち着きがない様子に見えた。
「・・・・・・ま、まあ飼育員でも戦闘員でもないし、放っておいても良いだろう。」
「・・・イッ。イイー、イーイーイー。イイー。」(・・・そうですね。それに外に出ているという時点で、あのウサギも狂暴化している可能性があります。触らぬ神に崇りなしです。)
「イイッ、イイイー。イーイー。」(ここにいるってことは、檻を破壊して飛び出したという事だろうからね。その判断は正しいと思うよ。)
このまま見なかったことにして通り過ぎようとするディーアルナ達であったが、しかしとある動物好きの戦闘員の行動によって頓挫した。
「イイイッ!イイイ~・・・!」(チチチッ!おいでおいで~・・・!)
「・・・・・・イッ、イイッ・・・!?」(・・・・・・って、言っている傍から一号が・・・!?)
「イッ!イイッ、イー!」(ええいっ!呼ぼうとするんじゃない、一号!)
「イ~?イイッ。イーイー、イイー。」(ええ~?だってウサギだよ。可愛い可愛いウサギさんが、酷いことをする訳ないじゃん。)
目の前のウサギを呼ぼうと屈みこみながら両手で手招きする戦闘員一号。
それを見て、「何をやっているんだ!」と戦闘員二号と三号が一号の両脇を抱え込んで連れて行こうとする。
「――――――ッ!」
だがそれは、ウサギがディーアルナ達の元へ近づくために草むらから出て来たことで中断することとなった。
「イッ!イイー・・・イー・・・・・・イー・・・・・・?」(あっ!ウサギさんが出て・・・き・・・・・・た・・・・・・・・・?)
「・・・・・・イイッ?」(・・・・・・えっ、何アレ?)
「・・・・・・イ、イイッイー・・・?」(・・・・・・ウ、ウサギ、なのか・・・?)
草むらの中から出てこようと立ち上がったウサギ。
頭こそ普通の可愛らしいウサギのそれであったが、首から下は全然ウサギの要素が皆無であった。
赤褐色の黒光りしているように見える筋肉質の肉体。
まるで鍛え抜かれた人間の男性ボディービルダーのようなそれは、一歩ずつ進むごとに躍動感を表すようにして筋肉がピクピクと動いているのが見えた。
手足の先や大事な所はウサギの名残だと思われる白い毛で覆われてこそいるが、それが余計にミスマッチ差を助長し、最早ウサギ頭の変態にしか見えなかった。
その姿の全容を見たディーアルナ達は想像もしていなかった驚愕と理解不能の恐怖に目を剥いた。
そしてその場にいた全員が同じことを思った。「どうしてそうなっちゃったの?」と。
「――――――ッ!」
ディーアルナ達にそんな視線を向けられているとは露とも知らないマッスルウサギ(仮称)は、草むらから完全に体を出すと、脱兎とディーアルナ達の元へと駆け出した。
「い、いやぁぁぁあああああっ!?」
「イイイッ!?イイイィッ!?」(な、何アレ?何アレェッ!?)
「イイイイイイイイイッ、イイ――――――イィー!?」(アレはウサギじゃないアレはウサギじゃない、アレは――――――変態だぁ!?)
「イ、イィィィイイイイッ!?イイイッ!イイイィッ!?」(う、うぉぉぉおおおおおっ!?追いかけて来てる!追いかけて来てるぅ!?)
そんな摩訶不思議生物が駆け寄って来る姿を見て、正気のままでいられる者はまずいないだろう。
当然その姿を見たディーアルナ達は、涙をちょちょ切れさせながら脱兎の如く全力で逃げ出した。
「あ、あれも特製饅頭の効果だとでも言うのかぁ!?」
「イイイイイイ!イイッ!イイイィッ!?」(いやいやいや!アレはない!断じてないからぁ!?)
「イイーッ!?イイイィ、イイーッ!?」(チクショーッ!?こんな目に合わせたボスめ、恨むぞぉー!?)
何とかマッスルウサギ(仮称)を振り切ろうとするディーアルナ達であったが、ウサギだからなのかその脚力は凄まじく、一歩踏み込むだけで一、二mくらいの距離を飛び超えており、中々振り切れないでいた。
それどころかどんどん差が縮んで来ていた。
「イッ!イイッ!イーイイー!」(み、皆見て!物置小屋が見えたよ!早く転移して逃げちゃおう!)
全力で駆けて行くうちに目的地である物置小屋に到着したディーアルナ達。
大急ぎで物置小屋の裏手に回り、ブレスレットを操作してホログラム画面を呼び出し、画面の端にある転送装置起動アイコンを押す。
「よし!これで帰れるぞ!」
「イイィー。イイイッ・・・・・・!」(よ、よかったぁ。一時はどうなる事かと・・・・・・!)
「イッ・・・!イイッ・・・!イイイ――――――イイーッ!?」「早く・・・!早く起動してくれよ・・・!じゃないとあのウサギ野郎が――――――来たぁッ!?」
ディーアルナ達が秘密基地へと転送されるのを待っている中、彼女達を追っていたマッスルウサギ(仮称)も追い付いたようで、ディーアルナ達の目の前に物置小屋を飛び越えるようにして上空から現れた。
強化されたウサギの脚力の賜物と言えるのだろうが、今のディーアルナ達とって恐怖をは助長させるものに過ぎなかった。
「イイィィイイイッ!?イイー!?」(イヤァァアアアッ!?こっち来ないでぇ!?)
「イ、イイイィィィッ!!イーッ!イイッ!イイィーッ!!」(う、おおおぉぉぉっ!!こうなれば自棄じゃぁーっ!撃て!撃てぇ!!)
ガガガガガガガガガガガガガガッ!!
「――――――ッ!――――――ッ!!」
「イイィーッ!?イイイィーッ!?」(な、ナニィーッ!?全部避けただとぉ!?)
「イイイッ、イイーッ!?」(最早狂暴化じゃなくて超人化してんじゃないのか、アレェーッ!?)
粒子データ化していたマシンガンをブレスレットから取り出してマッスルウサギ(仮称)に向けて撃ちまくる戦闘員一号と二号。
しかしマッスルウサギ(仮称)は自らに迫り来る鉛玉を超高速反復横跳びで回避。
戦闘員達が放った弾は一発たりとも掠りすらしなかった。
「もうすぐ転送されるぞ!二人とも、早くこっちに来い!」
転送ポイントに対象範囲を転移させる転移サークルが出現し、未だにマシンガンを撃ち続けている二人に対して急いで戻ってくるように言うディーアルナ。
「イイッ、イーッ!」(弾丸がダメならこいつだ、手榴弾!)
「ーーーッ!?」
ドカァァァンッ!!
このままでは戻ることは難しいと判断した戦闘員三号は、一号と二号の援護の為に手榴弾を取り出してマッスルウサギ(仮称)に放り投げた。
手榴弾は綺麗な放物線を描きながらマッスルウサギ(仮称)の足元手前に落ちて爆発した。
「イイー!」(助かる!)
「イイッ、イー。イーイイー!」(これで倒せたとは思えないが、しばらくは動けないだろう。急ぐぞ一号!)
「イー!」(応!)
戦闘員一号と二号は手榴弾による爆発を好機と見て急ぎ後退。
転送ポイントに展開されている転移サークル内へと入る。
「転移開始まであと五秒!・・・三、二、一、――――――」
「―――――――――ッ!!」
転移開始のカウントダウンが終わろうとした時、粉塵と煙幕が漂う空間から一つの影が飛び出した。
「・・・イ?イッ!?イイイッ!」(・・・ん?げっ!?ウサギ野郎がこっちに来たぞ!)
「イッ!?イイッ!?」(しかも無傷だ!?手榴弾の爆発も回避したの!?)
「イイー!イイー!イイー!イイイー!」(ハリー!ハリー!ハリー!ハリーアァップ!)
マッスルウサギ(仮称)は己の持ちうる能力をフルに生かし、全速力でディーアルナ達の元へと駆ける。
そして伸ばされたその手がディーアルナ達へと届こうとした瞬間――――――
「――――――ゼロ!」
――――――カウントダウンが終了し、ディーアルナ達の転移が開始されるのであった。




